1問1答 論文 エンド

ポストを立てるとき、ラバーダムは要る?——根尖病変のない根管治療歯204本のカルテを後ろ向きに調べた研究では、成功の割合はラバーダムあり93.3%(30本中28本)、なし73.6%(174本中128本)で、有意差があった(P=.035)。ただし無作為に割り付けた比較ではなく、ラバーダムありは30本だけ(Goldfein 2013)

1問1答 論文 エンド

エンド|米国タフツ大学歯学部で、根管治療のあと既製ポストとコアで修復した歯のカルテとX線写真を後ろ向きに調べた研究(Goldfein・Speirs・Finkelman・Amato 2013・Journal of Endodontics)。ポスト確認のX線写真にラバーダムのクランプが写っているかどうかで2群に分け、平均2.7年後の新しい根尖病変の有無を比べた。無作為に割り付けた比較ではない

根管治療はラバーダムをかけて行う。では、そのあとポストを立てるときはどうでしょう。Goldfeinらは2013年、タフツ大学歯学部のカルテを後ろ向きに調べ、ポストを立てるときのラバーダムの有無と、その後の経過の関係を報告しました。対象は、治療時に根尖病変がなく、根管充填の質が良い歯です。平均2.7年後に「成功」と判定されたのは、ラバーダムあり30本中28本(93.3%)、なし174本中128本(73.6%)で、有意差がありました(P=.035)。ただし、ラバーダムを使うかどうかを無作為に決めた試験ではありません。歯の種類や最終補綴などの条件は報告も調整もされておらず、ラバーダムありの群は30本だけです。著者ら自身も、この論文から結論を出しすぎないよう書いています。

論文
Rubber dam use during post placement influences the success of root canal-treated teeth
著者
Joshua Goldfein, Chad Speirs, Matthew Finkelman, Robert Amato(タフツ大学歯学部 歯内療法科・研究管理部門、米国ボストン)
掲載
Journal of Endodontics 2013;39(12):1481-1484
種類
後ろ向きのカルテ調査(観察研究)。2008〜2011年にタフツ大学歯学部の学部・大学院のエンドクリニックで根管治療を受け、そのあと学部学生が既製ポストとコアで修復した患者846人が母集団。治療時に根尖病変がなく(PAIスコア1か2)、根管充填の質が良く、6か月以上あとのX線写真がある185人・204本を調べた。ポスト確認のX線写真にラバーダムのクランプが写っていれば「ラバーダムあり」(26人・30本)、写っていなければ「なし」(159人・174本)。追跡は6か月〜5.75年(平均2.7年)。追跡時に根尖部の透過像、正常の2倍を超える歯根膜腔の拡大、抜歯のいずれかがあれば失敗。同じ患者に複数の歯があることを考えた一般化推定方程式(GEE)で比較
資金・利益相反
資金についての記載は原著にない。著者らは「この研究に関する利益相反はない」と述べている
PMID
24238433

①根管治療はラバーダムで。では、ポストを立てるときは?

根管治療の間はラバーダムをかけていた。ところが、根管充填が終わってポストを立てる回になると、ラバーダムなしで進めている。そんな場面は少なくないと思います。ポスト孔を形成している間、根管の中は口の中に開いたままです。

Goldfeinらは2013年、この「ポストを立てるときのラバーダム」と、その後の経過との関係を、大学病院のカルテから調べました。

結論を先に書きます。
・平均2.7年後に成功と判定されたのは、ラバーダムあり30本中28本(93.3%)、なし174本中128本(73.6%)
・この差は統計的に有意だった(P=.035)。追跡年数で調整しても同じ(P=.035)
・後ろ向きのカルテ調査で、ラバーダムを使うかどうかを無作為に決めた試験ではない
・歯の種類や最終補綴などの条件は、報告も調整もされていない。ラバーダムありの群は30本だけ

②なぜ調べたのか

著者らは序論で、根尖病変や根管治療の失敗の主な原因は口の中の細菌だ、と整理しています。唾液の細菌は、仮封の間も最終修復のあとも、歯冠側からの漏れ(コロナルリーケージ)を通って根管に入ります。

著者らが引いた先行研究では、歯冠側から唾液が漏れると、根管のほぼ全長が72時間ほどで再び汚染された、と報告されています。72時間は調べられた中でいちばん短い期間なので、もっと短い時間でも汚染が起こるかもしれない、と著者らは書いています。

