2011〜2020年の55研究が出した、62%と23.6%
「重度歯周炎は世界の約11%」。長く使われてきたこの数字が、2011〜2020年のデータでは23.6%になりました。倍近い。ただし著者らの分析を読むと、動いたのは病気ではなく物差しのほうだった可能性が見えてきます。
①「10人に1人」は、まだ正しいのか
スタッフ教育でも患者説明でも、「重度の歯周病はおよそ10人に1人」という数字をよく使います。世界疾病負荷研究が出した約11%——長く共有されてきた相場観です。
ところが2023年、2011〜2020年の研究を集め直したメタ分析が出した数字は23.6%でした。倍近い。10年で歯周病が倍に増えたのでしょうか。
②それまで:有病率は「同じ物差しで測られている」と思われていた
疫学の数字を引用するとき、僕たちはたいてい定義まで確認しません。「重度歯周炎○%」という数字を、そのまま持ち帰る。
でも歯周炎の症例定義は一つではありません。CDC/AAPの2007年版と2012年版、Armitage 1999、CPIのコード、「ポケット4mm超」「付着レベル1mm以上」——診断名を付ける基準がこれだけ並んでいて、どれを使うかで拾える人が変わります。
③今回の一手:定義の「確度」で研究を二つに分けた
著者らは3つのデータベースから55の疫学研究を集め、症例定義によって二群に分けました。確度の高い定義(CDC/AAP 2012、CDC/AAP 2007、Armitage 1999)と、そうでない定義(CPIコード3か4、ポケット4mm超、付着レベル1mm以上)です。
そのうえで、それぞれの有病率をランダム効果モデルで統合し、交絡の影響をサブグループ解析とメタ回帰で調べています。
④結果:定義を変えるだけで、1.6倍動いた
確度の高い定義では61.6%、そうでない定義では38.5%。同じ10年間の同じ現象を見ているのに、物差しを替えるだけで20ポイント以上も動きました。
しかも、確度の高い定義の中でも一枚岩ではありません。
CDC/AAP 2012では68.1%、CDC/AAP 2007では48.8%。その差は20ポイント近く。そして年齢の影響も大きく、65歳以上に絞ると79.3%に達しました。
⑤なぜ数字が上がるのか——見つける力が上がっている
結論として著者らは、この10年の歯周炎を約62%、重度は23.6%と推計しました。そして「1990〜2010年の推計と比べて異常に高い」と自ら書いています。
上がった理由は、いくつも考えられます。診る部位が1点法から6点法へ増えた。エックス線の読みが定義に組み込まれた。対象集団が高齢化した。どれも「見つかりやすくなる」方向に効きます。
⑥明日の臨床へ:数字を引用するときは、定義もセットで
実務では二つ、効いてきます。
ひとつは引用の作法。「重度歯周炎は○%」と言うときは、どの定義でどの年代を測ったものかを添える。数字だけが独り歩きすると、10年前の11%と今の23.6%が同じ土俵で比べられてしまいます。
もうひとつは臨床実感との答え合わせです。「10人に1人のはずなのに、待合室にはもっといる気がする」——その感覚のほうが、たぶん実態に近かった。特に高齢の患者が多い医院では、8割近くが何らかの歯周炎という前提でリコール設計を考えたほうが現実的でしょう。
今日のひとこと
歯周炎は約62%、重度は23.6%。ただし症例定義を変えるだけで有病率は61.6%と38.5%に割れる。増えたのは病気ではなく、見つける力かもしれない。


