1問1答 論文 虫歯

母親の菌を減らすと、子どもは7歳でどう違ったか——介入終了から4年後の追跡

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|母子伝播・ミュータンス菌・予防プログラムの長期効果

「お母さんの口の中をきれいにしておくと、お子さんのむし歯が減りますよ」。乳幼児健診でよく使う言い方です。でもその根拠はどこにあるのか。1994年、イエテボリ大学のKöhlerらが、母親への予防プログラムを子どもが3歳になった時点で打ち切り、その4年後——子どもが7歳になったときに、何が残っていたかを確かめました。

論文
Influence of caries-preventive measures in mothers on cariogenic bacteria and caries experience in their children
著者
Köhler B, Andréen I
掲載
Arch Oral Biol. 1994;39(10):907-911
種類
臨床試験の長期追跡(母親への予防プログラム/対照群あり・7歳時点の横断評価)
PMID
7741661

「お母さんの口をきれいに」——その台詞の出どころ

乳幼児健診で、私たちはよくこう言います——「お母さんの口の中をきれいにしておくと、お子さんのむし歯が減りますよ」

この言い方の裏には、1980年代からの一連の研究があります。母親のミュータンス菌の量を下げると、子どもの口への定着が遅れる。定着が遅れた子は、乳歯列のう蝕が少ない。母親の菌を下げると定着が遅れることは1983年に同じグループが(Köhler, Bratthall & Krasse)、定着が早い子ほど乳歯う蝕が多いことは Alaluusua & Renkonen(1983)や Köhler ら(1984・1988)が示していました。

ただ、そこで止まっていた問いがあります。予防プログラムをやめたあと、その差は残るのか。母親の菌は数年で元に戻るかもしれないし、子どもは保育園や兄弟から菌をもらうかもしれない。もし差が消えるなら、それは「定着を数年遅らせただけ」ということになります。

先に結論: プログラムは子どもが3歳の時点で打ち切られた。その4年後・7歳で、ミュータンス菌の保菌率は対照95% 対 テスト46%、う蝕なしの子は9% 対 23%、乳歯列のう蝕経験はdefs 8.6 対 5.2差は残っていた

母親に何をしたのか

もともとの試験(Köhler ら 1983)では、唾液中のミュータンス菌が多い母親を対象に、テスト群へ次の予防プログラムを行っています。

  • 基本プログラム:研究の説明、食事指導専門的歯面清掃と口腔衛生指導フッ化物処置う蝕の治療
  • 目標値:唾液1mLあたりのミュータンス菌を 3×105 CFU 未満に下げる
  • それでも下がらない母親には、1.0%クロルヘキシジンジグルコン酸ゲルを個人トレーで1日5分・2週間使用
  • 継続期間子どもが3歳になるまで(4か月ごとにリコール。必要なら基本プログラムとクロルヘキシジンを繰り返す)

今回の追跡では、この試験を最後までやり切り、かつ実際に菌を下げられた母親(試験期間中の唾液サンプルの中央値が 3×105 CFU/mL 未満)だけを「テスト群」としています。対照群は、同じ試験で対照に割り付けられた母親——つまりテスト群と同じく「唾液のミュータンス菌が多い」ことを条件に選ばれた母親です。7歳になった第一子59名(対照33・テスト26)臨床とエックス線写真で診査し、あわせてこの子どもたち・母親58名・きょうだい40名の唾液を採って細菌学的に調べました。

母親の菌は、4年経ってどうなっていたか

まず母親から。プログラム終了から4年、差はまだ残っていました(なお本論文は7歳時点の値だけを報告しており、介入直後との比較はしていません)。

  • 唾液ミュータンス菌の中央値:テスト 0.62×106 対 対照 1.34×106 CFU/mL(平均値の比較で p<0.05)
  • 106 CFU/mL を超える母親:対照 61% 対 テスト 32%
  • 唾液乳酸桿菌の中央値:対照 80×103 対 テスト 7×103 CFU/mL=10倍の開き

乳酸桿菌が10倍違う、というのがこの論文の見どころのひとつです。乳酸桿菌は発酵性糖質の摂取量をよく映す菌なので、テスト群の母親では食習慣そのものが変わって、それが4年後まで続いていた可能性を示しています。著者らもそう書いています。

子どもの7歳——保菌率とう蝕なしの割合

0 33.3% 66.7% 100% 7歳時点の子どもの割合(%) 95% 9% 46% 23% 対照群の子 (n=33) テスト群の子 (n=26) 保菌率 95%(31/33)対 46%(12/26)、カリエスフリー 9%(3/33)対 23%(6/26)。いずれも z検定で p<0.01
7歳時点。左=ミュータンス菌を保菌している子の割合、右=う蝕がまったくない子の割合

ミュータンス菌を保菌していた子は、対照群31/33(95%)に対し、テスト群は12/26(46%)でした(z検定 p<0.01)。ミュータンス菌が検出されなかった子は16名で、そのうち14名がテスト群の子でした(対照群は2名)。

