1問1答 論文 歯周病

歯冠分割と歯根切除で、根分岐部病変の大臼歯はどこまで残せるか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

重度の根分岐部病変。抜くか、それとも分割・切断して一部を残すか。歯冠分割(ヘミセクション等)や歯根切除で「抜かずに残す」道は、長期的にどこまで機能するのか。過去の臨床研究を統合したシステマティックレビュー・メタアナリシスが、その加重平均生存率を数字で出しました。

論文
Outcome of Crown and Root Resection: A Systematic Review and Meta-analysis of the Literature
著者
Setzer FC, Shou H, Kulwattanaporn P, Kohli MR, Karabucak B
掲載
Journal of Endodontics 2019;45(1):6-15.
種類
システマティックレビュー・メタアナリシス
PMID
30527594

「この大臼歯、分岐部が抜けています」——抜くしかない、と即答していませんか

下顎第一大臼歯。近心根の周りだけ骨が深く落ち、根分岐部は水平的に貫通している。近心根は動揺、でも遠心根はしっかりしている。

選択肢は二つ。抜いてインプラントかブリッジにするか、悪い根だけ切り離して、良い部分を残すか。後者を選ぶとき、私たちはどこか「延命処置」「その場しのぎ」という後ろめたさを持っていないでしょうか。

歯冠分割(crown resection=ヘミセクション、トライセクション、プレモラー化)や歯根切除(root resection=歯冠を残さず病的な根だけを切除)は、昔からある術式です。ただ、インプラントの普及とともに「もう古い」「予後が読めない」と、選択肢から外されがちになりました。

では実際、これらの術式で残した歯は、長期的にどれくらい生き残るのか。Setzer らは、この問いに正面から答えるべく、過去の臨床研究を系統的に集めて統合しました。

先に結論: 12か月以上追跡した研究を統合すると、加重平均生存率は全体85.6%歯冠切除(CR)81.9%歯根切除(RR)87.2%。CRとRRに有意差はなく(p=0.89)、上顎・下顎でも差はなかった。

なぜ「抜かずに残す」術式が問われ直すのか

複根歯の根分岐部病変は、歯周治療で最も治りにくい部位のひとつです。器具が物理的に届かず、炎症が残りやすい。そこで「病的な根や歯冠部分だけを外科的に切り離し、健全な部分を残す」というのが歯冠分割・歯根切除の発想です。

ところが近年は、同じ状況でまずインプラントが検討されることが増えました。分割・切除は手技が難しく、術後の清掃性やエンド処置の兼ね合いもあり、「予後が不確実」というイメージがつきまといます。

しかし、天然歯を残す価値は今も大きい。本当に予後が悪いのか、それとも印象だけで敬遠されているのか——ここを、個々の症例報告ではなく、統合されたデータで確かめる必要がありました。著者らが指摘するのは、これまで術式ごとの生存率を横断的に比較・統合した研究がなかったという点です。

今回の一手——3つのデータベースから、術式ごとに生存率を統合

Setzer らは、3つの電子データベース(PubMed 等)とハンドサーチで文献を網羅的に集めました。組み入れ基準は12か月以上追跡した臨床研究です。

スクリーニングを経て最終的に34論文が対象となり、そのうち生存率のデータを定量的に抽出できた19研究をメタアナリシスに投入しました(全体N=2,667歯)。内訳は歯冠切除 CR=111歯(3研究)歯根切除 RR=1,127歯(9研究)などです。

ランダム効果モデルで加重平均生存率を算出し、CRとRR、さらに上顎大臼歯と下顎大臼歯のあいだで差があるかを比較しました。追跡期間は研究によって4年から30.8年まで幅があります。

結果——8割超が生き残っていた

統合の結果はこうです。

0 33.3% 66.7% 100% 加重平均生存率(%) 85.6% 81.9% 87.2% 全体(CR+RR) 歯冠切除 CR 歯根切除 RR 12か月以上の追跡。CRとRRに統計的有意差なし(p=0.89)。上顎/下顎大臼歯でも差なし
図1:加重平均生存率。歯冠切除(CR)と歯根切除(RR)のあいだに統計的有意差はなかった(p=0.89)。

全体(CR+RR)で85.6%(95%CI 76.7–91.5)。術式別に見ると歯冠切除 CR=81.9%(72.0–88.8)歯根切除 RR=87.2%(71.7–94.8)でした。

