ペリオ|⑥Phase4 メインテナンス
外科まで終えて、口腔衛生指導もして、「これからが大事ですよ」と伝えた。それでも来なくなる患者さんがいます。3回リコールを出しても、誰も戻ってこなかった——1984年、Beckerらは、まさにその44名を平均5.25年後に呼び戻し、何が起きていたかを測りました。
①3回リコールを出して、誰も来なかった
歯周外科まで終えて、口腔衛生指導もして、術後の面談で「ここからのメインテナンスが大事です」と伝える。それでも来なくなる患者さんがいます。
この研究の44名は、まさにその人たちです。全員が治療後の面談を受け、3回続けてリコールの通知を受け取り、そして誰一人として応じませんでした。検査と検査の間に、他院を含めどこかでメインテナンスのスケーリングを受けた形跡も見つかっていません。
再来院のきっかけは、急性症状か、かかりつけ歯科医からの再紹介でした。2回の歯周精密検査のあいだは、平均5.25年。その5年余りで何が起きたのかを、この論文は数えています。
②44名、平均5.25年
対象は、この医院で歯周治療を受けたのちメインテナンスに参加しないことを選んだ44名(男性23名・女性21名、年齢中央値44歳)。
- 治療内容:口腔衛生指導と、1〜3回の外科前ルートプレーニング。この研究の患者の大半は、2象限以上で骨整形(osseous contouring)を伴うポケット減少手術を受けている
- 検査:智歯を除く全歯について、6面のポケット深さをミシガンO型プローブで測定。歯肉縁の位置・退縮・歯肉歯槽粘膜の問題も記録し、根分岐部はGlickman分類で評価。ただし固定点の計測は行っていない
- エックス線:44名中33名で全顎撮影(11名は初回のフィルムが見つからなかった)。Bjorn & Holmbergの方法に準じ、Ramfjordの6歯について骨レベルを歯根長に対する割合で5%刻みに読み取った
予後は臨床とエックス線所見から個々の歯ごとに判定されました。「疑問(questionable)」は、歯根長の50%に迫る骨吸収・6〜8mmのポケット・歯間空隙の乏しいII度根分岐部病変などのうち2つ以上を持つ歯。「絶望(hopeless)」は、支持骨の75%以上の喪失・8mmを超えるポケット・III度根分岐部病変・III度動揺などのうち2つ以上を持つ歯。51歯が絶望と判定され抜歯が勧められましたが、多くの患者はこれを拒みました。
2回目の検査時に、なぜ戻らなかったのかを全員に聞いています。理由はさまざまでしたが、最も多かったのは「強いストレスを伴う個人的な危機」でした。
③失われた歯は、年0.22本
初回検査時の1117歯のうち、67歯(6.0%)が2回の検査のあいだに失われました。1人あたり年間0.29歯です。ただしこの中には、初回時点で予後絶望と判定されていた歯が含まれます。それらを除いた調整後の喪失率は4.7%、1人あたり年間0.22歯でした。
この0.22という数字は、単独では意味を持ちません。比較して初めて意味が出ます。
- 治療してメインテナンスを受けた集団:年0.11歯(同じ著者らの先行研究)
- 本研究(治療のみ・メインテナンスなし):年0.22歯
- 診断されたが未治療の集団:年0.36歯
著者らはこれを「メインテナンスなしの歯周治療は、未治療集団と比べれば病気の進行を遅らせるように見える」と表現しました。治療には確かに意味があった。しかし、メインテナンスを受けた集団の2倍のペースで歯を失っていた、ということでもあります。
予後別の喪失率は、良好3.0%(1015歯中31歯)、疑問37.2%(51歯中19歯)、絶望33.3%(51歯中17歯)でした。
ここで目を引くのは、「疑問」の歯が「絶望」の歯より高い率で失われていることです。そしてもうひとつ。初回に絶望と判定され、抜歯を勧められた51歯のうち、34歯は2回目の検査でまだ口の中に残っていました。著者らは「絶望の歯の予後を決めるのは難しい。患者の快適さ、修復治療の計画、隣在歯の健康状態といった要素を考慮する必要がある」と書き、「絶望歯が隣在歯の健康に与える影響についての研究が必要だ」と付け加えています。
歯種別では、上顎第二大臼歯の喪失率が最も高く15.6%。最も低かったのは下顎犬歯の1.2%でした。
④プローブの平均値は、動かなかった
ここがこの研究のいちばん怖いところです。