う蝕がまったくない子は、対照9%(3/33)に対しテスト23%(6/26)(p<0.01)。

ただし、ここは正直に読む必要があります。この地域の7歳児は、平均するとおよそ50%がカリエスフリーです。テスト群の23%でも、地域平均には遠く及びません。もともと母親の菌が多い=ハイリスク家庭を選んで組み入れた集団なので、当然といえば当然なのですが、「介入すれば普通の子と同じになる」という話ではないことは押さえておきたいところです。

う蝕の「量」も違った

0 3.3 6.7 10 乳歯列のう蝕経験(歯面数) 8.6 3.4 5.2 1.7 対照群の子 (n=33) テスト群の子 (n=26) defs 合計は平均±SDで 8.6±5.6 対 5.2±5.0、う蝕になった隣接面は 3.4 対 1.7。いずれも一元配置分散分析でp<0.05
乳歯列のう蝕経験(歯面数)。左=defs合計、右=う蝕になった隣接面の数
  • defs 合計:対照 8.6±5.6 対 テスト 5.2±5.0(p<0.05)
  • う蝕になった隣接面の数:対照 3.4 対 テスト 1.72倍の差(p<0.05)
  • defs が9を超える「かなり多い子」:対照 16/33(48.5%) 対 テスト 5/26(19.2%)

平均の差もさることながら、「重い子」の割合が半分以下になっていることのほうが臨床的には効いてきます。

定着の時期・菌種・きょうだい——3つの補足

  • 2歳より前に定着した子は、7歳で全員がう蝕を持っていた。しかも最も早く定着した子ほど、う蝕経験が多い。これはどちらの群に属していたかとは無関係でした
  • Streptococcus sobrinus は、母親が保菌している子だけが保菌していた。対照群の母親18名(54.5%)が保菌し、その子ども7名に定着。テスト群では母親7名(28%)のうち、子どもに定着したのは1名だけ。母子伝播の輪郭がきれいに出ています
  • きょうだい40名のうち21名(52.5%)が保菌。第一子が保菌していた家庭では62.9%、第一子が非保菌だった家庭では13名中4名(30.7%)。家庭単位で菌の状況が揃うことがわかります
  • 逆に、ミュータンス菌が検出されなかった子でも44%はう蝕になっていました(ただし程度は軽い)。菌がいない=う蝕にならない、ではありません

明日の臨床へ

  • 介入の窓は「乳歯が生えてくる時期」。この研究が母親に介入したのは、子の乳歯萌出期です。妊婦健診・1歳半健診のタイミングで母親の口腔内に手を入れる意味は、ここにあります
  • 効果は複合的。食事指導・PMTC・フッ化物・う蝕治療・必要ならクロルヘキシジン、というまとめて全部のパッケージです。どれか1つを取り出して「これが効く」とは言えません(それは後述の限界でもあります)
  • 家庭単位で見る。きょうだいの保菌が第一子の状況と揃うのなら、上の子の来院は下の子への介入の入口になります
  • 2歳までに定着した子は、群を問わず全員う蝕あり。定着時期の聞き取り・確認は、リスク評価としてまだ有効です
  • ただし「ハイリスク家庭を普通の子と同じにする」介入ではない。テスト群でもカリエスフリーは23%止まり。介入後もフォローを続ける前提で組む
ここだけ、冷静に補助線 — この研究の一番大きな弱点は、「テスト群」が元の試験を最後までやり切り、実際に菌を下げられた母親だけだという点です。プログラムから脱落した母親・下げられなかった母親は含まれていません(元の試験を完遂できたのが27名で、今回受診できたのがそのうち25名です)。つまり比較されているのは「介入した群 対 しなかった群」ではなく、「介入がうまくいった群 対 しなかった群」です。うまくいく母親はもともと生活を変える力がある——その差が結果に混ざっている可能性があります。加えて、介入が複合パッケージなので、菌を減らしたことが効いたのか、食習慣が変わったことが効いたのかは分けられません(乳酸桿菌が10倍違うという所見は、むしろ後者を示唆しています)。対照33名・テスト26名と小規模で、7歳時点の横断評価である点も差し引いて読む必要があります。1994年のスウェーデンという背景(フッ化物の普及状況・食生活)も今の日本とは違います。それでも、「乳歯萌出期に母親側へ介入すると、4年後まで差が残る」ことを対照群付きで示した数少ない報告であることは変わりません。因果の強さではなく、介入の窓がどこにあるかを教えてくれる論文として読むのがちょうどよいと思います。

今日のひとこと

乳歯が生えてくる時期に母親のミュータンス菌を下げておくと、子どもへの定着が遅れる。その差は、プログラムを終えて4年経った7歳の時点でも残っていた——保菌率は95%対46%、う蝕経験は defs 8.6 対 5.2。ただし「菌を減らしたから」なのか「家庭の食習慣ごと変わったから」なのかを、この研究は分けられていない。

Köhler B, Andréen I. Influence of caries-preventive measures in mothers on cariogenic bacteria and caries experience in their children. Arch Oral Biol. 1994;39(10):907-911. PMID: 7741661
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。