数字だけ見るとRRのほうがやや高いですが、両者に統計的な有意差はありません(p=0.89)。信頼区間も大きく重なっています。さらに上顎大臼歯と下顎大臼歯のあいだにも差はありませんでした(p=0.81)

ここで効いてくるのが追跡期間の長さです。この85.6%という数字は、4〜30.8年という長い時間軸を含んだうえでの生存率です。短期的に延命しただけの数字ではない、という点が重要です。

なぜ、これほど残せるのか

「抜かずに残す」術式が8割超の長期生存を示す背景には、いくつかの理屈が考えられます。

ひとつは、病的な部分を物理的に取り除けること。治りにくい根分岐部そのものを、根や歯冠ごと切り離してしまえば、清掃不能な袋小路が消え、残った部分は単根歯に近い管理しやすい形になります。

もうひとつは、症例選択です。分割・切除が適応になるのは、残す側の根がしっかりしていて、エンドも成立し、清掃性も確保できる症例です。もともと予後の見込める歯が選ばれている——この「選択」の効果は、成績を読むうえで頭に入れておく必要があります(§⑥)。

いずれにせよ、術式そのものが原因で早期に脱落する、という像は今回のデータからは見えてこない。むしろ、適応を選べば天然歯を長く残せる現実的な選択肢だ、というのが素直な読み方です。

明日の臨床へ——「延命」ではなく「選択肢」として持つ

1. 抜歯即決の前に、分割・切除を思い出す。 根分岐部が悪くても、良い根が残っていてエンドが成立するなら、歯冠分割・歯根切除で残す道がある。長期生存率8割超という数字は、患者さんに選択肢を提示する根拠になります。「その場しのぎ」ではなく、10年20年の実績を持つ術式だと伝えられる。

2. CRかRRかで気負いすぎない。 今回、歯冠切除と歯根切除で生存率に差はありません。上顎・下顎でも差はない。術式の選択は、生存率の優劣よりも、残せる歯冠・清掃性・補綴設計・エンドの成否といった個々の条件で決めてよい、ということです。

3. インプラントと「並べて」相談する。 どちらが上という話ではなく、天然歯を残す選択肢の予後を数字で言えることに意味があります。「残す場合はこれくらいの成績、抜いてインプラントならこう」と並べて提示できれば、患者さんの意思決定はより誠実なものになります。

今日から使える一言: 「この歯は抜くしかない」ではなく「悪い部分だけ切り離して残す方法があり、長期でも8割以上が持つというデータがあります」。数字とともに選択肢を渡す。

ここだけ、冷静に補助線

この85.6%という数字は、元をたどれば少数・不均一な観察研究の統合です。ランダム化比較試験(RCT)ではなく、各研究の患者背景・術式の細部・追跡方法はバラバラで、信頼区間も広い(全体で76.7〜91.5%)。とくにCRは3研究111歯と、根拠が薄い点は割り引いて読む必要があります。そして最大の注意点は症例選択バイアスです。分割・切除が選ばれた歯は、もともと「残せそう」と判断された歯であり、条件の悪い歯は最初から抜歯されている可能性が高い。つまりこの数字は「どんな根分岐部病変でも8割残せる」という意味ではなく、「適応を選んで処置すれば」8割超が長期に生存するという意味です。著者ら自身も、エビデンスを強固にするには大規模RCTが必要だと結論しています。ではこの論文の価値は何か。ぼくは「抜かずに残す」術式を、印象論ではなく数字で語れるようにしてくれたことだと思っています。インプラント全盛のいまだからこそ、天然歯を残す選択肢の実績を、こうして手元に持っておく意味は小さくありません。

今日のひとこと

歯冠分割・歯根切除で残した歯の加重平均生存率は、全体85.6%、歯冠切除(CR)81.9%、歯根切除(RR)87.2%。CRとRRに有意差はなく、上顎と下顎大臼歯でも差はありませんでした。追跡は4〜30.8年に及びます。

出典:Setzer FC, Shou H, Kulwattanaporn P, Kohli MR, Karabucak B. Outcome of Crown and Root Resection: A Systematic Review and Meta-analysis of the Literature. J Endod 2019;45(1):6-15. PMID: 30527594(doi: 10.1016/j.joen.2018.10.003)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。