エンド|根管治療歯のポストについて、歯根破折の発生率を報告した追跡5年以上の臨床研究14本をまとめた系統的レビューとメタ解析(Figueiredo・Martins-Filho・Faria-e-Silva 2015・Journal of Endodontics)。メタルポストとファイバーポストを、それぞれ別々に統合して並べた。歯根破折の発生率の解析では、研究どうしのばらつきがI²=99.8〜100%
「金属のポストは硬いので歯根が割れやすい。ファイバーポストなら割れにくい」。そう教わった方は多いと思います。Figueiredoらは2015年、この見方を臨床研究で確かめるために、追跡5年以上の研究14本(3,202人・ポスト4,752本)をまとめました。抜歯になる歯根破折の発生率は、1,000ポスト・年あたりメタルポスト5.13(95%信頼区間4.05〜6.21)、ファイバーポスト4.78(95%信頼区間4.28〜5.27)。著者らは「歯根破折の発生率に有意な差は示されなかった」と結論しています。ただし、これは2種類を同じ研究の中で比べた結果ではなく、それぞれを別々に統合して並べた値です。歯根破折の発生率の解析では、研究どうしのばらつきがきわめて大きく(I²=99.8〜100%)、著者ら自身が「含めた研究はバイアスのリスクが高い」と書いています。
①メタルポストは、ファイバーポストより歯根破折が多い?
「金属のポストは象牙質より硬いので、力が歯根に集まって割れやすい。ファイバーポストは象牙質に近いしなり方をするので、割れにくい」。支台築造の説明で、よく聞く話です。では、患者さんの口の中で長く追った研究でも、本当にそうなっているのでしょうか。
Figueiredoらは2015年、この問いに答えるために、追跡5年以上の臨床研究をまとめた系統的レビューとメタ解析を報告しました。立てた仮説は「メタルポストの方が、ファイバーポストより歯根破折の発生率が高い」です。
・採用されたのは14本(ランダム化比較試験7本、コホート研究7本)。3,202人・ポスト4,752本
・抜歯になる歯根破折の発生率は、1,000ポスト・年あたりメタルポスト5.13、ファイバーポスト4.78。95%信頼区間は重なっていた
・抜歯に至らない失敗は、メタルポスト12.69、ファイバーポスト19.39
・ポストの生存率は、メタルポスト90.0%、ファイバーポスト83.9%
・著者らの結論は「歯根破折の発生率に、メタルポストとファイバーポストで有意な差は示されなかった」。仮説は支持されなかった
・ただし、2種類を同じ研究の中で比べた解析ではない。別々に統合した値を並べたもので、研究どうしのばらつきはきわめて大きく、バイアスのリスクも高い
②なぜこのレビューが必要だったか
著者らは序論で、既製のファイバーポストが鋳造ポストより広く使われるようになった理由を整理しています。審美性がよいこと、治療時間が短いこと、そして弾性係数が象牙質に近く、歯根破折が少ないとされてきたことです。
この「歯根破折が少ない」の根拠は、主に実験室の研究でした。抜去歯などを使った複数のin vitro研究が、弾性係数の高いメタルポストは歯根に応力を集め、ファイバーポストより歯根破折を多く起こす、と報告していました。一方で、ある有限要素解析は、ファイバーポストの接着が外れると、メタルポストより歯根の応力がかえって高くなる、と報告しています。同じ解析は、ファイバーポストの歯ではコアやポストの方が先に壊れやすいので、歯根は割れにくい、とも述べていました。ここまでは、著者らが引いた先行研究の話です。
臨床では、修復物が長もちするかどうかに加えて、やり直しのきかない失敗、つまり抜歯になる失敗がどれだけ起きるかが大事です。ところが、それまでのレビューの多くは生存率を調べたものでした。そこで著者らは、歯根破折の発生率にしぼって臨床研究をまとめています。
③レビューの組み立て:追跡5年以上の臨床研究14本を、ポストの種類ごとにまとめた
計画は、系統的レビューの登録データベース(PROSPERO)に事前に登録されています。検索したのはMEDLINEで、期間は2014年1月まで。参考文献の手作業での検索と、学位論文のデータベースの検索も加えています。言語と発表年の制限はありません。
・根管治療歯に、メタルポストかファイバーポストを使った修復
・歯根破折の発生を報告しているランダム化比較試験か、コホート研究
・追跡期間(平均か中央値)が5年以上
・片方のポストだけを調べた研究も含める
・除外:in vitro研究、総説、追跡5年に満たない研究、必要なデータを取り出せない研究
255件のうち全文を読んだのは20本で、9本が除外されました。残った11本に、参考文献から見つけた3本を加えて、14本(1991〜2012年に発表)が採用されています。内訳はランダム化比較試験7本、コホート研究7本です。
・参加者3,202人、ポスト4,752本、延べ41,721ポスト・年
