ペリオ|Phase2 歯周外科
7mmのポケットを一度は浅くできても、数年で元に戻るのではないか——1979年、ミシガン大学のKnowlesらは8年分のデータでこの問いに答えました。面白いのは、彼らが自分たちの過去の報告を「読み方が間違っていた」と振り返っている点です。全部位の平均には、大量の浅い溝が混ざっていたのです。
①「深いポケットは、どうせまた戻る」は本当か
歯周治療を始めるとき、頭の片隅にこの不安がよぎることはないでしょうか。7mmのポケットを一度は浅くできても、数年で元に戻るのではないか。だとすれば、その手術に意味はあるのか——。
1979年、ミシガン大学のKnowlesらは、この問いに8年分のデータで答えました。面白いのは、彼らが自分たちの過去の報告を「読み方が間違っていた」と振り返っている点です。それまでの論文は、全部位の平均値で結果を出していました。ところが実際には、頬側の「ポケット」の85%は1〜3mmの浅い溝だったのです。
浅い溝は治療後にむしろ深くなり、付着を失う。その大量の浅い溝を平均に混ぜると、少数の真のポケットで起きた良い変化がすっかり覆い隠されてしまう——そこで著者らは、初期のポケット深さ別にデータを解きほぐしたのです。
②同じ口の左右に、3つの術式を割り付ける
初期治療(スケーリング・ルートプレーニング・口腔衛生指導・咬合調整)を終えたあと、全患者の左右の口腔をランダムに3つの術式のいずれかで治療しました。①縁下キュレッタージュ ②改良ウィドマンフラップ ③ポケット除去手術の3つです。
その後は3か月ごとに歯科衛生士によるプロフェッショナルケア、年1回は歯周病専門医による測定。1年目の報告に含まれたのは78名1974歯(1人あたり約25歯)で、5年後72名、6年後64名、8年後は43名1038歯となりました。
データは、初期のポケット深さで3つに分けられています。クラスI=1〜3mm(病的なポケットではない)、クラスII=4〜6mm(中等度の歯周炎)、クラスIII=7〜12mm(重度の歯周炎)。
③深いポケットほど、大きく減って、そのまま
ポケット減少の大きさは、初期のポケット深さと正の関係にありました。もっとも深いポケットで、もっとも大きく減る。しかも1年後に得られた減少は、8年後までほぼそのまま維持されています(1年目から4年目にかけて0.5mm程度の戻りがあるものの、4年目から8年目は変化なし)。
4mm以上のポケットは8年後も有意に浅いままで、おおむね3〜4mmの範囲に収まりました。クラス別に見ると、深いポケット(7〜12mm)で約4mmの持続的な減少、中等度(4〜6mm)ではそれより小さいものの、やはり有意な減少が保たれています。ポケットのない部位(1〜3mm)には、8年を通じて有意な変化がありませんでした。
アタッチメントについても、同じ形の関係が現れます。5mm以上のポケットでは初期から持続的な獲得があり、しかも深いポケットのほうが中等度より有意に大きく獲得しました。
一方、1〜3mmの浅い溝では、初期から持続的な有意の喪失が起きています(ただし8年間で1mm未満)。著者らはこの喪失に、はっきりした説明を与えています。①隣接するポケットへ到達するために、これらの浅い部位を手術に巻き込まざるを得なかったこと、②統計上の「平均への回帰」——この採点法ではポケット深さゼロがほぼ記録されないため、1mmの溝は誤差では浅くなりようがなく、深くなる方向にしか動けないのです。
④3つの術式に、決定的な差はあったか
中等度のポケット(4〜6mm)では、キュレッタージュのポケット減少が他の2術式より有意に小さくなりました(改良ウィドマンとポケット除去手術は区別がつかない)。ただし3術式とも、8年にわたって有意な減少を保っています。
ところが、付着の維持で見ると景色が変わります。3術式とも術後3年までは有意な獲得を示しましたが、8年を通じて有意な獲得が持続したのは、キュレッタージュと改良ウィドマンフラップだけでした(ポケット除去手術は後半5年で有意でなくなっています)。著者らはここから、「ポケット減少の大きさは、必ずしも歯の支持組織の維持に直結しない」と述べています。
深いポケット(7〜12mm)では、改良ウィドマンフラップとポケット除去手術が同等に有効で、キュレッタージュがわずかに劣りました(差が有意だったのは8時点中2時点のみ)。付着の獲得については、改良ウィドマンフラップが一貫して他の2つを上回っています。
浅い溝(1〜3mm)では、ポケット除去手術のあとにキュレッタージュより有意に大きい付着の喪失が見られました。著者らの結論は明快です。「1〜3mmの溝には外科をしない、あるいはポケット除去手術に巻き込まないようにする」。
⑤明日の臨床へ
①「深いポケットはまた戻る」を前提に治療計画を縮めない。 8年のデータは逆を示しています。しかも、もっとも深いところがもっとも大きく改善しました。
②浅い溝を手術に巻き込む代償を知っておく。 失うのは8年で1mm未満、しかも喪失は主に術後1年目に集中しており、長期予後を損なうものではないと著者らは述べています。それでも、避けられるなら避けたい。
③「どの術式か」より「維持できるか」。 3術式のいずれも、8年にわたって歯周支持を維持しました。これは3か月ごとのリコールという前提の上に成り立った結果です。
④論文を読むときは、平均に何が混ざっているかを見る。 この論文がいちばん教えてくれるのは、この読み方かもしれません。浅い溝を含む全部位の平均と、真のポケットだけの平均は、比較できない——著者らはそう強調しています。
今日のひとこと
初期治療の後、左右の口腔をランダムに縁下キュレッタージュ/改良ウィドマンフラップ/ポケット除去手術のいずれかで治療し、3か月ごとのリコールで8年追跡した縦断研究(1年目78名1974歯、8年時点で43名1038歯)。従来の報告が全部位の平均で結果を出していたのに対し、本研究は初期ポケット深さ別にデータを解きほぐしました(頬側の「ポケット」の85%は実際には1〜3mmの浅い溝であり、その大量の浅い溝が真のポケットの改善を覆い隠していた)。結果、ポケット減少の大きさは初期のポケット深さと正の関係にあり、7〜12mmの深いポケットでは約4mmの減少が8年間持続。4mm以上のポケットは8年後もおおむね3〜4mmの範囲に収まりました。アタッチメントも5mm以上のポケットで持続的に獲得され、深いポケットのほうが中等度より有意に大きく獲得。一方1〜3mmの浅い溝では8年で1mm未満の有意な喪失が生じ、著者らはこれを手術への巻き込みと統計上の平均への回帰で説明しています。初期の深さが同じなら、頬側・舌側・近心・遠心のどの面でも治療後の変化は変わりませんでした。術式では、中等度のポケットでキュレッタージュのポケット減少が他2術式より小さく、8年を通じた付着の獲得が有意に持続したのはキュレッタージュと改良ウィドマンフラップのみ(ポケット除去手術は後半5年で有意でない)。深いポケットの付着獲得では改良ウィドマンフラップが一貫して優れていました。著者らは「ポケット減少の大きさは必ずしも歯の支持組織の維持に直結しない」と述べています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


