ペリオ|Phase1 初期治療
長期予後の研究を読むと、失われる歯は決まって大臼歯です。器具が届きにくいから——そう説明されてきました。ですが、届いていないなら何が残っているのか。1988年、Loosらは同じ患者の口の中で、非大臼歯と大臼歯根分岐部を並べて52週間追いかけ、臨床の数値と細菌の数を同時に測りました。
①失われる歯は、いつも大臼歯だった
歯周治療の長期予後を追った研究を読むと、ある傾向が繰り返し現れます。失われる歯は、決まって大臼歯です。
Hirschfeld と Wasserman の600名・22年の追跡では、根分岐部病変のある大臼歯の喪失率は57%。McFall の研究でも同様で、全体の喪失率が7%であるのに対し、根分岐部病変を持つ歯の喪失率は50%を超えていました。
理由の説明はいつも同じです。根分岐部は形が複雑で、器具が届きにくい。実際、根分岐部の入口の幅は、キュレットの刃部より狭いことが多いと報告されています。
ですが、それは説明にとどまっていました。届いていないなら、そこに何が残っているのか。そして残っているものは、その後の経過とどう関係するのか。1988年、Loos らはこの2つを、臨床と細菌の両面から同時に測りました。
②同じ口の中で、二つの部位を比べる
この研究の設計で秀逸なのは、比較を同じ患者の中で行った点です。人によるプラークコントロールの差、免疫の差、喫煙の差——群間比較ではノイズになる要因が、同一被験者内の部位比較なら相殺されます。
対象は中等度〜重度の歯周炎をもつ11名(31〜65歳)。各人から非大臼歯部位を3か所以上、大臼歯の根分岐部を6か所以上選び、いずれも初期プロービング深さ5.0mm以上という条件を満たすもの。合計で非大臼歯24部位、大臼歯根分岐部31部位です。根分岐部は水平的な根分岐部病変を持つものが選ばれました(垂直的な要素だけのものは除外)。
治療は1回のフルマウス根面デブライドメント。局所麻酔下で、超音波(Cavitron TFI-10)に続いて手用キュレットを使い、術者が納得するまで行いました。所要時間は非大臼歯で1歯あたり平均3.4分、大臼歯で6.4分。大臼歯には倍近い時間をかけています。
測定は1週・2週・6週、そして12・26・39・52週。プロービングには圧感知プローブ(0.50 N)を用い、根分岐部では歯間の圧痕から病変の頂点へ向け、水平の溝の中心に向かって垂直に挿入しました。細菌は位相差顕微鏡(総菌数・スピロヘータ)と嫌気培養(総嫌気性CFU・黒色色素産生菌・B. gingivalis)の両方で追っています。
③同じところから始まって、違うところへ着いた
プラークスコアは両群でほぼ同じ水準に保たれていました(52週を通じて)。つまり以下の差は、患者側の清掃の違いによるものではありません。
プロービング深さは、非大臼歯で7.3mm → 3か月4.9mm → 52週5.2mm。根分岐部では7.0mm → 12週5.6mm → 52週6.2mm。開始時には差がなかったのに、術後はすべての時点で根分岐部が有意に深い(p<0.001)という結果です。
そしてアタッチメントレベル。ここが最も印象的でした。
非大臼歯は12週で0.9mm、52週で0.7mmの獲得——どちらも統計学的に有意です。一方、根分岐部は12週で0.6mmの獲得を示したのに、52週には0.1mmまで戻り、有意な獲得は残りませんでした。
④細菌も、同じだけは減らなかった
細菌側の結果は、この臨床像と正確に対応していました。
総菌数は、1週後に非大臼歯でおよそ100分の1まで落ちたのに対し、根分岐部ではおよそ3分の1。以後、両群ともこの水準にとどまります。術後の菌数は52週を通じて根分岐部で有意に高い(p<0.001)状態が続きました。
スピロヘータの割合は、非大臼歯でベースライン19%から1週後に1%へ。根分岐部では20%から8%まで。総嫌気性CFUは非大臼歯で100分の1、根分岐部で10分の1。黒色色素産生菌とB. gingivalis のCFUは、非大臼歯で100〜1000分の1まで落ちたのに対し、根分岐部では10分の1どまりでした。
どの指標を見ても、根分岐部では減り方が一桁分小さい。器具が届かないという説明が、菌数という形で数値になっています。
⑤そして、深さと細菌と予後が結びついた
この研究のもうひとつの発見は、相関が根分岐部でだけ現れたことです。
52週時点で、根分岐部ではプロービング深さと細菌カウントのあいだに有意な正の相関がありました(総菌数 r=0.79、スピロヘータ数 0.88、%スピロヘータ 0.80、いずれもp<0.01)。非大臼歯では、どの指標でも相関は見られません。
さらに、アタッチメントレベルの変化とも関係していました。根分岐部では黒色色素産生菌の割合が高いほど、アタッチメントを失っている(r=-0.7、p<0.01)という負の相関です。
部位単位で見ると、52週でアタッチメントを獲得したのは10部位(非大臼歯5・根分岐部5)、変化なしが40部位、喪失が5部位——この5部位はすべて根分岐部でした。
この3群を並べると、傾向は一目瞭然です。術後の平均プロービング深さは獲得4.3mm/変化なし5.6mm/喪失7.2mm。%スピロヘータは0.5%/3.4%/11.8%。黒色色素産生菌の割合は2.9%/6.8%/17.4%。
深く残った部位ほど、細菌が多く残り、その部位ほどアタッチメントを失っていた。三つが同じ方向を向いています。
⑥明日の臨床へ
1つ目。根分岐部を、同じ処置で同じ結果になる部位だと考えない。この研究では大臼歯に倍近い時間をかけています。それでも結果は届きませんでした。努力の量ではなく、器具が構造的に届かないことが原因である以上、非外科的治療の限界は最初から見込んでおくべきでしょう。
2つ目。12週で判断しない。根分岐部も3か月時点では改善して見えました。差がついたのはその後です。根分岐部を持つ歯については、再評価の間隔と回数を別枠で設計する——このデータはその根拠になります。
3つ目。「深さが残っている」は「細菌が残っている」と読める。根分岐部に限れば、残存ポケット深さと菌数は明確に相関していました。5mm以上が残る根分岐部は、それ自体が細菌の温床が残っているサインと考えて、外科的なアプローチや管理間隔の短縮を検討する材料になります。
今日のひとこと
処置前のプロービング深さは非大臼歯7.3mm・根分岐部7.0mmとほぼ同じでした。ところが52週後は5.2mm対6.2mmとなり、術後の深さは一貫して根分岐部で有意に大きい状態が続きます。アタッチメントレベルは非大臼歯で12週0.9mm・52週0.7mmの獲得(有意)を保ちましたが、根分岐部は12週0.6mmから52週0.1mmへ戻り、有意な獲得は残りませんでした。細菌も同様で、総菌数は1週後に非大臼歯で約100分の1に減ったのに対し、根分岐部では約3分の1にとどまっています。そして根分岐部でのみ、術後の深さと菌数のあいだに有意な正の相関がありました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


