ペリオ|Phase1 初期治療
初期治療のあとの再評価。深いポケットは狙いどおり改善したのに、もともと浅かった部位のアタッチメントがわずかに下がっている——見覚えのある光景だと思います。1986年、その「浅い部位のロス」がどこで起きているのかを、歯肉の厚みと出血の有無で切り分けた研究があります。
①「深い所は良くなる、浅い所は下がる」の正体
非外科的な歯周治療の効果には、よく知られた法則があります。中等度から深いポケットではアタッチメントの獲得が得られる一方、浅い部位はむしろ喪失を示す傾向がある——1980年代前半の複数の研究が、そろってこれを報告していました。
Lindhe らはここから「クリティカル・プロービング・デプス」という考え方を出しています。この深さより浅いと、非外科治療はアタッチメント喪失を起こしやすいという境目です。ただし、その基準はポケットの深さという単一の物差しだけでできていました。
著者らの問題意識はここです。浅い部位のなかにも、下がる部位と下がらない部位があるのではないか。 そしてその差は、深さではなく歯肉のかたち(厚み)と、炎症の有無(出血)で説明できるのではないか。この研究は、その仮説を確かめるために設計されました。
②厚みを、針金で測る
対象は中等度〜重度に進行した歯周炎をもつ15名(平均34.7歳)。歯周治療を受けたことがなく、全身的な問題もない人たちです。上下の切歯・犬歯・小臼歯を調べました。
治療は1週間あけた2回のセッション。1回目に変法バス法とフロスの口腔衛生指導、2回目に同じ指導+1回きりの歯肉縁上・縁下の器具操作(局所麻酔下で超音波スケーラーと手用キュレット、同一術者、歯面が臨床的に沈着物なく滑沢になるまで)。1週間後に指導を再強化し、そこから3か月間は一切追加の器具操作をしていません。
面白いのは歯肉の厚みの測り方です。長さ5mm・直径0.4mmのステンレス鋼線を1mm刻みで目盛り、片端を尖らせて軟組織を刺せるようにし、もう片端をプローブの柄に溶接した自作の器具を作りました。歯肉縁から2mm根尖側の中央頬側に、根面と垂直に刺して厚みを読む。1.5mm以下を「薄い」、2.0mm以上を「厚い」と分けています。
アタッチメントレベルとポケットは、アクリルステントを基準に0.50Nの圧力センサー付きプローブ(先端0.4mm)で1歯6点、0.5mm単位で記録。出血の有無とプラークも同時に記録し、すべて同一検者が担当しました。
③まず、全体の絵を見る
全部位(1,524部位)では、プラークが75%→24%、出血が59%→26%。1回のデブライドメントと指導だけで、ここまでは動きます。
変化量を初期ポケット深さ別に並べると、教科書どおりの絵になりました。1.0〜3.5mm:ポケット0.2mm減、アタッチメント0.1mm喪失、退縮0.3mm。4.0〜6.5mm:ポケット1.3mm減、アタッチメント0.5mm獲得、退縮0.8mm。7.0mm以上:ポケット2.4mm減、アタッチメント1.4mm獲得、退縮1.0mm。
つまり深い部位ほど得をして、浅い部位だけがわずかに損をしている。ここまでは既知の話です。問題は、その「損」が浅い部位のどこで起きているのか。
④浅い部位を、4つに割る
ここからが本題です。頬側で初期ポケットが3.5mm以下の215部位を、歯肉の厚み(薄い1.5mm以下/厚い2.0mm以上)×出血の有無で4群に分けました。
平均のアタッチメント変化はこうです。薄い×出血なし(93部位)は0.3mmの喪失。薄い×出血あり(44部位)は0.1mmの獲得、厚い×出血あり(39部位)は0.2mmの獲得、厚い×出血なし(39部位)は0.1mmの喪失。薄い×出血なしの喪失は、出血していた2群(薄い・厚い)のいずれとも有意に違いました(p<0.05)。厚い×出血なしとの差は有意ではありません。
ポケットの減少でも同じ群が浮きます。薄い×出血なしだけがポケットの減少0.0mmで、他の3群とは有意に異なりました(p<0.05)。他の3群はいずれもポケットが減っています。
部位ごとの内訳(グラフ)を見ると、印象はさらにはっきりします。1mm以上のアタッチメント喪失を起こした部位の割合は、薄い×出血なしが28%で最多。逆に1mm以上の獲得を得た割合は、薄い×出血なしが7%で最少でした。出血していた群は、薄くても厚くても2割前後が1mm以上の獲得を示しています。なお2.0mmを超える喪失も獲得も、1部位も出ていません——動く幅そのものは小さい世界です。
初期ポケット2.0mmの部位だけに絞った解析(70部位)でも、同じ傾向が再現されました。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「浅い=触らなくていい」ではなく「浅くて健康なら触りすぎない」。 下がっていたのは、薄くて出血していない部位——つまりもともと治すべき炎症がなかった場所です。そこに器具を入れれば、得るものはなく、失うものだけがある。全顎一律のSRPを設計するときに、この群だけは思い出したいところです。
2つ目。出血は「悪い知らせ」ではなく「伸びしろ」。 出血している部位は、薄くても厚くても獲得方向に動きました。炎症があるということは、腫れが引けば戻る余地があるということです。再評価でBOPが減った部位のアタッチメントを見るときの、目盛りが変わります。
3つ目。厚みを、指と目で意識する。 針金で測るのは現実的ではありませんが、プローブを入れたときの透け具合で薄い歯肉はおおよそ分かります。薄い・退縮しやすい・出血していない前歯部の頬側——ここが最も「下がりやすい」プロファイルだと知っておくだけで、器具の当て方も、患者さんへの説明も変わります。
今日のひとこと
中等度〜重度の歯周炎をもつ15名(平均34.7歳)に、ブラッシング指導と1回きりの歯肉縁上・縁下デブライドメントを行い、3か月後に評価しました。全1,524部位ではプラークが75%→24%、出血が59%→26%に減り、初期ポケットが深いほどポケットは減り、アタッチメントも増えました(1.0〜3.5mm:ポケット0.2mm減・アタッチメント0.1mm喪失/4.0〜6.5mm:1.3mm減・0.5mm獲得/7.0mm以上:2.4mm減・1.4mm獲得)。問題は浅い部位です。頬側の浅い部位(3.5mm以下)を歯肉の厚みと出血で4つに分けると、平均アタッチメント変化は「薄い(1.5mm以下)×出血なし」だけが0.3mmの喪失で、他の3群と有意に違いました。1mm以上のロスを起こした部位の割合も、薄い×出血なしが28%で最多。逆に出血していた部位は、薄くても厚くても獲得の方向でした。著者らは「治療後によく見られる浅い部位の平均アタッチメント喪失は、主として浅く・薄く・健康な領域の変化によるものかもしれない」と結んでいます。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


