1問1答 論文 歯周病

レントゲンの斜めに溶けた骨は、噛み合わせのせいか——世界を14年動かした説の、原典

診断・予後評価

共同破壊理論(co-destructive theory)の原著

角状骨欠損を見たら咬合を疑え。骨縁下ポケットがあれば咬合調整を。——1960年代から70年代にかけて、世界中の歯周治療がこの前提で動きました。全顎的な咬合調整と連結固定が、歯周基本治療のルーチンになった時代です。その出発点になった論文を、いま読み直します。

論文
Effect of excessive occlusal forces upon the pathway of gingival inflammation in humans
著者
Glickman I, Smulow JB
掲載
J Periodontol. 1965;36(2):141-147
種類
ヒト剖検顎の組織学的観察(3部位・連続切片)
PMID
14261862

「この斜めの骨欠損、噛み合わせですかね」

デンタルを見ると、1本だけ楔のように骨が落ちている。隣は水平的なのに、そこだけ斜めだ。——この所見を見て「咬合かもしれない」と思ったことは、誰しもあるはずです。

その連想には出所があります。1965年のこの論文が、それを作りました。そしてその後14年にわたって、世界中の歯周治療の前提になりました。

それまで:炎症と外傷は「別々の病気」とされていた

当時すでに、咬合性外傷そのものが歯肉の炎症やポケットを作るわけではないことは、複数の報告で示されていました。著者らが引くOrbanは、歯肉の炎症と咬合性外傷はおそらく全人口の9割で同時に存在するとしつつ、両者を互いに悪影響を及ぼしうる、別々の異なる病気として記述しています。

著者ら自身は1962年、サルで人為的に過大な咬合圧を加えるとトランスセプタル線維と深層の歯根膜線維の走行が変わり、歯肉の炎症が支持組織へ入っていく経路が変わることを報告していました。歯間部では、炎症が歯間中隔へではなく歯根膜腔へ直接広がったのです。

ではそれは、人でも起きているのか。この論文はその確認です。

今回の一手:剖検で採った顎を、連続切片にする

方法は当時としても手間のかかるものでした。剖検で顎を採取し、10%中性緩衝ホルマリンで固定。20%クエン酸ナトリウムと45%ギ酸の等量混合液で脱灰し、セロイジンに包埋して連続切片を作製しています。

報告されている観察部位は3か所です。59歳男性の上顎犬歯〜大臼歯部、54歳男性の下顎犬歯〜小臼歯部、そして59歳男性の下顎大臼歯部。

結果:同じ歯の、近心と遠心で像が違った

同じ患者の、隣り合う歯間部で見えたもの線維が水平な側トランスセプタル線維が骨頂を水平に横切る歯根膜線維の配列は正常炎症は歯肉と線維の“間”に留まる骨縁上ポケット線維が斜めに傾いた側線維が根尖方向へ傾く(圧迫を示唆)歯根膜腔が楔状に拡大炎症が歯肉から歯根膜へ直接入る角状の骨吸収と骨縁下ポケット第二小臼歯の近心と遠心という、同じ歯の左右で対照的な像が得られた(Glickman & Smulow 1965)

いちばん印象的なのが1例目です。エックス線では第二小臼歯の近心と遠心の両方で、歯根膜腔が楔状に拡大していました。歯肉乳頭はどちらも炎症を起こしています。ところが組織像は、近心と遠心でまるで違いました。

遠心側——トランスセプタル線維は骨頂を水平に横切り、歯面に対して垂直。歯根膜線維の配列も正常。そして炎症は、歯肉からトランスセプタル線維のところまでで留まっていました。

近心側——トランスセプタル線維は水平ではなく斜めに走り、第二小臼歯の深層の歯根膜線維も根尖方向へ傾いていました(著者らはこれを近心方向の圧迫力を示唆する所見と読みます)。歯根膜腔は歯冠側1/3で楔状に広がる。そして炎症は歯肉から歯根膜へ直接入っていました。

