ペリオ|Phase2 歯周外科
どの縫合糸を使うか。多くの場合、手に馴染むか、結びやすいか、いくらか——そういう理由で選んでいます。2005年、Leknesらは12人の口の中にシルクとePTFEを実際に留置し、7日後と10日後に組織ごと採って顕微鏡で見ました。糸の周りで何が起きているかを、直接見た研究です。
①縫合糸は、何を基準に選んでいるか
外科処置には、離開した組織を近接・固定して治癒へ導く材料が必要です。理想を言えば、生体適合性があり、治癒の重要な時期に十分な強度を保ち、組織反応が最小であること。
ところが著者らは、冒頭でこう書いています——「ある臨床状況に対する縫合材料の選択は、現在のところ、客観的な生物学的あるいは科学的データ以外の考慮に基づいて行われることがほとんどである」。
手に馴染むか。結びやすいか。ほどけにくいか。いくらか。私たちの選び方は、たいていそこにあります。
創の治癒は、炎症期(早期・後期)から肉芽・基質形成期、そして再構築期へと進みます。炎症期は急性の局所免疫反応が主役で、縫合による外傷が望ましくない腫脹と、それに続く糸の断裂を招くことも臨床的に知られています。そして糸そのものが、その炎症の一部になりうる。
②手術の前に糸を置いて、当日に採る
設計が独特です。上顎小臼歯・大臼歯部に両側性の歯周欠損があり、切除療法が予定されていた患者12名が対象。
手術の10日前に、左右の象限へそれぞれePTFE(CV-5)とシルク(4-0)の単純結節縫合を1本ずつ挿入。さらに手術の7日前に、2組目の縫合糸を挿入します。つまり、手術当日に「留置から10日経った糸」と「7日経った糸」の両方が、同じ口の中に存在することになります。
留置の直後に、組織に埋まった糸の長さ(tissue bite)と、縫合ループの緩み(slack)を測定して記録。手術当日に同じ測定を繰り返します。
そして手術当日、縫合ループと周囲組織を含めて生検し、組織学的に分析。評価項目は、糸周囲上皮の厚み、結合組織の炎症性浸潤の直径、炎症細胞と上皮細胞の比率、そして縫合糸の通路に沿った細菌プラークの有無です。
同じ患者の左右で比べるため、全身状態や口腔衛生の個人差は打ち消されます。
③糸の周りに、細菌がいる
最もはっきり差が出たのが、細菌でした。
7日の時点で、細菌プラークが検出されたのは、シルク11本中10本、ePTFE 11本中4本。10日では、シルク10本中8本、ePTFE 11本中4本。
編組されたシルクは、繊維の間に細菌が入り込みうる構造をしています。モノフィラメントのePTFEにはその隙間がありません。「湿潤で感染の可能性がある環境」という著者らの表現は、口の中そのものです。
7日でも10日でもePTFEが4本のまま変わらないのに対し、シルクは一貫して高い水準——時間が経てば落ち着く、という性質のものではないようです。
④組織の反応も、それに従う
結合組織の炎症性浸潤の直径は、7日でシルク0.21mm対ePTFE 0.11mm、10日で0.24mm対0.15mm。分散分析では、シルク周囲のほうが有意に大きい(p=0.007)という結果でした。
ただし著者らは正直に補足しています——各時点ごとに比べると、7日(p=0.06)も10日(p=0.15)も統計学的な有意差には届いていません。標準偏差が大きく、標本数が少ないことが理由だろうと述べられています。個体差の幅は、シルクで0.03〜0.56mm、ePTFEで0.04〜0.40mm——同じ材料でも人によって大きく違うのです。
糸周囲上皮の厚みは、両材料とも7日から10日にかけて有意に増加しました。上皮が糸の通路に沿って入り込んでいく(epithelial ingrowth)現象は、7日の標本でほぼすべての切片において既にかなり進行していました。材料にかかわらず、です。
炎症細胞と上皮細胞の比率は、シルクで高い傾向はあったものの、群間の有意差はありません(p=0.43)。一方、7日から10日にかけての増加は有意(p=0.018)で、それを説明していたのはePTFE群の変化(p=0.05)でした。
そして縫合ループの緩み。7日の時点でシルクの緩みはePTFEより有意に大きく(p=0.02)、10日では有意差なし(p=0.21)。「tissue bite」の変化もシルクのほうが大きいものの、こちらは有意ではありません(p=0.43)。
⑤明日の臨床へ
1つ目。感染が気になる部位では、モノフィラメントを選ぶ理由がある。 細菌プラークの検出は、シルクで10/11、ePTFEで4/11。再生療法や、創を確実に閉じたい部位では、糸そのものを細菌の足場にしないという視点が効いてきます。
2つ目。抜糸のタイミングを、材料と結びつけて考える。 7日の時点でシルクは既に緩んでおり、細菌も入り込んでいます。置いておく期間が長いほど不利になる材料と、そうでない材料があるということです。
3つ目。「糸を置く」こと自体のコストを認識する。 どちらの材料でも、上皮は糸の通路に沿って入り込み、炎症性浸潤が生じました。必要最小限の本数で、必要な期間だけ——この原則の裏づけになります。
4つ目。それでも、扱いやすさを完全に無視はできない。 結びにくい糸で緩んだ結紮になれば、本末転倒です。この研究が示したのは「材料によって組織反応が変わる」という事実であって、「常にePTFEを使え」ではありません。
今日のひとこと
上顎小臼歯・大臼歯部に両側性の歯周欠損があり、切除療法が予定されていた患者12名を対象に、手術の10日前と7日前に、左右の象限へそれぞれePTFE(CV-5)とシルク(4-0)の単純結節縫合を1本ずつ留置。手術当日に縫合ループと周囲組織ごと生検して、組織学的に分析した研究です。7日の時点で、シルクは縫合ループの緩み(slack)がePTFEより有意に大きく(p=0.02)、10日では有意差なし(p=0.21)。糸周囲上皮の厚みは、両材料とも7日から10日にかけて有意に増加しました。結合組織の炎症性浸潤の直径は、シルク周囲で全体として有意に大きい(p=0.007)——7日でシルク0.21mm対ePTFE 0.11mm、10日で0.24mm対0.15mm。そして最も差がはっきりしたのが細菌です。縫合糸の通路に細菌プラークが検出されたのは、7日でシルク11本中10本・ePTFE 11本中4本、10日でシルク10本中8本・ePTFE 11本中4本。著者らの結論は「歯肉組織への縫合糸の留置は炎症反応を惹起し、その大きさは用いる縫合材料によって変わりうる。編組されたシルクの縫合糸は、湿潤で感染の可能性がある環境において、より広範な炎症性組織反応を引き起こすようである」というものです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


