口腔清掃不良でう窩をもつケニア農村の7〜14歳5人に、1日目は10%ショ糖で洗口、2日目はサトウキビを噛んでもらい、隣接面とう窩のプラークpHを現地で30分まで測った研究(Fejerskov ら 1992・Caries Research)
サトウキビの搾り汁には約12%のショ糖が含まれます。日常的に噛む地域ではう蝕が多いはず——そう考えるのが自然ですが、臨床研究の結果ははっきりしていませんでした。「糖の量」と「口の中で起きること」は同じなのか。デンマークのFejerskovらが、ケニアの子どもでプラークのpHをその場で測りました。
①サトウキビは「砂糖の塊」なのに
糖を含む食べ物がプラークのpHを下げ、う蝕のリスクになる。カリオロジーの基本です。サトウキビの搾り汁には約12%のショ糖が含まれるので、日常的に噛む地域ではう蝕が多いはず、と考えるのが自然でしょう。
ところが、サトウキビを噛む習慣とう蝕の関係を調べた臨床研究は、結果がはっきりしませんでした。サトウキビを常用する成人でう蝕経験が多かった一方、タンザニアの12歳児では差が見られなかった、という報告もあります。
そこでFejerskovらは、サトウキビを噛んだときと、10%ショ糖で洗口したときのプラークpHを、ケニアの子どもで直接比べました。
②同じ子どもで、1日目は洗口、2日目はサトウキビ
2日連続の早朝に実施し、前夜から飲食させなかった。1日目=10%ショ糖溶液10 mLで1分洗口、2日目=サトウキビを3分噛む。
測定部位は、各四分円に1か所のう蝕のない隣接面(集計は上顎10部位・下顎8部位)と、可能な子どもでは咬合面のう窩1か所。直径0.1 mmのパラジウム接触微小電極と電池式のpHメーターで、現地でプラークのpHを測った。
時点は0分(安静時)・2・5・10・15分、安静時に戻っていなければ20・30分も。測定の合間は口を閉じ、話さないようにした。
比較の指標は、0〜15分のpH曲線の下の面積(pH 3.0の線までの面積。大きいほどpHが下がっていない)で、対応のあるt検定を用いた。
③結果その一——上顎の隣接面:ショ糖は30分でも戻らず、サトウキビは10分で安静時を上回った
上顎の隣接面では、ショ糖洗口でpHが6.06→2分後5.04まで下がり、5分5.15・10分5.13と低いまま推移しました。15分で5.43、30分でも5.81で、安静時の値には戻っていません。
サトウキビでは、6.43→2分後6.20と小さく下がっただけで、5分で6.38、10分後には6.63と安静時を上回り、その後は元の水準に戻りました。0〜15分の曲線下面積はショ糖33.44、サトウキビ51.81で、有意差がありました(p<0.001)。
④結果その二——下顎とう窩でも同じ傾向、ただし有意差はなし
下顎の隣接面では、ショ糖洗口で6.43→2分後5.72、サトウキビで6.60→5分後6.23でした。サトウキビのほうが下がり方は小さく、10分で6.84と安静時を上回っていますが、曲線下面積(44.54と53.67)の差は有意ではありませんでした。
ショ糖洗口後のpHの下がり方は、上顎のほうが下顎より大きく(p<0.005)、回復の速さは上下で平行でした。サトウキビでは上下に統計的に有意な差はありませんでした。
う窩では、ショ糖洗口で6.16→5分後4.94まで下がりました。サトウキビでは6.18→2分後5.25と下がったあと、5分で6.12まで上がり、10分5.86・15分5.97と安静時の6.18には届きませんでした。傾向は隣接面と同じでしたが、曲線下面積(32.26と43.00)に有意差はありませんでした。
⑤なぜ噛むと下がりにくいのか——著者らの解釈
著者らは、2つの条件は唾液中のショ糖濃度としては似ているとみなしたうえで、差を唾液の分泌で説明しています。サトウキビは硬く繊維状で、歯で引き裂き、大きな塊のまま噛む。その噛む動作と果汁で、唾液が大量に出るという解釈です。ショ糖入りのガムで、糖の量から予想されるほどプラークpHが下がらないという報告とも一致する、としています。
上顎で下がりやすかった理由は、上下で唾液の薄い膜が流れる速さが違い、プラークでできた代謝産物が洗い流される速さが違うため、と考察しています。
そのうえで著者らは、サトウキビを噛むことのう蝕誘発性は比較的低いと結論し、サトウキビを噛む集団でう蝕が少ないという報告を説明しうる、と述べています。ただし、この研究で測ったのはプラークのpHであって、う蝕の発生ではありません。
⑥明日の臨床へ
②糖の洗口では、上顎の隣接面で30分たってもpHが安静時に戻らなかった。糖を含む飲み物をちびちび口に含む習慣を聞き出す理由になる(この点は筆者の読み。原著は1回の洗口だけで、飲み物や回数は調べていない)。
③上顎の隣接面は、同じショ糖でも下顎よりpHが下がりやすかった。
④「サトウキビなら虫歯になりにくい」とまでは言えない。n=5、1回の摂取、指標はプラークpHで、う蝕は測っていない。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
上顎の隣接面では、10%ショ糖の洗口でプラークpHが6.06から2分後に5.04まで下がり、30分後も5.81と安静時に戻らなかった。サトウキビでは6.43から2分後6.20と小さく下がっただけで、10分後には6.63と安静時を上回った(0〜15分の曲線下面積で有意差 p<0.001)。下顎の隣接面とう窩でも同じ傾向だったが、有意差はなかった。著者らは、硬いサトウキビを噛む動作と果汁による唾液の分泌が理由と考えている。糖を含むものでも、口の中での摂り方でプラークの反応は変わりうる——ただし測ったのは5人のプラークpHで、う蝕そのものではない。


