ペリオ|Phase2 歯周外科
同じ患者の口の中で、片側にエムドゲイン、対側にプラセボ。術式も術者も同じにして3年間追いました。1997年のこの試験でいちばん印象的なのは、テスト側の骨が「増え続けた」のに対し、プラセボ側は最初から最後までベースラインのままだった、という時間の形です。
①歯根が作られるときを、まねる
本当の意味での歯周組織再生とは、失われた支持組織——象牙質面に付着する新生無細胞セメント質、機能的に配向したコラーゲン線維が挿入する新しい歯根膜、そして歯根膜に付着する新しい歯槽骨——を取り戻す治癒を指します。
1980年代終わりのBowersらの古典的な組織学研究で、ヒトでも再生外科の後に再生が起こりうることは示されていました。ただ完全で予知性のある真の再生は、なお到達しにくい目標でした。
GTRは有望でしたが、下顎大臼歯の頬側II度根分岐部以外の欠損、そして3壁性の骨縁下欠損における臨床効果と予知性は、まだ対照試験で十分に検証されていないという段階。当時の再生法には、予知性・有効性・使いやすさが不足していたのです。
そこで別の道が探られます。歯根と歯周組織が最初に作られるときのプロセスを、まねること。
形態学的研究から、エナメル器の延長であるヘルトビッヒ上皮鞘の細胞には分泌期があり、エナメル関連のマトリックスタンパクが根面に一時的に沈着することが分かっていました。これは無細胞セメント質の形成に不可欠なステップと考えられます。しかも根面近くの細胞は、無細胞セメント質だけでなく、それに付随する歯根膜と歯槽骨をも形成せよ、というメッセージを運んでいるらしい。
この発見が、エナメルマトリックスデリバティブ(EMDOGAIN)による再生療法の基本コンセプトになりました。
②同じ口の中に、テストとプラセボを置く
プラセボ対照・ランダム化・多施設・スプリットマウスという設計です。
組み入れ条件は、同じ顎内に適切に離れた隣接面の2部位(=2回の別々の手術を要する位置)があり、ポケット深さ6mm以上、根尖X線で深さ4mm以上・幅2mm以上の骨縁下欠損があること。1か月以上の管理下口腔衛生の後に判定しています。
33名(男性7名・女性26名、平均48歳・33〜68歳)が組み入れられ、34組の手術が行われました(1名は4部位を提供)。
デザインの条件として、①主に1壁性・2壁性の欠損のみを含め、3壁性主体は含めない ②テストと対照の割り付けはランダムで、すべての計測は同一の盲検化・訓練された検者が行う ③テストと対照は同じ手術セッション内で処置する ④術後管理は創の安定と感染管理に向ける——が定められました。
術式は両側とも修正Widmanフラップ。肉芽組織とポケット上皮を除去し、根面を洗浄したのち37%リン酸で15秒以内エッチングしてスミヤー層を除去。テスト側にはEMDOGAINを、対照側にはビヒクル(プロピレングリコールアルギネート)を、露出根面全体に塗布してフラップを縫合します。
術後は全身投与のドキシサイクリン3週(初日200mg、以後100mg/日)、0.2%クロルヘキシジン洗口4〜6週、術野の機械的清掃は6週間禁止。再評価は8・16・36か月で、すべて同じ盲検化された検者が行いました。
術中に計測した欠損の深さは、テスト4.8±1.5mm、対照5.0±1.4mm。ポケット深さ・アタッチメントレベル・X線骨レベルのいずれも、ベースラインで両群に有意差はありません。
ただしひとつ、注意すべき不均衡があります。優勢な欠損型を見ると、EMD側は1壁性17・2壁性17だったのに対し、対照側は1壁性11・2壁性23——対照側に2壁性が2倍近く多い(p<0.06の傾向)。2壁性のほうが条件としては有利なので、この偏りはEMD側に不利に働く方向です。
なお、ベースラインで16名(48%)が現喫煙者、13名が元喫煙者でした。
③ポケットと付着は、一貫して上回る
ポケット深さは、両側ともベースラインで7.8mm。8か月時点の減少はEMD 3.3mm対プラセボ2.6mm(p<0.01・34組すべて)。16か月でも3.3mm対2.6mm(p<0.01)。36か月では3.1mm対2.3mm(p<0.001)。
臨床的アタッチメント獲得は、8か月2.1mm対1.5mm(p<0.01・33名31組)、16か月2.3mm対1.7mm(p<0.01)、36か月2.2mm対1.7mm(p<0.01)。
平均値の差は0.5〜0.6mmと控えめですが、個別のデータを見ると分布が違います。
16か月時点で2mmを超えるアタッチメント獲得を示したのは、EMD側31部位中18部位(58%)に対し、プラセボ側は8部位(25%)。36か月では27組中、EMD側15部位(56%)、プラセボ側9部位(33%)でした。
④骨は増え続け、プラセボは止まっていた
この研究のいちばんの見どころが、X線上の骨の時間変化です。
EMD側は、8か月で+0.9mm(初期骨喪失の13%)、16か月で+2.2mm(31%)、36か月で+2.6mm(36%)と増え続けました。対してプラセボ側は、8か月-0.1mm(-2%)、16か月-0.2mm(-4%)、36か月0mm(0%)——3年間ベースラインのままです。
