ペリオ | 親知らずと第二大臼歯遠心
無症状の親知らずを4本もつ健康な329人を、親知らずまで含めて全顎で測ったら、25%に5mm以上のポケットがあった。しかも「きれいに生えた親知らず」も例外ではなかった。
①「痛くないので、そのままで」——本当にそのままでいい?
親知らずが4本そろって残っている患者さん。腫れたことも痛んだこともない。本人も「何ともないです」と言う。X線でも埋伏していない。こういう人の親知らず、プローブを入れていますか。
正直に言えば、多くの現場で第三大臼歯は歯周検査から抜け落ちがちです。全顎6点法といいながら7番まで、というカルテは珍しくありません。理由もわかります。届きにくい、開口してもらうのが大変、そして何より「症状がないのだから問題もないだろう」という前提があるからです。
2002年、その前提を正面から検証した報告があります。無症状の親知らずを4本もつ健康な329人を、親知らずまで含めて全顎で測ってみたら、何が出てきたのか——という研究です。
②なぜ親知らずは「測られてこなかった」のか
親知らず周囲の歯周病変そのものは、実は新しい話ではありません。約40年前にAshらが「症状がなくても第二・第三大臼歯の周りにかなりの歯周病変が起こりうる」と警告しています。Kugelbergらも、埋伏して近心傾斜・水平位にある親知らずが、隣の第二大臼歯遠心に骨欠損をつくることを報告してきました。
ただ、そこから導かれた実務は「傾いて埋まっている親知らずは20代前半までに抜く」という一点に集約されがちでした。裏を返せば、まっすぐ咬合平面まで生えている親知らずは”上がり”——もう心配いらない、という了解ができあがっていたわけです。
もうひとつ、疫学のほうにも死角がありました。米国の国民健康栄養調査(NHANES III)のような大規模調査は、そもそも第三大臼歯や第二大臼歯遠心のプロービングを測定項目に含めていません。測っていない場所の病気は、統計に出てきません。
③今回の一手:親知らずまで含めて、全部測った
米国の2大学(ケンタッキー大学・ノースカロライナ大学)で、30か月かけて329人が登録されました。条件は明快です。全身的に健康(ASA I〜II)で、14〜45歳、無症状の親知らずが4本そろっていて、隣の第二大臼歯も残っている人。重度歯周炎(AAP Class IV)の人、妊娠中、直近3か月以内の抗菌薬使用者などは除外されています。年齢の中央値は25歳でした。
この人たちに行ったのが、第三大臼歯まで含めた全顎6点法のプロービングです。歯ごとに最大PDをとり、5mm以上かどうかで線を引きました。あわせてLöeの歯肉炎指数(GI)、パノラマで親知らずの萌出度(咬合平面より上か下か)と傾斜角、垂直的バイトウイングで第二大臼歯遠心の骨頂とCEJの距離を計測しています。
④結果①:4人に1人に、5mm以上のポケットがあった
結果は著者自身が「予想外だった(unexpected)」と書くものでした。
全体
第二大臼歯の遠心に5mm以上があった人が15%、親知らずの周囲にあった人が20%。重複を整理すると、どちらかに1か所以上あった人が25%——82人にのぼりました。無症状の親知らずを残している健康な若年成人の、4人に1人です。
見逃せないのが「親知らずのみ、10%」という数字です。隣の第二大臼歯はまったく無事なのに、親知らずの周囲にだけ深いポケットがある。第二大臼歯遠心しか測らない検査では、この10%はまるごと素通りしてしまいます。
そしてこの5mm以上のポケットは、単なる仮性ポケットではありませんでした。全員でアタッチメントロス1mm以上を伴い、82人中80人では2mm以上。つまり実際に付着が失われています。
⑤結果②:年齢が上がるほど、そして下顎に集中する
高いほう
25歳未満では17%、25歳以上では33%(P=.002)。20代後半を境に、ほぼ倍になります。著者は「年齢は時間の代理指標だろう」と述べています。清掃しにくい環境に時間が積み重なれば、そのぶん破壊が進む、という素直な解釈です。
部位はさらにはっきりしていて、上顎5%に対して下顎25%(P<.0001)。5倍の開きです。実務的には、時間が限られるならまず下顎の7番遠心と8番周囲、という優先順位が立ちます。
