1問1答 論文 エンド

洗浄針、根管のどこまで入れる?——真っすぐな根管1本の模型でのコンピューター上の流体計算(CFD)で、30Gの針2種類を作業長の1〜5mm手前に置いて比べた研究。洗浄液の入れ替わりが作業長まで届いたのは、側方開口の針は1mm手前だけ、先端開口の平らな針は1mmと2mm手前。根尖孔の平均圧力は近づけるほど高く、同じ位置なら側方開口の針より平らな針で高かった(押し出しそのものは測っていない・Boutsioukis 2010)

1問1答 論文 エンド

エンド|真っすぐな根管1本の模型(長さ19mm・45号・6%テーパー・根尖孔は閉じた壁)で、30Gの側方開口の針と先端開口の平らな針を作業長の1・2・3・4・5mm手前に置き、毎秒0.26mLで1%次亜塩素酸ナトリウムを流したときの流れを計算したコンピューター上の流体計算(CFD)の研究(Boutsioukis・Lambrianidis・Verhaagen・Versluis・Kastrinakis・Wesselink・van der Sluis 2010・Journal of Endodontics)

洗浄針は、作業長の何mm手前まで入れればよいのか。Boutsioukis らは2010年、真っすぐな根管1本の模型をコンピューター上に作り、30Gの針2種類を作業長の1〜5mm手前に置いて、根管の中の流れを計算しました(CFD)。洗浄液の入れ替わりが作業長まで届いたのは、側方開口の針は1mm手前だけ、先端開口の平らな針は1mmと2mm手前でした。根尖孔の平均圧力は、どちらの針も作業長に近づけるほど高く、同じ位置なら側方開口の針より平らな針のほうが高くなりました。歯や患者を使わない計算の結果で、押し出しそのものや臨床の成績は調べていません。

論文
The Effect of Needle-insertion Depth on the Irrigant Flow in the Root Canal: Evaluation Using an Unsteady Computational Fluid Dynamics Model
著者
C. Boutsioukis、T. Lambrianidis、B. Verhaagen、M. Versluis、E. Kastrinakis、P.R. Wesselink、L.W.M. van der Sluis(ギリシャ・テッサロニキのアリストテレス大学、オランダ・アムステルダム歯科大学センター(ACTA)、トゥウェンテ大学)
掲載
Journal of Endodontics 2010;36(10):1664-1668
種類
コンピューター上の流体計算(CFD)。歯・患者・細菌は使っていない。真っすぐな根管1本の模型(長さ19mm・根尖45号・6%テーパー、壁は硬く液を通さない、根尖孔は閉じた壁)に、30Gの側方開口の針と先端開口の平らな針を中央に置き、作業長の1・2・3・4・5mm手前の計10通りで、1%次亜塩素酸ナトリウムを毎秒0.26mL流した50ミリ秒分の流れを計算。流れの形・根尖方向の流速(毎秒0.1m超を入れ替わりの目安)・壁のせん断応力・根尖孔の圧力を比べた。統計の検定はしていない
資金・利益相反
アリストテレス大学研究委員会の奨学金とオランダ技術財団(STW)の研究課題の助成を一部受けた。利益相反の記載は見当たらない(針の製品名の記載なし)
PMID
20850673

①洗浄針、根管のどこまで入れていますか?

シリンジで根管を洗うとき、針先は作業長の何mm手前に置いていますか。深く入れるほど根尖まで洗えそうですが、根尖孔の外へ押し出してしまわないかも気になります。しかも、針の先の形(横に穴があるか、先端が開いているか)で答えは変わるのでしょうか。

この問いを、歯や患者ではなくコンピューター上の流体計算で調べたのが、Boutsioukis・van der Sluis らが2010年に Journal of Endodontics に出した研究です。