・追跡期間の中央値は8.2年(ランダム化比較試験6.7年、コホート研究10.0年)
・メタルポストを調べた研究が8本、ファイバーポストを調べた研究が8本
・起きた歯根破折は62件、抜歯に至らない失敗は467件
・主要評価項目:抜歯に至る歯根破折(致命的な失敗)
・副次評価項目:抜歯に至らない失敗。根管治療だけの失敗、クラウンの脱離、ポストの脱離、ポストやコアの破折
・発生率は「1,000ポスト・年あたり何件」で計算。ポスト・年は、ポストの本数に追跡の年数を掛けたもの
・メタルポストとファイバーポストを、それぞれ別々に統合した
・生存率は、追跡期間で調整せず、残ったポストの本数を全体の本数で割った値
メタルとファイバーを直接比べた臨床研究は、ほとんど見つかりませんでした。そこで著者らは、片方の群だけのデータも使う形(1群ずつの統合)を選んでいます。この点は、あとの読み方に大きくかかわります。
④結果(1):歯根破折の発生率は5.13と4.78、信頼区間は重なっていた
・歯根破折で抜歯:メタルポスト5.13(95%信頼区間4.05〜6.21)、ファイバーポスト4.78(95%信頼区間4.28〜5.27)
・抜歯に至らない失敗:メタルポスト12.69(95%信頼区間7.90〜17.48)、ファイバーポスト19.39(95%信頼区間13.21〜25.57)
・研究どうしのばらつき(I²)は、歯根破折でメタル99.8%、ファイバー100%。抜歯に至らない失敗では、どちらも100%
・研究ごとの歯根破折の発生率は、メタルで1.22〜15.39、ファイバーで0.12〜21.11と大きく開いている(原著の図2)
・出版バイアスを示す明らかな所見はなかった、と著者らは書いている
歯根破折の発生率は、メタルとファイバーで近い値でした。「メタルの方が高い」という仮説は支持されていません。ただし、原著には2種類のあいだの差を調べた検定の結果やp値は示されていません。示されているのは、別々に統合した2つの値と、それぞれの信頼区間です。
抜歯に至らない失敗は、ファイバーポストの方が高い値でした。著者らは考察で「ファイバーポストで抜歯に至らない失敗の発生率が高かった」と書いています。こちらも信頼区間は一部重なっています。
⑤結果(2):歯根破折の発生率は、分けて見てもばらつきの理由を説明できなかった
著者らは、ばらつきの理由を探すために、研究の種類、ポストの本数、ポストの種類で分けた解析もしています。
・研究の種類:ランダム化比較試験だけでは、メタル5.01、ファイバー2.91。コホート研究だけでは、メタル5.25、ファイバー8.19。向きが逆になっている
・ポストの種類:既製メタル5.52、鋳造メタル3.39。カーボンファイバー5.69、グラスファイバー3.58
・どの分け方でも、I²は99.6〜100%のまま。ばらつきの理由は説明できなかった
原著の抄録と本文は、既製メタルポストとカーボンファイバーポストの歯根破折の発生率を、鋳造メタルポストとグラスファイバーポストの「2-fold」と表現しています。表3の値どうしを割ると、どちらも約1.6です(筆者の計算)。鋳造メタルの信頼区間は−0.61〜7.39と広く、著者らも考察で、有意差は観察されなかった、と書いています。
・全体では、メタルポスト90.0%(95%信頼区間85.5〜93.3)、ファイバーポスト83.9%(95%信頼区間67.6〜92.8)
・全体の生存率のばらつき(I²)は、メタル63%、ファイバー97.3%
・追跡期間で区切った表4では、追跡が長い区切りで低い値になっている。ただし区切りごとに入っている研究が違い、同じ集団を追った変化ではない
・両方の値がそろういちばん長い区切り(追跡8.1〜10年)では、メタルポスト87.0%(95%信頼区間81.6〜91.0)、ファイバーポスト54.6%(95%信頼区間31.0〜76.2)。ファイバー側のこの区切りに入っているのは2研究だけ
⑥なぜ実験室の結果と違ったのか(著者らの考察)
・in vitro研究をまとめた先行のメタ解析では、メタルポストの方が破折強さは高く、一方で致命的な壊れ方が多かった。今回の臨床研究のメタ解析は、致命的な失敗の発生率について、それと食い違う結果になった
・破折強さが高いことは、臨床で長もちすることにつながるのかもしれない。今回、生存率はメタルポストの方が高く、追跡が長い区切りでその傾向が目立った
・ランダム化比較試験だけではメタルの方が、コホート研究だけではファイバーの方が、致命的な失敗の発生率が高かった
・鋳造メタルとグラスファイバーでは、致命的な失敗が少なく、抜歯に至らない失敗が多い傾向があった、と著者らは考察に書いている。ただし有意差は観察されなかった。なお、原著の表3では、抜歯に至らない失敗はグラスファイバー14.17、カーボンファイバー22.56で、グラスファイバーの方が低い。グラスファイバーについては、考察の文と表3の向きが合っていない