ラバーダムは根管治療の標準です。米国歯内療法学会の声明も、隔離は標準的な治療であり、根管が口の中の細菌で汚染されるリスクを最小にするのはラバーダムだけだ、としています。ところが著者らによると、根管治療のあとの修復では、ポストを含めて、ラバーダムなしで行うのが歯科医師にも学生にも普通になっていました。そして、ポストを立てるときの汚染が経過にどう関わるかは、著者らの知るかぎり調べられていませんでした。

③研究の組み立て:X線写真にクランプが写っているかで2群に分けた

場所は米国ボストンのタフツ大学歯学部です。2008〜2011年に、学部と大学院のエンドクリニックで根管治療を受け、そのあと学部の学生が既製ポストとコアで修復した患者さん846人が母集団です。治療は、経験のあるエンドの教員とレジデントの指導のもとで行われました。

調べる対象にした歯の条件
・治療時に根尖病変がない(PAIスコアが1か2。歯根膜腔の拡大は隣の健康な部分の2倍まで)
・根管充填の質が良い(すべての根管が充填され、空隙がなく、主ポイントの先がX線上の根尖から0〜2mm以内)
・ポストを立ててから6か月以上あとのX線写真がある
対象から外した歯
・治療時に根尖病変があった歯(PAIスコア3〜5)
・根管治療から6か月以内に抜歯された歯
・ポストを立てるときの偶発症(穿孔・器具の破折・根管の移動)で、抜歯になったか予後が下がった歯
・発育異常、根が完成していない歯、歯冠や歯根が破折した歯

ラバーダムの有無は、ポストを確認するX線写真で決めています。クランプが写っていれば「ラバーダムあり」、写っていなければ「なし」です。

追跡のX線写真で、根尖部の透過像、正常の2倍を超える歯根膜腔の拡大、抜歯のいずれかがあれば「失敗」としました。追跡のX線写真を読む人には、その歯がラバーダムありかなしかは知らされていません。術前・術後の病変の判定に加わった3人目の読影者には、X線写真の歯冠側を隠して見せています。

カルテは、事前に計算した必要数がそろうまで調べられました。計算の前提は「ラバーダムあり91%、なし44%」という大きな差で、先行研究(歯冠側の修復の質と根尖の状態を調べた研究)の数字を借りたものです。必要数は、ラバーダムあり20人以上、なし100人以上でした。同じ患者さんに複数の歯があることを考えた解析(一般化推定方程式)で比べています。

④結果:成功の割合は93.3%と73.6%で、有意差があった

条件に合ったのは185人・204本でした。追跡期間は6か月〜5.75年で、平均2.7年(標準偏差1.5年)です。ラバーダムありは26人・30本、なしは159人・174本でした。ラバーダムを使っていた患者さんは、185人中26人(14%)です。

追跡時に成功と判定された歯の割合(平均2.7年・後ろ向きのカルテ調査) 0% 25% 50% 75% 100% ラバーダムあり 28/30本(93.3%) ラバーダムなし 128/174本(73.6%) 2群の差は統計的に有意(P=.035・一般化推定方程式)。追跡年数で調整しても P=.035。成功=追跡時に根尖部の透過像・歯根膜腔の2倍を超える拡大・抜歯のいずれもない歯。成功のリスク比 約1.27、失敗のリスク比 約0.25(本文の割合から計算。原著に記載なし)。無作為に割り付けた比較ではない。歯の種類や最終補綴などは報告も調整もされていない。
追跡時に成功と判定された歯の割合(原著の表1より。リスク比は原著の本数と割合から筆者が計算)
主な数字(原著の表1と本文)
・ラバーダムあり:30本中、成功28本(93.3%)。追跡時に病変ありは2本
・ラバーダムなし:174本中、成功128本(73.6%)。追跡時に病変ありは46本
・2群の差は統計的に有意(P=.035)。追跡年数で調整しても有意(P=.035)
・追跡期間の長さと成功との間には、有意な関連は見られなかった(P=.652)
・成功のリスク比(あり/なし)は約1.27、失敗のリスク比は約0.25(本文の割合から計算。原著はリスク比や信頼区間を示していない)

平均年齢はラバーダムあり53歳、なし59.4歳で、有意差はありませんでした。原著が2群の背景として比べているのは、この年齢だけです。

⑤なぜこうなったのか(著者らの考察)

著者らが挙げた説明(この研究で細菌や漏れを測って確かめたものではありません)
・唾液で汚染されると、口の中の細菌が髄室の中に封じ込められる。その細菌が接着修復材料の分解産物を栄養にして、歯冠側からの漏れと汚染が続く(先行研究にもとづく説明)
・ポスト孔を形成したあとに残る根管充填の封鎖は、手つかずの根管充填より不確かだと報告されている。だからポスト孔の形成からポストの植立までは、ラバーダムを使うべきだ
・歯冠側からの漏れと唾液による汚染は、根管治療の技術的な質が劣ることよりも失敗に関わる、という先行研究がある(別の研究の話)