もうひとつ添えておくと、この人たちはそれ以外の歯はきわめて健康でした。第二大臼歯より前方の歯に5mm以上が3本以上あった人はわずか1%(4/329)。6mm以上に至っては一人もいません。全体としては歯周組織の健康な集団の、大臼歯部だけがぽつんと悪い、という構図です。
⑥結果③:いちばん意外だったのは「きれいに生えた親知らず」
ここがこの論文のいちばん面白いところです。親知らずの位置と傾きで層別すると、こうなりました。
低かった位置
埋伏していて近心傾斜・水平位の親知らずが12%。これは従来の知見どおりで、驚きはありません。問題は左端です。咬合平面まで生えていて、しかも垂直〜遠心傾斜——いちばん「問題なさそう」に見える親知らずが11%。埋伏近心位とほとんど変わりません。
この集団では親知らずの86%が垂直〜遠心傾斜でした。つまり、「まっすぐ生えているから大丈夫」と分類されて検査対象から外れやすい多数派こそ、実は無視できないリスクを抱えていたということになります。著者はこれを「多くの臨床家が、いったん咬合に参加すればトラブルは最小になると仮定してきたが、その仮定は正しくない」と表現しています。
⑦なぜ、そこで起きるのか
メカニズムとして著者が挙げるのはシンプルです。第三大臼歯部は局所因子(アクセスの悪さ・軟組織の被覆・骨形態)のせいで患者自身が清掃しきれない。そこに歯周病原菌が定着し、慢性的な破壊が始まる。時間が経つほど不利になるので、年齢とともに頻度が上がる——という筋書きです。細菌学的な裏づけは同じ号のコンパニオン論文で扱うと述べられています。
ここで大事なのが骨のデータです。咬合平面まで萌出・垂直位の親知らずをもつ症例では、第二大臼歯遠心の骨頂は96%(86/90)がCEJから3mm以内——臨床的に許容範囲でした。埋伏近心位でも84%(16/19)が許容範囲です。
⑧明日の臨床へ:「抜くか残すか」の前に、まず測る
この論文から持ち帰れることは、実はとてもシンプルです。
1)親知らずが残っている人は、親知らずまで測る。特に下顎、そして25歳以上。症状の有無は判断材料になりません。著者の言葉を借りれば「症状は歯周病変の存在を示す良い指標ではない」。
2)第二大臼歯遠心だけで満足しない。10%は親知らず周囲にしか所見がありません。8番の頬側・遠心にもプローブを回します。
3)見つかっても、それは「抜歯の指示」ではない。ここは大事なところです。著者らも「もし親知らずを残すなら、状態が悪化しないよう特別な努力が必要になる」と書いており、結論として求めているのは抜歯の一律推奨ではなく、残された親知らずに対する監視(モニタリング)のプロトコルを職能として持つことです。プロービング値はそのプロトコルの核になる、という提案でこの論文は閉じます。
抜くか残すかは、年齢・全身状態・清掃能力・第二大臼歯の予後・外科的難易度・患者の希望まで含めた総合判断です。この1本はその判断材料を1つ増やしてくれるだけで、答えを決めてはくれません。ただ、「測っていないから何もわからない」状態を抜け出すことはできます。
これは縦断試験の初回検査(ベースライン)の横断分析です。「このポケットがこの先どうなるか」はこの報告では追えていません。対象も「無症状の親知らずが4本そろって残っている全身健康な14〜45歳」で、重度歯周炎は除外済み——一般集団の代表ではなく、むしろ歯周組織が健康な人たちです。2002年・米国2施設・教育水準の高い集団というバイアスもあります。したがって「無症状でも抜くべき」と一般化できる論文ではありません。読み取るべきは有病率の高さと、萌出・垂直位でもリスクがあるという意外性、そして「測らないと見えない」という一点。続報の縦断データが待たれる、という位置づけです。
今日のひとこと
症状は、親知らず周囲の歯周組織の状態を教えてくれない。抜くか残すかを決めるより先に、プローブを入れて「事実」を手元に持つ。判断はそのあとで、患者ごとに。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。親知らずの抜去・温存の判断は個々の患者背景を踏まえた総合的なものであり、本記事は特定の処置を推奨するものではありません。