差はいずれの時点でも有意(8か月p<0.01、16か月・36か月p<0.001)。36か月のEMD側の骨獲得2.6mmは、もとの骨縁下欠損の66%の充填に相当します。
予知性の観点でも差が出ました。
16か月時点で「初期骨喪失の20%を超える骨獲得」を示したのは、EMD側31部位中23部位(74%)。プラセボ側は0部位です。
36か月時点では、EMD側27部位中25部位が骨を獲得、2部位が変化なし。プラセボ側は13部位でわずかな獲得、4部位が変化なし、10部位で正味の骨喪失。骨獲得の予知性はEMD側93%に対しプラセボ側48%でした。
そして、36か月の試験期間中にX線上の骨を失ったEMD部位はひとつもありません。対してプラセボ側は37%の部位が骨を失いました。
骨の獲得量は、上顎と下顎、1壁性と2壁性、喫煙者と非喫煙者のあいだで違いがありました(下顎・2壁性・非喫煙者でより良好)。ただし「同一患者内でのテスト部位と対照部位の差」として計算したEMDの効果そのものは、顎・欠損型・喫煙習慣に依存しませんでした。
プロービング時出血と局所プラークスコアは、いずれも全期間を通じて10%以下に維持され、両群間に差はありません。
⑤「臨床的に意味がある差」とは何か
0.5〜0.6mmという差を、どう受け取るか。著者らはこの問いに正面から答えています。
「統計的には0.01水準で有意な差がある。しかし、その改善がどの程度なら臨床的に有意な差を構成するのかは議論の対象であり、我々の知る限り、この点を具体的に扱ったガイドラインは発行されていない」。
そこで著者らはアメリカ歯科医師会(ADA)が提案したガイドラインを引き、こう提案します。「絶対的な基準(”何mm”)に生物学的な根拠を与えられない以上、最小限の臨床的意義は、対照手技単独の効果に対する割合(fraction)として表すのが最善である」。
この物差しで本研究を見ると、EMD併用による上乗せは、16か月でアタッチメントレベル35%・X線骨31%、36か月でアタッチメント30%・X線骨36%。著者らは「この大きさの割合——対照手技単独の効果を1/3上回る改善——は、外科手技を対照とした場合に臨床的に有意な改善を構成する」と提案しています。
また、X線骨の時間変化そのものが興味深い観察だと述べています。対照部位は各時点で骨をさらに失っていったのに対し、テスト部位は時間とともに骨を増やし続けた——これは、付着装置が十分な機能的能力をもって再形成された場合、長期にわたって歯槽骨が増え続ける可能性を示している、と。
⑥明日の臨床へ
①評価を8か月で打ち切らない。 8か月時点のX線骨獲得は0.9mm(13%)でした。2.6mm(36%)に達したのは36か月。EMDの効果判定を短期で行うと、過小評価します。
②「失わない」という価値を見る。 平均値の差は0.5〜0.6mmですが、プラセボ側では37%の部位が骨を失い、EMD側ではゼロでした。期待値より、下振れの小ささのほうが臨床では効くことがあります。
③1壁性・2壁性でも適用範囲に入る。 この研究は3壁性主体の欠損を意図的に除外しています。再生に不利とされる形態でこの結果——ここは押さえておきたい点です。
④術後管理が結果の一部である。 ドキシサイクリン3週、クロルヘキシジン4〜6週、6週間の機械的清掃禁止。この「創の安定」の条件込みの数字だと理解しておく必要があります。
今日のひとこと
修正Widmanフラップにエナメルマトリックスデリバティブ(EMDOGAIN)を併用した効果を、同一患者内でプラセボ(ビヒクルのみ)と比べたランダム化多施設試験(33名・34組の対応部位。組み入れはポケット深さ6mm以上かつX線上で深さ4mm以上・幅2mm以上の骨縁下欠損で、主に1壁性・2壁性のみ(3壁性主体は除外))。ポケット減少は8か月でEMD 3.3mm対プラセボ2.6mm、16か月で3.3mm対2.6mm、36か月で3.1mm対2.3mm(いずれも有意)。臨床的アタッチメント獲得は8か月2.1mm対1.5mm、16か月2.3mm対1.7mm、36か月2.2mm対1.7mm(いずれもp<0.01)。差がはっきり出たのはX線上の骨で、EMD側は8か月+0.9mm(初期骨喪失の13%)→16か月+2.2mm(31%)→36か月+2.6mm(36%)と増え続け、プラセボ側は-0.1mm→-0.2mm→0mmとベースラインのままでした。36か月のEMD側の骨獲得2.6mmは、欠損の66%の充填に相当。16か月時点で初期骨喪失の20%を超える骨獲得を示したのは、EMD側31部位中23部位(74%)に対し、プラセボ側は0部位。36か月の試験期間中、X線上の骨を失ったEMD部位は0(プラセボは37%が喪失)。重篤な有害事象はありませんでした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