著者らの結論は、「既製ポストを立てるときにラバーダムを使うと、根管治療歯の成功率が有意に高かった。ラバーダムは非外科の根管治療ではすでに標準とされており、歯が開いた状態で行う修復処置でも標準になるべきだ」です。あわせて、ラバーダムを使っていたのが14%だったことを受けて、歯学教育の中でラバーダムの重要性を強調することが欠かせない、とも書いています。

⑥明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・ポスト孔の形成とポストの植立では、ラバーダムを使うべきである
・この結果は、根管治療歯の修復でも、隔離と無菌的な手技が大切であることを強調している
・より多い症例数で、バイアスやほかの要因をそろえた前向き研究が必要である
・この論文から根拠のない結論を引き出しすぎず、今後の研究の土台として使ってほしい
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・この研究が示したのは「ラバーダムを使っていた歯の方が成績が良かった」という関連です。「ラバーダムを使えば成功率が約20ポイント上がる」とは読めません
・ラバーダムを使った術者や症例が、もともと違っていた可能性があります。たとえば、ていねいな術者ほどラバーダムを使う、かけやすい歯にだけ使う、といったことです。原著はこの点を調べていません
・一方で、ポストを立てる回にラバーダムを続けることは、新しい材料も大きな費用も要りません。根管治療でかけたラバーダムを、築造が終わるまで外さない。あるいは根管充填と同じ回に築造まで進める。この研究は、そうした段取りを考えるきっかけになります
・調べたのは既製ポストとコアです。鋳造のメタルポストコアのように、印象や仮封の期間をはさむ方法は対象に入っていません
ここだけ、冷静に補助線ポストを立てるときのラバーダムを、患者さんの経過と結びつけて調べた研究は少なく、その入口を作った点に価値があります。追跡のX線写真を、ラバーダムの有無を知らせずに読んでいる点も手堅いところです。そのうえで、読むときに押さえたい点があります。
(1)後ろ向きのカルテ調査で、ラバーダムを使うかどうかは無作為に決められていません。論文の題名は「影響する」と書いていますが、この組み立てで示せるのは関連までです。
(2)解析で調整されたのは追跡年数だけです。歯の種類、残っている歯質の量、最終補綴の種類や質、ポストを立てるまでの期間、術者の違いは、報告も調整もされていません。
(3)ラバーダムありは30本、その失敗は2本だけです。数本の違いで割合が大きく動きます。原著は、差の大きさについての信頼区間を示していません。
(4)ラバーダムの有無は、ポスト確認のX線写真にクランプが写っているかどうかで決めています。クランプを外して撮影した場合や、クランプを使わない隔離は「なし」に入ります。
(5)「失敗」には、追跡時に抜歯されていた歯が含まれます。抜歯の理由や本数の内訳は書かれていません。
(6)母集団は846人ですが、カルテは必要数がそろうまで調べた、とされています。どの順に何人分を調べ、何人が条件に合わなかったかは書かれていません。なお、1人の患者さんは両方の群に入っていた、とあります。
(7)根管形成と根管充填の方法は期間の途中で変わっており、どちらの方法だったかは区別されていません。著者らもこれを弱点として挙げています。
(8)1つの歯学部で、学生が治療した記録です。対象は、治療時に根尖病変がなく、根管充填の質が良い歯に限られています。
それでも、「根管治療で守った無菌的な環境を、築造の回にも続ける」という問いを数字で示した研究は貴重です。著者らの言うとおり、前向きの研究での確かめが待たれます。

今日のひとこと

この研究が示したのは、治療時に根尖病変がなかった根管治療歯204本のカルテを後ろ向きに調べると、ポストを立てるときにラバーダムを使っていた歯の方が、平均2.7年後に成功と判定された割合が有意に高かった(93.3%と73.6%、P=.035)ということです。ただし、ラバーダムを使うかどうかは無作為に決められておらず、歯の種類や最終補綴などの条件は報告も調整もされていません。ラバーダムありは30本、その失敗は2本だけです。「ラバーダムが成功率を上げた」とまでは、この研究からは言えません。筆者の読みでは、根管治療でかけたラバーダムを、ポストを立てる回にも続けるかどうかを考える材料になる1本です。

Goldfein J, Speirs C, Finkelman M, Amato R. Rubber dam use during post placement influences the success of root canal-treated teeth. J Endod. 2013;39(12):1481-1484. PMID: 24238433
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。