ペリオ|Phase2 歯周外科
線維芽細胞増殖因子(FGF-2)が骨・セメント質・歯根膜を増やすことは、動物でもヒトでも示されてきました。では、なぜ効くのか。2015年、Nagayasu-Tanakaらはビーグル犬の骨欠損を4つの時点で切り取り、治り方の順番そのものを観察しました。差は、3日目にはもうついていました。
①効くことは分かっていた。順番が分からなかった
歯周組織の再生は、歯周治療の最終目標です。けれど従来の歯周治療や外科では、失われた歯周組織とその機能を元に戻すことはできません。そこでGTRやエナメルマトリックスデリバティブが導入され、一定の成果を上げてきました。
もうひとつの流れが、サイトカイン(成長因子)の応用です。線維芽細胞増殖因子(FGF-2)は、線維芽細胞の増殖・血管新生・骨形成を促すとされ、ビーグル犬やサルの人工的な歯周欠損モデルで、新生骨・セメント質・歯根膜のバランスの取れた再生を誘導することが示されてきました。ヒトでも2壁性・3壁性の垂直性骨欠損に対する臨床試験が行われ、改良ウィドマンフラップ手術における骨充填率で、溶媒のみに対する有意な優越性が示されています。
ただし、「なぜ効くのか」——生体内での作用機序は、十分に解明されていませんでした。再生した組織の量は測られてきたのに、その組織が「どういう順番で」できてくるのかは分かっていなかったのです。
②治り方を、4つの時点で切り取る
ビーグル犬の下顎第一大臼歯の近心に、人工的な3壁性骨欠損(近遠心幅5mm×頬舌幅3mm×深さ4mm)を左右に作成しました。支持骨とセメント質をバーで除去し、露出根面をグレーシーキュレットで滑らかにしています。そこへ0.3%のFGF-2溶液、または溶媒(3%ヒドロキシプロピルセルロース)のみを60μL塗布し、3日・7日・14日・28日の4時点で組織を採取しました。
評価は3方向から行われています。①組織計測(血餅・肉芽組織・結合組織・新生骨の面積、新生骨の高さ、根面の結合組織と上皮の高さ)。②増殖細胞(PCNA陽性細胞)の局在と数、および7日目の血管面積。③リアルタイムPCRによる骨形成関連遺伝子(BMP-2・オステリックス・アルカリホスファターゼ・オステオカルシン)の発現。
PCNA陽性細胞の計測では、骨欠損を「外側・辺縁・中央・上方」の4つのゾーンに区分し、盲検の1名が数えています。組織学的解析に16頭、血管面積に4頭、PCR解析に12頭を使用しました。
③3つの働きが、重なって起きていた
まず細胞の増殖です。3日目、対照群では骨髄細胞の中にわずかな増殖細胞が見えるだけでした。FGF-2群では、既存の骨髄から伸びた線維芽細胞に増殖細胞が見られ、その数は外側ゾーンで2.5倍、辺縁ゾーンで10倍。7日目には、対照群では増殖細胞が辺縁ゾーンに集まっているのに対し、FGF-2群では全ゾーンで高密度に分布していました。
もっとも重要なのは、ピークの位置です。増殖細胞数のピークは、対照群では14日目、FGF-2群では7日目。しかもFGF-2群の7日目の細胞数は、対照群のピーク(14日目)よりも明らかに多い。つまりFGF-2は、増殖のフェーズを前倒しし、かつ強めていたことになります。
次に血管新生。7日目の血管数はFGF-2群で増加していました。根面に形成された結合組織の中にも、明らかな血管新生が観察されています。
そして骨の形成。7日目に血餅の面積が有意に減り(p<0.01)、肉芽組織と結合組織が欠損を横断して形成され、辺縁部にかなりの量の新生骨が出現。14日・28日には、対照群が肉芽・結合組織・骨の混在にとどまるのに対し、FGF-2群では欠損のほぼ全域に新生骨が形成され、面積も高さも有意に大きい(p<0.05)という結果でした。遺伝子発現でも、BMP-2と骨芽細胞分化マーカー(オステリックス・ALP・オステオカルシン)がFGF-2で高まっています。
