カリオロジー|キシリトールとプラーク蓄積・剤形(ガム/キャンディ)
「キシリトールのタブレット、うちの子に舐めさせています」——そう言われたとき、どう返しているでしょうか。噛むか舐めるかで結果が変わるのか。トゥルク大学のSöderlingらが、1971年から2020年までのランダム化比較試験を集めて、剤形ごとに並べ直しました。
①「タブレットを舐めさせています」に、どう返すか
キシリトールを勧めると、返ってくる形はさまざまです。ガム、タブレット、キャンディ、グミ。小さいお子さんには噛めないからと、舐めるタイプを選ぶご家庭も少なくありません。
そのとき僕らは、なんとなく「同じキシリトールだから、まあ良いのでは」と受け流してきたのではないでしょうか。
ここに、剤形で切り分けたレビューがあります。キシリトール研究の本家ともいえるフィンランド・トゥルク大学のSöderlingらによるものです。
②1971年から2020年まで、条件を揃えて集める
PRISMAに沿ったシステマティックレビューで、データ収集の前にPROSPEROへ登録を申請しています(2020年11月11日)。
- PubMed・Embase・Cochrane Libraryに加え、clinicaltrials.gov のグレーリテラチャーまで探索
- 802件から重複を除いて424件、全文評価28件を経て、14論文(16研究)が残った
- 対象は健常者のみ(機能性食品の健康強調表示を評価するなら、健康な人で検証すべきという理由)。矯正治療中・施設入所者・障害のある方の研究は除外
- キシリトールがポリオールの50%以上を占める製品のみを介入とし、対照にキシリトールを含む製品は不可
- 16研究の内訳は小児4研究・成人12研究。年齢5〜60歳以上、人数14〜485名、期間6日〜3年
バイアスリスクは低い2研究・不明12研究・高い2研究。1970〜90年代の研究が含まれるため、ランダム化や盲検化の記述が乏しいものが多い——ここは著者自身が正直に書いています。
③ガムでは減り、キャンディでは減らなかった
チューインガムの14研究のうち13研究で、プラーク量の有意な減少が確認されました。小児でも成人でも、短期(6〜30日)でも長期(1.5〜6か月)でも、同じ向きです。
そのうち6研究は、対照が「ソルビトールガム」でした。つまり同じシュガーレスガムを噛んだ相手に対しても差がついた、ということです。さらに3研究は、ガムベース(甘味料なし)または「ガムなし」を対照にしています。
数字を拾うと、こうです。
- Söderling 1989(2週間・成人):キシリトールガム/キシリトール・ソルビトールガムでプラーク新鮮重量が24〜29%減少。一方ソルビトール群ではむしろ増加
- Cronin 1994a〜c(各2週間):a・bはキシリトール・ソルビトール配合ガム、cは純キシリトールガム。プラーク再形成の抑制は29%(a)、23〜32%(b・1日2粒以上摂取した群)、32〜38%(c)。ソルビトール対照群の抑制は3研究をまとめて8〜10%と小さかった。とくにcでは純キシリトールガムがソルビトールガムに有意に勝っています(p<0.01)
- Steinberg 1992(1.5か月):プラーク指数がキシリトール群で15%、ソルビトール対照群で12%低下。ガムなし群では低下なし——同じシュガーレスどうしだと、差は小さい
- Akgül 2020(3週間):キシリトールガムで46%減少、ガムベースでは9%
- Mäkinen 2005(6か月・5歳児):1日4回・5分噛んでプラーク指数が8%低下、ソルビトール対照では変化なし
- Al-Haboubi 2012(6か月・60歳以上):1日2回15分でプラークが低下、ガムなし対照では変化なし
対してキャンディ・タブレット・ロゼンジの3研究は、いずれもプラークに変化なしでした。3か月間・1日4回・4gのロゼンジ(Birkhed 1979)でも、3年間・1日3回・7.5gのキャンディ(Runnel 2013)でも動きません。Runnelの研究では、同じ設計のエリスリトールのキャンディはプラークを減らしたようだと報告されている一方、キシリトールとソルビトールでは効果が見られませんでした。
ただし著者らは、この2本について弁明も添えています。Birkhedの研究は他の研究に比べてベースラインのプラーク量が多く、用量も1日4gと低かった。Runnelの研究は1日3回・最後の摂取が14時ごろ・平日のみ(長期休暇中は摂取なし)と、処置そのものが比較的緩やかだった——と。「キャンディだから効かない」と断定できるだけの設計ではない、という含みです。
④著者らの仮説——咀嚼時間が交絡しているのではないか
この論文の考察でいちばん面白いのは、咀嚼時間をめぐる推論です。
キシリトールはガムから1分で唾液中の濃度がピークに達し、3分でほぼ溶け出し切ります(別の文献による溶出動態)。短時間で高濃度がプラークに届く。ここが作用機序の要ではないか、と著者らは考えています。
研究を事後的にグループ分けすると、こう見えます。
- 噛む時間が短い(あるいは指定がない)研究では、キシリトールガムだけが減り、ソルビトールガム/ガムベースは減らなかった
- 1日3〜5回×10分と長めに噛ませた3研究では、キシリトール・ソルビトール・マルチトールのどれもが、同じように小さく減った
著者らの説明はこうです。長く噛み続けると唾液分泌が高まり、かえってキシリトールが口から洗い流される(oral clearance)。だから長時間の咀嚼は、キシリトール特有の効果を見えにくくするのではないか、と。
なおガムベース(甘味料なし)を噛むだけでは、プラークの減少はゼロか7〜9%どまりでした。少なくともこのレビューの範囲では、「噛むだけ」では差が出ておらず、剤形で結果が割れている——ここまでが読み取れる範囲です。
⑤明日の臨床へ
- 剤形を確認してから話す。「キシリトール、続けています」と言われたら、ガムかタブレットかを聞く。プラーク量という指標に限れば、このレビューの3研究にキャンディで減ったという報告はありません
- ただし「キャンディは効かない」と断じない。著者らは、本レビューの除外基準に該当した研究では、キシリトールのキャンディ/パスティルでプラーク減少が観察されている(フィンランド・クウェートの障害のある対象者)と明記しています。また冒頭ではパスティル・シロップ・ウェットティッシュでう蝕が減った報告にも触れています
- 用量は、この論文からは決められない。著者らは「1研究を除き、用量は約5g以上で”キシリトール効果”に足りていた」と書いていますが、その5gという閾値は別文献(ミュータンス菌の研究)由来です。しかも例外の1研究は1日2.8gで効果あり、一方で1日7.5gのキャンディは無効でした
- 「長く噛みなさい」の根拠は、思っていたほど強くない。ただし④のとおり、これは著者の仮説であって検証された結論ではありません
- これはプラークの話であって、う蝕そのものの話ではない。キシリトールのう蝕予防効果については別のレビューがあり、結論は分かれています。著者ら自身も「キシリトールガムがブラッシングの代わりにならないことは明らかである」と釘を刺しています
今日のひとこと
プラーク量という指標に限れば、キシリトールの効果はガムの14研究中13研究で確認され、キャンディの3研究では確認されなかった。ただし測っているのはう蝕ではなくプラークであり、除外された研究にはキャンディで減ったという報告もある。


