1問1答 論文 虫歯

高齢者の根面う蝕を67%減らしたのは、特別な処置ではなく毎日の歯磨剤だった

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|フッ化物配合歯磨剤・根面う蝕・高齢者

根面が露出し、う蝕リスクが上がっている高齢の患者さん。何かしなければと思うとき、私たちはつい特別な処置を探しにいきます。1988年の JADA が使ったのは、ごく普通の1,100 ppmフッ化ナトリウム配合歯磨剤を1日2回、それだけでした。54歳以上の健常成人810名を二重盲検で1年追った結果、歯冠部う蝕の増加は1.24面から0.73面へ(41%減・P=.006)、根面う蝕の増加は0.43面から0.14面へ(67%減・P=.014)。効果は歯冠部より根面のほうが大きく出ました。

論文
The effect of a fluoridated dentifrice on root and coronal caries in an older adult population
著者
Jensen ME, Kohout F(アイオワ大学歯学部)
掲載
Journal of the American Dental Association 1988;117(7):829-832
種類
二重盲検ランダム化臨床試験(1年)
対象
54歳以上の健常成人810名(対照406名/試験群404名)。平均年齢は対照68.50歳・試験群68.63歳

高齢の患者さんに、特別なことをしようとしていませんか

根面が露出し、う蝕のリスクが上がっている高齢の患者さん。何かしなければ、と思ったとき、私たちはつい特別な処置を探しにいきます。高濃度の何か、専門的な何か。

1988年の JADA は、そこにまっすぐな答えを出しました。使ったのはごく普通の、1,100 ppmのフッ化ナトリウム配合歯磨剤。それを1日2回使ってもらうだけです。

先に結論: 54歳以上の健常成人810名を二重盲検で1年間追ったところ、歯冠部う蝕の増加は1.24面から0.73面へ(41%減・P=.006)、根面う蝕の増加は0.43面から0.14面へ(67%減・P=.014)効果は歯冠部より根面のほうが大きく出ました。著者らは、これを高齢成人の根面う蝕に対するフッ化ナトリウム歯磨剤の有効性を示した初の二重盲検研究と位置づけています。

なぜ、この研究が必要だったのか

フッ化物配合歯磨剤の効果は、若い世代では数多くの臨床試験で確立していました。ところが、高齢者ではそうではありませんでした。

  • 高齢者は未処置の歯面が少ない(すでに詰めてある・失っている)ため、効果が薄まるのではないかと考えられていた
  • 根面う蝕に対する歯磨剤の効果は、それまで二重盲検で確かめられていなかった
  • 集中的な口腔衛生指導や水道水フロリデーションが根面う蝕を減らすという報告はあったが、歯磨剤そのものの寄与は推測にとどまっていた

今回の一手:810名を、二重盲検で1年

  • 対象は54歳以上の健常成人810名(対照406名/試験群404名)。平均年齢は対照68.50歳・試験群68.63歳、年齢範囲は対照54〜93歳・試験群58〜90歳
  • 試験歯磨剤=1,100 ppm F(フッ化ナトリウム)対照歯磨剤=フッ化物1 ppm未満フッ化物含量以外は同一
  • 被験者も研究スタッフも、どちらの群かを知らない(二重盲検)
  • 1日2回使用し、試験期間中は普段の歯磨剤を使わないよう指示
  • 層別ランダム割付。1年後に再診査(X線を含む)
  • 適格基準は非フロリデーション地域の在住者(飲料水0.30 ppm F以下)・現存歯10歯以上。重度歯周病の人とフッ化物療法中の人は除外

ここは押さえておきたい点です。比べているのは「フッ化物入り歯磨剤」と「フッ化物なしの歯磨剤」であって、「磨く」対「磨かない」ではありません。両群とも同じように磨いています。差はフッ化物の有無だけです。

結果:歯冠部で41%、根面で67%

0 0.7 1.3 2 1年間のう蝕増加量(面) 1.24 0.73 0.43 0.14 歯冠部 対照 歯冠部 1,100ppm F 根面 対照 根面 1,100ppm F 灰=対照歯磨剤(フッ化物1 ppm未満)、ティール=1,100 ppm F配合。歯冠部 P=.006/根面 P=.014(片側検定)
1年間のう蝕増加量。歯冠部はDMFS、根面はDFSで測定

数字はこうです。

  • 歯冠部:対照1.24面(SD 3.02)→ フッ化物群0.73面(SD 2.82)。P=.006
  • 根面:対照0.43面(SD 1.87)→ フッ化物群0.14面(SD 1.91)。P=.014

なお試料全体の平均は、歯冠部0.98 DMFS、根面0.28 DFS。著者らは、これが同じアイオワ州で行われた別の同様の集団の値とよく似ていると述べています。

効果は、根面のほうが大きかった

0 33.3% 66.7% 100% う蝕抑制率(%) 41% 67% 歯冠部う蝕 根面う蝕 54歳以上の健常成人810名・1年間・二重盲検。抑制率でみると根面のほうが大きい(絶対量では歯冠部0.51面>根面0.29面)
抑制率で見ると、根面のほうが大きい。ただし根面は絶対数が小さい(0.43→0.14面)ことに注意

