1問1答 論文 虫歯

フッ化物なしの口腔清掃は、う蝕を減らせなかった——学童743人・3試験の結論

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|口腔清掃・フッ化物・う蝕の病因論

「歯みがきでむし歯を防ぐ」——僕らが日々口にしている、この一文の根拠はどこにあるのでしょうか。実は「う蝕は清掃不良のせいか、それとも歯の質のせいか」という論争は100年続いています。2018年、ワシントン大学のHujoelらは、この問いをフッ化物の交絡を取り除いた条件で検証しました。フッ化物を使わずに口腔清掃だけを介入したランダム化試験3件・743人を統合した結果は、ΔDMFS=−0.11(95%CI −0.91〜0.69、P<.79)——徹底したプラーク除去を行っても、う蝕の発生に影響しなかった。ただしこれは「歯みがきは無意味」という話ではありません。

論文
Personal oral hygiene and dental caries: A systematic review of randomised controlled trials
著者
Hujoel PP, Hujoel MLA, Kotsakis GA(ワシントン大学 歯学部口腔保健科学/同 公衆衛生大学院疫学/ハーバード公衆衛生大学院生物統計学)
掲載
Gerodontology 2018;35(4):282-289(doi: 10.1111/ger.12331)
種類
システマティックレビュー+メタ解析(ランダム化比較試験3件・743人。フッ化物の交絡がない条件での口腔清掃介入に限定。感度分析として非ランダム化試験4件も検討)
主題
フッ化物を使わない口腔清掃だけで、う蝕の発生は減るのか

「歯みがきでむし歯を防ぎましょう」の根拠

毎日、何十回と口にしている言葉です。では、その根拠はどこにあるでしょうか。

意外に思われるかもしれませんが、「う蝕は清掃不良のせいか、それとも歯の質のせいか」という論争は、100年続いています

  • 口腔清掃仮説:歯面のバイオフィルムが糖から酸を作り、歯を脱灰させる。だから清掃すれば防げる
  • 歯の質仮説:エナメル質の形成不全など、歯そのものの欠陥が起点になる

どちらを取るかで、予防の戦略そのものが変わります。そして両者を分ける実験には、大きな障害がありました——フッ化物です。歯みがきの研究のほとんどはフッ化物配合歯磨剤を使っており、効いているのがブラシなのかフッ化物なのか、切り分けられていなかったのです。

先に結論: フッ化物のない条件でのランダム化試験3件・743人を統合すると、ΔDMFS=−0.11(95%CI −0.91〜0.69、P<.79)。徹底したプラーク除去を行っても、う蝕の発生は動かなかった。ただし同じ試験で歯肉炎は有意に減っていました

フッ化物の交絡を外して、3試験だけが残った

著者らは3つのデータベースをあらかじめ決めた基準で検索し、フッ化物の交絡がない条件で口腔清掃を介入したランダム化試験だけを拾いました。プロフェッショナルクリーニングを併用したものや、割り付けが口腔清掃状態に基づくものは除外されています。

残ったのは3試験・743人。米国2件、英国1件です。

  • 全3試験がDMFS(う蝕経験歯面数)を報告
  • 追跡は2試験が3年間、1試験が29か月
  • 無作為化の単位は2試験が個人、1試験がクラス単位
  • Jadadスコアは3試験とも「4」(5点満点。自己実施のブラッシングは盲検化できないため、そこが減点)
  • いずれも企業資金による試験ではない
  • ベースラインのう蝕スコアに群間差なし。脱落率は15〜39%
  • ⚠️ 参加者は全員が学童です——11・12歳の女子、10・13歳の男女、12・13歳の男女。成人は1人も含まれていません
0 13.3か月 26.7か月 40か月 追跡期間(か月) 36か月 36か月 29か月 試験1 試験2 試験3 う蝕の発生を見るには十分な期間が確保されている。追跡が短すぎたから差が出なかった、という説明は成り立たない。3試験の脱落率は15〜39%
3試験の追跡期間。いずれも2年半から3年で、短い追跡ではない

