ペリオ|ペリオ論文100選
深いポケットの大臼歯を前にしたとき、「開けたほうが確実だろう」と考えます。では、開ければ本当に取り切れるのか。1989年のこの研究は、その問いに実に率直な方法で答えました——SRPを終えた歯を抜いて、実体顕微鏡で残った歯石の面積を数えたのです。しかも術者を「10年以上の歯周病専門医」と「一般歯科医として6年の経験をもつ歯周病レジデント」に分け、外科と非外科を掛け合わせて比べています。
①「取れたつもり」を、確かめる方法
深いポケットの大臼歯を前にしたとき、多くの人が同じことを考えます。開けたほうが確実だろう、と。視野が得られれば器具は届く、届けば取れる——理屈としてはその通りです。
ただ、私たちが「取れた」と判断しているのは、あくまで探針の感触と手の記憶です。硬く、滑らかで、引っかからない。その先を確かめる手段が、日常臨床にはありません。
この研究が面白いのは、そこを確かめにいった点です。抜歯が決まっている大臼歯にSRPを行い、その歯を抜いて、実体顕微鏡で残った歯石の面積を数えた。しかも術者を経験レベルで分け、外科と非外科を掛け合わせています。
②36名・61本の大臼歯を、抜いて数える
設計はシンプルです。
- 対象は36名の大臼歯61本、370根面(男性33・女性3、30〜72歳、平均57歳)。歯周的または補綴的な理由で抜歯が決まっている歯に限られます
- 組み入れ条件は、最低1部位でポケットが6.0mmを超え、歯石指数が2以上。加えて過去12か月に歯周治療(クリーニングを含む)を受けていないこと
- 5群に無作為割付——非外科(フラップなし)×2、外科(フラップ)×2、そして未処置対照。処置を受けたのは61本のうち50本で、術者は10年以上の経験をもつ認定歯周病専門医(EL-1)と、一般歯科医として6年の経験をもつ歯周病レジデント(EL-2)です
- SRPは時間無制限。「硬く、滑らかで、歯石のない根面」に達したと術者自身が判断するまで行いました。器具はグレーシー・マッコール・カークランドに超音波/音波スケーラーを併用可(ただし最後は必ず手用器具で仕上げる)
- 処置後に抜歯し、ホルマリン固定。群を知らない1名の歯周病専門医が、10倍の実体顕微鏡と10×10のグリッドを使って、根面ごとに歯石が占める面積の割合を採点しました。検者内誤差は4.2%
解析対象は268の実験面と57の対照面(370面のうち45面は、抜歯時の損傷や指標の不明瞭さで除外)。処置時間は1歯あたり11.4〜15.1分でした。
③深いほど差が開き、深いほど残る
まずポケット深さ別に、外部根面を見てみます。
1〜3mmでは、4群のあいだに統計的な差を示せませんでした(P=.3199)。ただし点推定値は94%・73%・75%・67%と開いており、この深さに該当する根面が各群4〜16面と少ないため、「差がない」と証明されたわけではありません。判断は保留するのが妥当なところです。
差が出るのは、その先です。4〜6mm(P=.000043)と6mm超(P=.0245)では、4群のあいだに有意差が現れました。術式別にまとめると、非外科は4〜6mmで18%、6mm超で15%まで落ちる一方、外科は68%と42%を保っています。
ただし、ここで見落としたくないのは差が開くと同時に、どちらの数字も下がっているという事実です。外科でさえ、6mmを超えると4割強にとどまります。器具の選択は「取れる範囲」を広げますが、深さそのものが持つ困難を消してはくれません。
④経験も、確かに効いていた
外部根面と根分岐面を合わせた全体では、次のようになりました。
- 専門医:外科78%(52/67面)/非外科36%(19/53面)——有意差あり(P<.00001)
- レジデント:外科45%(33/74面)/非外科18%(13/73面)——有意差あり(P<.001)
- 同じ術式どうしでも差がつく。外科では専門医78%対レジデント45%(P<.0001)、非外科では36%対18%(P<.025)
- 未処置対照群で歯石が完全に無かった根面は0%。当然ですが、比較の土台としては重要です
