朝礼小噺

蒸気機関車ができた日、生産性は上がらなかった──AIで焦らないための話

朝礼小噺

蒸気機関車ができた日、生産性は上がらなかった──AIで焦らないための話

新しい道具が来ても、すぐには何も変わりません。今朝の朝礼で話したことを残しておきます。

休憩室で、貨車が空っぽの蒸気機関車の絵を見上げて首をかしげる歯科医院スタッフ

蒸気機関車ができても、しばらく生産性は上がらなかった

おはようございます。今日は朝礼で話したことを残しておきます。

AIの普及について考えるとき、僕はよく産業革命の頃の話や、IT革命でパソコンが広まった頃の話を思い出します。そのとき社会がどう変わったか、何が稼げるようになって、何がなくなったのか。それを知っておくと、今やっていることの方向が合っているかどうかの見当がつくからです。

たとえば蒸気機関車です。あれができた瞬間、みんなの生産性が一気に上がったと思いませんか。今まで人が走って運んでいたものを、重いまま遠くまで運べるようになったのだから、当然そうなるはずだと。

ところが実際は、しばらく大して変わらなかったそうです。理由は単純で、運ぶものがそもそも無かったから。重いものを遠くへ運ぶ前提で仕事を組み立てていないので、送る側にも送るものがない。受け取る側にも、受け取った後にそれを運ぶ手段がない。そもそも線路を引ける場所に会社がない。道具だけが先に来て、社会のほうが追いついていなかったわけです。

窓の外で線路沿いに街が育っていく様子を眺める歯科医師と歯科衛生士

社会のほうが、あとから道具に合わせて変わっていく

面白いのはその先です。蒸気機関車が「ある」ことを前提に、社会のほうが少しずつ作り替えられていきます。線路の近くの街が発展する、といったことが起きる。インフラは、道具のあとからついてくるのです。

だから今、僕らがAIで何かしようと思っても、多くの場合はやることが見つかりません。実際、いざ使おうとしても資料作成くらいしか思い浮かばない、という感覚になりませんか。あれは能力の問題ではなくて、まだ仕事の形がAI向きに組まれていないだけなのだと思います。

やがて、机の上の道具の中に当たり前にAIがいて、話しただけで記録が残っていく。そんな状態に、少しずつ環境のほうが変わっていくはずです。

インフラは、いつも道具のあとからついてくる。
撮った写真を一つの共有フォルダに入れるだけで自動的に仕分けられていく様子

だから、AIを使う前に「渡しやすくする」

そう考えると、今やるべきことははっきりします。自分たちの仕事を、AIに処理させやすい形に変えておくことです。

具体的には、あちこちに散らばっている情報を一か所に集めておく。同じ場所に、同じ形で溜まるようにしておく。それだけで、後から本格的な仕組みが入ってきたときに、生産性の伸び方がまるで変わります。

事例

たとえば写真です。撮って置いておくだけで、あとは決まった時間に自動で持ち出され、その日の予定と突き合わせて、しかるべき場所に自動で仕分けられていく。撮る人は名前を付ける必要も、しまう必要もありません。これは特別なことをしているのではなく、情報が一か所に集まっているから、あとは自動で処理できるというだけの話です。

AIを使いこなそうと気負う前に、まずここを整える。それが遠回りに見えて、いちばん効きます。

新しい道具が来た直後に何も起きないのは、当たり前のことです。焦る必要はありません。ただ、社会が追いつくまで待っているだけの人と、その間に自分の仕事を渡しやすい形に整えておいた人とでは、インフラが揃った瞬間に差が出ます。道具が賢くなるぶん、こちらは勝手に楽になっていく。そういう状態を先に作っておきたいと思っています。
「まだ手で書いてるの?」と言われる日は、たぶんそう遠くありません。今日も一日、よろしくお願いします。