結果——動かなかった

ランダム効果モデルによる統合結果です。

  • ΔDMFS=−0.11(95%CI −0.91〜0.69、P<.79)
  • 試験間の異質性はなし(カイ二乗 1.88、自由度2、P=.390)
  • クラスター無作為化の補正を外しても−0.05(95%CI −0.80〜0.70、P<.90)と変わらず

信頼区間が0をまたぎ、しかもばらつきが小さい。「試験によって結果がバラバラで結論が出せない」のではなく、そろって差が出なかったのです。

そして、この論文でいちばん大事な一点。

介入は効いていた: 3試験のうち2試験(n=522)では歯肉炎が有意に減っていました。この2試験だけに絞って再解析しても、有意でないという結論は変わりません(ΔDMFS −0.34、95%CI −1.59〜0.91、P=.60。点推定は動き、信頼区間は広がります)。ブラッシングは確かにプラークを落とし、歯肉を改善していた。それでもう蝕だけが動かなかった——ここがこの論文の芯です。

感度分析で出てきた、もう一つの発見

0 1.7 3.3 5 Jadadスコア(0〜5・高いほど質が高い) 4 1.5 0 統合されたランダム化3試験 非ランダム化4試験の平均 商業資金の外れ値1試験 ランダム化3試験はいずれも企業資金によるものではない。一方、非ランダム化試験のうち唯一「口腔清掃が強く有益」という結果を出したのは、Jadadスコア0の商業スポンサー資金による試験だった
試験の質(Jadadスコア)。唯一「口腔清掃が強く有益」という結果を出した試験は、質が最低で商業資金によるものだった

著者らは頑健性を確かめるため、非ランダム化試験4件(Jadadスコア平均1.5)も検討しました。結果は割れます。

  • 2件はう蝕リスクの増加を報告
  • 2件はう蝕リスクの減少を報告

そして——そのなかで唯一「口腔清掃がう蝕に強く有益」という結果を出した試験は、Jadadスコアが0で、商業スポンサーの資金による試験でした

この1件が、非ランダム化試験群の異質性を生み出していました(カイ二乗 14.87、自由度3、P<.01)。この外れ値を除くと、ランダム化試験と非ランダム化試験はほぼ同一の結論に収束します。

すべてを統合したランダム効果モデルでも、標準化平均差 −0.08(95%CI −0.27〜0.10、P=.39)——やはり有意な利益はありませんでした。

ただし、著者はここも正直に書いている原著にはこう続きます——「高度に有意な異質性を無視して、それでも固定効果モデルを選べば、個人の口腔清掃の効果は有意という結果になる(標準化平均差 −0.11、95%CI −0.21〜−0.00、P=.042)」モデルの選び方ひとつで、結論が有意側へ振れる——この一節を隠さずに書いているところが、この論文の信頼できるところだと思います。

この結果を、どう受け取るか

誤読を避けるために、順序立てて整理します。

  • 「歯みがきは無意味」ではない。同じ試験で歯肉炎は有意に減っています。しかも著者らは「本レビューは、う蝕予防のための口腔清掃の潜在的な利益について臨床家が助言すべきかどうかを問うものではない」と明記しています
  • 「フッ化物歯磨剤は無意味」でもない。むしろ逆です。フッ化物を外した途端に効果が消えたのだから、う蝕予防の主役はフッ化物のほうだったという読み方になります
  • 歯ブラシは「フッ化物を歯面に届け、行き渡らせる道具」という位置づけが、これで一段はっきりします

なお著者ら自身の説明は、少し違う方向を向いています。原著は「バイオフィルムは歯の微小な亀裂や欠陥のなかにあり、歯ブラシでは除去できない」という歯の質仮説を支持する側に着地しており、さらにフッ化物が少なくとも部分的には全身作用で効いている可能性にまで踏み込んでいます。「歯ブラシはフッ化物という有効な薬剤の、不活性な運搬機構にすぎない」という表現も原著のものです。①で挙げた100年の論争について、この論文は「歯の質仮説」の側に傾いた——それが著者らの立場です。

