ペリオ|ペリオ論文100選
歯肉炎の患者さんは、治れば「健康」に戻れます。ところが歯周炎の患者さんは、治療がうまくいって出血もポケットも消えても、生涯にわたって歯周炎患者である——2017年ワールドワークショップ(公表は2018年)は、そう合意しました。19本のレビューと4本のコンセンサスレポートから生まれた新分類の全体像と、1999年の分類から何がどう変わったのかを、この導入論文で辿ります。
①「治りました」と言えるのは、どっちの患者さんか
歯肉炎で来院した患者さんが、ブラッシングを覚えて、出血が消えた。この人は「健康に戻った」と言えます。
では、中等度の歯周炎で来院して、SRPと外科を終えて、BOPもポケットも落ち着いた患者さんはどうでしょうか。
2017年ワールドワークショップは、ここに線を引きました。歯肉炎の患者は健康な状態に戻れるが、歯周炎の患者は治療が成功したあとも生涯にわたって歯周炎患者であり、再発を防ぐために生涯の支持療法を要する——ワークショップはそう合意しています。
②19本のレビューと4本のコンセンサスから生まれた
この分類は、思いつきで作られたものではありません。
米国歯周病学会(AAP)とヨーロッパ歯周病連盟(EFP)が共催し、計画は2015年初頭から始まりました。組織委員会が19本のレビュー論文と4本のコンセンサスレポートを委託し、世界中から集まった専門家が2017年11月9〜11日にシカゴで議論。すべての所見と推奨が合意(コンセンサス)によって決められています。
1999年の分類は、この時点で19年間使われていました。それ以前も、1989年のワークショップ(思春期前性・若年性・成人性・急速進行性)、1993年のヨーロッパワークショップ(成人性と早期発症型へ単純化)、1996年(変更の根拠となる新しい証拠が不十分と判断)と、分類は科学の進み方に合わせて何度も書き換えられてきました。今回もその延長線上にあります。
③全体像:3本の柱と、新しく加わったインプラント周囲
歯周疾患・歯周組織の状態は、3本の柱に整理されました。
- ① 歯周組織の健康と歯肉疾患:健康、バイオフィルム性歯肉炎、非バイオフィルム性の歯肉疾患
- ② 歯周炎:壊死性歯周疾患、歯周炎、全身疾患の発現としての歯周炎
- ③ 歯周組織に影響する他の状態:全身疾患、歯周膿瘍・歯内歯周病変、歯肉歯槽粘膜の形態異常、外傷性咬合力、補綴・歯に関連する因子
そして今回、インプラント周囲疾患・状態が同じ分類表の中に組み込まれました。インプラント周囲の健康、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎、硬・軟組織の不足の4区分です。
歯肉炎の線引きについても、未解決だった問題に答えが出ています。1か所以上の炎症が「ある」ことと「歯肉炎の症例である」ことは違う——その区別のために、プロービング時の出血(BOP)が歯肉炎の閾値を決める主たる指標とされました。
④慢性と侵襲性が、ひとつになった
いちばん大きい変更は、慢性歯周炎と侵襲性歯周炎の統合です。
ワークショップは、現在の病態生理の知見と整合する歯周炎の形は3つだと合意しました——壊死性歯周炎、全身疾患の発現としての歯周炎、そして従来「慢性」「侵襲性」と呼ばれてきたものをひとまとめにした「歯周炎」です。
統合された「歯周炎」は、代わりにステージ(I〜IV)とグレード(A〜C)という多次元の枠組みで記述されます。ステージは現時点の重症度と管理の複雑さで決まります。判定に用いるのは、臨床的アタッチメントロス、骨吸収の量と割合、プロービング深さ、垂直性骨欠損や根分岐部病変の有無と程度、動揺度、歯周炎による喪失歯数です。グレードは進行の速さと、今後の進行リスク・予想される治療反応を表し、A(低リスク)・B(中等度)・C(高リスク)の3段階。喫煙や糖尿病の血糖コントロールといった患者側の因子を診断に取り込めるようにしたのがグレードの役割です。
⑤名前が変わった用語たち
日々の会話に直結する変更が、用語の置き換えです。
- 歯周バイオタイプ → 歯周フェノタイプ。歯肉退縮の新しい症例定義は、隣接面の臨床的アタッチメントロスを基準にし、露出根面とセメントエナメル境の評価も組み込む形になりました。コンセンサスレポートでは、歯肉の性状(フェノタイプ)と露出根面の性状を組み合わせた分類が提示されています