2例目では、角状の骨面にラクナ性の骨吸収が見られ、その下の歯根膜線維は引き延ばされていました。犬歯の遠心には骨縁上ポケット、小臼歯の近心には初期の骨縁下ポケットが形成されていました。

そこから立てられた説

提唱された筋書き——炎症は、どこで進路を変えるのか辺縁歯肉の炎症歯肉線維とトランスセプタル線維の内側にあるあいだは、咬合性外傷の影響を受けない線維が外傷で傾く過大な咬合力がトランスセプタル線維と深層の歯根膜線維の走行を変える進路が変わる炎症が歯間中隔へ向かわず、歯根膜腔へ直接入る角状骨欠損・骨縁下ポケット炎症と外傷が相互に関連した「共同破壊因子」になる著者らの結論。両者は別々の病気ではなく、歯周炎という単一の疾患に参加する異なる病的過程だとされた(Glickman & Smulow 1965)

著者らの結論は、次の一文に集約されます。

炎症が辺縁歯肉に留まり、歯肉線維とトランスセプタル線維の内側にあるあいだは、咬合性外傷の存在による影響を受けない。しかし炎症が辺縁歯肉を越えて広がると、炎症と咬合性外傷は結びついて、歯周炎における相互に関連した「共同破壊因子」になる。

そして両者は別々の病気ではなく、歯周炎という単一の疾患に参加する異なる種類の病的過程である、と位置づけられました。合わさったとき、角状骨欠損と骨縁下ポケットを作る——これが共同破壊理論です。

この説が、臨床を変えた

説得力は絶大でした。歯を揺さぶれば線維が傷み、そこを炎症が伝って骨の中へ潜る——直感に合うのです。

結果として、レントゲンに角状骨欠損があること自体が「咬合性外傷が関与している診断的証拠」として扱われるようになります。複数箇所に角状欠損があれば咬合が悪すぎるということになり、全顎的な咬合調整と連結固定が、歯周治療の一環としてルーチンに行われる時代が来ました。

明日の臨床へ:この論文の位置を、正確に置く

① 「角状骨欠損=咬合」と直結させない。 この論文が示したのは組織像の対応であって、力が角状欠損を作ったという因果の証明ではありません。1979年、Waerhaugが31名106か所で調べ直したとき、角状骨欠損は咬合干渉のある歯にもない歯にも等しく分布していました。
② それでも、この論文を読む価値はある。 「炎症が辺縁歯肉の内側にあるうちは外傷は関与しない」という枠組みは、いま読んでも臨床の順序と一致します。まず炎症を鎮める。話はそれからだ、という順序です。
③ 説が覆されたことと、その説が無価値だったことは違う。 反証が積み上がる出発点として、この論文は必要でした。
ここだけ、冷静に補助線 最大の限界は観察数です。報告されている部位は3か所(患者は2名または3名)で、対照群はありません。剖検例なので生前の咬合状態も、いつ何が起きたのかの時間経過も分かりません。因果の向きも決められない——線維が傾いたから炎症が入ったのか、炎症で組織が壊れた結果として線維が傾いて見えるのか、静止した1枚の切片からは区別できません。1979年、Waerhaugはまさにこの点を突き、「Glickmanらの切片にも、その角状欠損のところにプラークが写っている」と指摘しました。それでも、この論文を読まずにWaerhaugだけを読むと、何が覆されたのかが分かりません。反論の前に、主張を読む価値がある一本です。

今日のひとこと

炎症が辺縁歯肉に留まるうちは、咬合性外傷は関与しない。越えた先で、両者は共同破壊因子になる——それが提唱された中身だった。

Glickman I, Smulow JB. Effect of excessive occlusal forces upon the pathway of gingival inflammation in humans. J Periodontol. 1965;36(2):141-147. PMID: 14261862
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。