1問1答 論文 虫歯

隣の歯に付けた傷が、数年後に効いてきた——隣接面の3分の2にバー傷が残っていた

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|隣接面う蝕・医原性のバー傷・II級窩洞

II級窩洞を削るとき、隣の歯にバーが当たる。当たったことに気づくこともあれば、気づかないこともあります。コペンハーゲン大学が、77人の歯科医師が実際に形成した187個のII級窩洞の模型を集めて、隣在歯の隣接面を実体顕微鏡で観察しました。傷が付いていたのは乳歯で64%、永久歯で69%。そして7年間追跡すると、傷が付いた面は修復処置に至る割合が乳歯で10%対35%、永久歯で6%対15%と、どちらも有意に高くなっていました。

論文
Progression of Approximal Caries in Relation to Iatrogenic Preparation Damage
著者
V. Qvist, L. Johannessen, M. Bruun(コペンハーゲン大学歯学部 カリオロジー・歯内療法学講座/デンマーク公衆歯科小児保健サービス)
掲載
Journal of Dental Research 1992;71(7):1370-1373
種類
前向き臨床研究(模型の実体顕微鏡観察+7年間のカルテ追跡・生命表解析)
PMID
1629452

隣の歯、削っていませんか

II級窩洞を形成するとき、隣在歯にバーが当たる。当たった感触があることもあれば、無いこともあります。マトリックスバンドやプロキシテクターで守ろうとはするけれど、隣接面が触れ合っている部位を削っている以上、完全には避けきれない。

問題は、その傷があとで何かを起こすのかどうかです。矯正領域では、犬歯37本を側切歯の形に削り直したあと10〜15年追ってもう蝕・歯周疾患が増えなかったという報告があり、「たいしたことはない」と考える理由もありました。

コペンハーゲン大学のグループは、77人の歯科医師が実際に自分で形成した窩洞を材料に、そこを7年間追いかけました。

先に結論: 隣接面の3分の2(乳歯64%・永久歯69%)にバー傷が付いていた。7年後、修復処置に至ったのは乳歯で10%→35%、永久歯で6%→15%傷の深さは関係がなく、有るか無いかだけが効いていた。

研究のつくりが面白い

この研究の一番の特徴は、実験用に作った窩洞ではないことです。1983〜84年、デンマークの公衆歯科小児保健サービスの歯科医師が「II級窩洞形成の卒後研修を受けたい」と自ら申し出ました。そこで研修に登録した93人のうち77人が、自分が実際に形成した窩洞の印象を採り、模型を提出しました(最初の5症例までを対象とし、1人あたり1〜5個が集まって計187個)。

  • 材料:初回のII級アマルガム窩洞187個(乳臼歯108・小臼歯/大臼歯79)。4〜17歳の子ども182名
  • 評価対象:その窩洞に接していた未処置の隣接面190面(乳歯58・永久歯132)
  • 観察:石膏模型を実体顕微鏡8倍で2名の著者が観察し、傷の有無・深さ・広がりを記録
  • 追跡:その後7年間、カルテから修復処置・脱落・抜歯の情報を毎年収集。生命表法で解析

「失敗」の定義はその隣接面に修復処置が行われたことひとつだけです。う蝕の進行そのものではなく、削られたかどうかを見ている点は押さえておく必要があります。

なお、傷が辺縁隆線にあった永久歯7本は、プラーク除去の邪魔にならないと考えられるため解析上は「傷なし」に入れられています(傷あり91面から7面が抜けて84面になった操作で、結果を厳しくも甘くもしうる処理です)。

3分の2に、傷が付いていた

0 33.3% 66.7% 100% 隣接面にバー傷が見つかった割合 (%) 64% 69% 乳歯(37/58面) 永久歯(91/132面) II級アマルガム窩洞に隣接していた未処置の隣接面190面を、模型上で実体顕微鏡8倍で観察した結果。最も多かったのは数mm²にわたる深さ0.5〜1mmの引っかき傷・溝
隣在歯の未処置隣接面に見つかったバー傷の割合。乳歯37/58面、永久歯91/132面

傷が見つかったのは乳歯で64%、永久歯で69%。ごく小さな圧痕で済んでいるものもありましたが、最も多かったのは数mm²にわたる、深さ0.5〜1mmの引っかき傷や溝でした。

この歯科医師たちは、研修の目的が「自分の窩洞形成と医原性の傷を批判的に点検すること」だと事前に知らされたうえで、マトリックスバンド等の保護手段を自由に使っています。つまりこの64〜69%という数字は、意識して守ろうとした状態での数字です。

7年後、削られた面が増えていた

0 16.7% 33.3% 50% 7年の間に修復処置を受けた割合 (%) 10% 35% 6% 15% 乳歯傷なし 乳歯傷あり 永久歯傷なし 永久歯傷あり 乳歯は2/21対13/37、永久歯は3/48対13/84。どちらも有意差あり(p<0.05)。原著は3.5倍・2.5倍の増加と記述(丸めた割合どうしの比)。実数から計算したリスク比は乳歯3.7・永久歯2.5
7年間の追跡で修復処置に至った割合。乳歯・永久歯とも有意差あり(p<0.05)

単純な割合で見ると、乳歯は傷なし10%(2/21)に対して傷あり35%(13/37)。永久歯は傷なし6%(3/48)に対して傷あり15%(13/84)。原著が示した増加は乳歯で3.5倍・永久歯で2.5倍(丸めた割合どうしの比)。実数から計算するとリスク比は乳歯3.7・永久歯2.5になります。