明日の臨床へ

  • 「歯みがきでむし歯を防ぐ」を、「フッ化物でむし歯を防ぐ」に言い換える。ブラッシングはその運搬と補助
  • ブラッシング指導の目的を、歯周組織の側に置き直す。歯肉炎には確かに効いている。そこは自信を持って言える
  • う蝕予防はフッ化物・小窩裂溝填塞・食習慣で組み立てる。清掃だけに背負わせない
  • この結果を成人にそのまま当てはめない。著者らは「セメント質が露出していない健康な小児集団での所見は、セメント質が露出した成人や唾液分泌が低下した成人には外挿できない」と明記しています
  • 「よく磨いているのにむし歯ができる」患者さんを責めない。この論文は、その現象そのものを説明しています
  • 企業資金の試験を読むときの物差しにする。この論文の中で、外れ値がどこから来たかを覚えておく
ここだけ、冷静に補助線限界も率直に見ておきます。第一に、参加者は全員が10〜14歳の学童であり、著者ら自身が成人への外挿を明確に否定しています。第二に、統合されたランダム化試験はわずか3件です。著者ら自身、試験数が少なく期間や質のばらつきも小さいため、メタ回帰も出版バイアスの統計的評価も行えなかったと書いています。第三に、脱落率が15〜39%と小さくありません。第四に、「差が無いことが証明された」わけではなく、「有益性を示せなかった」という結論です(信頼区間の上限0.69は小さな害の可能性も、下限−0.91は小さな利益の可能性も残しています)。第五に、著者らはプロトコルを事前に策定も登録もしておらず、英語以外の言語の報告を除外していると明記しています。それでも「フッ化物を外すと、清掃の効果が消える」という所見は、日々の説明の重心をどこに置くべきかを、はっきり教えてくれます。

今日のひとこと

フッ化物のない条件では、徹底した口腔清掃はう蝕の発生を減らさなかった。3つのランダム化試験(計743人。米国2件・英国1件)を統合した結果はΔDMFS=−0.11(95%CI −0.91〜0.69、P<.79)試験間の異質性はなく(カイ二乗 1.88、自由度2、P=.390)、クラスター無作為化の補正を外しても−0.05(95%CI −0.80〜0.70、P<.90)と結論は変わりませんでした。参加者は全員が10〜14歳の学童で、成人は含まれていません——著者らは「セメント質が露出していない健康な小児集団での所見は、セメント質が露出した成人や唾液分泌が低下した成人には外挿できない」と明記しています。試験の質は決して低くありません——Jadadスコアは3試験とも「4」、いずれも企業資金による試験ではなく、2試験は3年間、1試験は29か月の追跡。ベースラインのう蝕にも群間差はありませんでした。脱落率は15〜39%。そして重要なのは、この3試験のうち2試験(n=522)では歯肉炎が有意に減っていたこと——介入そのものは効いていたのに、う蝕だけが動かなかったのです。感度分析では非ランダム化試験4件(Jadadスコア平均1.5)も検討され、2件はう蝕リスクの増加、2件は減少と割れました。そのうち唯一「強く有益」という結果を出した試験は、Jadadスコア0で、商業スポンサーの資金による試験。この外れ値を除くと、ランダム化試験と非ランダム化試験はほぼ同じ結論になり、統合した標準化平均差は −0.08(95%CI −0.27〜0.10、P=.39)でした。なお著者らは「高度に有意な異質性を無視して固定効果モデルを選べば、口腔清掃の効果は有意になる(標準化平均差 −0.11、95%CI −0.21〜−0.00、P=.042)」とも書いており、また「本レビューは、う蝕予防のための口腔清掃について臨床家が助言すべきかどうかを問うものではない」と明言しています。

出典:Hujoel PP, Hujoel MLA, Kotsakis GA. Personal oral hygiene and dental caries: A systematic review of randomised controlled trials. Gerodontology 2018;35(4):282-289. PMID: 29766564
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。