1問1答 論文 歯周病

電動歯ブラシ+薬用歯磨剤は、メインテナンス患者の「上乗せ」になるか──128名・3年RCTの答え

1問1答 論文 歯周病

歯周病|セルフケア・歯周メインテナンス

SPTに通う患者さんに「電動歯ブラシに替えたほうがいいですか」と聞かれます。回転振動式の電動歯ブラシも、トリクロサン配合歯磨剤も、単独では手用・通常歯磨剤より優れるとシステマティックレビューで示されてきました。ならば2つ重ねれば、もっと良くなるはず——そう考えて組まれた128名・3年間のRCTの答えは、3年後のBOPが22%対24%、PPDはどちらも3.3mm→3.0mm。臨床指標でも40菌種の細菌数でも差は出ませんでした。ただしこの研究、「効かなかった」で終わらせるにはもったいない示唆を含んでいます。

論文
Long-term effect of the combined use of powered toothbrush and triclosan dentifrice in periodontal maintenance patients
著者
Bogren A, Teles RP, Torresyap G, Haffajee AD, Socransky SS, Jönsson K, Wennström JL
掲載
J Clin Periodontol 2008;35(2):157-164
種類
多施設・単盲検・ランダム化比較試験(3年・intention-to-treat解析)
対象
1年以上SPTに通う中等度〜進行慢性歯周炎の成人128名(テスト65/対照63・124名が3年完遂)

「電動歯ブラシと薬用歯磨剤、メインテナンス患者に勧めるべきか」

SPT(歯周病安定期治療)に通ってくださっている患者さんに、こう聞かれることがあります。「電動歯ブラシに替えたほうがいいですか」「歯磨き粉は薬用のほうがいいですか」。

私たちの手元には、それを後押しする材料が揃っています。回転振動式の電動歯ブラシは手用よりプラークと歯肉炎を減らす。トリクロサン/コポリマー配合歯磨剤は通常のフッ素歯磨剤より優れる。どちらもシステマティックレビューで示されてきました。

では、その2つを同時に使えば、歯周治療を終えた患者さんの経過はさらに良くなるのか。2008年の J Clin Periodontol に載ったスウェーデン・ボストンの共同研究が、128名を3年間追いかけてこの問いに答えています。

先に結論: 3年後のBOPは電動+トリクロサン群22%/手用+通常フッ素群24%、PPDはどちらも3.3mm→3.0mm。臨床指標でも40菌種の細菌数でも、群間に有意差は出ませんでした。ただしこの研究、「効かなかった」で終わる話ではありません。両群とも有意に改善しているからです。

期待する理由は、十分にあった

この試験が組まれた背景を押さえておきます。

  • Lindhe ら(1982)の18か月研究で、プラークフリーを保てた部位は付着喪失を起こさず、プラークが残った部位は平均0.6mmの付着喪失を示した
  • 回転振動式(ROA)電動歯ブラシは、システマティックレビューで手用よりプラーク・歯肉炎を有意に減らす
  • トリクロサン/コポリマー配合歯磨剤も、2つのシステマティックレビューで通常のフッ素歯磨剤より優れる
  • Rosling ら(1997)の3年研究では、トリクロサン配合歯磨剤の使用で深いポケットの頻度と、付着・骨吸収が進む部位の数が減った

歯周病既往のある患者さんは、健常者とは口の中の条件が違います。鼓形空隙は開き、深いポケットが残る。ならば「効く道具」を2つ重ねれば、その差はいっそう出るはず——著者らはそう仮説を立てました。

