1問1答 論文 歯周病

その分岐部、あと3mmで始まる──ルートトランクは思っているより短い

1問1答 論文 歯周病

ペリオ / 診断・予後評価 ・ Kerns et al. 1999

「アタッチメントロスが3mm出た」——このとき下顎大臼歯では、もう分岐部の入り口に手が届いています。ルートトランク(CEJから根が分かれるまで)の長さを、抜去歯345本で0.01mm単位まで測った研究があります。下顎大臼歯の頬側は平均3.3mm。しかも第二大臼歯の98%には、CEJのすぐ下に根面溝がある。数字を知っているかどうかで、予後の見立ても、膜を置く判断も変わります。

論文
Kerns DG, Greenwell H, Wittwer JW, Drisko C, Williams JN, Kerns LL. Int J Periodontics Restorative Dent 1999;19(1):83-91.
PMID
10379289
デザイン
抜去歯の形態計測研究:412本から基準を満たす345本(上顎第一大臼歯97・上顎第二大臼歯89・上顎第一小臼歯58・下顎第一大臼歯49・下顎第二大臼歯52)をデジタルマイクロメータで0.01mm単位まで実測
ひとことで
頬側ルートトランクは下顎大臼歯で平均3.3mm、上顎大臼歯でも4.1〜4.3mm。根面溝は全体の64.4%にあり、下顎第二大臼歯では98.1%。溝の86%はCEJから2mm以内で始まる。

「3mmのアタッチメントロス」を、あなたはどう読みますか

下顎第一大臼歯の頬側。プローブが入り、アタッチメントロスは3mm。まだ分岐部までは距離がある——そう感じたことはありませんか。実は、もう届いています。1999年、Kernsらは抜去歯345本のルートトランク(CEJから根が分かれるまで)を、デジタルマイクロメータで0.01mm単位まで測りました。下顎大臼歯の頬側は、平均3.27mm。3mmのアタッチメントロスは、分岐部の入り口の目前という意味です。

この論文は、派手な介入も比較もありません。ただ「歯はどういう形をしているか」を数えただけ。それなのに、読み終わると診断の目が少し変わります。

従来の困りごと:「短い・中くらい・長い」は経験則で語られてきた

ルートトランクの長さが予後を左右することは、昔から知られていました。短ければ早い段階で分岐部が露出し、長ければ分岐部到達までに猶予がある。切除療法も再生療法も、この長さを前提に組み立てます。

ところが、その「短い・中・長い」の基準は、長らくOchsenbein(1986)の30年の臨床観察という、優れてはいるが数値の裏づけを欠いた経験則に頼っていました。上顎第一大臼歯は3mm以下が短い、下顎は2mm以下が短い——そういう区分です。過去の実測研究はサンプルが小さく、第二大臼歯のルートトランクや、近心・遠心の寸法はほとんど報告されていませんでした

Kernsらの狙いは3つ。①5歯種のルートトランクの平均・標準偏差・範囲を出す、②Ochsenbeinの経験則と実測を突き合わせる、③根面溝(root groove)の頻度と位置を初めて系統的に数える。

今回の一手:抜去歯412本から345本を選び、0.01mm単位で測る

個人開業医とFort Knox陸軍歯科診療所から集めた抜去歯412本を、5つの歯種に分類しました。第三大臼歯と癒合根は除外。歯種の同定は歯周病専門医3名の全員一致を条件とし、一致しなければ除外。さらに「CEJが少なくとも1つの分岐部の上で無傷」「CEJ・分岐部領域にう蝕や修復物がない」「根分岐部で根が無傷」という基準を満たしたものだけを残し、最終サンプルは345本になりました。

内訳は上顎第一大臼歯97・上顎第二大臼歯89・上顎第一小臼歯58・下顎第一大臼歯49・下顎第二大臼歯52。2.6倍の拡大鏡下で、①CEJ、②根面溝の始まり、③root division(隣接する根が接触しなくなり、歯槽骨で隔てられる点)に鉛筆で基準点を打ち、デジタルマイクロメータで計測しました。1人の術者が10分以上あけて2回測り、差が0.2mmを超えたら再計測——地味ですが、この丁寧さが数字の信頼性を支えています。

結果①:頬側ルートトランクは3.3mm。想像より、短い

0 3 6 9 ルートトランク長 CEJ→根分岐部 (mm) 3.3 3.3 4.1 4.3 7.7 下顎6 頬側 下顎7 頬側 上顎6 頬側 上顎7 頬側 上顎4 遠心 各歯種で最も短い面=最初に分岐部へ届く面のルートトランク長(平均)。下顎大臼歯の頬側は3.3mm前後で、上顎大臼歯(4.1〜4.3mm)より1mm近く短い。上顎第一小臼歯だけは7.7mmと別格。Kerns 1999 Table 1・2の平均値
各歯種で「最初に届く」面のルートトランク長(CEJ→root division)。数字は歯種(4=第一小臼歯/6=第一大臼歯/7=第二大臼歯)。下顎大臼歯の頬側は第一・第二とも3.3mm前後で、上顎大臼歯の頬側(4.1〜4.3mm)より1mm近く短い。上顎第一小臼歯だけは別格で7.7mm(Kerns 1999 Table 1・2の平均値)。

