1問1答 論文 歯周病

揺れている歯は、歯周病が速く進むのか——先に揺らしてから、歯周炎を起こしてみた

診断・予後評価

動揺と歯周炎の進行速度(ビーグル犬)

動揺度2の歯を前にすると、どうしても身構えます。揺れているから危ない、早めに固定を、抜歯も視野に——そう考えたくなる。ですが「揺れていること自体が、歯周炎の進行を速めるのか」を正面から確かめた実験があります。答えは、少し意外でした。

論文
Lack of significance of increased tooth mobility in experimental periodontitis
著者
Ericsson I, Lindhe J
掲載
J Periodontol. 1984;55(8):447-452
種類
動物実験(ビーグル犬6頭・ジグリング+実験的歯周炎・300日)
PMID
6592317

動揺度2を見たときの、あの身構え

初診の検査。ポケットは6mm、そして動揺度2。——この「2」を書いた瞬間、頭の中で予後の見込みが一段下がる感覚があります。

揺れているから危ない。早めに固定したほうがいい。場合によっては抜歯も。ですが、その「揺れているから危ない」は、何を根拠にしているでしょうか。

それまで:問いが2つ、混ざっていた

動揺をめぐる問いは、実は2つあります。

問い1 揺れている歯は、歯周炎の進行が速いのか / 問い2 揺れている歯は、治療への反応が悪いのか

この2つは似ていますが、別のことを聞いています。そして臨床では、しばしば区別されないまま扱われてきました。「揺れている歯は治りにくい」という実感が、いつのまにか「揺れているから進行が速い」に読み替えられてしまう。

この研究が答えたのは、問い1のほうです。

今回の一手:ふつうと逆の順番で組む

実験の順番——ふつうと逆に組まれているまず、揺らすジグリング型の咬合性外傷を加え、動揺と歯根膜腔の拡大を作る4か月置く拡大した歯根膜腔が定着するのを待つそこへ歯周炎歯頸部に綿糸のリガチャーを巻き、プラークを溜めて実験的歯周炎を誘発。4週ごとに交換し4か月継続300日追うDay 0/30/60/90/120/160/240/300に動揺度測定とエックス線検査。屠殺後は近遠心方向に4μmの切片で組織学的に評価比較したのは、あらかじめ揺らした歯(test)と、正常な動揺度の歯(control)。ビーグル犬6頭(Ericsson & Lindhe 1984)

設計が巧みです。先に揺らしてから、歯周炎を起こしました。

ビーグル犬6頭に、ジグリング型(揺さぶり型)の咬合性外傷を加え、永続的に増大した動揺と歯根膜腔の拡大を作ります。4か月後、その歯と、動揺度が正常な対照の歯の両方に、歯頸部へ綿糸のリガチャーを巻いてプラークを溜め、実験的歯周炎を誘発しました。リガチャーは4週ごとに交換し、4か月続けています。

観察はDay 0から300まで計8回。動揺度測定とエックス線検査を行い、屠殺後はホルマリン固定・脱灰・パラフィン包埋のうえ、近遠心方向に4μmの薄切で組織を評価しました。

結果:差は、なかった

結論は簡潔です。リガチャーとプラーク蓄積によって引き起こされ維持された歯周破壊の程度は、歯根膜腔の広い歯でも、歯根膜腔の幅が正常な歯でも、同様だった。

著者らは言い換えています——プラーク関連病変の進行は、歯根膜腔の幅、すなわち水平的な動揺度とは無関係であるように見えた。

あらかじめ揺らしておいても、歯周炎は速く進まなかった。動揺は、進行のアクセルではありませんでした。

「治りにくい」とは、矛盾しない

動揺について、何が言えて何が言えないかこの実験が示したこと歯根膜腔が広い歯と正常な歯で、歯周破壊の程度は同様だったプラーク関連病変の進行は、歯根膜腔の幅とは無関係だったつまり動揺していること自体は、進行を速めないこの実験が示していないこと動揺した歯が「治療によく反応する」とは言っていないヒトでの検証ではない(ビーグル犬6頭)固定が不要だと示したわけでもない「進行の速さ」と「治療への反応」は別の問い。後者はFleszar 1980が人の8年の縦断研究で答えている(Ericsson & Lindhe 1984)

ここで混乱しないことが大切です。人の8年間の縦断研究(Fleszar 1980)は、初診時に動揺している歯のポケットは、同じ深さでも治療に反応しにくいことを示しています。この2つは矛盾しません。別のことを言っています。

「進行が速い」わけではないが、「治療への反応は鈍い」。——つまり動揺は、病気を進めるアクセルではなく、治りの天井を下げる要因として読むのが、2本を並べたときの姿です。

そしてこの区別は、判断を変えます。「揺れているから、進行を止めるために予防的に固定する」という理屈は、この実験からは支持されません。固定を検討する理由は別のところ——患者さんが噛みにくいと訴えている、外科の足場として必要、といった実際的な理由——にあります。

明日の臨床へ:動揺は、独立した敵ではない

① 動揺度を、進行リスクの指標として使わない。 進行を決めているのはプラークによる炎症です。動揺の数字を見て治療計画の強度を上げる根拠は、ここにはありません。
② それでも記録は取る。 治療への反応の見込みが変わるからです(Fleszar)。予後の説明を組み立てるときの材料として、動揺度は今も有用です。
③ 炎症を止めきれば、揺れたままでも維持できる。 ポケットが閉じ、出血が止まった歯は、動揺が残っていても管理していけます。「揺れているから抜く」は、この順序を飛ばした判断になります。
ここだけ、冷静に補助線 ビーグル犬6頭の動物実験です。ヒトの臨床へそのまま持ち込めるものではありませんし、リガチャーで人為的に起こした歯周炎は、人の慢性的な経過とは進み方が違います。そして1頭はDay 120で屠殺されているので、300日を完走した個体は5頭です。犬の歯周組織はヒトより破壊が速く進むことも知られています。それでも「動揺を先に作っておいても進行は速くならなかった」という設計の答えは明快で、動揺を独立したリスクとして扱う根拠が薄いことを示しています。揺れている歯を前にしたとき、まず見るべきはプラークと出血のほうです。

今日のひとこと

歯根膜腔が広い歯も、正常な幅の歯も、歯周破壊の程度は同じだった。進行の速さは、動揺度とは無関係だった。

Ericsson I, Lindhe J. Lack of significance of increased tooth mobility in experimental periodontitis. J Periodontol. 1984;55(8):447-452. PMID: 6592317
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。