つまり「開けること」と「慣れていること」は、どちらも効いている。時間無制限で、術者自身が「もう取り切った」と判断するまでやっての、この差です。
⑤ところが、根分岐部だけは別だった
この論文の核心は、ここから先です。根分岐部の面だけを取り出すと、絵が変わります。
専門医では、外科68%(15/22面)対 非外科44%(8/18面)で、有意差に届きませんでした(P>.2)。全体では圧倒的だった外科の優位が、根分岐部では統計的に示せなくなる。
一方レジデントでは、外科43%(12/28面)対 非外科8%(2/25面)で有意差があり(P<.02)、フラップを開ける恩恵をはっきり受けています。外科どうしで比べた専門医68%対レジデント43%は、有意差なし(P>.1)でした。
著者らはこれを、根分岐面へのアクセスがあまりに制限されていたため、外科的アプローチの利点が限られたのかもしれない、と述べています(あくまで推測として書かれています)。そして最も重い一文がこれです——外科的視野を得てなお、経験ある術者が根分岐面の歯石を完全に除去できたのは68%にとどまった。
もう一つ。非外科どうしで比べると、専門医44%(8/18面)対レジデント8%(2/25面)で有意差がありました(P<.02)。フラップを開けないとき、根分岐部の結果は経験によってはっきり分かれる。ところが視野を与えると、その差は統計的に見えなくなります。
外部根面について、残存歯石が見つかりやすかった場所も具体的に挙げられています。根分岐部の入口、外部およびファーケーションのライン角、CEJのすぐ根尖側、そして根面の陥凹部。器具の刃が面で当たらない場所ばかりです。
⑥明日の臨床へ
- 3mm以内では、術式による差を示せていない。ただし該当する根面が少なく「差がない」と確かめられたわけではないので、判断材料は他の要素に置く
- 4mmを超えたところから、アクセスの価値が出る。18%と68%の差は、フラップを開ける根拠として十分に大きい
- 根分岐部は「取り切る」を目標にしない。専門医が開けて68%という数字は、目標設定そのものを変えるべきだと言っています。再評価とメインテナンスで支える前提で組み立てる
- 器具が入らない場所を知っておく。分岐部入口・ライン角・CEJ直下・根面陥凹。ここは意識して時間を使う場所であり、同時に「残っているかもしれない」と想定しておく場所でもある
- 時間をかければ解決する問題ではない。この研究は時間無制限で行われ、それでもこの数字です。丁寧さの不足ではなく、形態の制約として捉える
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
開けることには意味がある。ただし根分岐部では、開けてなお3割の面に歯石が残っていた。この研究が教えるのは技術の優劣ではなく、どこまでが器具の仕事で、どこからがメインテナンスの仕事かという線引きです。取り切れないことを織り込んで計画を立てるほうが、結果として患者を守れます。
今日のひとこと
外部根面と根分岐面を合わせた集計では、歯石が完全に無くなった根面の割合は、専門医の外科78%に対し非外科36%、レジデントでは外科45%に対し非外科18%(いずれも有意差あり)。同じ術式どうしで比べても、外科では専門医78%対レジデント45%、非外科では36%対18%で、術者の経験も有意に効いていた。ポケット深さ別に外部根面を見ると、1〜3mmでは4群の差を示せず(P=.3199)、4〜6mm(P=.000043)と6mm超(P=.0245)で有意差が出た。ところが根分岐部の面だけを取り出すと、専門医では外科68%対非外科44%で有意差に届かず(P>.2)、外科どうしの専門医68%対レジデント43%も有意差なしだった(P>.1)。未処置対照群で歯石が完全に無かった根面は0%。著者らは「外科的アクセスとより経験のある術者はいずれも根分岐部病変をもつ大臼歯の歯石除去を有意に高めるが、従来の器具による根分岐部の完全な歯石除去には限界がありうる」と結論している。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