数字を並べます。下顎第一大臼歯 頬側3.27mm・舌側4.28mm。下顎第二大臼歯 頬側3.28mm・舌側3.83mm。上顎第一大臼歯は頬側4.11mm・近心4.73mm・遠心4.66mm、上顎第二大臼歯は頬側4.29mm・近心6.40mm・遠心4.83mm。そして上顎第一小臼歯は近心7.76mm・遠心7.71mmと、まったく別のスケールです。

ここから読み取れることが3つあります。①下顎大臼歯は頬側がいちばん短い。舌側は頬側より約1mm長い(第一大臼歯で1.0mm、第二大臼歯で0.5mm)。頬側分岐部の「ブローアウト」——初期の分岐部で起きる急速な骨破壊——が語られてきたのは、この形態の反映でしょう。②上顎大臼歯は頬側が最短で、遠心・近心の順に長くなる。興味深いことに、この順番は上顎第一・第二大臼歯で共通でした。③上顎第二大臼歯の近心は6.40mm、遠心は4.83mm——1.6mm近い差があります。上顎第一大臼歯では遠心分岐部のほうが近心より侵されやすいと報告されてきましたが、その理由の一端がここに見えます。

Ochsenbeinの経験則との突き合わせも面白い。彼は下顎第二大臼歯の頬側ルートトランクを「3mmよりわずかに大きい」と述べていましたが、実測は3.28mm。舌側は「頬側より約1mm長い」との見立てに対し、実測は0.5mm長い。30年の観察は、おおむね当たっていたわけです。

結果②:第二大臼歯には、ほぼ確実に溝がある

0 33.3% 66.7% 100% 根面溝をもつ歯の割合 (%) 19.8% 53.3% 61.2% 89.5% 98.1% 上顎4 上顎6 下顎6 上顎7 下顎7 多根歯全体では64.4%に根面溝があった。第二大臼歯は上下ともほぼ全例に溝がある。溝がある場合、その86%はCEJから1.99mm以内で始まる。Kerns 1999 Table 3
根面溝をもつ歯の割合(4=第一小臼歯/6=第一大臼歯/7=第二大臼歯)。下顎第二大臼歯98.1%、上顎第二大臼歯89.5%と、第二大臼歯はほぼ全例に溝がある。一方で上顎第一小臼歯は19.8%と少ない(Kerns 1999 Table 3)。

この論文の隠れた主役は、こちらかもしれません。根面溝は、調べた多根歯の64.4%に存在しました。歯種別に見ると、下顎第二大臼歯98.1%・上顎第二大臼歯89.5%・下顎第一大臼歯61.2%・上顎第一大臼歯53.3%・上顎第一小臼歯19.8%。第二大臼歯は、ほぼ「必ずある」と考えていい水準です。

そして位置。溝がある場合、その86%はCEJから1.99mm以内で始まっていました。CEJ→溝の始まりまでの平均は、下顎第一大臼歯の頬側で1.16mm、下顎第二大臼歯の舌側で1.76mm、上顎第二大臼歯の近心で1.89mm——すべて2mm前後です。つまり歯肉が少し下がっただけで、溝は口腔内に露出する

ここで著者が指摘する符合が効いています。Hirschfeld & Wasserman、McFall、Goldmanらの長期追跡研究で、メインテナンス期にもっとも失われやすい歯として繰り返し名前が挙がるのは、上顎第二大臼歯と下顎第二大臼歯。そして本研究で溝の頻度が最も高かったのも、まさにこの2歯種でした。因果を証明した研究ではありませんが、示唆としては強い。

つまり: 下顎大臼歯の頬側ルートトランクは平均3.3mm、上顎大臼歯でも4.1〜4.3mm。根面溝は多根歯の64.4%にあり、下顎第二大臼歯98.1%・上顎第二大臼歯89.5%。溝の86%はCEJから2mm以内で始まる。第二大臼歯は「トランクが短めで、溝がほぼ必発で、しかもCEJのすぐ下」という三重苦を背負っている。

なぜ溝が効くのか──プラークの隠れ家であり、膜の敵でもある

根面溝(root groove)と根面陥凹(root concavity)は、しばしば同じ意味で使われますが、この論文は明確に分けています。陥凹は、根の膨らみの間にある「広く、緩やかに湾曲したくぼみ」。溝は、より狭く、細長く、輪郭のはっきりした発育性の陥凹で、root separationの方向へ向かって走るものです。

