ペリオ|Phase4 メインテナンス
道具の優劣は、もう十分に調べられました。それでも結果が出ないのは、患者が続けてくれないからです。2016年、WilderとBrayは Periodontology 2000 で、口腔清掃用具のエビデンスを整理したうえで、後半をまるごと「患者の動機づけとアドヒアランス」に充てました。
①道具の話は、もう十分に調べられた
電動歯ブラシは手用より優れているのか。フロスと歯間ブラシはどちらか。洗口剤は足すべきか。この20年、これらの問いには膨大なシステマティックレビューが積み上がりました。
この総説の前半は、その整理です。ところが読み進めると、著者らの本当の関心は別のところにあると分かります。「歯科医療従事者の推奨に対するアドヒアランスは、驚くほど低い」——後半をまるごと行動科学に充てているのは、そのためです。
②道具のエビデンス、要点だけ
歯ブラシ:形も大きさも様々な製品があるが、「他より一貫して優れたプラーク除去能を示した歯ブラシは1本もない」。効果は依然として患者の技術と動機に依存するのが著者らの整理です。ハンドルは年齢と器用さに合ったサイズ、ヘッドは口の大きさに合わせ、毛の直径は0.23mm以下で軟毛——ここまでが一般的な合意。
電動歯ブラシ:2003年のレビューは回転振動式が手用よりプラークと歯肉炎をわずかに減らすと結論。2005年のレビューは有意差の根拠なしと結論。2010年のレビューは、回転振動式が左右振動式より短期的にプラークと歯肉炎を減らすが、差は小さく臨床的意義は明確でないとした。安全性については、697の文献から35件を選んだレビューで、回転振動式は硬・軟組織への物理的損傷の臨床的懸念にならないと結論されています。電動ブラシの継続率は良好で、購入から数か月後も62%が毎日使っていたという報告も。
フロス:ここが最も歯切れの悪いところです。Berchierらのメタ解析は、フロスのプラークと歯肉炎の臨床指標への上乗せ効果を示さなかった。Sambunjakらは「ブラッシング単独と比べ、フロスを加えると歯肉炎が減るという『ある程度の』根拠がある。プラークについては1か月・3か月時点で弱い根拠」と結論しました。う蝕予防については、ブラッシング+フロスの効果を報告した研究がありません。Berchierらは「フロスは個々の患者ごとに勧め、その患者に技術と動機があるかを判断すべきだ」と述べています。
著者らはこれを「多くの歯科医師・衛生士にとってのパラダイムシフトだろう」と書いたうえで、こう続けます。「プラークバイオフィルムの除去が長期の歯周の健康に必要であることに変わりはなく、その患者にとって最も成功の見込みが高い方法を勧めるのは、われわれの責任である」。
歯間ブラシ:フロスより技術依存性が低く、鼓形空隙が大きい患者を助けられる。Slotらのレビュー(9研究・最長12週)では、歯間ブラシはブラッシング単独より多くのプラークを落とし、出血スコア・歯肉炎・ポケットの改善も見られた。プラーク指数の比較では歯間ブラシがフロスに優った。ただし歯肉の炎症への効果ではフロスと差がなかった——ここは正直に書かれています。
洗口剤:クロルヘキシジンはプラーク33%・歯肉炎26%の減少で、米国歯科医師会の基準(対照より15%以上の改善)を十分に上回る。ただし着色が有意に増えるため短期処方が通例。エッセンシャルオイル系は0.12%クロルヘキシジンの抗歯肉炎・抗プラーク効果の約60%で、着色は促進しない。塩化セチルピリジニウムは小さいが有意な追加効果。天然成分系は根拠不十分です。
③本当の壁は、行動のほうにある
「臨床医と患者のやりとりで提供された健康情報の約30〜60%は1時間以内に忘れられ、健康に関する推奨の50%は守られない」。この一文が、この総説の背骨です。
周辺の数字も並べておきます。手用歯ブラシで磨く時間は平均30〜60秒で、1回のブラッシングで落とせるのはプラーク全体の約60%。フロスの毎日使用の遵守率は報告により2%〜49%。米国歯科医師会の調査では、49%が1日1回以上フロスを使うと答え、10%は一度も使わないと答えた。
リコール間隔についても、興味深い数字が引かれています。Giannobileらは5,117件の保険請求データを解析し、歯周炎の診断歴がない患者を、喫煙・糖尿病・インターロイキン1遺伝子多型のいずれかを持つ「高リスク」と、いずれも持たない「低リスク」に分けました。リスク因子のない被験者では、年1回でも年2回でも16年間の歯の喪失に差がなかった。高リスク患者では年2回のほうが喪失が少なく、さらに多くの受診を必要とする人もいた。著者らは「リスクに基づく個別化医療のアプローチがリコール間隔の決定に有用で、費用対効果も高いだろう」と結論しています。そもそも、慣習的な6か月リコールを支持する根拠はほとんどないとも書かれています。