・ばらつきが大きいのは、ランダム化比較試験とコホート研究を両方含めたことと、1群ずつ統合する形をとったことで説明できるかもしれない
著者らの結論は、「臨床研究にもとづくこの系統的レビューの結果は、致命的な失敗を減らせるという理由でファイバーポストを選ぶことを支持しない。ただし、ポストを評価する、よく設計された臨床研究がさらに必要である」です。
⑦明日の臨床へ
・歯根破折の発生率に、メタルポストとファイバーポストで有意な差は示されなかった
・致命的な失敗が減ることを理由にファイバーポストを選ぶ、という考え方を、臨床研究は支持していない
・含めた研究はバイアスのリスクが高く、この結果を確かめるには、よく設計された臨床研究が要る
・残っている歯冠の歯質の量、フェルールの有無、歯の位置、咬合の特徴といった危険因子は、ほとんどの研究に書かれておらず、調べられなかった
・「メタルは割れる、ファイバーは割れない」という説明を、臨床研究の数字はそのままは裏づけていませんでした。患者さんへの説明や、ポストの選び方の理由づけを見直すきっかけになります
・一方で、これは「どちらを使っても歯根破折は同じ」と確かめた研究でもありません。同じ条件の歯を2種類に割り付けて比べた結果ではないからです
・このレビューは、残っている歯質の量やフェルールの有無を調べられていません。ポストの種類の前に、その歯の条件をどう見るかは、この論文の外にある問いです
・ファイバーポストでは、抜歯に至らない失敗(ポストの脱離など)の発生率が高い値でした。やり直せる失敗ではありますが、起きる頻度としては軽く見ない方がよさそうです
・含まれた研究は1991〜2012年の発表です。接着システムやポストの製品は、その後も変わっています
(1)メタルとファイバーを直接比べた解析ではありません。片方のポストだけを調べた研究も含め、種類ごとに別々に統合した値を並べています。患者さんや歯の条件が、2つのグループでそろっている保証はありません。
(2)2種類のあいだの差を調べた検定の結果は、原著に示されていません。抄録と結論の「有意な差は示されなかった」は、2つの統合値と信頼区間を見比べた記述として読むのが安全です。
(3)発生率の解析では、研究どうしのばらつきがきわめて大きい(I²=99.8〜100%)ので、5.13や4.78という1つの数字に、研究全体を代表させるのは難しいところです。研究ごとの値は、ファイバーで0.12〜21.11まで開いています。
(4)著者ら自身が、含めた研究はバイアスのリスクが高いと評価しています。ランダム化比較試験7本では、乱数の作り方が5本で不明、2本で高リスク。割り付けの隠し方は6本で不明でした(原著の表2)。コホート研究は、ほとんどが後ろ向きです。
(5)残っている歯質の量、フェルールの有無、歯の位置、咬合は調べられていません。歯根破折に強くかかわりそうな条件が、結果に入っていないということです。
(6)検索したデータベースはMEDLINEが中心です。
(7)生存率は追跡期間で調整していない粗い値で、カプラン・マイヤー法は使えなかった、と著者らは書いています。また考察には、生存率を「2種類で同程度」とする文と、「メタルポストの方が高い」とする文の両方があります。
(8)抜歯に至らない失敗のファイバーポストの信頼区間の上限は、本文が25.57、図3が25.74です(図は筆者が見た読み)。この記事は本文の値を使いました。
著者らは、この研究に関する利益相反はないと記しています。資金の提供元についての記載は、入手した原著PDFの中には見当たりません。
それでも、「ファイバーポストなら歯根破折が減る」と言えるだけの臨床の根拠は、2014年1月までの時点では見つからなかった。この1点を示したことに、このレビューの意味があります。著者らも、よく設計された臨床研究を今後の課題に挙げています。続きの研究とあわせて読みたい1本です。
今日のひとこと
このメタ解析が示したのは、追跡5年以上の臨床研究14本をまとめると、抜歯になる歯根破折の発生率は、メタルポスト(1,000ポスト・年あたり5.13)とファイバーポスト(同4.78)で近い値になり、信頼区間も重なっていたということです。著者らは、歯根破折を減らせるという理由でファイバーポストを選ぶことを、臨床研究の結果は支持しない、と結論しています。一方で、抜歯に至らない失敗はファイバーポストの方が高い値でした(19.39と12.69)。ただし、これは2種類を同じ研究の中で比べた結果ではなく、別々に統合した値を並べたものです。研究どうしのばらつきはきわめて大きく、バイアスのリスクも高いと評価されています。残っている歯質の量やフェルールの有無といった条件は、調べられていません。「どちらのポストでも歯根破折は同じ」と確かめられたわけではなく、「メタルの方が多いとは、臨床研究からは示されていない」と読む1本です。