この「狭さ」が問題を生みます。狭い溝はプラークが溜まり、かつ器具が届かないニッチになる。Leknesら(1994)は抜去単根歯103本を調べ、溝のある根面は無い根面より有意にアタッチメントロスが大きく、溝の位置とアタッチメントロスに直接的な関係があると結論しました。溝は局所的な歯周組織破壊の温床になり、治癒の妨げにもなる、と。

もう一つ、再生療法の視点。深い根面陥凹や溝があると、膜を根面へ密着させられません。密着しなければ、そこは細菌や細胞が膜の下へ入り込む「通り道」になります。GTRで「膜の適合が命」と言われるとき、その適合を邪魔する張本人がこの溝です。Luら(1992)の研究では、分岐部の94%にルートトランク上の発育性の陥凹(最大2.25mm)があったと報告されています。

明日の臨床へ:数字を「歯の形」に重ねて読む

この論文は、明日から使える手技を教えてくれるわけではありません。ですが読み方を変えてくれます。

①「3mm」を分岐部の警戒ラインにする。下顎大臼歯の頬側でアタッチメントロスが3mmを超えたら、分岐部は射程内です。Grade IIIの分岐部病変が成立するには「水平的なアタッチメントロス6mm以上」が必要とされますが、その手前で気づくための目安が、この3.3mmという数字です。上顎大臼歯なら4mm、上顎第一小臼歯なら7〜8mm——歯種ごとに警戒ラインが違うと知っておくだけで、プロービングの数字の意味が変わります。

②第二大臼歯は、形態的に不利だと最初から見積もる。トランクが短め、溝がほぼ必発、しかも溝はCEJのすぐ下。加えて最後方臼歯で器具のアクセスも悪い。「なぜかいつも第二大臼歯から悪くなる」という現場の実感には、形態の裏づけがあります。予後判定でここを甘く見ない。

③短いトランクは、必ずしも悪いことばかりではない。著者は面白い逆説を書いています。長いルートトランクの歯が分岐部病変を起こすと、それは「鍵穴型(keyhole-type)」の欠損になり、短いトランクの歯より治療反応が悪くなりうる。短いトランクは早く分岐部が露出する代わりに、露出後はアクセスも器具操作もしやすい。一方で長いトランクは、いったん分岐部に届けば骨と線維の付着面積が大きく、再生の可能性は残る。単純に「短い=悪い」ではないのです。

④溝は、外科の前・中・後を通じたランドマークになる。著者はこう位置づけています。フラップを開ける前に「この歯種なら溝がある確率は何%か」を見積もり、開けたら実際に確認し、閉じたあとのメインテナンスでその面を重点的に見る。下顎第二大臼歯なら、溝は「あるかもしれない」ではなく「ある前提」で臨んでいい水準です。

ここだけ、冷静に補助線これは抜去歯の形態計測研究です。生きた患者の予後を追った臨床研究ではないので、「溝があると歯が失われる」という因果はこの論文だけでは言えません(メインテナンス期の喪失歯との符合は、あくまで示唆です)。著者自身も限界を明記しています。サンプルは主にコーカサス系患者由来で、多様な人種を含む一般集団にそのまま当てはめられない。そもそも抜歯に至った歯——う蝕・歯周病・矯正・補綴などさまざまな理由で抜かれた歯——なので、健全歯の代表とは限らない。だから著者は「広い臨床応用には注意を要する」と釘を刺し、短い・中・長いルートトランクを非外科・切除・再生でどう治療すべきかはさらなる臨床研究が必要と結んでいます。それでも、345本を0.01mm単位で測り、これまで誰も数えていなかった第二大臼歯と根面溝に数字を与えた仕事の価値は大きい。経験則が実測で裏づけられた——それだけで、明日のプロービングの読み方は少し変わります。

今日のひとこと

ルートトランクは、思っているより短い。下顎大臼歯の頬側は平均3.3mm——アタッチメントロスが3mm出た時点で、分岐部はもう射程に入っている。そして下顎第二大臼歯の98.1%、上顎第二大臼歯の89.5%には根面溝があり、その86%はCEJから2mm以内で始まる。第二大臼歯がメインテナンス期にいちばん失われやすいのは、偶然ではなく形態の必然かもしれない。プロービングの数字を「歯の形」に重ねて読む——それだけで、予後の見立ての解像度が上がる。

出典(PubMed):Kerns DG, Greenwell H, Wittwer JW, Drisko C, Williams JN, Kerns LL. Root trunk dimensions of 5 different tooth types. Int J Periodontics Restorative Dent 1999;19(1):83-91. PMID: 10379289
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。