④動機づけ面接という選択肢
動機づけ面接(motivational interviewing)は、患者中心・目標志向の対話法で、前向きな変化への内発的動機を引き出し強めることを目的とします。「ラポールに基づく『精神』の上に成り立ち、あらかじめ用意した指示を並べるのではなく、患者個人の視点を聞き、受け入れ、応答する意思が求められる」。
著者らは、われわれの職業的な癖を名指しします。「教育を受けた専門職として、歯科医師と衛生士はたいてい権威者・専門家の役割を引き受け、決められた情報と指示のセットを与える。これは『正したい反射(righting reflex)』と呼ばれる。患者に何か問題があり、それを直す専門知識を自分が持っているという前提に立っている。その結果として外から押しつけられた助言は、しばしば従われない」。
手法はOARS(開かれた質問・是認・聞き返し・要約)という4つの中核スキルにまとめられています。「医療面接の質問はイエス・ノーを求め、口腔清掃の方法を尋ねる質問も短い定型的な答えを生む。疾患があれば、従来の指示は完全に一方向のコミュニケーションになる」——だから会話の比重を患者側へ移す、という設計です。
成績はどうか。Jönssonらは、慢性歯周炎の非外科的メインテナンスにおいて、自己モニタリングと目標設定を伴う動機づけ面接(2年間で8〜9回・各10分)を行い、歯肉の炎症の減少77%対46%、プラークの減少81%対57%と、従来の口腔衛生教育を有意に上回りました。Almomaniらは重度の精神疾患を持つ患者で、口腔衛生教育に動機づけ面接を加えるとプラークスコアと知識が改善したと報告。Shamani & Janssonの研究では、毎日の隣接面清掃が56%から72%へ増えました。
一方でStenmanらの研究では、動機づけ面接は辺縁歯肉の出血指数とプラーク指数を3〜4%減らしただけで、介入のない対照群との差は有意ではありませんでした。Jönssonらの別の後ろ向き研究では、患者の行動に変化が見られませんでした。心理モデルに基づく介入のシステマティックレビューでも、456論文のうち理論の中核要素を満たしたのは4研究だけという状態です。
⑤明日の臨床へ
第一に、「言ったのに守らない」を患者の問題にしない。1時間以内に30〜60%が忘れられ、50%は守られない——これは相手の性格ではなく、伝え方の構造の話です。指導の量を増やすより、次に来たときに残っている量を増やすという設計に切り替える必要があります。
第二に、フロスを全員に一律で勧めるのをやめてもよい。「その患者に技術と動機があるかを判断し、個々に勧める」。鼓形空隙が開いているなら歯間ブラシ、器用さに不安があるなら電動——「最も成功の見込みが高い方法を選ぶのがわれわれの責任」という著者らの言い方は、そのまま指導方針にできます。
第三に、リコール間隔をリスクで決める。喫煙・糖尿病といったリスク因子のない患者では、年1回と年2回で16年後の歯の喪失に差がなかった。その分の枠を高リスク患者に回す——医院全体で見れば、同じ人員でより多くを守れる配分です。
第四に、対話の型を1つだけ変えてみる。OARSを全部やろうとすると続きません。まず「開かれた質問」だけ——「そのフロス、使ってみてどうでしたか」から始める。総説に載っている実例そのままです。
今日のひとこと
軽度〜中等度の歯周炎を一般歯科で管理するために、口腔清掃用具のエビデンスと、患者の行動変容についての知見を並べた総説。手用歯ブラシでのブラッシングは平均30〜60秒で、1回あたりプラーク全体の約60%しか落とせない。デンタルフロスの毎日使用の遵守率は報告により2%〜49%と幅があり、米国歯科医師会の調査では49%が1日1回以上使うと答え、10%は一度も使わないと答えた。フロスをブラッシングに加えることによる歯肉炎の減少には「ある程度の」根拠がある一方、プラークへの効果は1か月・3か月時点で弱い根拠にとどまる。歯間ブラシはブラッシング単独よりプラークを落とし、プラーク指数の比較ではフロスにも優ったが、歯肉の炎症への効果ではフロスと差がなかった。そして最も痛い数字が行動側にある——臨床医と患者のやりとりで伝えられた健康情報の約30〜60%は1時間以内に忘れられ、推奨の50%は守られない。動機づけ面接を用いたJönssonらの研究では、歯肉の炎症の減少が77%対46%、プラークの減少が81%対57%と、従来の口腔衛生教育を上回った。ただしStenmanらの研究では3〜4%のわずかな改善にとどまり、対照群と有意差がなかった。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


