ペリオ|Phase1 初期治療
O’LearyのPCRで「10%以下を目指しましょう」と伝えます。ですが、その目標に実際どれくらいの人が届くのか。何回の指導が必要なのか。そして、最後まで磨けないのはどこなのか。1986年、鶴見大学のグループが156名の指導記録を全部並べて数えました。日本語で書かれた、きわめて実務的な一本です。
①「10%以下を目指しましょう」と言ったあと
初期治療で、O’LearyのPCR(プラークコントロールレコード)を使います。染め出して、記録用紙に印をつけて、割合を出す。そして伝えます。「10%以下を目指しましょう」。
この目標は、O’Leary ら自身が1972年に示したものです。ですが、そのあとに続く実務的な問いには、当時まだ答えがありませんでした。
実際、どれくらいの人がそこに届くのか。何回の指導が必要なのか。どこまで下がったところで、頭打ちになるのか。そして最後まで磨けないのは、口の中のどこなのか。
1986年、鶴見大学のグループが、この4つを156名の指導記録を全部並べて数えるという方法で埋めました。派手さはありませんが、いま読んでも使える数字が並んでいます。
②まず、指導する前の患者を知る
対象は鶴見大学歯学部附属病院の歯周疾患患者156名(男性58名・女性98名、18〜72歳、平均42.2歳)。疾患の程度は歯肉炎15名、P1が93名、P2が39名、P3が9名——比較的軽度から中等度の集団です。
まず記録されたのが、指導を受ける前の患者の実態でした。
ブラッシング法は、スクラッビング法36名(24%)、横磨き32名(22%)、その他30名(21%)、縦磨き27名(18%)、ローリング法23名(15%)。どれかに大きく偏っているわけではありません。
そしてブラッシング時間。最も多かったのは2〜3分の40名(27%)でした。ここで注目すべきは合計です——3分以内が106名(72%)。7割の患者は、3分未満しか磨いていませんでした。
この状態からスタートし、原則として週1回の来院ごとにTBIを行い、その都度プラークスコア・指導回数・ブラッシング法・時間を記録用紙に書き込んでいきます。目標は10%。ブラッシング法は主にスクラッビング法を指導し、デンタルフロスや歯間ブラシは、ある程度ブラッシングに習熟した段階(TBI 3回目以降)から併用させました。
③20%には届く。10%は半分強
プラークスコア20%以下——156名中144名(92.3%)が到達。未達成は12名(7.7%)でした。
プラークスコア10%以下——到達は90名(57.7%)。未達成が66名(42.3%)にのぼります。
目標を10ポイント厳しくすると、届かない人が7.7%から42.3%へ、5倍以上に増える。この落差が、この研究のいちばん大きな発見でしょう。
到達までのTBI回数は、20%まで4.6±2.3回、10%まで5.9±3.0回。この差は0.1%の危険率で有意でした。到達者数の分布を見ると、20%到達はTBI 3回目が最も多く3〜5回目付近に集中、10%到達はTBI 4〜5回目が最多で同じく3〜5回目に集中しています。
興味深いのはブラッシング時間です。20%到達時が8.6±5.8分、10%到達時が9.8±5.7分。この2つに有意差はありませんでした。
そしてもうひとつ。プラークスコアはTBI 8回目まで下がり続け、8回目以降はほぼ平衡状態になりました。指導前の平均が81%という高い値からのスタートですから、8回でおおむね下げきる、その先は伸びにくい、という時間感覚が読み取れます。
④磨けるようになる順番がある
この研究のもうひとつの収穫は、部位別の分析です。口腔全体のプラークスコアを横軸に取り、各部位のスコアを縦軸に取ると、部位ごとに違う曲線が描かれました。
頬側と舌側:舌側はほぼ直線的にしか下がらないのに対し、頬側は下に凸の曲線——つまり口腔全体のスコアがまだ高い(まだ磨けていない)段階でも、頬側だけはよく磨けています。すべてのスコア帯で有意差がありました。
前歯部と臼歯部:前歯部のほうが磨きやすい。しかもスコアが高いうちは差が小さく、低くなるほど差が大きくなって有意になります。つまり全体がきれいになっても、臼歯部だけが取り残されていく。
近心と遠心、そして隣接面:近遠心面のグラフは上に凸——全体のスコアが高いあいだ、隣接面はほとんど磨けていません。全体が下がってきて初めて、隣接面が磨けるようになってきます。近心と遠心では遠心のほうがよく磨けているという結果でした。
まとめると、こういう順序になります。頬側と前歯部が先に磨けるようになり、舌側と臼歯部が遅れて追いつき、隣接面は最後まで残る。
著者らは、この順序を指導の設計に活かすべきだと述べています。最初から隣接部清掃用具を指導すると、肝心のブラッシングを十分に修得できない恐れがある。だから、ある程度習熟した段階——TBI 3回目あるいはプラークスコアが50〜60%になり、唇頬舌口蓋側がほぼ清掃できるようになった段階——で指導するのがよい、と。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「5回前後で届く」と見立てて予定を組む。10%到達に要したTBIは平均5.9回。この数字を持っていると、初期治療の期間設定と、患者への説明が具体的になります。「3〜4回で終わります」でも「10回かかります」でもなく、5〜6回です。
2つ目。8回を過ぎても下がらないなら、やり方を変える。プラークスコアはTBI 8回目で平衡に達しました。同じ指導を9回目、10回目と続けても、この研究では下がっていません。ブラッシング法を変える、清掃用具を変える、あるいは目標そのものを見直す——分岐点として使える数字です。
3つ目。歯間清掃具は「3回目あたり」から足す。早すぎると本体のブラッシングが定着せず、遅すぎると隣接面が残り続ける。プラークスコアが50〜60%まで下がったあたりという具体的な目安が、この論文には書かれています。
そしてもうひとつ。著者らは歯磨剤を原則として使わせない方針を採っています。理由は「除去率に差が認められないうえ、過度の清涼感によってプラークが除去されていないのに除去された錯覚に陥りやすく、プラークコントロールを妨げる恐れがある」から。TBIの初期段階に限っては、いまも通じる考え方でしょう。
今日のひとこと
プラークスコア20%以下には156名中144名(92.3%)が到達しましたが、10%以下に届いたのは90名(57.7%)にとどまりました。到達までのTBI回数は20%まで4.6±2.3回、10%まで5.9±3.0回で、この差は有意(P<0.001)。一方でブラッシング時間は8.6分と9.8分で有意差がなく、増えたのは「回数」だけです。またプラークスコアはTBI 8回目まで下がり続け、それ以降はほぼ平衡状態になりました。部位別では頬側と前歯部が早く磨けるようになり、舌側・臼歯部が遅れ、隣接面は口腔全体がきれいになって初めて磨けてくるという順序が見えています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