結論を先に書きます。
・コンピューター上の流体計算(CFD)の研究。真っすぐな根管1本の模型(長さ19mm・根尖45号・6%テーパー・根尖孔は閉じた壁)に、30Gの針2種類(先端が閉じて横に穴がある「側方開口の針」と、先端が開いた平らな「先端開口の針」)を、作業長の1・2・3・4・5mm手前に置いて、毎秒0.26mLで1%次亜塩素酸ナトリウムを流した
・洗浄液の入れ替わりが作業長まで届いたのは、側方開口の針は1mm手前だけ、先端開口の平らな針は1mmと2mm手前
・根尖孔の平均圧力は、どちらの針も作業長に近づけるほど高くなり、作業長からの距離が同じなら、側方開口の針より先端開口の平らな針のほうが高かった。平らな針は2mm→1mm手前で14.6 kPa(原著の表現で平均圧力の40%)跳ね上がった
・著者らは、側方開口の針はできれば作業長から1mm以内に、平らな針は1mmには置かず、2〜3mm手前が妥当な折り合いだろう、と考察した
・ただし、どの圧力で根尖孔の外へ押し出されるかは分かっておらず、圧力は位置どうしの比べ合いでしか使えない、と著者ら自身が書いている

②なぜこの研究が必要だったか

根管洗浄は、器具が触れなかった場所の細菌・削りかす・壊死組織を取り除くための大事な工程で、シリンジと針で液を送るのが一般的です。針先を作業長に近づけるほど削りかすの除去や液の入れ替わりが良くなる、という考えは、それまでの実験室や抜去歯の研究から出ていました(引用文献)。

ただ、それらは「どれだけ取れたか」を測ったもので、根管の中で液がどう流れているかは、ほとんど分かっていませんでした。著者らは以前、根管の中の流れを計算する模型(CFD)を作り、高速度カメラの実験と比べて確かめていました(引用文献)。その研究では針を3mm手前に置いていたため、今回は針の深さを変えたときの流れを詳しく調べました。

③何をどう比べたか

・研究の種類:コンピューター上の流体計算(CFD)。歯・患者・細菌は使っていない
・根管の模型:真っすぐな根管1本。長さ19mm、根尖の径0.45mm(45号)、6%テーパー。根尖孔は「硬くて液を通さない壁」として閉じた状態にした(閉じた系)。壁は硬く滑らかで液を通さないと仮定
・針:市販の30Gの針を参考に、側方開口の針と、先端開口の平らな針をモデル化(外径320μm・内径196μm・長さ31mm)。針は根管の中央に置いた
・針の位置:作業長の1・2・3・4・5mm手前の5通り×針2種類=10通り
・液と流し方:1%次亜塩素酸ナトリウム(密度・粘り気の値を設定)。針の入口から毎秒8.6mの速さ(毎秒0.26mL)で流した。根管は液で満たされ、気泡は無いとした
・評価:50ミリ秒分の流れを計算し、流れの形、根尖方向の流速、根管壁にかかる力(壁のせん断応力)、根尖孔の圧力を比べた。根尖方向の流速が毎秒0.1mを超える範囲を、洗浄液が入れ替わる目安とした(以前の研究にもとづく)

統計の検定はしていません。計算した数値どうしを並べて比べた研究です。

④結果1:作業長まで入れ替わりが届いたのは、側方開口は1mm、平らな針は2mmまで

流れの形は、同じ針なら位置を変えてもあまり変わらず、違いが大きかったのは針の種類でした。側方開口の針では、針先より根尖側に、逆向きに回る渦がいくつも並び、針が作業長から離れるほど渦の数が増えました。先端開口の平らな針では、針先から根尖へまっすぐ速い噴流が伸び、1mm手前では根尖の狭窄部より先まで達していました。

洗浄液の入れ替わり(根尖方向の流速が毎秒0.1mを超える範囲)は、側方開口の針では、位置にかかわらず針先から1〜1.5mm根尖側まで。作業長まで届いたのは1mm手前だけでした。平らな針は針先より先まで広く入れ替わり、作業長まで届いたのは1mmと2mm手前でした(表)。

