1問1答 論文 虫歯

1日2回磨いていれば、お菓子の量は気にしなくていいのか——英国の幼児1450名の食事記録

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|幼児のう蝕・歯磨き頻度・砂糖菓子・社会階層

「お菓子を減らしましょう」と「1日2回きちんと磨きましょう」。どちらも正しい。では、限られた指導の時間でどちらを先に言うべきか。1999年、英国の全国調査に参加した1歳半〜4歳半の1450名の、4日間の秤量食事記録とう蝕の記録を突き合わせた解析が、この問いに一つの答えを出しています。

論文
Dental caries in pre-school children: associations with social class, toothbrushing habit and consumption of sugars and sugar-containing foods
著者
Gibson S, Williams S
掲載
Caries Res. 1999;33(2):101-113
種類
横断研究の二次解析(英国 National Diet and Nutrition Survey・1.5〜4.5歳・1450名)
PMID
9892777

「お菓子を減らす」と「1日2回磨く」、どちらを先に言うか

1歳半健診で、保護者に伝えられる時間は限られています。どちらも正しい。ではどちらを先に言うべきか

当時わかっていたのは、社会階層がう蝕の強い規定因子だということ。そして「その主な経路は、階層が低いほどお菓子をよく食べるからだ」という説明がされてきました。しかし著者らはこれを「単純すぎるかもしれない」と書きます。階層は、食習慣だけでなく、歯磨きの開始年齢、母親の口腔細菌叢、予防サービスの利用など、多くの変数の代理指標だからです。

そこで、1450名の幼児について、4日間の秤量食事記録という精度の高いデータを使い、砂糖・歯磨き・社会階層のどれがどれだけ効いているかを分けて見ることにしました。

先に結論: う蝕との関連の強さは、社会階層が歯磨き頻度の約2倍、砂糖菓子の3倍近く。そして砂糖菓子とう蝕の関連は、1日2回未満しか磨かない子でしか見られなかった

英国の全国調査を、歯の目で読み直す

  • 元データ:英国のNational Diet and Nutrition Survey(NDNS)。1992〜93年に実施された、1.5〜4.5歳の全国代表サンプル。この年代を対象にした全国調査としては25年ぶりのものでした
  • 対象約1,450名(多変量解析には1,374名)
  • 食事の記録4日間の秤量食事記録。思い出しではなく、実際に量って記録したデータです
  • 見た食品:ビスケット・ケーキ/砂糖菓子/チョコレート/清涼飲料/非乳製品由来の外因性糖(NMES)のエネルギー比。それぞれ量と頻度の両方
  • 分類社会階層(世帯主の職業)×歯磨き習慣で4群に分けて解析
  • う蝕の定義:う蝕・充填・う蝕による抜歯の経験
  • 重要な前提この集団の97%がフッ化物配合歯磨剤を使っていた

この最後の一点が、結果を読むうえで効いてきます。「磨く」=「フッ化物を歯に運ぶ」という条件下での話だからです。

磨く回数の効果は、階層によって違った

0 9.3% 18.7% 28% う蝕を経験した子の割合(%) 13% 8% 24% 21% 非肉体労働層の家庭 肉体労働層の家庭 n=1,374。非肉体労働層では 13% 対 8% で有意(p=0.034)=1日1回以下の子は2回以上の子の約1.6倍(本文の割合から計算)。肉体労働層では 24% 対 21%で有意差なし(p=0.34)=約1.1倍
う蝕を経験した子の割合(n=1,374)。各群の左(濃い棒)が1日1回以下、右(淡い棒)が1日2回以上
  • 非肉体労働層:1日1回以下 13%(n=236)→ 1日2回以上 8%(n=402)。有意(p=0.034)。本文の割合から計算すると、1日1回以下の子は2回以上の子の約1.6倍
  • 肉体労働層:1日1回以下 24%(n=355)→ 1日2回以上 21%(n=381)。有意差なし(p=0.34)。同じく約1.1倍にとどまります
  • 全体では非肉体労働層 10% 対 肉体労働層 22%

年齢を調整した階層別の多変量モデルでも同じ形でした——非肉体労働層では、1日2回以上磨くことのオッズ比 0.50(95%CI 0.29–0.86、p=0.012)と、う蝕のオッズがほぼ半分になります。一方肉体労働層では 0.72(0.49–1.04、p=0.08)で有意になりませんでした。

著者らは、この結果にすぐ但し書きを付けています——「このデータを、肉体労働層の子どもでは歯磨きが重要でない、という意味に読んではならない」。肉体労働層では背景のう蝕リスクがそもそも高く、歯磨き頻度だけでは差が出にくいのです。

食事の中身にも階層差はありました。ただし差はごく小さい——NMESのエネルギー比 18% 対 19%、砂糖菓子 2% 対 3%、チョコレート 4% 対 5%、清涼飲料 6% 対 7%、ビスケット・ケーキは逆に 10% 対 9%この程度の差では、10%と22%というう蝕の開きを説明しきれません

