ペリオ|Phase1 初期治療
デンタルに深い垂直性の骨欠損を見つけたとき、頭の中には「再生療法」の四文字が浮かびます。実際それが標準的な選択肢です。ただ、費用・侵襲・患者さんの都合で外科に進めない症例も少なくありません。Nibaliらは、その「進めなかった」症例を5年間追いかけました。21歯すべてが、残っていました。
①「骨欠損=外科」は、どこまで正しいか
未治療の垂直性骨欠損を持つ歯は、進行と喪失のリスクが高い——これは1991年のPapapanouらの報告以来、繰り返し確認されてきた事実です。だから私たちは、デンタルに深い骨欠損を見つけると、再生療法をはじめとする外科的なアプローチを考えます。
いっぽうで、ここ十数年、外科の側も「低侵襲」へと舵を切ってきました。MIST、M-MIST、シングルフラップアプローチ——切開を小さくし、乳頭を温存し、拡大視野で丁寧に扱うほど治癒が良いという発見が積み重なったからです。
ならば、その原理を非外科に持ち込んだらどうなるか。それがMINST(minimally invasive non-surgical therapy/低侵襲非外科的歯周治療)です。フラップを開けず、拡大鏡下で、細い器具を使い、歯肉をできるだけ傷めずに縁下を徹底的に清掃する。この方法で骨欠損が改善したという報告は2011年・2015年に出ていましたが、12か月より先のデータが無かった——それが、この研究の出発点です。
②14人・21か所を、5年追いかけた
もとになったのは、2015年に報告された22名・35欠損の12か月研究。そのうち5年後の来院まで揃った14名・21欠損が、この論文の対象です。
組み入れ条件は明確です。非喫煙者(または2年以上前に禁煙)、慢性歯周炎で5mm以上のポケットと付着喪失があり、X線的な骨欠損の垂直成分が3mm以上、分岐部病変ではない、歯内療法を要する歯周-歯内病変ではない。治療前の平均は、ポケット7.0mm・付着レベル7.6mm・骨欠損深さ5.8mm・欠損角度32.2°という、なかなか手強い条件です。
治療はすべて同一の術者(著者の1人)が行いました。3.4倍の拡大鏡を使い、細身の超音波チップとGraceyミニキュレット(after fiveやミクロミニ)で、局所麻酔下で縁下デブライドメント。抗菌薬などの補助療法は一切なしです。
その後は12か月まで3か月ごとのメインテナンス、以降は3〜6か月ごと。再評価は治療1年後と5年後で、X線も同じ手法で撮り直して比較しています。
③結果:1年で得たものが、5年後も残っていた
5年間で失われた歯は、ひとつもありませんでした(21歯すべて残存)。
数値の動きはこうです。ポケット深さ 7.0mm → 4.0mm(1年)→ 3.4mm(5年)。臨床的付着レベル 7.6mm → 4.6mm → 4.1mm。最も深い部位の付着レベル(worst CAL)でも 8.4mm → 5.1mm → 4.6mm。X線的な骨欠損深さ 5.8mm → 3.5mm → 3.2mm。いずれも治療前との比較でp<0.001です。
臨床的にありがたいのは、歯肉退縮がほとんど増えていないことです。0.6mm → 0.6mm(1年)→ 0.7mm(5年)。外科であれば避けにくい「治療後に長くなった歯」が、ここでは起きていません。前歯部で悩ましくなる問題が、そもそも生じない術式だということです。
さらに、治療前に動揺度1だった5歯は、フォローアップ時にはいずれも動揺が消えていました。
④骨は、1年より先でも変わり続けていた
欠損深さの減少率は、1年で34.5%、5年で46.8%。1年と5年のあいだの差は統計学的に有意ではありませんが、方向としては改善が続いています。「1年で得た分を、あとの4年で取り崩さなかった」どころか、少しずつ足していたということです。
X線で起きていたことは、もう少し細かく記述されています。欠損の角度は32.2° → 44.1° → 44.2°へと広がり、縁上の骨成分(CEJから骨頂まで)は1.9mm → 2.4mm → 2.7mmへ増えました。欠損の底が浅くなり、角度が開いていく——骨のリモデリングが起きているサインだと著者らは読んでいます。
どんな欠損がよく治ったのかも解析されました。統計的に関連したのは2つだけです。初期の欠損が深いほど、5年後の欠損深さの減少が大きい(p<0.001)。そして、欠損の角度が狭いほど、減少が大きい(p=0.017)。年齢・性別・歯種(大臼歯か前歯か)・過去の歯内療法の有無は、どれも関係していませんでした。
深くて狭い欠損ほどよく治る——これは外科的再生療法でよく知られている法則と、まったく同じ形です。著者らは「治癒のメカニズムは、単一フラップや低侵襲外科の後に起こることと、ある程度まで同じかもしれない」と考察しています。内視鏡下の非外科治療の後に、抜去歯で新生骨の組織学的所見が報告されていることも根拠として挙げられています。
⑤明日の臨床へ
1つ目。骨欠損を見た瞬間に「外科」と決めなくてよい。 初期治療を丁寧にやり切ったうえで再評価するという順番に、5年の裏付けが1つ増えました。この研究の21欠損は「外科の良い適応だったが、戦略的・経済的・患者さんの希望といった理由で外科に進まなかった」症例です。それでも、この結果でした。
2つ目。ただし「普通のSRP」とは道具立てが違う。 3.4倍の拡大鏡、細身の超音波チップ、ミニキュレット、局所麻酔。歯肉を傷めないことに全神経を使うのがMINSTの中身です。ここを飛ばして同じ結果を期待するのは、たぶん筋が違います。著者ら自身、「MINSTの学習曲線はまだ明らかでない」と書いています。
3つ目。5年もったのはメインテナンスが続いたから。 全員が3〜6か月ごとの管理下にありました。著者らは「SPTが無くても同じ安定が得られるかは分からない」と明記しています。治療の型より、通い続ける設計のほうが効いている可能性は常に頭に置いておきたいところです。
4つ目。再評価で残る部位は、必ずある。 12か月時点で21か所中4か所に5mm超のポケットとBOPが残り、5年後でも2か所(同一患者)が残っています。「非外科で全部いける」ではなく、「多くは非外科で片づき、残った少数に外科を集中できる」——そういう順番の話として読むのが誠実だと思います。
今日のひとこと
非喫煙の慢性歯周炎患者14名・21か所の垂直性骨欠損を、MINST(低侵襲非外科的歯周治療)——3.4倍の拡大鏡下で、細い超音波チップとGraceyミニキュレットを使い、歯肉をできるだけ傷めずに縁下を清掃する術式——で治療し、その後3〜6か月ごとのメインテナンスを続けて5年後に再評価した研究。5年間で失われた歯はゼロ(21歯すべて残存)。ポケット深さは7.0mm→4.0mm(1年)→3.4mm(5年)、臨床的付着レベルは7.6mm→4.6mm→4.1mm、X線的な骨欠損深さは5.8mm→3.5mm→3.2mm(いずれも治療前との比較でp<0.001)。欠損深さの減少率は1年で34.5%、5年で46.8%と、1年から5年にかけてさらに改善しています。歯肉退縮は5年でも0.1mmしか増えていません。どんな欠損がよく治ったかも解析されており、初期の欠損が深いほど、そして欠損の角度が狭いほど、5年後の欠損深さの減少が大きい(p<0.001/p=0.017)という関係が出ました。12か月時点で5mmを超えるポケットとBOPが残っていたのは21か所中4か所、5年後には2か所(同一患者)まで減っています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


