ペリオ|Phase1 初期治療
歯周外科で弁を開ける目的は、根面の細菌沈着に到達することです。ですが開けて直視しても、根分岐部やルートフルーティングにはキュレットが入りません。1987年、Horningらは抜歯予定の歯32本を使い、同じ歯の左右で「粉の噴射」と「手用ルートプレーニング」を比べました。
①開けて直視しても、器具が入らない場所がある
歯周外科で弁を開ける主な理由は、細菌沈着に到達することです。見えないところが見えるようになり、届かないところに届くようになる——そのはずでした。
ですが実際に開けてみると、直視できても器具が入らない場所があります。根分岐部の入口。ルートフルーティング(根面の縦の凹み)。近接した根と根のあいだ。キュレットの刃部は、そこに入る形をしていません。
この論文の冒頭にある一文が、問題の核心を突いています——多くの治療失敗は、外科の後でさえ、不完全にしかルートプレーニングされていない面に起因しているのではないかとしばしば示唆されてきた。とくに根分岐部が関与している場合には。
そこで代替として浮上したのが、加圧した空気・水・炭酸水素ナトリウム系の研磨粒子を細かいスラリーとして吹き付ける装置——エアパウダーアブレイシブでした。1987年、Horningらがこれを歯周外科の場面で検証しています。
②まず抜去歯で、削れる速さを測る
本試験の前に、著者らは抜去歯15本を使った予備実験を行っています。目的は「どれくらいの時間、当てるべきか」を決めることでした。
各歯の隣接面に30mm²の区画を設け、超音波で見える歯石を除去したうえで、20秒・40秒・60秒の噴霧を行い、断面の残存セメント質厚を計測します。
結果は明快でした。20秒で51.1μm、40秒で80.3μm、60秒で91.3μmのセメント質が削られ、局所的に完全除去に至った切片の割合は50%・82%・100%(60秒では75%の切片でセメント質が完全に消失)。10秒あたり平均18.6μmという計算になります。対照のセメント質の厚さは107.6±38.8μmでした。
ここから「大半のセメント質を除去したいが、削りすぎたくない」条件として40秒が選ばれ、本試験の条件になりました。
③同じ歯の左右で比べる
本試験の対象は7名の患者と、抜歯予定の歯周病罹患歯32本。条件は、少なくとも2歯が連続していること、歯石があり5mm以上のポケットがあること、前年にプロフィラキシスを受けていないこと。
設計はスプリットマウスです。各歯の一方の隣接面を粉の噴射、もう一方を手用ルートプレーニングに割り付けました。同じ歯の左右で比べるので、歯そのものの条件差が相殺されます。
全層粘膜骨膜弁を挙上し、まず超音波(ユニバーサルチップ・最大出力)で見える歯石をすべて除去。ここは両側共通です。骨欠損部のフルーティングや根分岐部も、通常の外科と同じように処置対象に含めました。
粉の噴射は40秒。噴霧角度は歯面に対しできる限り90°(実際には最大30°のずれ)、距離1〜3mm、重ねるストロークで。手用ルートプレーニングはグレーシーキュレットで、垂直と水平の重ねるストロークを、「滑沢で硬く、見た目にきれいな面」が得られるまで。平均40.0±13.1ストローク、39.2±14.4秒でした。
抜歯後、25本を染色して残存プラークを評価し、7本をSEM用に準備。評価は3名の独立した評価者(歯周病専門医・口腔病理医・歯科衛生教育者)が、盲検で2回ずつ採点しました。
④どの倍率で見ても、粉のほうがきれいだった
染色による肉眼評価(8倍)では、粉の噴射1.48に対し手用2.10。SEM 200倍では1.34対2.08。SEM 3000倍では1.33対2.40。いずれも統計学的に有意でした(Mann-Whitney U検定)。
実際の見え方も対照的です。粉を当てた面は白く滑らかで、見た目にきれいな面。SEMでも特徴のない平坦な面で、短い亀裂と小さな凹みが見える程度でした。一方、手用でルートプレーニングした面には器具の跡(擦り傷と溝)、器具のストロークに直交する破断線、めくれ上がった象牙質の大きな段差が観察されています。
ただし歯石の除去は、どちらの方法も完璧ではありませんでした。粉の噴射で25面中5面、手用で25面中8面に、少なくとも1つの小さな歯石の斑点が残っていました。
そして重要なのは、細菌はどちらの面からもほぼ完全に消えていたことです。SEMで器具処置面に細菌はほとんど見つからず(1面で数本の桿菌が、それも入念に探した末に見つかっただけ)、一方で未処置面には厚い細菌プラークが残っていました。「汚染された面を清潔にする」という目的においては、どちらの方法も同等に有効だったことになります。
⑤ただし、削れる量は多い
代償はここにありました。セメント質の除去量は、手用ルートプレーニング57.8μmに対し、粉の噴射77.0μm。もとのセメント質の厚さが平均93.8μmですから、粉の噴射では8割以上が削られた計算になります。
局所的に完全除去に至った切片の割合は、手用55%、粉22%。この数字だけ見ると手用のほうが削っているように見えますが、これは手用が「削れる場所は深く削り、届かない場所は削らない」ムラのある削り方をしているのに対し、粉は全体を一様に削っているためだと著者らは説明しています。予備実験でも、ルートプレーニング群は「根面の湾曲が平らにされ、平均値は小さいが完全除去の領域の割合は大きい」と記述されていました。
そして時間の優位性はありませんでした。粉が40秒、手用が39.2秒。ほぼ同じです。ただし術者の主観として「粉のほうが退屈でなく、疲れにくい」とは述べられています。
有害事象はゼロ。患者の多くは「粉が少し塩辛いが、不快というほどではない」と述べました。なお、粉に0.8%まで添加されているリン酸三カルシウム粒子が、噴射でできた溝に残存しているのがSEMで観察されています。ただしこれは吸収性で、骨再生の足場として使われる生体適合性のある物質です。
⑥明日の臨床へ
1つ目。粉の利点は「速さ」ではなく「届くこと」。この研究の結論は、概念上の利点は、根分岐部・ルートフルーティング・器具の入らない狭い部位からプラークとセメント質を除去できる能力にあるというものでした。全面を粉に置き換える理由はありません。キュレットが入らない場所の仕上げとして位置づけるのが、この論文の読み方です。
2つ目。歯石は先に落としておく。この試験でも、粉を当てる前に超音波で見える歯石をすべて除去しています。粉はセメント質の層ごと削るように働くが、歯石の隆起を集中的に削り落とす道具ではないと著者らは述べています。役割分担が要ります。
3つ目。当てる時間が、そのまま削れる量になる。10秒あたり約18.6μm。漫然と当て続けると、セメント質は確実に失われます。この数字を持っておくだけで、手が止まる場面があるはずです。
今日のひとこと
根面の清潔さを3段階(1が最良)で採点したところ、染色による肉眼評価で粉の噴射1.48対手用2.10、SEM 200倍で1.34対2.08、SEM 3000倍で1.33対2.40。いずれも粉の噴射が有意に良好でした。一方でセメント質の除去量は粉の噴射77.0μm・手用57.8μm(もとの厚さは平均93.8μm)と、粉のほうが多く削っています。所要時間はどちらも約40秒で差がなく、細菌はSEMでどちらの面からもほぼ完全に消えていました。粉の利点は速さではなく、根分岐部やルートフルーティングなど器具の入らない場所に届くことです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