今回の一手:128名を3年、intention-to-treatで追う

  • 対象は中等度〜進行した慢性歯周炎の治療を終え、1年以上SPTに通っている成人128名(20歳以上・現在歯15本以上・PPD5mm以上の歯が4本以上)
  • 喫煙状況で層別化したうえで、テスト群65名/対照群63名にランダム割付
  • テスト群=回転振動式電動歯ブラシ+トリクロサン/コポリマー/フッ化物配合歯磨剤。対照群=手用歯ブラシ(変法バス法)+通常のフッ化物配合歯磨剤。どちらも1日2回
  • 両群とも、デンタルフロス・歯間ブラシ等による毎日の歯間清掃を行う
  • 両群とも、ベースラインと6か月ごとにSPT(PPD5mm以上の部位の機械的デブライドメント、ラバーカップ研磨、口腔衛生指導の再強化)
  • プラーク・BOP・PPD・相対的アタッチメントレベル(RAL)を0・1・2・3年で測定。全解析はintention-to-treat
  • 縁下プラークを毎回採取し、40菌種をDNA-DNAハイブリダイゼーションで定量(総計12,233検体)
検出力の設計: 1群60名で、PPDの平均差0.3mmを検出する検出力は95%(SD 0.5・α 0.05)。検出したい差(PPDの平均で0.3mm)は拾える設計だった、ということです。128名中124名が3年間の最終検査まで残った(脱落4名)点も、この試験の質を支えています。

結果:3年後、どちらの群も良くなった。ただし差は無い

0 15% 30% 45% BOP陽性部位の割合(%) 34% 34% 29% 29% 23% 27% 22% 24% ベースライン 1年後 2年後 3年後 128例・3年RCT。淡い棒=手用+通常フッ素群。どの時点でも群間差は有意でない(NS)
BOP陽性部位の割合の推移。両群ともベースライン34%から3年で22〜24%へ有意に減少したが、どの時点でも群間差は有意でない(NS)。濃い棒=電動+トリクロサン群、淡い棒=手用+通常フッ素群

臨床指標の3年間の動きです。

  • BOP:テスト群34%→22%、対照群34%→24%(両群とも有意に減少。群間はNS)
  • 平均PPD:両群とも3.3mm→3.0mm(有意に減少。群間はNS)
  • PPD6mm以上の部位:テスト群4%→3%、対照群3%→2%
  • RALの変化量:両群とも3年で0.0mm(つまり付着レベルは維持された)
  • プラークスコアはほぼ横ばい(テスト群42%→37%、対照群50%→45%。対照群の減少は相対で約10%にとどまった)
0 15% 30% 45% 部位の割合(%) 39% 39% 16% 18% 5% 6% 2% 2% 1〜1.5mm改善 2mm以上改善 1〜1.5mm悪化 2mm以上悪化 ベースラインでPPD4mm以上だった部位の3年後の変化。淡い棒=手用+通常フッ素群。4項目すべてNS
ベースラインでPPD4mm以上だった部位の、3年後の変化。改善した部位・悪化した部位のどちらも群間差は有意でない(4項目すべてNS)

部位レベルで見ても同じでした。2mm以上改善した部位は16%対18%、2mm以上悪化した部位は2%対2%。RALについても、2mm以上改善19%対18%、2mm以上悪化3%対3%。

細菌はどうか。総DNAプローブカウントは両群とも有意に減少し、40菌種のうち有意に減った菌種はテスト群27/対照群20。しかしどの時点でも、どの菌種でも、群間に有意差はありませんでした

差が出なかった理由は「対照群が良すぎた」から

ここがこの論文のいちばん面白いところです。著者らは、Rosling ら(1997)との結果の違いをこう読み解いています。

Rosling らの研究では、トリクロサン群が対照群より明らかに良かった。ところが本研究では差が出ない。両者の違いは「トリクロサンを使った群」ではなく「対照群」のほうにありました

  • 本研究の対照群で2mm以上の付着喪失を起こした隣接面部位は3%
  • Rosling らのトリクロサン群も3.6%とほぼ同じ
  • ところがRosling らの対照群は7%と2倍以上ある

何が違ったのか。本研究は6か月ごとにPPD5mm以上の全部位に縁下デブライドメントを行っていた。Rosling らのメインテナンス期には縁下処置が無かった——著者らはそう指摘し、「定期的に行われる縁下デブライドメントが、疾患進行を抑えるうえで不可欠であることを示唆する」と結論づけています。

読み替えるとこうなります: 6か月ごとのSPTという土台がしっかりしていると、セルフケア用品の”上乗せ”分は測定できるほどの差にならない。逆に言えば、Roslingらの研究で見えたトリクロサンの効果は、縁下処置が無い環境だからこそ現れた「穴埋め」の効果だった可能性がある、ということです。

