1問1答 論文 虫歯

いびき・口呼吸・無呼吸——歯科で気づける所見が、8歳の学びに関係していた

1問1答 論文 虫歯

カリオロジーの棚から|小児の睡眠呼吸障害・口呼吸・特別教育ニーズ

小児の口腔内を診ていて、口が開いたままだと気づくことがあります。保護者に聞けば「いびきをかきます」と返ってくる。これを私たちは、どこまで真剣に受け止めてきたでしょうか。2012年、英国の出生コホートALSPACの11,000人超を追った研究は、生後6か月から57か月までのいびき・口呼吸・目撃された無呼吸と、8歳時点で特別な教育的支援(SEN)を必要とするかどうかを結びました。16の交絡因子を調整しても、睡眠呼吸障害の既往があった子どもはSENのオッズが約40%高く、最も症状が重い群では約60%高いという結果でした。

論文
Pediatric Sleep Disorders and Special Educational Need at 8 Years: A Population-Based Cohort Study
著者
Bonuck K, Rao T, Xu L(米国・アルバートアインシュタイン医科大学ほか)
掲載
Pediatrics 2012;130(4):634-642
種類
前向きの population-based コホート研究(ALSPAC=Avon Longitudinal Study of Parents and Children の二次解析)
対象
睡眠呼吸障害のデータがある11,049名、行動性睡眠問題のデータがある11,467名。8歳時点の特別教育ニーズ(SEN)の有無を保護者が報告

「口が開いたままですね」で、終わらせていないか

小児の口腔内を診ていると、口が開いたままだと気づくことがあります。保護者に聞けば「いびきをかきます」「夜中に息が止まっているように見えることがあります」。

歯科では、口呼吸を歯肉の乾燥・う蝕リスク・顎の発育の文脈で捉えます。それは正しい。けれども、この論文が結んだ先はもう少し遠くにあります。

先に結論: 英国の出生コホート11,000人超で、生後57か月までのいびき・口呼吸・無呼吸8歳時点で特別な教育的支援(SEN)を必要とするかを調べたところ、16の交絡因子を調整しても睡眠呼吸障害の既往でオッズ比 1.38(95%CI 1.18–1.62)最も症状が重い群では1.60(1.23–2.08)という関連がありました。

今回の一手:症状の「出方」で子どもを分類した

0 16.7% 33.3% 50% 症状の出方(軌跡)別の割合(%) 37% 19% 17% 9% 18% 無症状 6か月にピーク 18か月にピーク 最も重い群 42か月から出現 いびき・口呼吸・目撃された無呼吸を生後6・18・30・42・57か月に評価し、その出方で5つに分類した。「最も重い群」は18か月から症状が高いまま続き30か月にピークを迎える群
いびき・口呼吸・無呼吸の出方で分けた5つの軌跡(クラスター)とその割合

この研究の設計上の工夫は、ある一時点の症状の有無ではなく、5歳までの「症状の出方」で子どもを分類したところです。

  • 保護者が生後6・18・30・42・57か月に、いびき・目撃された無呼吸・口呼吸を報告
  • この5時点のうち2つ以上でデータのある子どもについて、症状の軌跡を導出
  • 結果、5つの型に分かれた——①無症状(37%)②6か月にピークで以後軽快(19%)③18か月にピークで以後軽減(17%)④最も重い群:18か月から高い症状が続き、30か月にピーク(9%)⑤42か月から軽度に出現(18%)
  • 行動性の睡眠問題(BSP)は、18・30・42・57か月の質問紙で7項目中5項目以上に該当した場合とした(寝るのを嫌がる、早く目が覚める、寝つきが悪い、数時間で起きてしまう等)
  • アウトカムは8歳時点で特別な教育的支援を受けているかどうか(保護者の報告)

そして16の交絡因子——母の妊娠中の喫煙、子どもの人種、住環境の不適切さ、父の社会階層、母の学歴、家庭の養育環境(HOME尺度)など——を調整しています。

結果:オッズは40%、最も重い群では60%高かった

8歳で特別な教育的支援を必要とするオッズ(16の交絡因子を調整後) 丸が点推定、横線が95%信頼区間。破線(1.0)をまたがなければ統計学的に有意

1.0 1.4 1.8 2.2

睡眠呼吸障害(全体) 1.38(1.18–1.62)=オッズが約40%高い

最も症状が重い群 (18か月以降ずっと高い・9%) 1.60(1.23–2.08)=オッズが約60%高い

行動性の睡眠問題 (報告された約1年ごとに) 1.07(1.01–1.15)=1年あたりオッズが7%高い

対象は11,049名(睡眠呼吸障害)と11,467名(行動性の睡眠問題)。英国のALSPACコホート。 オッズ比は、アウトカムが多い集団では「何倍なりやすいか」より大きめの数字になる点に注意。

調整後のオッズ比と95%信頼区間。3つとも1.0をまたいでいない
  • 睡眠呼吸障害(全体):オッズ比 1.38(95%CI 1.18–1.62)=SENのオッズが約40%高い
  • 最も症状が重い群:オッズ比 1.60(95%CI 1.23–2.08)=約60%高い
  • 行動性の睡眠問題:報告された約1年の間隔ごとにオッズ比 1.07(95%CI 1.01–1.15)=7%ずつ積み上がる

