1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

根管治療後も続く「原因不明の歯の痛み」、局所麻酔でどこまで消える?——注射30分後に痛みが半分以上減った人はリドカイン54%対生理食塩水29%。効くけれど消えない痛みが、中枢の関与を示唆していた(2006年のRCT)

1問1答 論文 痛み・口腔顔面痛

口腔顔面痛|非定型歯痛の患者さん35人に、リドカインと生理食塩水を二重盲検のクロスオーバーで打ち比べ、痛みの軽減と感覚検査の関係を調べたランダム化比較試験(List ほか 2006・Pain)

根管治療や抜歯のあとの場所が何年も痛むのに、診察でも画像でも原因が見つからない。そんな非定型歯痛の患者さん35人に、スウェーデンの4施設で、2%リドカインと生理食塩水を同じ人に1回ずつ、どちらか分からない形で注射しました。注射30分後に痛みが50%以上減った人は54%対29%、NNTは3.3。痛みの強さは15〜120分後にリドカインのほうが有意に低くなりました。けれど痛みは完全には消えず、しかも電動歯ブラシの振動で強く痛む人ほど、麻酔が効きにくい。著者らはここから、非定型歯痛の痛みは末梢からの信号だけでは説明できず、中枢の神経の感作が関わっている可能性があると結論しています。

論文
Effect of local anesthesia on atypical odontalgia – A randomized controlled trial
著者
Thomas List, Göran Leijon, Martti Helkimo, Anders Öster, Peter Svensson(スウェーデン・マルメ大学ほか、デンマーク・オーフス大学)
掲載
Pain 2006;122:306-314. doi:10.1016/j.pain.2006.02.005
種類
ランダム化・二重盲検・クロスオーバー試験(スウェーデンの口腔顔面痛クリニック4施設)。根管治療か外科的処置を受けた歯の部位に6か月以上続き、診察と画像で原因が見つからない痛み(0〜10で3以上)のある連続した非定型歯痛の患者35人(女性31人、年齢の中央値55.8歳、痛みの期間は平均7.2年)。1.5mLの2%リドカイン(アドレナリン添加)と生理食塩水を、1週間以上あけて1回ずつ、浸潤麻酔か神経ブロックで注射。VASの痛みの強さ・不快さ・軽減の割合を翌日まで記録し、痛む側と反対側で9項目の感覚検査を実施。研究費はスウェーデン南東部の保健研究評議会(FORSS)ほか
PMID
16564621

①「麻酔を打てば止まる痛み」なら、原因は歯にある?

根管治療を終えた歯、あるいは抜いたあとの場所が、何か月も痛い。打診も、デンタルX線写真も、パノラマも異常なし。こうした非定型歯痛(atypical odontalgia)の患者さんを前に、「念のため麻酔を打って様子を見る」という場面は少なくありません。

そのとき頭にあるのは、麻酔で痛みが消えれば原因は末梢(歯や歯周組織)、消えなければ中枢という、診断的ブロックの考え方です。では、非定型歯痛の痛みは、局所麻酔でどこまで消えるのか。

この論文は、それをリドカインと生理食塩水を同じ患者さんに二重盲検で打ち比べたランダム化比較試験です(スウェーデンの4施設・35人)。

結論を先に書きます。
・注射30分後に痛みが50%以上減った人は、リドカイン54%・生理食塩水29%。NNT(1人に効果を出すために必要な人数)は3.3(95%CI 2.0–9.8)
・痛みの強さは注射15〜120分後、リドカインのほうが有意に低かった
・ただし痛みが完全に消えたわけではない。リドカインでも半数近くは50%に届かなかった
・全員に、痛む側の感覚の異常が1つ以上あった。歯ブラシの振動で強く痛む人ほど、麻酔が効きにくかった

②「神経障害性の痛み」と言われながら、確かめた研究は少なかった

非定型歯痛は、歯やあごに続く強い持続痛で、根管治療や抜歯の経験がある場所に起こりやすいとされてきました。一方で、当時は根拠に基づく診断基準がありませんでした。

「神経の損傷から起こる神経障害性の痛みではないか」という説は以前からありました。歯髄を取る処置は、見方を変えれば神経線維を切る処置でもあるからです。ただ著者らは、この説は主張されてはいるが、裏付けはまだ無いと書いています。

局所麻酔への反応についても、過去の報告は「完全に消える」「一部だけ減る」「変わらない」とばらばらで、きちんと対照を置いた試験がほとんどありませんでした。今回の目的は、末梢から入ってくる信号が、この痛みにどれだけ関わっているかを、局所麻酔で確かめることです。

③今回の一手:同じ人に、麻酔薬と食塩水を1回ずつ

対象は、スウェーデンの口腔顔面痛クリニック4施設に来院した、連続した非定型歯痛の患者さん35人(女性31人・男性4人、年齢の中央値55.8歳、31〜81歳)。痛みが続いている期間は平均7.2年(1〜30年)でした。