差の割合で見ると、フッ化物配合歯磨剤の効果は歯冠部(41%)より根面(67%)で大きい——著者らはこう書いています。

ここで冷静に見ておきたいのは、根面のほうが元の数が小さいことです。0.43面が0.14面になった、という話であり、1人あたりで見れば1年で0.29面の差です。パーセントは大きく見えますが、実数は小さい。両方の見方を持っておくのが正確です

そして著者らが強調したのは、こちらの含意でした。「歯冠部でも根面でも有意に減ったのだから、天然歯を有するすべての成人患者に、フッ化物配合歯磨剤で頻繁に磨くよう勧めるべきである」

明日の臨床へ

  • 高齢の患者さんにこそ、普通のフッ化物配合歯磨剤が効きます。著者らは、未処置の歯面が少ない高齢集団でも効果は一貫していたと述べています(この仮説を正面から検定したわけではありません)
  • 根面う蝕にも歯磨剤は届きます。特別な処置を足す前に、まず毎日の歯磨剤がフッ化物入りかを確認する価値があります
  • 比べられているのはフッ化物の有無だけです。ブラッシングそのものの効果ではなく、「同じように磨いたうえで、フッ化物が入っているかどうか」の差だと理解しておくと、患者さんへの説明がぶれません
  • ただし1年間の試験で、しかも当時の1,100 ppm製剤です。現在の高濃度製剤(1,450 ppm等)や、フッ化物洗口との併用効果を直接示すものではありません(⑦へ)

ここだけ、冷静に補助線

読むときに置いておきたいこと統計に片側検定(one-tailed normal deviate test)が使われています。「フッ化物群のほうが良い」という方向をあらかじめ想定した検定で、両側検定より有意になりやすい手法です。P=.006・P=.014という値は、この前提のうえで読む必要があります。②追跡は1年です。う蝕という遅い病気を見るには短く、根面う蝕の増加量も0.43面対0.14面と小さな数字です。③103名が脱落しています(1年後の再診査に来られなかった、あるいはX線が揃わなかった)。著者らは脱落が実質的にランダムで群間のバランスに影響しなかったとしていますが、脱落者の口腔内は分かりません。④対照歯磨剤はフッ化物1 ppm未満で、いまの日本で「フッ化物なしの歯磨剤を使い続ける」という状況は稀です。つまりこの差は現在の標準治療との差ではなく、フッ化物ゼロとの差です。⑤54歳以上の健常成人が対象で、要介護の高齢者や口腔乾燥の強い方は含まれていません。⑥根面う蝕の抑制率67%は相対的な指標であり、絶対差は1年で0.29面です(絶対量では歯冠部の0.51面のほうが大きい)。⑦本試験はProcter & Gambleの助成を受けています。⑧適格基準として重度歯周病の人が除外されており、根面露出の強い層は含まれていません。

とはいえ、810名を二重盲検で1年追い、歯冠部と根面の両方で有意差を出したこの研究は、当時としては非常に手堅い一本です。「特別なことをする前に、まず毎日のフッ化物を確かめる」という順序は、いまも変わらず有効でしょう。

今日のひとこと

高齢者の根面う蝕に効いたのは、特別な処置ではなく毎日の歯磨剤だった。54歳以上の健常成人810名を、1,100 ppm F(フッ化ナトリウム)配合歯磨剤フッ化物1 ppm未満の対照歯磨剤(フッ化物含量以外は同一)に層別ランダム割付し、1日2回・1年間の二重盲検で追跡した。1年間のう蝕増加量は歯冠部で1.24面(SD 3.02)対0.73面(SD 2.82)=41%減・P=.006根面で0.43面(SD 1.87)対0.14面(SD 1.91)=67%減・P=.014。試料全体の平均は歯冠部0.98 DMFS・根面0.28 DFSで、著者らは同じアイオワ州の別集団の値と近いとしている。差の割合で見ると効果は歯冠部より根面で大きく、著者らは本研究を高齢成人の根面う蝕に対するフッ化ナトリウム歯磨剤の臨床的有効性を示した初の二重盲検研究と位置づけ、「天然歯を有するすべての成人患者にフッ化物配合歯磨剤で頻繁に磨くよう勧めるべき」と結論した。なお本試験はProcter & Gambleの助成を受けている。また統計は片側検定(フッ化物群が良い方向を想定した検定で、両側より有意になりやすい)、追跡は1年103名が脱落している。また対照はフッ化物ゼロの歯磨剤であり、現在の標準製剤との差ではない。根面の67%減も絶対差にすれば1年で0.29面である点は併せて読む必要がある。

出典:Jensen ME, Kohout F. The effect of a fluoridated dentifrice on root and coronal caries in an older adult population. Journal of the American Dental Association 1988;117(7):829-832. PMID: 3204243
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。