睡眠呼吸障害と行動性の睡眠問題は、別々のモデルで、それぞれSENと有意に関連していました(両者を同時に投入した解析は行われていません)。

なお原著は、IQを追加で調整したモデルも併記しています。そこでは睡眠呼吸障害が1.30(1.05–1.61)、最も重い群が1.45(1.05–2.00)と関連が弱まり、行動性の睡眠問題は1.08(1.00–1.17)で有意水準に届きませんでした(原著は「ほぼ有意に達した」と表現しています)。

歯科として見逃せない2つの数字

この論文には、歯科医療者だからこそ目に留まる数字が2つあります。

ひとつめ: 症状の評価項目に「口呼吸(mouth-breathing)」が正面から入っていること。いびき・無呼吸と並ぶ3本柱のひとつです。私たちが日常的に見ている所見が、そのまま研究の指標になっている。

ふたつめ: 最も症状が重い群では、アデノイド摘出の既往が31.7%にのぼりました(無症状群3.1%、6か月ピーク群4.6%、18か月ピーク群6.3%、42か月出現群9.8%)。それだけ実際に手が加えられるほどの症状だったということです。

症状の重い群には、ほかにも背景の違いがありました。母の妊娠中の喫煙が30.0%(無症状群17.5%)、早産(37週未満)が7.0%(同4.3%)、低出生体重が5.2%(同3.3%)。17の交絡因子候補のうち16で、クラスター間に有意差があったと原著は書いています。

明日の臨床へ

  • 「いびきをかきますか」を問診に足す。それだけで、小児歯科の問診が一段深くなります。口呼吸に気づいたら、いびきと無呼吸まで聞く
  • 症状が「続いているか」を聞く。この研究で最もリスクが高かったのは、18か月から症状が続いていた群でした。一時期のいびきと、続いているいびきは違う
  • 紹介の判断材料になります。耳鼻咽喉科・小児科へつなぐとき、「口呼吸があります」だけでなく「いびき・無呼吸を伴い、◯歳から続いています」と伝えられる
  • ただし脅かす材料にはしないこと。これは関連であって因果ではありません(⑥へ)。保護者に「学習に影響します」と断定するのは行き過ぎです

ここだけ、冷静に補助線

読むときに置いておきたいこと観察研究です。16の交絡因子を調整していますが、調整しきれない要因(残余交絡)は残ります。IQを加えて調整すると関連は弱まり、行動性の睡眠問題は有意水準に届かなくなります(ただしIQ自体が睡眠の影響を受ける中間因子でありうるため、どちらのモデルを主とするかは解釈が分かれます)。「睡眠の問題を治せばSENが減る」ことを示した研究ではありません。②症状はすべて保護者の報告です。睡眠ポリグラフ検査も、診察による診断も行われていません。「いびき」「口呼吸」「無呼吸」の判断は家庭での観察に基づいています。③アウトカムのSENも保護者の申告です。何をもってSENとするかは国と時代で違い、原著自身が「この時期のイングランドでは約17%の子どもがSENをもつとされる」と背景を書いています。④オッズ比は、アウトカムが多い集団では「何倍なりやすいか」より大きめの数字になります。SENが1割を超える集団での1.40は、リスク比に直せばもう少し小さい値になるはずです。⑤1990年代前半に英国の一地域で生まれた子どもたちのコホートで、白人が98%前後を占めます。⑥この研究は歯科の研究ではありません。口呼吸が症状の1つとして含まれているだけで、歯列・顎顔面の発育は評価されていません。

とはいえ、11,000人を5年間追い、症状の「軌跡」で分類したうえで8歳まで見届けた設計は強い。「いびきをかきますか」の一言を問診に足す根拠として、十分な重みがあると思います。

今日のひとこと

いびき・口呼吸・無呼吸を、歯科は「気づける立場」にいる。この研究は、生後6・18・30・42・57か月に保護者が報告した3症状から、症状の出方を5つの軌跡(クラスター)に分けた——無症状(37%)、6か月にピーク(19%)、18か月にピーク(17%)、最も重い群=18か月から高いまま続き30か月にピーク(9%)、42か月から軽度に出現(18%)。16の交絡因子を調整したうえで、8歳時点のSENとの関連を見ると、睡眠呼吸障害の既往でオッズ比 1.38(95%CI 1.18–1.62)=オッズが約40%高い最も重い群では1.60(1.23–2.08)=約60%高い。行動性の睡眠問題も、報告された約1年ごとにオッズ比 1.07(1.01–1.15)で積み上がっていた。歯科にとって見逃せないのは、症状の評価項目に「口呼吸」が入っていることと、最も重い群ではアデノイド摘出歴が31.7%(他の群は3.1〜9.8%)だったことである。ただしこれは観察研究であり、症状はすべて保護者の報告。睡眠検査は行われておらず、SENの判定も保護者の申告である。またIQを加えて調整すると関連は弱まり(1.30・1.45)、行動性の睡眠問題は有意水準に届かなくなる。

出典:Bonuck K, Rao T, Xu L. Pediatric sleep disorders and special educational need at 8 years: a population-based cohort study. Pediatrics 2012;130(4):634-642. PMID: 22945405
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。