・選んだ条件:根管治療か外科的処置を受けた歯の部位の痛み/6か月以上続く/診察と画像検査で原因が見つからない/痛みの強さが0〜10で3以上
・除いた病気:三叉神経痛、帯状疱疹、根尖性歯周炎、上顎洞炎、群発頭痛など
・注射:1.5mLを、前歯部なら痛む場所の近くに浸潤麻酔、臼歯部なら下歯槽神経ブロックか上顎の神経ブロック。中身は2%リドカイン(アドレナリン添加)か生理食塩水で、どちらを先に打つかは無作為に決めた
・盲検と間隔:アンプルは病院の薬剤部で包装・番号付けされた二重盲検。2回の注射の間は1週間以上あけた
・評価:痛みの強さと不快さ(VAS 0〜100)、痛みの軽減の割合(0〜100%)を、注射前から15分後・30分後…6時間後・翌日まで記録

注射とは別に、痛む側と反対側で感覚検査も行っています。細いナイロンの毛(フォン・フレイ・フィラメント)で触った感じと痛み、押したときの痛み、綿棒でなでる・電動歯ブラシを当てる・細い毛で繰り返しつつくときの痛み、温冷の閾値など、9項目を左右で比べました。

④結果:半分以上楽になった人は54%対29%

痛みの強さ(VAS)は、リドカインのほうが注射15〜120分後のすべての時点で生理食塩水より有意に低くなりました。患者さん自身が答えた「痛みの軽減の割合」も、同じ時間帯でリドカインが上回っています。注射前の痛みの強さには両者で差はありませんでした。

臨床で分かりやすいのは、30分後に痛みが半分以下になった人の割合です。

0 20% 40% 60% 注射30分後に痛みが50%以上減った人(%) 54% 29% リドカイン(局所麻酔薬) 生理食塩水(プラセボ) 原著3章。非定型歯痛35人のクロスオーバー試験(同じ人が両方の注射を受けた)。反応=注射30分後のVAS痛みが開始時から50%以上減少。NNT 3.3(95%CI 2.0–9.8)。リドカインでも46%は50%に届かず、2人は逆に痛みが50%以上増えた
注射30分後に痛みが50%以上減った人の割合(原著3章)。同じ35人が両方の注射を受けている

リドカイン54%・生理食塩水29%。NNTは3.3(95%CI 2.0–9.8)で、3〜4人に打てば、生理食塩水より多く1人が「半分以上楽になる」計算です。

見逃せないのは、生理食塩水でも29%が半分以上楽になっていることです。生理食塩水を打ったあとも、痛みの強さは15分後から3時間後までの多くの時点で、注射前より有意に下がっていました。そして裏返すと、リドカインでも46%(54%から計算)は50%の軽減に届かず、2人は逆に痛みが50%以上増えています。

注射2時間後に何らかの体調の変化を訴えた人は、リドカイン29%・生理食塩水26%で差はありませんでした。多かったのは、リドカインでは頭痛・痛みの増加・動悸、生理食塩水では頭痛・痛みの増加・めまい・疲労感・知覚異常です。

⑤感覚検査:全員に「痛む側の異常」があった

感覚の検査では、参加者全員に、痛む側で1つ以上の感覚の異常が見つかりました。どの人にも、少なくとも1つの検査で「感じにくい(感覚の低下)」側の変化があり、多くの人にアロディニア(ふつうは痛くない刺激で痛む状態)が見られています。

0 10 20 30 40 刺激で増えた痛み(VAS・平均) 9.2 1.9 21.6 4.7 29.2 11.9 綿棒でなでる 電動歯ブラシの振動 細い毛で繰り返しつつく 痛む側 反対側(痛くない側) 原著Table 1(値は表のまま)。左右差が有意だった4項目のうち、VASで測った3項目(P=0.007、P<0.001、P<0.001)。残る1項目は熱痛の閾値で、痛む側48.1℃・反対側49.1℃(P=0.003)。ほかの5項目は有意な左右差なし
痛む側と反対側で、刺激によって増えた痛み(原著Table 1)。平均の左右差が有意だった4項目のうち、VASで測った3項目を示した

平均で左右差がはっきり出たのは、綿棒でなでる(9.2対1.9)、電動歯ブラシの振動(21.6対4.7)、細い毛で繰り返しつつく(29.2対11.9)の痛みと、熱で痛みを感じ始める温度(48.1℃対49.1℃)の4項目です。一方、触った感覚の閾値、細い毛で刺したときの痛みの閾値、押したときの痛みの閾値、温かさ・冷たさの閾値の5項目には、有意な左右差はありませんでした。ただし一人ひとりを見ると、同じ検査でも「過敏」の人と「鈍い」人が混ざっていて、パターンは一様ではありませんでした。