根面でも同じことが起きていました。7日目、FGF-2群では線維芽細胞の組織塊が根面の全域に広がり、結合組織の高さが有意に増加(p<0.001)。表層では線維芽細胞が根面に沿ってびっしりと縦に積み重なり、欠損底からの上皮の位置も高い水準で維持されました(p<0.01)。14日目には、コラーゲン線維の緊密な結合組織が伸び、その一部が新生セメント質と歯槽骨をつなぐシャーピー線維を形成。28日目、新生セメント質と新生歯根膜が観察されたのは、対照群で4例中1例、FGF-2群で4例中3例でした。骨性癒着(アンキローシス)は、どちらの群でも一例も観察されていません。
④「早く場所をつくる」ことが再生になる
著者らの解釈を、ひとつの流れにするとこうなります。FGF-2が線維芽細胞の増殖を前倒しで強める → 血餅が早く肉芽組織に置き換わる → その組織に血管が入る → 骨芽細胞への分化と骨形成が進む。
ここで見逃せないのが、根面側で起きていたことです。早期に形成された結合組織が、歯肉組織の高さを高い位置で保った。その結果、再生のための空間(regenerative space)が確保され、最終的に新生セメント質と歯根膜の再生につながった——というのが著者らの読みです。
これは、これまでの再生療法の設計思想と地続きです。GTRは膜で空間を確保し、低侵襲術式は乳頭を残して軟組織の落ち込みを防ぐ。FGF-2は、それを「早く組織を作らせる」という別の道筋で実現していると読めます。
⑤明日の臨床へ
1つ目。最初の1週間の意味が変わる。 この研究で差がついたのは3日目から7日目です。血餅が早く肉芽に置き換わることが、すべての起点になっていました。「創が動かない1週間」を守ることの重みが、細胞レベルで裏づけられたと読めます。
2つ目。空間の確保は、膜だけの仕事ではない。 この研究では、早期にできた結合組織が歯肉の高さを保ち、空間をつくっていました。膜・弁の設計・生物学的製剤は、同じ目的を違う手段で達成しようとしているということです。
3つ目。骨性癒着が起きていない。 骨だけが早く増えれば癒着のリスクが心配になりますが、この研究では両群とも観察されませんでした。セメント質と歯根膜が同時に再生していたことと、整合しています。
4つ目。ただし、ここまでは犬の話。 次項のとおり、この結果をヒトの臨床成績としてそのまま語ることはできません。ヒトでの臨床試験は別に行われており、そちらの数字で語るのが筋です。
今日のひとこと
ビーグル犬の下顎第一大臼歯の近心に人工的な3壁性骨欠損(5×3×4mm)を作り、0.3%のFGF-2溶液(またはヒドロキシプロピルセルロースの溶媒のみ)を60μL塗布して、3日・7日・14日・28日の4時点で組織を観察した研究。3日目の時点で、FGF-2群の増殖細胞(PCNA陽性細胞)は欠損の辺縁ゾーンで対照の10倍、外側ゾーンで2.5倍。増殖のピークは、対照群の14日目に対しFGF-2群では7日目へ前倒しされ、FGF-2群の7日目の増殖細胞数は、対照群の14日目(ピーク)よりも明らかに多いという結果でした。7日目には血餅が有意に減り(p<0.01)、肉芽組織と結合組織が欠損を横断して形成され、新生骨の面積も有意に増加(p<0.05)。根面では、7日目の結合組織の高さがFGF-2群で有意に高く(p<0.001)、歯肉上皮の位置も高い水準で維持されました。血管も7日目にFGF-2群で増加しています。28日目には、新生セメント質と新生歯根膜がFGF-2群では4例中3例で観察されたのに対し、対照群では4例中1例のみ。骨性癒着(アンキローシス)は、どちらの群でも観察されませんでした。遺伝子発現では、FGF-2がBMP-2と骨芽細胞分化マーカー(オステリックス・アルカリホスファターゼ・オステオカルシン)の発現を高めていました。著者らの結論は「線維芽細胞の増殖・血管新生・骨芽細胞分化という3つの働きが重なって、再生の初期に新しい組織の形成を早めている」というものです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。動物実験の結果であり、ヒトの臨床成績を直接示すものではありません。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


