1問1答 論文 歯周病

歯周治療で、心臓は守れるのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

「歯周病は心臓病のリスクです」。患者さんへの説明で、私たちはよくこう言います。関連を示す疫学データは山ほどあります。では一歩踏み込んで、「歯周病を治せば心臓病を予防できる」と言い切ってよいのか。コクランがこの問いに3度目の答えを出しました。読むと、少し背筋が伸びます。

論文
Periodontal therapy for primary or secondary prevention of cardiovascular disease in people with periodontitis
著者
Ye Z, Cao Y, Miao C, Liu W, Dong L, Lv Z, Iheozor-Ejiofor Z, Li C
掲載
Cochrane Database of Systematic Reviews 2022, Issue 10. CD009197.pub5
種類
システマティックレビュー(コクラン・第3次更新)
PMID
36194420

「歯周病は心臓に悪いですよ」——どこまで言えますか

患者さんへの説明で、私たちはよくこう言います。「歯周病は心筋梗塞や脳梗塞のリスクになるんですよ」。実際、歯周炎と心血管疾患(CVD)の関連を示す疫学研究は膨大にあります。炎症性サイトカイン、菌血症、動脈硬化——機序の説明も筋が通っています。

ですが、その先の一言はどうでしょう。「だから歯周病を治せば、心臓病を予防できます」。これは同じことを言っているようで、まったく別の主張です。前者は関連(association)、後者は予防効果(causation・介入効果)。関連が強くても、介入で結果が変わるとは限りません。

コクランはこの問いを2014年から追いかけ、2019年に続いて2022年に3度目の更新を出しました。答えは、私たちの説明の言葉を選び直させるものでした。

先に結論: 歯周治療がCVDを予防するかはいまも「わからない」。組み入れられたRCTはわずか2件で、どちらもバイアスリスク高。エビデンスの確実性は「非常に低い」。しかも2019年以降、新しいRCTは1件も出ていない

コクランが探したもの

設計はきわめて素直です。慢性歯周炎と診断された人を対象に、能動的な歯周治療と、無治療または別の歯周治療とを比べたRCTを集める。すでにCVDがある人(二次予防)と、まだない人(一次予防)の両方を対象にしました。

主要評価項目は死亡(全死因・CVD関連)と全心血管イベントで、1年以上の追跡を条件にしています。サロゲート(CRPや血管内皮機能)ではなく、患者にとって本当に意味のある硬いアウトカムを見に行ったわけです。

検索は2021年11月まで、5つの書誌データベースに加え、中国語の4データベースも2022年3月まで探しています。網は十分に広い。それでも——

集まったのは、2件だけだった

最終的に組み入れられたRCTは2件。一次予防が1件、二次予防が1件。そして著者らは、どちらもバイアスリスクが高いと評価しました。

一次予防の1件:歯周炎とメタボリックシンドロームを併せ持つ165人。SRP+アモキシシリン・メトロニダゾール群と、歯肉縁上スケーリング群を12か月追跡。ところが、研究期間中の死亡はたった1件でした。イベントが1件しか起きなければ、統計は何も語れません。

二次予防の1件:SRP+口腔衛生指導と、地域ケア(衛生指導+エックス線写真の写しを渡して受診を勧める)に303人を割り付けたパイロット試験。しかし心血管イベントの観察期間が6か月から25か月までばらばらで、1年以上追跡できたのは37人だけ。著者らは「解析に組み入れるには頑健さが足りない」と判断し、データを使いませんでした。

信頼区間の幅を、そのまま見てほしい

一次予防の結果を数字で書くと、こうなります。この図の横棒の長さが、いまの私たちの”知らなさ”そのものです。

SRP+抗菌薬 対 歯肉縁上スケーリング(165人・12か月)

1(差なし) 0.1 10 100 オッズ比(対数目盛)

全死因の死亡 0.15 376.98 7.48

心血管イベント 1.07 56.1 7.77

Peto法によるオッズ比と95%信頼区間。横棒が「1」をまたぐ全死因死亡は、増えるとも減るとも言えない。心血管イベントは1をわずかに超えるが、区間の幅(1.07〜56.1)から意味を読み取ることはできない。エビデンスの確実性はGRADEで「非常に低い」。

全死因死亡の信頼区間は0.15から376.98。「250分の1に減るかもしれないし、377倍に増えるかもしれない」と言っているのと同じです。これは結果が出なかったのではなく、そもそも測れていないという意味です。

心血管イベントは1.07〜56.1で、著者らは「歯周治療+抗菌薬がイベントを増やす可能性も除外できない」と書いています。増えると証明されたのではありません。否定もできないほど何もわかっていない、ということです。

なぜ、こんなに研究が少ないのか

理由は想像がつきます。硬いアウトカム(死亡・心筋梗塞・脳卒中)を主要評価項目にすると、必要な人数と追跡年数が跳ね上がります。数百人・数年では、イベントが数件しか起きません。今回の一次予防試験で死亡が1件だったのは、研究の失敗というよりこの問いの構造上の難しさです。

さらに倫理の壁があります。歯周炎の患者さんを「無治療」で何年も置く群は作れません。だから比較は「しっかり治療 対 ある程度の治療」になり、差はますます出にくくなります。

結果として、この領域はCRPや血管内皮機能といったサロゲートアウトカムの研究ばかりが増える。それらは仮説を支えますが、「予防できる」の証明にはなりません。

明日の臨床へ:言葉を1段だけ正確にする

この結果は「歯周治療に意味がない」ではまったくありません。歯周治療が歯を守ることは別の強いエビデンスで示されています。変えるべきなのは、心臓の話をするときの言い回しだけです。

言えること:「歯周病のある方は心臓や血管の病気を持っている割合が高い、という報告がたくさんあります」。まだ言えないこと:「歯周病を治せば心筋梗塞を防げます」。

おすすめは、治療の目的を歯に戻すことです。「歯を残すために歯周治療をします。全身との関係も研究が進んでいますが、心臓病を防げると証明されたわけではありません」。この方が誠実ですし、後で梯子を外されません。

もうひとつ。今回の一次予防試験はSRPに全身抗菌薬(アモキシシリン+メトロニダゾール)を足した群でした。全身投与を安易に上乗せする根拠には、この試験はなりません。

ここだけ、冷静に補助線

「エビデンスがない」は「効果がない」ではありません。今回わかったのは、質の高い介入研究がまだ存在しないということです。2019年以降、新しいRCTがゼロというのは、この分野に大規模試験を組む難しさを物語っています。逆に言えば、歯科と医科が本気で組んだ大規模試験が出れば、答えは一気に前進します。私たちにできるのは、それまで言い過ぎないこと。関連と予防効果を分けて話す習慣は、患者さんからの信頼をむしろ強くしてくれます。

今日のひとこと

歯周治療が心血管疾患を予防するかどうかは、2022年の時点でも「わからない」が答えです。組み入れられたRCTは2件のみで、いずれもバイアスリスクが高く、エビデンスの確実性は「非常に低い」。2019年の前回更新以降、新しいRCTは1件も出ていません。関連(association)を語ることと、予防効果(causation)を語ることは別物だと、説明のたびに区別したいところです。

出典:Ye Z, Cao Y, Miao C, Liu W, Dong L, Lv Z, Iheozor-Ejiofor Z, Li C. Periodontal therapy for primary or secondary prevention of cardiovascular disease in people with periodontitis. Cochrane Database Syst Rev 2022;10:CD009197. PMID: 36194420(doi: 10.1002/14651858.CD009197.pub5)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。