1問1答 論文 歯周病

角化歯肉は、何ミリあれば足りるのか

1問1答 論文 歯周病

「歯肉を広げる手術」の適応に、最初に疑問を投げた研究

6週間つきっきりで磨かせて、プラーク指数0.22まで持っていった32人。それでも炎症が消えない歯面がありました。共通点は、角化歯肉が2mm未満だったこと。そして著者は同じ論文で、「歯肉を広げる手術の適応は見直すべきだ」と書きました。

論文
The Relationship Between the Width of Keratinized Gingiva and Gingival Health
著者
Lang NP, Löe H
掲載
J Periodontol 1972;43(10):623-627
種類
横断観察研究(歯学生32人・1406歯面)
PMID
4507712

「ここ、歯肉が薄いですね」——それで、どうする?

下顎前歯の舌側。下顎犬歯や第一小臼歯の頬側。角化歯肉が細く見えて、少し気になる。ブラッシングのたびに動く感じもある。

ここで頭をよぎるのは、「歯肉を足したほうがいいのか」という問いです。遊離歯肉移植、歯肉弁根尖側移動——術式はいくらでもあります。でも、そもそも何ミリ足りていれば足りるのか。この基準がなければ、適応も決められません。

1972年、Lang と Löe はまさにそこを測りにいきました。

まず、プラークという変数を消しにいった

この研究の設計でいちばん効いているのは、「汚れのせいではない」と言い切れる状態を先に作ったことです。

対象は19〜29歳の歯学生32人。病的なポケットはありません。彼らに6週間、管理下の口腔清掃を行わせました。染め出し(Plak-Lite)を使って毎日監督つき、という徹底ぶりです。

6週間の管理下清掃のあと

0 1 2 3 6週間の管理下清掃のあとの指数(0〜3) 0.2 0.1 プラーク指数 PlI 歯肉炎指数 GI 1406歯面のうち1168面が完全にプラークフリー。これ以上ないほど磨けている状態が出発点

6週間後の口腔衛生状態。プラーク指数0.22、歯肉炎指数0.09。1406歯面のうち1168面が完全にプラークフリーだった。

プラーク指数は平均0.22、歯肉炎指数は0.09。1406歯面のうち1168面(83%)が完全にプラークフリー。ここまで来て初めて、「それでも残る炎症」を測る資格が生まれます。

角化歯肉の幅は、シラー・ヨード液で染め分けて測りました。歯肉溝底からの粘膜移行部(MGJ)が、上皮のヨード反応の差でくっきり出る。そこから歯肉縁までを0.5mm単位で計測しています。歯肉溝の深さも測り、角化歯肉幅から歯肉溝深さを引いたものを付着歯肉としました。この集団の歯肉溝は平均1.0mmでした。

2mmを境に、きれいに分かれた

プラークフリーな歯面だけを対象に、角化歯肉の幅ごとに歯肉の状態を見ます。

角化歯肉 2mm未満
角化歯肉 2mm以上

0 33.3% 66.7% 100% プラークフリーな歯面のうちの割合 (%) 0% 0% 80% 76% 角化歯肉 2mm未満 角化歯肉 2mm以上 2mm以上は「80%超」が健康(控えめに80%で作図)。2mm未満は全歯面が炎症と滲出液を示した=ゼロ

プラークフリーな歯面での比較。淡い棒=臨床的に健康だった割合、濃い棒=滲出液がなかった割合。

角化歯肉が2.0mm以上の歯面は、80%超が臨床的に健康で、そのうち76%は歯肉滲出液も出ていませんでした。

いっぽう2.0mm未満の歯面は——全てが炎症を示しました。程度の差はあれ滲出液も出ている。完璧に磨けているにもかかわらず、です。しかも歯肉炎指数と滲出液は、角化歯肉が狭くなるほど連続的に悪化していました。