多変量で残った変数

0 0.5 1.1 1.6 う蝕経験のオッズ比(多変量ロジスティック回帰) 1.46 1.09 1.05 0.69 社会階層(1段階下がるごと) 年齢(1か月ごと) 砂糖菓子(%エネルギー1%ごと) 歯磨き頻度(1段階増えるごと) 95%信頼区間は 1.30–1.65/1.07–1.11/1.01–1.10/0.55–0.85。1.0 より大きいほどう蝕が多く、小さいほど少ない。オッズ比は「何倍なりやすいか」ではないので「倍」を付けずに読む
年齢・社会階層・歯磨き頻度・食事を同時に投入した多変量ロジスティック回帰のオッズ比。単位が異なる(1段階ごと/1か月ごと/1%ごと)ため、棒の高さで強さは比べられない
  • 社会階層(1段階下がるごと):オッズ比 1.46(95%CI 1.30–1.65、p<0.0001)
  • 年齢(1か月ごと):1.09(1.07–1.11、p<0.0001)
  • 砂糖菓子(エネルギー比1%ごと):1.05(1.01–1.10、p=0.01)
  • 歯磨き頻度(1段階増えるごと):0.69(0.55–0.85、p=0.0005)=う蝕が減る方向
  • ビスケット・ケーキ、チョコレート、清涼飲料は、いずれも有意にならなかった
  • 頻度で見たモデルでも、食事の変数のうち有意だったのは砂糖菓子の摂取頻度(1.34、1.04–1.73、p=0.03)だけでした(年齢・社会階層・歯磨き頻度はこのモデルでも有意)

なお最も強い予測因子は年齢(R=0.27)で、次が社会階層(R=0.17)です。年齢は動かせないので、実質的な主役は社会階層ということになります。抄録の言い方を借りれば——社会階層とう蝕の関連の強さは、歯磨きとの関連の2倍、砂糖菓子との関連の3倍近く

そして砂糖菓子の効果量を、著者らは実感できる形に翻訳しています。ただしこれは次の⑤で触れる「1日1回以下しか磨かない子」に限ったモデルからの推定です。

  • 1日1回以下しか磨かない子で、砂糖菓子の摂取量を7倍(エネルギー比1%→7%)に増やして、36か月児のう蝕リスクは約8ポイント上がる(非肉体労働層 8→16%、肉体労働層 16→24%)
  • 同じ群で、甘いものを週1回から毎日に変えて約7ポイント(非肉体労働層 10→17%、肉体労働層 16→22%)

7倍にして、やっと8ポイント。砂糖菓子は確かに効いている。しかし効き方は、私たちが思っているほど急ではないのかもしれません。

いちばん面白いのは、この交互作用

この論文の核心は、層別解析にあります。

  • 1日2回以上磨く子では、砂糖・砂糖含有食品とう蝕の関連は、どちらの社会階層でも認められなかった
  • 1日1回以下しか磨かない子でだけ、砂糖菓子のとの関連が有意になった(非肉体労働層 オッズ比 1.14 p=0.03/肉体労働層 1.08 p=0.03)
  • 砂糖菓子の頻度との関連も、同じく1日1回以下の群でだけ有意だった
  • NMES全体のエネルギー比は、どのサブグループでも有意にならなかった

読み方はこうです——フッ化物入り歯磨剤で1日2回磨いていると、砂糖の影響が統計的に見えなくなる。著者らはここから、慎重に仮説の形で結論を置きます:「フッ化物入り歯磨剤での規則的なブラッシング(1日2回)は、幼児のう蝕に対して、甘い食品を制限することより大きな影響を持つかもしれない」

明日の臨床へ

  • 時間が限られているなら、まず「1日2回、フッ化物入り歯磨剤で」を伝える。砂糖の制限より先に来る、という根拠がここにあります
  • 「甘いものを減らせない家庭」を責めない。この研究では、磨いている子では砂糖の影響が見えなくなりました。止められない習慣を責めるより、実行できる習慣を足すほうが現実的です
  • 多変量モデルで残ったのは砂糖菓子(sugar confectionery)だけで、ビスケットもチョコも清涼飲料も有意にならなかった(ただし単変量では、肉体労働層で磨く回数が少ない子に限りチョコレートを「ほぼ毎日」食べることとの関連が出ています)。「甘いもの」とひとくくりにせず、飴・キャンディ類から尋ねるのが効率的かもしれません(ただしこれは1つの調査の結果です)
  • 社会階層の影響は、私たちが動かせる範囲を超えて大きい。その事実を知っておくことは、「うちの指導が悪いのか」と抱え込まないためにも大切です
  • 肉体労働層で歯磨きの効果が有意にならなかったことを、「効かない」と読まない。著者ら自身が明確に否定しています
ここだけ、冷静に補助線 — 最大の限界は、これが横断研究だということです。「磨いているから虫歯が少ない」のか、「虫歯が少ない家庭がよく磨いている」のか、この設計では分けられません。オッズ比についても注意が要ります——アウトカムが多い集団では、オッズ比は「何倍なりやすいか」より大きめの数字になります。この研究のう蝕有病率は10〜24%と比較的低いので極端なずれではありませんが、オッズ比をそのまま「〜倍」と読み替えないようにしたいところです(本文の割合から計算できる範囲では、非肉体労働層でリスク比 約1.6倍、肉体労働層で約1.1倍です)。食事記録は4日間で、秤量記録でも過少申告は起こりえます(ただしこの調査の二重標識水法による検証では、記録の質はおおむね良好とされています)。1992〜93年の英国という時代と場所の背景もあります。そして「砂糖を気にしなくてよい」という論文ではありません——著者らの結論はあくまで仮説(suggest the hypothesis)という形で置かれています。優先順位の話として読むのが、この論文にいちばん誠実な読み方だと思います。

今日のひとこと

う蝕との関連の強さは、社会階層が歯磨き頻度の約2倍、砂糖菓子の3倍近くだった。そして砂糖菓子とう蝕の関連は、1日2回未満しか磨かない子でしか見られなかった。著者らの結論は仮説の形で慎重に置かれている——フッ化物入り歯磨剤で規則的に磨くことのほうが、甘い食品を制限することより、幼児のう蝕に大きく効いているかもしれない。

Gibson S, Williams S. Dental caries in pre-school children: associations with social class, toothbrushing habit and consumption of sugars and sugar-containing foods. Further analysis of data from the National Diet and Nutrition Survey of children aged 1.5-4.5 years. Caries Res. 1999;33(2):101-113. PMID: 9892777
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。