ペリオ|Phase1 初期治療
歯周再生療法で、私たちは長らく「よく見えるように開ける」ことを学んできました。ところがCortelliniとTonettiが提案したM-MISTは、その逆をいきます。歯間乳頭には触れず、頬側だけを小さく開く。見えにくさと引き換えに得られたのは、傷の安定でした。1年後の数字は、その賭けが当たったことを示しています。
①「見えないと、掻爬できないのでは」
骨内欠損の再生療法で、まず頭に浮かぶのは視野の確保です。欠損の底まで見えなければ、不良肉芽も取りきれないし、根面も触れない。だから頬側と舌側の両方から開けて、乳頭を起こす。そう習ってきました。
ところがその「よく見える術式」には、代償があります。剥離した乳頭は倒れ込み、血餅は動き、そして歯肉は退縮する。再生療法で得たアタッチメントを、退縮で相殺してしまうことすらあります。
2009年、CortelliniとTonettiが提案したのがM-MIST(modified minimally invasive surgical technique)です。発想は明快でした。乳頭に触れないなら、倒れ込みようがない。
②M-MISTが「触らない」もの
術式の核心は、切開の範囲です。
剥離: 頬側フラップのみを起こす。歯間乳頭はその場に残す
掻爬: 欠損を満たす肉芽組織を切離・除去。歯間部と口蓋側の組織には触れない
縫合: 内側水平マットレス縫合1本で一次閉鎖
ここで残された歯間の軟組織は、線維が根面のセメント質にまだ付着したままです。著者らはこれを「軟組織の屋根(soft tissue roof)」と呼びました。屋根が架かったままなので、欠損の中に空間が保たれ、血餅が安定する。
再生療法における血餅の安定は、成功の鍵とされてきた要素です。M-MISTは、その一点を術式そのもので担保しようとしました。
③15部位を、顕微鏡下で
登録されたのは20人。うち5部位は舌側にも骨内成分があったため従来のMISTが適用され、M-MISTで治療できたのは15部位でした。この「適用できなかった5例」を正直に報告しているのが、この論文の誠実なところです。
ベースラインの条件は厳しめです。ポケット深さ7.7±1.5mm、アタッチメントレベル9.7±1.8mm、骨内成分6±1.5mm(最大9mm)、エックス線的な欠損角度32.1度。プラークスコアは13.1%、出血スコアは5.8%と、口腔衛生は良好に管理されています。
根面をEDTAで処理したのち、エナメルマトリックスタンパク(EMD)を応用。手術はすべて手術用顕微鏡とマイクロ器具を用いて行われました。
④1年後、退縮せずに4.5mm得た
残存ポケットは3.1±0.6mm。15部位のうち4mmが残ったのは3部位だけで、他はすべて3mm以下になりました。
そして注目すべき指標がもうひとつ。骨内成分に対するアタッチメント獲得率(CAL%)は75.5±10%、範囲は62.5〜100%です。骨内欠損の深さの4分の3を取り戻したということになります。
⑤患者にとって、どうだったか
この論文が丁寧なのは、術者側の数字だけで終わらせなかった点です。
創の閉鎖: 全部位で一次閉鎖が得られ、6週間の治癒期間中ずっと維持された
術後所見: 1週目に浮腫も血腫もゼロ
痛み: 術中の痛みや負担を訴えた患者はゼロ。術後に限定的な痛みを報告したのは15人中1人(3日間)のみ
再生療法の議論はアタッチメント獲得量に集中しがちですが、患者にとっての「受けやすさ」も術式の性能のうちです。1時間弱で終わり、腫れず、痛くない。この点でM-MISTは明確な強みを持ちます。
⑥明日の臨床へ
条件: 限られた視野で確実に掻爬するには、手術用顕微鏡またはルーペとマイクロ器具が前提。道具と技術の投資を伴う術式である。
逆に言えば、症例と道具が揃えば、退縮をほとんど起こさずに4mm台のアタッチメントが狙える。特に前歯部など審美的要求の高い部位で、この「退縮しない」という性質は決定的な価値を持ちます。
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
よく見えるように開けることと、よく治ることは、必ずしも同じ方向を向いていません。
触らないことが、いちばんの処置になる——M-MISTが教えてくれるのは、そういう逆説です。
今日のひとこと
深さ6±1.5mmの骨内欠損に対し、M-MIST+エナメルマトリックスタンパクで1年後のアタッチメント獲得は4.5±1.4mm。ポケットは7.7±1.5mmから3.07±0.6mmへ4.6mm減り、3部位を除くすべてが3mm以下になりました。骨内成分に対する獲得率は75.5%。そして歯肉退縮の増加はわずか0.07±0.3mmで、統計学的に有意ではありません。手術時間は56.5±8.6分。全部位で一次閉鎖が6週間維持され、術中の痛みを訴えた患者はゼロでした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


