ペリオ|ペリオ論文100選
前歯にすき間がある——保護者が気にして相談してくることの多い所見です。ところが15歳の子ども156人を調べたこの研究では、隣接面に接触のない面のほうが、プラークも歯肉炎もプロービング深さも良好でした。上顎ではすき間が多いほど、充填してある面が少ないという関係まで出ています。「きれいに並んでいる=健康」とは限らない、という話です。
①「前歯にすき間があるんです」と相談されたら
小学校高学年から中学生の前歯に、すき間が残っている。保護者から「このままで大丈夫でしょうか」と聞かれることは、日常的にあります。
見た目の話としてはよく分かります。では歯の健康にとって、すき間はプラスなのかマイナスなのか。
1984年、ベルゲン大学のSilnessとRøynstrandが、15歳の子ども156人を対象にこの問いを検証しました。答えは、直感と逆かもしれません。
②すき間の数を「指数」にする
対象は15歳の子ども156人(女子76・男子80)。全員が、著者の1名(TR)から9年間にわたって定期的な歯科治療を受けてきた集団です(口腔衛生指導を系統的に受けてきたわけではありません)。
解析には前歯6歯が揃っている子だけを使い、上顎は女子74・男子73、下顎は女子75・男子75が対象になりました。
この研究の工夫がSpace Index(SpI/空隙指数)です。アルギン酸印象から模型を作り、隣の歯と目に見える接触がない隣接面の数を数えて合計する。前歯6歯の隣接面は12面なので、SpIは0〜12の値を取ります。
あわせて記録したのは次の4つです。
- Plaque Index(PlI):Silness & Löe 1964
- Gingival Index(GI):Löe & Silness 1963
- プロービング深さ(PD):Glavind & Löe 1967 に従い、標準的な歯周プローブで測定
- 充填面数(FS):診療録から拾い、臨床で確認
臨床記録はすべて1名の検者(JS)が行っています。上顎はSpI=0/SpI=1〜6/SpI≧7の3群、下顎はすき間の少ない集団だったためSpI=0/SpI≧1の2群に分けて比較しました。帰無仮説の棄却水準は1%(0.01)と厳しめに設定されています(多重比較のScheffé法だけは5%)。
③すき間のある面のほうが、状態が良かった
まず前提として、頬側面と舌側面では、空隙と各指標のあいだに1%水準の有意な関連は認められませんでした。だから著者らは隣接面に絞って結果を報告しています。
その隣接面で、次のことが分かりました。
- プラーク指数:空隙の多さとの関連は男女・上下顎とも p=0.0001。上顎ではSpI=0の群(すべて接触あり)が、PlI 0と1のスコアの割合が最も小さく、2+3の割合が最も大きい。逆にSpI≧7の群が最も良好でした
- 歯肉炎指数:同じく男女ともp=0.0001。SpI=0の群がGI 0と1の割合が最も低く、2+3が最も高い。SpI≧7の群がその逆
- プロービング深さ:上顎は男女ともp=0.0001。両性ともSpI=0の群が最も深かった。下顎もSpI=0の群のほうが深く、女子p=0.0001・男子はp=0.009でした
差そのものは小さな値です。上顎のプロービング深さで見ると、女子ではSpI=0群とSpI≧7群の差が0.16 ± 0.13mm(p<0.01)、SpI=1〜6群とSpI≧7群の差が0.23 ± 0.16mm(p<0.01)。男子ではSpI=0群とSpI≧7群の差が0.17 ± 0.13mm(p<0.0001)でした。おおむね0.1〜0.3mmの範囲ですが、方向は一貫しています。
ただし、すべての段のあいだに差があったわけではありません。女子ではSpI=0とSpI=1〜6のあいだ、男子ではSpI=1〜6とSpI≧7のあいだに有意差はありませんでした。
④上顎では、すき間が多いほど充填が少ない
もうひとつの発見が、う蝕治療の履歴との関係です。
上顎では空隙が多いほど充填面数が少ないという関係が出ました。分散分析で男女ともp=0.0001、相関係数は女子 R=−0.53、男子 R=−0.54(ともにp=0.0001)。男子では、SpI=0群とSpI≧7群の充填面数の差が4.13 ± 2.37面(p<0.01)にのぼります。
一方下顎では、同じ傾向は見えたものの有意差に届きませんでした(充填面数の差 女子p=0.14・男子p=0.23、相関も女子p=0.27・男子p=0.80)。著者らは、下顎は充填の数がそもそも少なかったためだと説明しています。
そしてもう一つ。男女・上下顎とも、充填のない隣接面のほうが、充填のある面より歯周状態が良好でした(プラーク指数・歯肉炎指数ともp=0.0001〜0.004の範囲で有意)。
⑤なぜそうなるのか——2つの因子の足し算
著者らの説明は明快です。
ひとつは接触点そのもののプラーク保持性。歯と歯が触れている場所は、清掃器具が届きにくく、プラークが残りやすい。
もうひとつが充填物のプラーク収集性です。著者らは、シリケートセメント・レジン・コンポジットがプラークを溜めやすく、充填のない面と比べて炎症を増やす傾向があることは当時すでに複数の研究で示されていた、と述べています。
そのうえで、「隣接面接触の存在と充填の存在の足し合わせ(summation effect)が、接触のある面とない面の歯周状態の差に寄与したことが示唆される」——これが著者らの締めくくりです。断定ではなく、示唆という書き方をしています。
言い換えれば、すき間そのものが歯肉を守っているというより、接触点があること・そこが治療されていることの2つが、清掃を難しくしているという読み方になります。
⑥明日の臨床へ
- 前歯のすき間を「悪いこと」として説明しない。少なくとも隣接面の歯周状態とう蝕治療歴に関しては、この研究では有利に働いていました
- 接触点のある隣接面こそ、清掃指導の的。すき間のある面ではなく、詰まっている面が汚れています
- 充填のある隣接面は、二重にリスクがあると考える。接触点と充填面が重なる面がいちばん不利になる、というのが著者らの推論です(この組み合わせを直接比べた解析はありません)
- 差の大きさは控えめに伝える。プロービング深さの群間差はおおむね0.1〜0.3mmの範囲で、いずれもミリ以下です。「劇的に違う」ではなく「方向は一貫している」が正確な言い方です
- 頬側・舌側では関連が出ていないことも覚えておく。空隙の話は隣接面の話です
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
15歳156人の前歯部を調べたところ、男女・上下顎とも、隣接面に接触のない面(空隙のある面)のほうが歯周状態が良好だった。空隙の多さ(Space Index)とプラーク指数・歯肉炎指数の関連は、男女・上下顎ともp=0.0001で有意。プロービング深さも上顎の男女と下顎の女子はp=0.0001、下顎の男子はp=0.009だった。上顎では空隙が多いほど充填面数が少なく、相関はR=−0.53(女子)/−0.54(男子)だった(下顎では同じ傾向だが有意差に届かず)。さらに男女・上下顎とも、充填のない隣接面のほうが充填のある面より歯周状態が良好だった。著者らは「隣接面の接触そのもののプラーク保持性」と「充填物のプラーク収集性」という2つの因子の足し合わせが、接触の有無による歯周状態の差に寄与したことが示唆される、と述べている。ただし対象は9年間、著者の1人から定期的な歯科治療を受けてきた15歳であり、口腔衛生指導を系統的に受けたわけではない集団である点は外せない。著者らは「すき間があることの歯の健康への利点は、この研究集団と同程度の口腔衛生の水準にある思春期の子どもに限定されるかもしれない」と書いている。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


