ペリオ|ペリオ論文100選
根分岐部病変の大臼歯を前にしたとき、ルートリセクションで残すか、抜いてインプラントにするか。両方を同じ術者が、同じ診療所で、15年以上にわたって行った記録があります。2001年、米国の開業医Fugazzottoが自院の701本のルートリセクション大臼歯と1,472本の大臼歯部インプラントを後ろ向きに集計しました。全体の成功率はどちらも96〜97%。ところが、ある条件が重なった途端に数字が崩れます。
①「切って残す」か「抜いて替える」か
根分岐部病変の大臼歯。ルートリセクションで残すか、抜いてインプラントにするか。この比較が難しいのは、たいてい別々の術者・別々の集団の報告を並べて比べることになるからです。腕も、適応の判断も、メインテナンスの質も違う相手を比べても、答えは出ません。
この論文は、その問題を「同じ術者・同じ診療所」で解いています。米国マサチューセッツ州の開業医が、自院で行ったルートリセクション大臼歯701本(628名)と、大臼歯部インプラント1,472本(1,102名)を後ろ向きに集計しました。外科もメインテナンス設計もすべて著者本人が行い、メインテナンスは自院の衛生士が担当しています。
②成功の定義を、先に決めている
後ろ向き研究で最初に見るべきは、成功の定義です。この論文はそこを明示しています。
- ルートリセクションの成功:①4mmを超えるプロービングデプスがない ②複数回のメインテナンス来院でBOPがない ③排膿がない ④二次う蝕や歯根破折の所見がない
- インプラントの成功:Albrektssonらの基準(辺縁骨レベルの安定・軟組織の炎症がない・排膿や浮腫がない)
- 患者は「現在も定期管理下にある」か「5年以上定期メインテナンスで追跡された」ことが条件。転院した患者は理由を調べ、治療の失敗が理由なら失敗として計上している
ルートリセクションの前には全例で口腔清掃指導・SRP・キュレッタージを行い、プラークスコア10%以下を達成できない患者は外科へ進めていません。コントロール不良の糖尿病・免疫疾患、直近12か月の頭頸部放射線治療や化学療法、1日10本を超える喫煙者は除外。適応の絞り込みが、この数字の背景にあります。
③切った根の場所で、成功率は割れた
701本中678本が機能しており、全体の成功率は96.8%。累積成功率も96.8%です。歯種別では上顎第二大臼歯92.9%から下顎第一大臼歯97.6%まで。ただし処置別に見ると、景色が変わります。
- 下顎近心根切除:313本中2本の失敗=99.4%(最多の症例数で最高の成績)
- 上顎MB根切除:185本中179本成功=96.8%
- 上顎DB根切除:133本中127本成功=95.5%
- 下顎ヘミセクション(両根保存):21本中1本失敗=95.2%
- 下顎遠心根切除:32本中24本成功=75.0%
下顎の遠心根を切って近心根を残す——ここだけが突出して悪い。著者は理由を「残った近心根は樋状根などで歯根の形態が脆弱であり、そこへ大きな力が加わることが失敗の増加につながった」と説明しています。
④本当の分かれ目は「単独で立っているか」
この論文でいちばん実務に効くのは、次の数字です。
- 下顎遠心根切除後、残った近心根が連続歯列の最後方歯として単独で立った8本 → 6本が失敗(成功率25%)
- 同じ処置でも、固定性補綴のターミナルアバットメントとして連結された20本 → 18本が成功(90%)
- ピア(中間)支台または連結されたケースを含めると、324本中320本が成功(98.8%)
- 上顎DB根切除でも同様で、最後方歯として単独なら11本中7本(63.6%)、固定性補綴のターミナルアバットメントなら8本中6本(75%)。一方、連続歯列内で最後方でなければ90本すべてが機能していた
同じ処置、同じ術者。違うのは「連結されているかどうか」だけです。著者は「この遠心の歯を他の歯と固定性補綴で連結することが、加わる力をよりよく分散させたと考えるのが妥当だ」と書いています。
インプラント側にも、まったく同じ構図がありました。1,472本中44本が失敗して絶対成功率97.0%、累積成功率96.3%。部位別では下顎第一大臼歯98.6%・上顎第一大臼歯98.5%・上顎第二大臼歯97.6%に対し、下顎第二大臼歯だけが85.0%です。
下顎第二大臼歯部の失敗22本のうち17本は、機能開始から3年以内に起きています。そのうち6本は二次手術(アンカバー)の時点ですでに動揺しており、著者は埋入時のオーバーヒートや操作の問題を挙げつつ、残る失敗については「最後方で単独に立つ短いインプラントに、パラファンクションの力が集中した」と考察しています。
⑤力の管理は、術式選択と同じ重みを持つ
失敗例の分析も一貫していました。ルートリセクションの23失敗のうち7本(30.4%)、インプラントの45失敗のうち17本(37.8%)が、未対応のパラファンクションを伴っていました。
著者は「進行する咬耗ファセット、起床時の筋の痛み、患者自身がブラキシズムやクレンチングを自覚している、繰り返す歯の破折」をパラファンクションの徴候として挙げています。これらを拾えているかどうかが、術式選択と同じ重みを持つ、というのがこの論文のもう一つのメッセージです。
⑥明日の臨床へ
この15年分の記録から、そのまま計画に落とせるのは次の3点です。
- 「ルートリセクションか、インプラントか」という二択で考えない。全体成功率はどちらも96〜97%で、術式の優劣ではほとんど差がつかなかった
- 先に見るのは「その支台が最後方で単独になるか」。単独最後方になる下顎遠心根切除は25%まで落ちた。連結できるなら90%まで戻る。同じ理由で、下顎第二大臼歯部の単独インプラントは慎重に
- パラファンクションを拾い、対処してから外科へ進む。失敗の3〜4割に絡んでいる
著者自身も「今日、下顎大臼歯の遠心根を切除して近心根だけを連続歯列の最後方支台として残す適応は、見当たらないように思われる」とはっきり書いています。
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
切るか替えるかより先に、その支台を独りにしないこと。ルートリセクションもインプラントも、連続歯列の最後方で単独に立たせた瞬間に数字が崩れました。歯を残す議論と、力を分散させる補綴設計は、同じテーブルで考えたいところです。
今日のひとこと
単一術者の診療所で行われた、ルートリセクション大臼歯701本(628名)と大臼歯部インプラント1,472本(1,102名)の後ろ向き集計。ルートリセクション大臼歯は678本が機能しており成功率96.8%、累積成功率も96.8%。インプラントは44本が失敗し、絶対成功率97.0%、累積成功率96.3%。ただし部位で大きく割れた。下顎大臼歯の遠心根切除は成功率75.0%と最低で、下顎近心根切除は99.4%。インプラントは下顎第一大臼歯98.6%・上顎第一大臼歯98.5%・上顎第二大臼歯97.6%に対し、下顎第二大臼歯は85.0%。下顎遠心根切除後に近心根が連続歯列の最後方歯として単独で機能した8本では、6本が失敗し成功率25%。同じ状況でも固定性補綴のターミナルアバットメントとして連結すると20本中18本が成功(90%)。失敗との関連では、ルートリセクション23失敗のうち7本(30.4%)、インプラント45失敗のうち17本(37.8%)が未対応のパラファンクションを伴っていた。著者の結論は「どちらの治療も高い成功率を示すが、単独で立つ最後方支台になるとその成功率は著しく損なわれる」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