そして、感覚検査の9項目のうち1項目だけ、麻酔の効き方と関係が見つかりました。電動歯ブラシの振動で痛みが強く増える人ほど、リドカインでの痛みの軽減が小さかったのです(スピアマンの順位相関 ρ=−0.43)。残る8項目は、麻酔の効き方と有意な関係がありませんでした。

⑥なぜ「効くけれど消えない」のか

著者らの読みはこうです。局所麻酔で痛みが減ったということは、痛む場所から入ってくる信号が、痛みの一部を支えている。けれど完全には消えなかったということは、末梢からの信号だけでは、この痛みを説明できない。

著者らが候補に挙げるのは2つです。1つは、傷ついた神経のもっと中枢寄りの部分(三叉神経節など)が、自分で信号を出してしまう可能性。歯の近くで伝導を止めても、その先から出る信号は止まりません。もう1つは、脳幹など痛みを受け取る側の神経が過敏になっている(中枢性感作)可能性です。

「歯ブラシの振動で強く痛む人ほど麻酔が効きにくい」という結果は、後者と噛み合います。なでる・振動させるといったふつうは痛くない刺激で痛むアロディニアは、中枢性感作と結びつけて考えられているからです。著者らは結論で、高次の三叉神経系ニューロンの感作や可塑的な変化が、非定型歯痛の自発痛に関わっている可能性があるとしています(考察では「関与している可能性が高い」とまで書いています)。

この論文の著者のListとSvenssonらは、同じ2006年に、非定型歯痛の患者さんの脳幹の反射を調べた研究も報告しています(別記事で解説)。

⑦明日の臨床へ

この試験は治療法を試したものではなく、痛みの仕組みを探るための試験です。そのうえで、筆者の読みとして持ち帰れそうなことを挙げます。

・「麻酔で少し楽になった」は、歯が原因という証拠にはならない。非定型歯痛でも半数以上が麻酔で半分以上楽になり、生理食塩水でも3割近くが楽になった。診断的ブロックで痛みが減っても、それだけで再根管治療や抜歯に進む根拠にはしにくい
・逆に「麻酔が効かない」も、気のせいの証拠ではない。この試験の全員に、痛む側の感覚の異常が検査で見つかっている
・左右を比べる感覚の診察は、チェアサイドでもできる。この試験では綿棒・つまようじ・冷やした器具で左右を比べる簡単な診察も行っていた。痛む側で「なでただけで痛い」「電動歯ブラシが響く」があれば、中枢の関与を考える手がかりになる
・処置を重ねる前に、口腔顔面痛の専門家へ。痛みが半年以上続き、画像で原因が見つからない歯の痛みでは、紹介という選択肢を早めに持っておきたい

⑧ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線参加者は35人と少なく、女性が31人を占めます。NNTの95%信頼区間も2.0〜9.8と幅があります。なお、報告されたNNT 3.3は、54%と29%から単純に計算した値(約4.0)と一致せず、算出方法は原著に書かれていません。
歯ブラシの振動と麻酔の効き方の関係(ρ=−0.43)は、感覚検査9項目のうち1項目だけで見つかったもので、多重比較の補正はしていません。
麻酔の効き方の数字は、主に30分後の1時点で見たもので、注射後に感覚検査をやり直してはいません。そのため、麻酔が自発痛と刺激で起こる痛みのどちらに効いたのかは分からない、と著者らも書いています。感覚の異常も反対側との比較で判定していて、神経障害性の痛みでは反対側にも変化が出ることがあるという限界を著者らは挙げています。
また、リドカインは打てばしびれが出るため、患者さんがどちらの注射かに気づいた可能性は残ります。麻酔がきちんと効いていたか(しびれの範囲)の確認も記載されていません(ここは筆者の補足です)。
それでも、「非定型歯痛は局所麻酔で、効くけれど消えない」ことをプラセボ対照で示し、中枢の関与という見方に臨床データで一歩踏み込んだ試験です。診断的ブロックの結果を読むときの物差しとして、覚えておきたい1本です。

今日のひとこと

この試験がはっきり示したのは、非定型歯痛は局所麻酔で「効くけれど消えない」ということです。注射30分後に痛みが半分以上減った人はリドカイン54%・生理食塩水29%で、麻酔の効果は確かにある。けれど半数近くは50%に届かず、電動歯ブラシの振動で強く痛む人ほど効きにくかった。歯科が持ち帰れるのは、診断的な麻酔で痛みが減っても、それだけで歯が原因と決めて処置を重ねないこと、そして痛む側と反対側を比べる簡単な感覚の診察で、中枢の関与を疑う手がかりを拾うことです。

List T, Leijon G, Helkimo M, Öster A, Svensson P. Effect of local anesthesia on atypical odontalgia – a randomized controlled trial. Pain. 2006;122:306-314. doi:10.1016/j.pain.2006.02.005. PMID: 16564621
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。