ペリオ|ペリオ論文100選
歯周治療が一段落し、患者さんが定期受診から遠のいていく。診療室では珍しくない光景です。では、その後の骨はどうなっているのか。1986年のこの研究は、治療を終えたあと年1回以下しか受診しなくなった23名を面接で集め、治療時と平均5.4年後のX線写真を後ろ向きに突き合わせて、歯の群ごとに骨の高さを測りました。
①治療が終わり、足が遠のいたあと
歯周治療が一段落する。ポケットは浅くなり、出血も止まり、患者さんは満足して帰っていく。そして、少しずつ受診の間隔が空いていく——診療室では珍しくない光景です。
その後の骨は、どうなっているのでしょうか。
著者らは、それを調べるために少し変わった集め方をしました。大学の歯周病科で治療を受けた患者に面接し、「治療後のメインテナンスが年1回以下」の人だけを23名集めたのです。そして治療時と平均5.4年後のX線写真を並べ、歯の群ごとに骨の高さを測りました。
②歯冠を「ものさし」にして測る
X線写真の比較には、いつも同じ難問がつきまといます。撮影の角度や条件が違えば、骨の高さも違って見える。
この研究が使ったのは、Schei Ruler法をDuckworthが改良した方法です。骨の高さをmmで測るのではなく、その歯自身の歯冠の高さを基準にして、何%まで骨が下がっているかを10%刻みで採点する——歯冠を「ものさし」にすれば、拡大率の違いが相殺されるという発想です。
- 対象は23名(男性16名・女性7名、平均年齢55.6±8.16歳)。治療からの経過は平均5.4±2.9年
- 治療時の22枚法ロングコーン平行法X線写真と、その後の7枚法ロングコーン平行法バイトウィングを比較
- 骨吸収の定義は、歯冠高の50%を超える歯槽骨支持の喪失。これは臼歯で約4mm、前歯で約5mmの骨頂の破壊に相当します
- 歯を上下顎の前歯・小臼歯・大臼歯の6群に分けて解析。測定はすべて1名の検者が行いました
- 像が重なっていたり歯冠像が欠けているX線は測定せず、その結果6%の歯が除外されています
③失われたのは、下顎大臼歯だった
6群の結果は、はっきり分かれました。
- 下顎大臼歯:42.1% → 64.0%(差21.9±5.14、P=0.001)——唯一の有意な悪化です
- 上顎大臼歯:58.4% → 68.4%(差9.97、P=0.082)
- 下顎前歯:64.1% → 70.3%(差6.22、P=0.353)
- 下顎小臼歯:56.6% → 60.6%(差4.01、P=0.335)
- 上顎小臼歯:57.7% → 58.3%(差0.63、P=0.914)
- 上顎前歯:46.8% → 42.0%(差-4.77、P=0.194)——わずかに改善方向ですが、こちらも有意差はありません
6群をまとめた一元配置分散分析では、群間に全体として差がありました(F=3.05、P=0.0126)。そのうえでNewman-Keuls検定を行うと、下顎大臼歯は上顎小臼歯および上顎前歯と分かれました(この対比そのもののP値は原著に示されていません)。
注目したいのは、下顎大臼歯が治療時にはいちばん骨が保たれていた群(42.1%)だったことです。出発点が最も良かった歯が、5年で最も大きく失った。「今きれいだから大丈夫」が通用しないことを、この並びは示しています。
④プラークと骨は、つながっていた
治療後のプラークスコアは27.8%から100.0%に分布していました。ほとんど磨けている人から、まったく磨けていない人までいた、ということです。
全体で見ると、プラークの量と骨レベルには統計的に有意な相関がありました(rs=0.18、P<0.05)。ただし著者らは正直に添えています——歯群ごとに独立して評価すると、有意な相関は認められなかった。相関係数0.18という値も、決して強いものではありません。
歯の喪失についても記録があります。最も多く歯を失ったのは、上顎大臼歯と下顎前歯でした。
興味深いことに、下顎大臼歯は骨の喪失こそ最大だったものの、上顎大臼歯と比べると失われる頻度は低いものでした。著者らはこれを「下顎大臼歯は上顎大臼歯より治療に好意的に反応することを示唆している」と読んでいます。
時期による違い(治療から5年以内 vs 5年超)も検討されましたが、どの歯群でも有意差は出ませんでした。ただし下顎大臼歯は16.87%と25.92%と倍近い開きがあり(P=0.404)、各群10名前後では差を検出する力がありません。「差がなかった」と読むべきではない箇所です。
⑤明日の臨床へ
- 大臼歯を、メインテナンスの重点部位として扱う。著者らの結論は「大臼歯は切歯・犬歯より危険である」。この研究では骨を最も失ったのが下顎大臼歯、歯を最も失ったのが上顎大臼歯でした
- 「治療時に良かった歯」を安心材料にしない。下顎大臼歯は出発点が最も良く、5年で最も失いました
- 「年1回以下」がどういう状態かを知っておく。この研究の対象者は、まさにその頻度で通っていた人たちです
- プラークコントロールの実績を、記録に残す。27.8%から100.0%という分布の幅は、患者ごとの差の大きさを物語ります
- 上顎大臼歯は、歯の喪失が最も多かった群(下顎前歯とともに)。ただし経過年数で分けた比較では有意差は出ていません。それでも予後判断の材料にはなります
⑥ここだけ、冷静に補助線
⑦今日のひとこと
治療は、終わりではなく始まりだった。年1回以下の受診で5年が過ぎたとき、失われていたのは下顎大臼歯の骨でした。どこを、どの頻度で見るか——その設計が、治療の成果を守るかどうかを決めています。
今日のひとこと
6つの歯群のうち、治療時から平均5.4年後にかけて統計的に有意な骨レベルの悪化が認められたのは、下顎大臼歯だけだった(42.1%→64.0%、差21.9±5.14%ポイント、P=0.001)。上顎大臼歯は58.4%→68.4%(差9.97、P=0.082)、下顎前歯は64.1%→70.3%(差6.22、P=0.353)と悪化の方向だったが有意差には届かず、上顎前歯だけは46.8%→42.0%とわずかに改善方向だった(P=0.194)。6群をまとめた分散分析では群間に全体として差があり(F=3.05、P=0.0126)、Newman-Keuls検定で下顎大臼歯は上顎小臼歯・上顎前歯と分かれた(対比そのもののP値は示されていない)。治療後のプラークスコアは27.8%〜100.0%に分布し、プラーク量と骨レベルには有意な相関があった(rs=0.18、P<0.05)——ただし歯群ごとに独立して評価すると有意な相関は認められなかった。歯の喪失が最も多かったのは上顎大臼歯と下顎前歯だった。著者らは「定期的な歯周メインテナンスケアの欠如と不十分なプラークコントロールが、治療後の進行性の骨吸収に寄与する」と結論している。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