つまり: 著者らの結論は「角化歯肉2mm(この集団では付着歯肉1mmに相当)あれば、歯肉の健康を保つのに十分」。これが、いわゆる「2mmルール」の原典です。

ちなみに炎症といっても最大でGI=2(中等度)まで。それも2mm以下の歯面だけで起きていました。

なぜ狭いと、磨いても治らないのか

著者らはここで、当時の通説をひとつ否定しています。小帯の付着による機械的な牽引が原因ではない——小帯の有無にかかわらず炎症が続いたからです。

代わりに提示された仮説はこうです。角化歯肉が狭いと歯肉縁が可動性になる。動く辺縁は、歯肉溝への細菌の侵入を助けてしまう。結果、薄い縁下プラークができる——それは臨床的には検出しにくく、通常のブラッシングでは落ちにくい

つまり「プラークフリー」と判定した歯面も、見えないところでは汚れていた可能性がある。角化歯肉の幅そのものが炎症を起こすのではなく、幅が狭いことが清掃の実効性を落としている、という読み方です。

そして著者は、手術に釘を刺した

ここが、この論文でいちばん引用されにくい部分だと思います。

Langらは、いちばん狭い部位——下顎前歯の舌側と下顎犬歯・第一小臼歯の頬側——を測ったうえで、こう書いています。これらの部位も平均でほぼ3mmあり、歯肉の健康を保つには十分だったと。

著者の主張: 健康の維持に必要な歯肉は、一般に信じられているより少ないようだ。したがって、歯肉幅を増やすために行われている数多くの外科術式について、その適応を critical に見直す必要がある

「2mmあれば十分」という数字だけが独り歩きしがちですが、著者らが同じ論文でやりたかったのは手術の適応を絞ることでした。基準を作ったのではなく、基準がないまま増えていた手術に、基準を突きつけたのです。

ただし例外にも触れています。下顎前歯部の舌側にリンガルバーを設計する場合、当時は角化歯肉4mm以上が要求されていた。この部位の平均は3mm未満なので、補綴の要求には応えられないことが多い——予防では問題なくても、補綴では問題になりうる、と。

明日の臨床へ:3つの持ち帰り

ひとつめ。狭いこと自体は、緊急事態ではない。 2mmあって、炎症がなく、退縮が進んでいないなら、この論文の中では「足りている」側です。細く見えるという理由だけで術式の話を始めなくてよい。

ふたつめ。でも2mm未満で炎症が引かないなら、それは「磨けていない」ではないかもしれない。 この研究の被験者は6週間監督つきで磨いていて、それでも治りませんでした。同じ状況の患者さんに「もっと丁寧に」と言い続けるのは、たぶん解にならない。清掃で解決しない炎症があるという可能性を、頭の隅に置いておく価値があります。

みっつめ。数字と一緒に、主張も持ち帰る。 「2mm」は手術を正当化する数字ではなく、手術を絞るために出された数字でした。引用するときは、そこまでセットにしたいところです。

ここだけ、冷静に補助線 32人・19〜29歳の歯学生という、若く健康で口腔衛生が極めて良い集団の横断データです。時間軸がないので、「2mm未満だと将来どうなるか(退縮が進むのか)」には答えていません。また炎症の判定はGIと滲出液で、組織学的な裏づけがあるわけでもない。修復物のマージンや矯正移動、インプラント周囲といった現代的な文脈は当然含まれていません。それでも、「プラークという変数を6週間かけて消してから測る」という設計の潔さと、自分たちの数字で当時の主流術式に疑問を投げた姿勢は、50年たっても古びていないと思います。

今日のひとこと

角化歯肉は2mm(付着歯肉1mm)あれば、歯肉の健康は保てる——これがいわゆる「2mmルール」の出どころです。ただし同じ論文は、その数字を根拠に「広げる手術の適応を critically に見直せ」とも言っています。数字だけ持ち帰って、主張を置いていかないようにしたいところです。

Lang NP, Löe H. The Relationship Between the Width of Keratinized Gingiva and Gingival Health. J Periodontol 1972;43(10):623-627. PMID: 4507712
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。