エンド|術後疼痛・鎮痛薬・マルチモーダル鎮痛
激痛で駆け込んできた患者さんの抜髄を終え、さて処方は何を出すか。NSAIDs単剤が定番ですが、2004年のこのRCTは2つの事実を教えてくれます。ひとつ、イブプロフェンにアセトアミノフェンを重ねると、8時間の平均痛みスコアは100mm中わずか3mmまで下がる。もうひとつ——プラセボ群ですら痛みは71%減っていた。最強の鎮痛は、抜髄そのものだったのです。
①NSAIDsには「天井」がある
抜髄後の鎮痛の定番はNSAIDs、代表格がイブプロフェンです。ただしこの薬には天井効果(ceiling effect)が知られています——増量しても、ある水準から鎮痛効果は頭打ちになる。かといってオピオイドに頼るのは、依存・中枢性副作用の点で避けたい。
そこで出てくるのが、作用点の違う薬を重ねるという発想です。イブプロフェンは主に末梢の炎症の現場でCOXを阻害する。アセトアミノフェンは主に中枢神経系で働く。ならば2剤で「二正面作戦」ができるのではないか——口腔外科領域では支持するデータがありましたが、根管治療後の痛みで対照試験はなかった。それを埋めたのがこの研究です。
②抜髄の直後に1回だけ飲んで、8時間を記録する
対象はBaylor歯学部の救急に、中等度〜重度の自発痛(VAS 50〜100mm)で来院した歯原性疼痛の患者。局所麻酔下で抜髄(歯髄除去)を行った直後に、①プラセボ・②イブプロフェン600mg・③イブプロフェン600mg+アセトアミノフェン1000mgのいずれかを単回投与し、8時間にわたり痛み日誌(VASなど4種の尺度)をつけてもらいました。二重盲検・無作為化で、解析は57名(19・20・18名)です。
③併用は、痛みをほぼ消した
8時間の平均VASは、プラセボ32mm・イブプロフェン単剤17mm・併用3mm。併用群はプラセボに対しても(p=0.009)、イブプロフェン単剤に対しても(p=0.047)有意に低く、8時間後まで効果が持続しました。ベースラインからの痛み減少率は、順に71%・76%・96%です。
意外なのはここからです。イブプロフェン単剤とプラセボの差は、有意ではありませんでした(p=0.481)。定番の単剤処方が、統計上プラセボと横並びだったのです。
④プラセボが71%減——最強の鎮痛は「抜髄」だった
なぜ単剤とプラセボの差が出なかったのか。著者らはこう読み解きます。プラセボ群ですら、痛みはベースラインから71%減っていた。VAS 80mm前後の激痛が、薬なしでここまで下がる——抜髄=痛みの原因である炎症歯髄の除去そのものが、圧倒的な鎮痛だったからです。原因を取り切ったあとでは、薬で埋めるべき「残りの痛み」が小さく、単剤の上乗せ効果は検出しづらくなります。なお著者らは、初期の局所麻酔の残存やプラセボ効果の寄与も併記しています。
もうひとつ注目すべきは副作用です。有害事象の報告はプラセボ群がむしろ最多(中枢系53%・消化器系21%)で、実薬2群の方が少なかった。8時間・単回の範囲では、併用による副作用の上乗せは見えていません。
⑤明日の臨床へ——第一手は原因除去、第二手は併用
この研究の使い方は、処方の前に一段あります。第一手は、原因除去。痛みの主訴に対して抜髄・感染源除去まで到達できれば、それ自体が最大の鎮痛になる——「今日は薬だけ出して後日治療」との差を、プラセボ群の71%減が物語っています。
そのうえで薬を選ぶなら、NSAIDs+アセトアミノフェンの併用は、オピオイドに頼らない有力な選択肢です。本研究の用量はイブプロフェン600mg+アセトアミノフェン1000mgの単回投与ですが、イブプロフェン600mgは日本の通常1回量(200mg程度)より多い米国用量です。国内では添付文書の範囲と患者さんの肝腎機能・既往に合わせて設計することになります。この「NSAIDs+アセトアミノフェン優先・オピオイド回避」の流れは、後年のADA診療ガイドライン(2024年)にもつながっていきます。
今日のひとこと
最強の鎮痛薬は、処方箋ではなく抜髄だった——プラセボでも71%減が、それを物語る。原因除去を第一手に、薬は作用点の違う2剤で二正面から。イブプロフェン単剤で戦っていた場面に、アセトアミノフェンを重ねる選択肢を持っておきたい。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンス、国内の添付文書をご確認ください。


