ペリオ|ペリオ論文100選
バス法、スクラブ法、フォーンズ法、ローリング法——歯科衛生士学校で習い、患者さんに教えている磨き方は何種類もあります。では、どれがいちばん良いのでしょうか。2020年のこのシステマティックレビューは、3,190件の文献から13の研究を選び出して、その問いに答えようとしました。結果は、少し拍子抜けするものでした。
①何種類も教わって、どれを教えるのか
バス法、モディファイドバス法、スクラブ法、フォーンズ法、ローリング法、チャーター法、スティルマン法——歯科衛生士学校や大学で習う磨き方は、数えると10種類近くあります。
そして診療室では、どれか一つを選んで患者さんに教えている。その選択に、根拠はあるのでしょうか。
著者らはこう書いています。現在のところ、歯科医師・口腔保健士・歯科メーカーのあいだで、手用ブラッシング法の推奨についてコンセンサスは存在しない。だから既存の文献を洗い直すことにした、と。
②3,190件から、13件へ
- 2018年5月に、Medline via Ovid・PubMed・EBSCO Dentistry & Oral Sciences Source を36の検索語で検索。ハンドサーチも行い、関連論文の参考文献も確認しています
- 3,190件を同定し、40件を全文で読み、13件を最終レビューに採用。スクリーニングで落ちた大半は重複か電動歯ブラシのみを扱ったものでした。全文を読んだうえで除外された27件の理由も列挙されています(レビュー論文2件、介入プロトコルが異なるもの8件、対象者の条件4件、17歳未満6件、英語版がない7件)
- 採用13件の内訳は、無作為化比較試験5件、非無作為化対照研究7件、in vitro研究1件
- 2名の研究者が独立してコクラン共同計画のバイアスリスク評価ツールで採点し、意見の相違は討議と合意で解決。PRISMAに準拠しています
検索の網羅性という点では、丁寧な仕事です。問題は、集まった13件の中身のほうにありました。
③勝者が、いない
13の研究で検討された技法は10種類。検討した研究数で多い順に、ロール法6件、水平スクラブ6件、モディファイドバス5件、バス5件、チャーター3件、フォーンズ3件、そしてモディファイドスティルマン・トゥースピック法・垂直法が各1件、これに円を描くスクラブ法を加えて10種類になります。
そして「統計的に有意に優れたプラーク除去を示した」という結果の内訳が、上の図です。
チャーター2件、フォーンズ2件、スクラブ2件、バス1件、モディファイドバス1件、ロール1件、モディファイドスティルマン1件、トゥースピック法1件。加えて4件の研究では、技法間に統計的な有意差を示せませんでした。
個別に見ると、こんな具合です。
- Frandsen 1970:術者Aではチャーターがロールやスクラブより良く、術者Bではスクラブがチャーターより良かった——この研究は歯科医師と歯科衛生士が患者の歯を直接磨いたもので、誰が磨くかで結論が入れ替わっています
- Bergenholtz 1984:バスが良く、ロールが劣る
- Morita 1998:トゥースピック法がバス法より多くのプラークを除去
- Poyato-Ferrera 2003:モディファイドバスが通常のブラッシングより有意に優れる(21日後)
- Harnacke 2012:フォーンズがモディファイドバスより優れる(口腔衛生技能と歯肉炎)
- Mastroberardino 2014:垂直法が水平法より効率的で、隣接面もより除去
- Gibson & Wade 1977、Frandsen 1972:技法間に有意差を示せず。Jansiriwattana 2018も同様ですが、これは模型を使ったin vitro研究です。なおSchlueter 2013はモディファイドバス一本で「無指導/リーフレット/デモ」を比べたもので、指導方法の違いで差が出なかったという別種の結果です
教科書で「基本」とされるバス法が、他を圧倒しているわけではない。それがこのレビューの、最も率直な読みどころです。
④比べられなかった、という結論
なぜ結論が出ないのか。著者らは、研究間のばらつきを具体的に挙げています。
- プラーク指数が10種類:Silness & Löe、Turesky変法Quigley-Hein、Rustogi Modified Navy、Modified Navy、O’Leary、Podshadley & Haley……ものさしが違えば、数字は並べられません
- 歯ブラシが23種類:13の研究を合わせると、これだけの種類の手用歯ブラシが使われていました
- 指導の方法もばらばら:空軍基地で兵士の小グループに2時間の研修を組んだ研究もあれば、文書・コンピュータ・動画・模型・口頭の指示だけの研究もあります。5件では歯科医師・歯科衛生士・歯科助手が参加者の歯を直接磨いていました
- 対象者の偏り:11件が17〜34歳の若年者。7件が大学生で、うち3件は歯学生または歯科関係のスタッフでした
そして見逃せないのが、アウトカムの偏りです。
13の研究のうち、歯肉炎の指数を報告していたのは2件だけ——Harnacke 2012(乳頭出血指数)と Harnacke 2016(プロービング時の出血)。残る11件は、歯肉炎を測っていません。しかもその2件のうち後者では、12週間の指導の後も歯肉炎の改善の徴候は示せませんでした。
私たちが本当に知りたいのは「歯肉が健康になるか」なのに、測られていたのはほとんどがプラークの量だったということです。
⑤明日の臨床へ
- 「この磨き方が正解」と断言しない。少なくとも現時点で、それを支える証拠は揃っていません
- 術者・環境の違いが結果を動かしている。同じ技法でも磨く人が変わると結論が入れ替わった研究があり、指導の方法も研究ごとにばらばらでした。技法そのものだけを取り出して比べるのが難しい、という事情がここにあります
- 「特定の技法を教える」ことには意味がありそうだ。著者らは背景で「既存の技法に修正を加えるより、特定の技法を教育するほうがプラーク除去の改善が大きい」という研究に触れています。教えること自体は支持されている。ただし、どの技法を教えるべきかが決まっていない——というのがこのレビューの立ち位置です
- プラークが落ちること=歯肉が良くなること、と直結させない。13件中11件は歯肉炎を測っていません
- 手用ブラシの指導は今も現役。著者らは、オーストラリアで年間3,500万本の手用歯ブラシが売れ、歯ブラシ販売の80%を占めていると述べています
⑥ここだけ、冷静に補助線
⑦今日のひとこと
「どの磨き方がいちばんか」は、まだ決着していない。それでも患者さんは今日も歯を磨きます。技法の優劣が示せていない以上、いま自分が教えている方法を「これが唯一の正解」として語らないこと——そこがこの論文への、いちばん誠実な応じ方でしょう。
今日のひとこと
13の研究で、10種類の手用ブラッシング法が検討されていた(検討した研究数は、ロール法6件、水平スクラブ6件、モディファイドバス5件、バス5件、チャーター3件、フォーンズ3件、モディファイドスティルマン・トゥースピック法・垂直法が各1件)。ある技法が統計的に有意に優れたプラーク除去を示したのは、バス1件・モディファイドバス1件・チャーター2件・フォーンズ2件・スクラブ2件・ロール1件・モディファイドスティルマン1件・トゥースピック法1件で、4件の研究では技法間に有意差がなかった。13研究のうち、歯肉炎の指数を報告したのは2件だけだった。使われたプラーク指数は10種類、歯ブラシは23種類にのぼる。著者らは「プラーク除去と歯肉炎の減少において、1つのブラッシング法が他より優れていると示唆するには、証拠がなお不十分である」「選ばれた研究のデザインと方法論の多くの側面における過度のばらつきが、理想的な手用ブラッシング法についての結論を妨げている」と結論している。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