0 20% 40% 60% 修復処置に至る確率 (%) 13% 45% 7% 28% 乳歯・3年半後傷なし 乳歯・3年半後傷あり 永久歯・5年後傷なし 永久歯・5年後傷あり 95%信頼区間は順に 0〜29%/26〜65%/0〜15%/14〜41%。脱落・抜歯・生え替わりを打ち切り扱いにして推定した値で、単純な割合より差が大きく出ている
生命表法による推定確率。打ち切りを適切に扱うと、単純な割合より差が大きく出る

脱落・抜歯・生え替わりを打ち切りとして扱う生命表法では、差はさらに開きます。乳歯は3年半後に13%対45%永久歯は5年後に7%対28%。永久歯では約4倍です。統計学的に有意になるのは乳歯で3年後、永久歯で4年後——つまり、この差は最初からあったのではなく、時間をかけて開いていきます。

数字の読み方で、大事なところが2つ

ひとつめ。傷の深さと処置の必要性には関係が無かった(p>0.05)。深い溝ほど早く削られる、という直感的な予想は外れました。効いていたのは深さではなく、傷が有るか無いかです。著者らは、エナメル表面の連続性が絶たれること自体が問題だと考えています。実際、以前の研究では、削合でできた溝は最も細かい研磨ストリップでも消せず、デンタルフロスを使っても溝の底のプラーク付着を防げないことがあると示されています。

ふたつめ。効果には期限があった。乳歯は3年半、永久歯は5年を過ぎると、それ以上は新たな処置が増えませんでした。著者らはその理由として、隣接面の生理的な咬耗で溝が浅くなること、年長になって口腔清掃が上手くなること、混合歯列期を過ぎてプラークが除去しやすくなること、フッ化物配合歯磨剤への曝露が積み重なることを挙げています。傷は永久に効き続けるのではなく、危険な数年間を作る、という理解になります。

乳歯のほうが影響が大きかったのは(p<0.05)、乳歯のエナメル質が薄いためだと説明されています。同じ進行速度でも、薄い分だけ「象牙質う蝕」に到達しやすい。

明日の臨床へ

  • 守る手間を、コストとして計上する。この研究は保護手段の有無を比較していないので「バンドを入れれば防げる」とまでは言えません。ただ、参加した術者は保護手段を自由に使い、点検されると知ったうえで3分の2に傷を付けている。数十秒を惜しまない理由としては十分です。
  • 「浅いから大丈夫」と考えない。深さと結果に関係が無かったのがこの論文の一番シビアなところです。軽く当たったつもりの傷も、同じ扱いで見る。
  • 当ててしまったら、その面を最初から数年間フォローする。差が統計学的に有意になるのは乳歯で3年後・永久歯で4年後ですが、これは「3年目までは何も起きない」という意味ではありません。実際の処置は傷ありの面で乳歯1〜3年9か月・永久歯1〜2年半のうちから始まっています。最初の数年こそ見る時期で、乳歯で3年半・永久歯で5年を過ぎると新たな処置は増えなくなる——危険期間は永久ではなく、はじめの数年です。
  • 予防処置を、その面に集中させる。フッ化物の応用や清掃指導は、傷を付けた面にこそ意味があります。著者らが挙げた「効果が消える理由」の多くは、まさにその方向の要因です。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:アウトカムが「修復処置が行われたか」だけである点は、そのまま読むと言い過ぎになります。う蝕が進行したかどうかを直接見たのではなく、担当医が削ると判断したかどうかを見ています(著者ら自身が「perceived need」と書いています)。傷の存在を知っている術者が同じ面を後で診れば、削る方向へバイアスがかかり得ます。また対象は1980年代デンマークのう蝕活動性が高い子どもで、アマルガム窩洞です。打ち切りが多く、7年後に残っていたのは乳歯0面・永久歯24面と、後半の推定は細い土台の上にあります。それでも、77人の術者が実際の診療で作った窩洞という材料の現実性は代えがたく、「隣を傷つけない」という基本操作に、7年という時間軸の裏づけを与えてくれます。

今日のひとこと

77人の歯科医師が実際に形成した187個の初回II級アマルガム窩洞について、隣接していた未処置の隣接面190面(乳歯58・永久歯132)を模型上で実体顕微鏡8倍で観察した。バー傷は乳歯の64%(37/58)、永久歯の69%(91/132)に見つかり、最も多かったのは数mm²にわたる深さ0.5〜1mmの引っかき傷・溝だった。7年間の追跡で修復処置に至ったのは、乳歯で傷なし10%(2/21)対 傷あり35%(13/37)、永久歯で傷なし6%(3/48)対 傷あり15%(13/84)——どちらも有意差あり(p<0.05)。原著はこれを3.5倍・2.5倍の増加と記述している(実数から計算したリスク比は乳歯3.7・永久歯2.5)。生命表法では、乳歯は3年半後に13%対45%、永久歯は5年後に7%対28%まで開いた。統計学的に有意になるのは乳歯で3年後、永久歯で4年後だが、傷ありの面の処置は乳歯1〜3年9か月・永久歯1〜2年半のうちから始まっている。一方で傷の深さや広がりと処置の必要性には関係が無く(p>0.05)、また乳歯3年半・永久歯5年を過ぎると新たな処置は増えなくなった。傷の深さより、傷が有るか無いかが効いていた。

Qvist V, Johannessen L, Bruun M. Progression of approximal caries in relation to iatrogenic preparation damage. J Dent Res. 1992;71(7):1370-1373. PMID: 1629452. DOI: 10.1177/00220345920710070301
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。