表:針の位置ごとの、洗浄液の入れ替わりが作業長まで届いたかと、根尖孔の平均圧力(コンピュー ター上の流体計算) 針の位置 側方開口:作業長まで 側方開口:圧力 先端開口:作業長まで 先端開口:圧力 作業長の1mm手前 届いた 約19 kPa 届いた 約37 kPa 2mm手前 届かない 約13 kPa 届いた 約22 kPa 3mm手前 届かない 約10 kPa 届かない 約18 kPa 4mm手前 届かない 約7 kPa 届かない 約16 kPa 5mm手前 届かない 約6 kPa 届かない 約14 kPa 側方開口=先端が閉じ横に穴がある30Gの針、先端開口=先端が開いた平らな30Gの針 「届いた」は、根尖方向の流速が毎秒0.1mを超える範囲が作業長に達したこと (原著が洗浄液の入れ替わりの目安とした値。本文の結果と図2による) 圧力は原著の図3(2)のグラフから筆者が読み取った概算(時間平均の平均値) 原著の本文にある数値は、平らな針の1mm→2mmで14.6 kPa(40%)下がったことだけ どの圧力で根尖孔から押し出されるかは分かっていない、と著者らは書いている コンピューター上の流体計算(CFD):真っすぐな根管1本の模型(長さ19mm 根尖45号・6%テーパー)、根尖孔は閉じた壁、毎秒0.26mL、1%次亜塩素酸ナトリウム
表:針の位置ごとの、作業長まで入れ替わりが届いたかと、根尖孔の平均圧力。圧力は原著の図3(2)から筆者が読み取った概算。オレンジは、いちばん高かった平らな針の1mm手前。

根管壁にかかる力(せん断応力)の最大値は、針が作業長から離れるほど小さくなりましたが、強い力がかかる範囲は広くなりました。最大値は1mm手前で、側方開口の針が660 N/m²、平らな針が480 N/m²でした。

⑤結果2:根尖孔の圧力は、近づけるほど高く、平らな針で高い

根尖孔の平均圧力は、どちらの針も作業長から離れるにつれて少しずつ下がりました。作業長からの距離が同じなら、平らな針のほうが側方開口の針より高くなりました(図。横軸は作業長から何mm手前か)。

0 10 20 30 40 根尖孔の平均圧力(kPa・図から読み取った概算) 19 37 13 22 10 18 7 16 6 14 作業長の1mm手前 2mm手前 3mm手前 4mm手前 5mm手前 側方開口の針 先端開口の平らな針 横軸=針先の位置(作業長から何mm手前か)。値は原著の図3(2)から筆者が読み取った概算(1 kPa単位に丸めた)。濃い棒=側方開口の針、淡い棒=先端開口の平らな針。コンピューター上の流体計算(真っすぐな根管1本の模型・根尖孔は閉じた壁・毎秒0.26mL)
図:根尖孔の平均圧力(原著の図3(2)のグラフから筆者が読み取った概算)。原著の本文にある数値は、平らな針の2mm→1mmの差14.6 kPa(原著の表現で平均圧力の40%)と、「側方開口の1mmと平らな針の3mmが同じくらい」という記述。

平らな針では、2mm手前から1mm手前に近づけたところで圧力が14.6 kPa(原著の表現で平均圧力の40%)跳ね上がりました。また、側方開口の針を1mm手前に置いたときの圧力は、平らな針を3mm手前に置いたときと同じくらいでした。

⑥著者らの考察と、結果の読み方

著者らは、次のように考察しています。

・入れ替わりと圧力は両立しにくい:針を近づけると入れ替わりは良くなるが、根尖孔の圧力も上がり、根尖周囲への押し出しの危険が増すことを示す。臨床では、押し出しを防ぐことを入れ替わりより優先すべきだ(著者ら)
・圧力の「危ない値」は分からない:押し出しが起こる最低の圧力についての確かな根拠は無く、危険は位置どうしの比べ合いでしか見積もれない(著者ら)
・側方開口の針:作業長まで入れ替わったのは1mm手前だけなので、できれば作業長から1mm以内に置くのが妥当と思われる。針が根管に食い込んだときも、先が閉じていることがさらなる安全になる(著者ら)
・平らな針:根尖孔の圧力が高いので、1mm手前には置くべきでない。切り込みや斜めにカットした針も、おそらく同じ(著者ら)。根管が細いと圧力はさらに高くなりそうだ(著者らの推測)。離すほど圧力は下がるが入れ替わりも壁の力も落ちるので、2mmか3mm手前が妥当な折り合いだろう(著者ら)
・まだ分からないこと:最適な深さは、根管の太さ・テーパー・湾曲でも変わりうる。今後の研究で確かめる必要がある(著者ら)