明日の臨床へ

  • 定期的なSPTに通えている患者さんに、電動歯ブラシとトリクロサン歯磨剤をセットで導入して「これに替えれば数値が良くなる」と勧める根拠は、この研究からは出てこない。3年間・128名・intention-to-treatでも差は出ませんでした(なお本試験は2つを組み合わせた「セット」同士の比較なので、どちらの要素が効かなかったのかは分離できません)
  • ただし「使ってはいけない」という話ではない。テスト群も有意に改善しています。手用ブラシで磨けない患者さん、握力や巧緻性に問題のある患者さんに電動を勧める理由は、この研究では否定されていません
  • むしろ伝えるべきは「道具より、6か月ごとに来ていただくこと」。本研究の両群がそろって良くなった土台は、そこにあります
  • 電動歯ブラシも薬用歯磨剤も、患者さんの自己負担で続けるものです。費用をかけて替えても数値が動かない可能性があることは、勧める側が知っておきたい事実です
  • 患者さんが「電動に替えたのに数値が変わらない」と落胆したときの説明材料としても使えます。もともと差が出ないほどメインテナンスがうまくいっている、と

ここだけ、冷静に補助線

とても綺麗に設計された3年RCTですが、読むときの補助線を3つ: ①これは「差が無い」ことを示した研究であって、「効果が無い」ことの証明ではありません(非劣性試験として設計されたわけではない)。②両群とも歯間清掃を毎日行い、6か月ごとにSPTを受けています。この土台が無い患者さんに、同じ結論をそのまま当てはめることはできません。③⑤で紹介したRosling 1997との比較は、試験と試験を並べた間接比較です。著者ら自身も「Roslingらの患者のほうが疾患進行への感受性が高かった可能性は否定できない」と留保したうえで、「最も可能性の高い説明は試験デザインの違いに帰せられる」と述べています。断定ではありません。④トリクロサンは現在、多くの国で歯磨剤への配合が見直されています(本研究は2000〜2002年の登録)。製品選択の議論は、この論文の射程の外にあります。とはいえ「上乗せより土台」という所見は、いまも十分に使えます。

今日のひとこと

回転振動式の電動歯ブラシもトリクロサン/コポリマー配合歯磨剤も、単独では手用・通常歯磨剤より優れることがシステマティックレビューで示されてきた。その2つを重ねれば、歯周病既往のあるメインテナンス患者でさらに良い結果が出るはず——この仮説を128名・3年間・intention-to-treatで検証したのが本研究である。結果はBOPがテスト群34%→22%、対照群34%→24%、平均PPDは両群とも3.3mm→3.0mm、RALの変化量は両群とも0.0mm。ベースラインでPPD4mm以上だった部位のうち2mm以上改善した割合は16%対18%、2mm以上悪化した割合は2%対2%。12,233検体・40菌種の細菌検査でも、総菌数は両群とも有意に減ったが群間差はどの時点でも無かった。1群60名でPPDの平均差0.3mmを検出力95%で拾える設計だったにもかかわらず、である。注目すべきは著者らの読み解きだ。同じトリクロサン歯磨剤で差が出たRoslingら(1997)と比べると、違いはトリクロサン群ではなく対照群の側にあった。2mm以上の付着喪失を起こした隣接面部位は、本研究の対照群3%に対しRoslingらの対照群は7%。本研究は6か月ごとにPPD5mm以上の全部位へ縁下デブライドメントを行っていたのに対し、Roslingらのメインテナンス期には縁下処置が無かった。著者らは「定期的に行われる縁下デブライドメントが疾患進行を抑えるうえで不可欠であることを示唆する」と述べている。つまりSPTという土台がしっかりしていると、セルフケア用品の上乗せ分は測定できるほどの差にならない。道具を替えることより、6か月ごとに来ていただくこと——患者さんへの説明の軸足をどこに置くかを教えてくれる研究である。

出典:Bogren A, Teles RP, Torresyap G, Haffajee AD, Socransky SS, Jönsson K, Wennström JL. Long-term effect of the combined use of powered toothbrush and triclosan dentifrice in periodontal maintenance patients. J Clin Periodontol 2008;35(2):157-164. PMID: 18199149
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。