- 過剰な咬合力 → 外傷性咬合力。定義は「歯周組織および/または歯の適応能力を超える力」。この力が咬合性外傷(=病変そのもの)や、著しい咬耗・破折を生みます。ただし、咬合性外傷が歯周炎のアタッチメントロスの進行に関与するというヒトの研究の証拠は乏しい、とも明記されています
- 生物学的幅径 → supracrestal attached tissues(歯槽骨頂より歯冠側の付着組織)。補綴関連の項目は今回拡張され、間接修復物の製作にかかわる臨床操作が歯肉退縮とアタッチメントロスを起こしうるという新しいデータを受けて追加されました
もうひとつ、糖尿病の扱いも整理されました。コントロール不良の糖尿病のように歯周炎の経過を修飾する全身疾患は、独立した病型にはせず、ステージ・グレードの記述子として扱う。理由は明快で、糖尿病を有する歯周炎患者に固有の病態生理があることを、現在の証拠は支持していないからです。一方、パピヨン・ルフェーブル症候群のように重度歯周炎を早期に引き起こす稀な全身疾患は「全身疾患の発現としての歯周炎」としてまとめ、原疾患に基づいて分類します。
⑥インプラント周囲:同じ分類表に並んだ3つの状態
インプラント周囲の3つの状態は、次のように定義されました。
- インプラント周囲の健康:視診上の炎症所見とプロービング時の出血がないこと。骨支持が正常なインプラントにも、減少したインプラントにも成立しうる。そして健康と両立するプロービング深さの範囲を定めることはできないと明記されています
- インプラント周囲粘膜炎:BOPと視診上の炎症所見が特徴。プラークが原因であるという強い証拠がある一方、非プラーク性の粘膜炎の証拠は非常に限られている。プラーク除去によって可逆的です
- インプラント周囲炎:プラークに関連した病的状態で、粘膜の炎症と支持骨の進行性の喪失が特徴。粘膜炎が先行すると想定され、プラークコントロール不良と重度歯周炎の既往に関連。X線所見からは埋入後早期に発症しうること、未治療のまま経過すると非線形かつ加速するパターンで進行するようだとされています
硬・軟組織の不足は、抜歯後の治癒によって顎堤の寸法が減るところから始まります。より大きな欠損の背景として挙げられているのは、重度の歯周支持組織の喪失、抜歯時の外傷、歯内感染、歯根破折、薄い唇側骨、歯の位置異常、上顎洞の含気化などです。
⑦明日の臨床へ
- 「治療後の健康」を2種類に書き分ける。健全な歯周組織の健康なのか、歯周組織が減った状態での臨床的歯肉の健康なのか。後者はさらに安定した歯周炎患者と非歯周炎患者に分かれ、歯周炎の治療後なら前者にあたります。メインテナンスの設計が変わります
- 歯周炎患者に「一生のお付き合いになります」と最初に伝える。これは脅しではなく、分類が合意した診療の前提です
- 歯肉炎の判定はBOPを軸に。部位の炎症所見と「歯肉炎の症例」は別物、という整理を院内で揃える
- 用語を新しい方に置き換える。バイオタイプ→フェノタイプ、生物学的幅径→supracrestal attached tissues、過剰な咬合力→外傷性咬合力。紹介状や申し送りで混乱を減らせます
- インプラントのメインテナンス記録に、BOPと骨レベルの経時変化を残す。周囲炎は非線形に加速しうるので、点ではなく線で追う必要があります
- 重度歯周炎の既往がある人へのインプラントは、リスクを共有してから。周囲炎との関連が明記されています
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
新分類は歯周疾患を3本の柱(①歯周組織の健康と歯肉疾患 ②歯周炎 ③歯周組織に影響する他の状態)で並べ、そこにインプラント周囲疾患の4区分を新たに加えたものだ。歯肉炎の判定にはプロービング時の出血(BOP)が主たる指標として採用された。歯周炎は「壊死性歯周疾患」「全身疾患の発現としての歯周炎」「歯周炎」の3つの形に整理され、慢性と侵襲性は1つの「歯周炎」へ統合されたうえで、ステージI〜IVとグレードA〜Cで記述される。用語も改められ、バイオタイプ→フェノタイプ、過剰な咬合力→外傷性咬合力、生物学的幅径→歯槽骨頂より歯冠側の付着組織(supracrestal attached tissues)となった。そして最も臨床に響くのは、歯肉炎患者は健康に戻れるが、歯周炎患者は治療が成功しても歯周炎患者のままであり、再発予防のために生涯にわたる支持療法を要するという合意である。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