読み方として大事なのは、これはコンピューター上の計算だという点です。根管はまっすぐな1本だけ、壁は硬く液を通さず、根尖孔は閉じた壁で、液が外へ出ることは計算していません。「圧力が高い」は押し出しの危険の目安で、押し出しそのものを測ったわけではありません。また、平らな針を3mm手前に置くと、この計算では入れ替わりは作業長まで届いていません。著者らの「2〜3mmが折り合い」は、押し出しを防ぐことを優先した考え方として読むのが合っています。

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・針の深さは「針の種類とセット」で考える:この計算では、作業長まで入れ替わりが届く深さも、根尖孔の圧力も、針の種類で違った
・先端が開いた針を作業長の近くまで入れるときは要注意:作業長からの距離が同じなら、側方開口の針より平らな針のほうが根尖孔の平均圧力が高く、作業長の1mm手前で特に高くなった
・深く入れるほど根尖まで洗える、だけではない:入れ替わりと圧力は、この計算では一緒に上がった
・針が根管に食い込まないように:著者らは、食い込んだときの押し出しを心配している。この研究は食い込んだ状態を計算していない

なお、この研究は実際の歯での洗浄効果や、押し出し・術後の痛みなどの臨床の成績は調べていません。

ここだけ、冷静に補助線(1)コンピューター上の流体計算です。歯・患者・細菌・削りかすは使っていません。計算の模型そのものは、著者らの以前の研究で高速度カメラの実験と比べて確かめられています。
(2)条件は1通りです。真っすぐな根管1本(長さ19mm・45号・6%テーパー)、壁は硬く液を通さない、根尖孔は閉じた壁、針は中央、毎秒0.26mL、30Gの針2種類。湾曲や細い根管、別の流量は計算していません。
(3)気泡は無いものとして計算しています(著者らの予備計算では、毎秒0.26mLでは根尖部に気泡が閉じ込められる程度はごく限られていたとされますが、データは示されていません)。
(4)針を深くすると、作業長までの距離と、針先と根管壁の近さが同時に変わります。どちらが効いたのかは分けられない、と著者らも書いています。
(5)圧力の値は図から筆者が読み取った概算です。どの圧力で押し出しが起こるかは分かっていません。統計の検定はしていません。
(6)資金:アリストテレス大学の研究委員会の奨学金と、オランダ技術財団(STW)の研究課題の助成を一部受けたと記載があります。利益相反の記載は見当たりませんでした(針の製品名の記載はありません)。

今日のひとこと

このコンピューター上の計算では、針を作業長に近づけるほど洗浄液は根尖まで入れ替わりやすくなる一方、根尖孔の圧力も上がり、同じ位置なら側方開口の針より先端が開いた平らな針で高くなりました。作業長まで入れ替わりが届いたのは、側方開口の針は1mm手前、平らな針は2mm手前まで。真っすぐな根管1本の模型で、押し出しそのものは測っていないことを頭に置いて、「針の深さは針の種類とセットで考える」と読むのが、この論文に合った読み方です。

Boutsioukis C, Lambrianidis T, Verhaagen B, Versluis M, Kastrinakis E, Wesselink PR, van der Sluis LWM. The effect of needle-insertion depth on the irrigant flow in the root canal: evaluation using an unsteady computational fluid dynamics model. J Endod. 2010;36(10):1664-1668. doi: 10.1016/j.joen.2010.06.023. PMID: 20850673
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。