プロービングデプスの平均は、初回3.79mmから2回目3.92mmへ。統計学的な有意差はありません(P>0.05)。大臼歯(4.26→4.38mm)・小臼歯(3.78→3.86mm)・前歯(3.47→3.58mm)のいずれの群でも、有意差は出ませんでした。
平均値だけを見れば「変わっていない」。しかし、6300の個別部位を追うと、内側では入れ替わりが起きていました。
- 初回に1〜3mmだった3405部位のうち、72.9%はそのまま。25.7%が4〜6mmへ、1.4%が7mm以上へ深くなった
- 初回に4〜6mmだった2740部位のうち、62.0%はそのまま。29.4%が1〜3mmへ改善し、8.6%が7mm以上へ悪化した
- 初回に7mm以上だった155部位のうち、31.6%はそのまま。61.3%が4〜6mmへ、7.1%が1〜3mmへ
結果として、7mm以上の部位は155(全体の2.5%)から333(5.3%)へと倍以上に増えました。浅い部位が深くなる動きと、深い部位が浅くなる動きが相殺し、平均値としては動かなかった——というのが実像です。
根分岐部と骨も、静かに悪化していました。
- 初回に根分岐部病変のなかった大臼歯184歯のうち、69%は安定を保ったが、31%が新たに分岐部病変を生じた
- すでに病変のあった84歯のうち、77.4%は変化なし、22.6%が悪化した
- 骨スコアは初回10.5から2回目10.85へ有意に悪化(P<0.01)。絶対値では0.80(4.0%)の骨喪失で、治療+メインテナンス群の0.44(2.2%)より大きく、未治療群の1.26(6.3%)より小さい
著者らは「治療とメインテナンスは根分岐部に安定化の効果をもたらすように見える」と、先行研究との比較から述べています。
⑤明日の臨床へ
第一に、平均値で安心しない。この研究では、5年経ってもPDの平均は有意に変わりませんでした。それでも7mm以上の部位は倍増し、骨は有意に減っていた。患者単位の平均PDは、部位単位で起きている悪化を覆い隠します。深い部位の「数」を追うほうが、変化を早く捉えられます。
第二に、外科の前に「通えるか」を確かめる。著者らの結論は明快です。「これらの所見に照らせば、動機づけの技法とメインテナンス期の重要性の強化は、確定的な歯周外科を行う前に検討されるべきである」。「メインテナンスがない状態では、外科的介入は歯周の健康を回復させるという点で、明らかにほとんど価値がない」。順番の話です。手術の技術よりも先に、通院を続けられる設計があるか。
第三に、「絶望」の判定を急がない。51歯中34歯が5年後も残っていました。もちろん、残っていることが良いこととは限りません。それでも、抜歯の判断に患者の快適さや修復計画、隣在歯の状態を含めて考える余地はある、と著者らは示唆しています。
今日のひとこと
44名全員が口腔衛生指導と1〜3回の外科前ルートプレーニングを受け、大半は2象限以上で骨整形を伴うポケット減少手術を受けていた。治療終了後に「メインテナンスの重要性」を説明する面談を行い、3回続けてリコールを出したが、誰も応じなかった。初回検査時の1117歯のうち67歯(6.0%)が失われ、1人あたり年間0.29歯。予後絶望の51歯を除いた調整後は4.7%、1人あたり年間0.22歯だった。同じ著者らの報告では、治療してメインテナンスを受けた集団が年0.11歯、診断されたが未治療の集団が年0.36歯である。予後別の喪失率は、良好3.0%・疑問37.2%・絶望33.3%。初回に絶望と判定された51歯のうち34歯は、2回目の検査時にまだ残っていた。初回に根分岐部病変のなかった大臼歯184歯のうち31%が新たに分岐部病変を生じ、すでに病変のあった84歯のうち22.6%が悪化した。プロービングデプスの平均は3.79mmから3.92mmへ変化したが有意差はなく(P>0.05)、6300部位のうち7mm以上は155部位(2.5%)から333部位(5.3%)へ増えた。骨スコアは10.5から10.85へ有意に悪化した(P<0.01)。著者らの結論は「メインテナンスを欠いた歯周治療は、未治療集団と比べれば進行を遅らせるように見えるが、歯周の健康を回復させるという点ではほとんど価値がない」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


