ペリオ / 診断・予後評価 ・ McGuire & Nunn 1996
初診で「この歯は予後不良です」と伝えた歯が、10年経ってもふつうに機能している——そんな経験はありませんか。骨吸収率、ポケット、動揺度、根分岐部、歯冠歯根比。習ったとおりの項目を並べて予後を決めているのに、なぜ当たらないのか。100人・2,509本を最長16年追いかけ、「予後判定」と「実際に抜けたかどうか」を突き合わせた研究です。結果は、われわれの自信をやさしく揺さぶってきます。
「予後不良」と告げた歯が、10年後も噛んでいる
初診時、骨吸収は6割、ポケットは8mm、動揺度2。教科書どおりに項目を当てはめて「この歯は予後不良、場合によっては抜歯です」と説明した。ところが10年後、その歯はまだ機能している。逆に、なんの気なしに「良好」と書いた歯が、数年後にあっけなく抜けてしまう。予後判定は、本当に当たっているのでしょうか。1996年、McGuireとNunnはこの問いに正面から答えました。自分が治療した100人の患者を最長16年追いかけ、「あのとき下した予後判定」と「実際に抜けたかどうか」を突き合わせたのです。自分の判定の答え合わせを、自分で公表する——なかなかできることではありません。
従来の困りごと:予後は「代理」でしか検証されてこなかった
われわれが予後を決めるとき、頭の中で並べているのは骨吸収の量と分布、ポケットの深さ、根分岐部病変、動揺度、歯冠歯根比、歯根の形態、歯髄の状態、う蝕、歯の位置と咬合関係、戦略的価値——といった項目です(この論文のTable 1)。それらを経験で重みづけして、good / fair / poor / questionable / hopeless のどれかに落とし込む。習ったとおりのやり方です。
問題は、この方法が「当たったかどうか」を、ほとんど誰も本当の終着点で検証してこなかったことです。多くの研究は「ポケットが浅くなったか」「アタッチメントが得られたか」といった代理変数(surrogate variable)で治療効果や予後を語ってきました。しかし患者が知りたいのは、そして予後という言葉が本来指しているのは、「この歯は残るのか」ただ一点です。歯科で生存時間解析がほとんど使われてこなかった理由もそこにあります。抜ける歯が少なすぎて統計に耐えないうえ、1人の口の中に何本もの歯がある=データが独立しないという厄介さがありました。この研究は、相関を持つ生存データを扱えるロバストなログランク検定とCox比例ハザードモデルを使い、その壁を越えにいきました。
今回の一手:自分の患者100人・2,509本を16年追いかける
対象は、同一の術者が治療し、5年以上メインテナンスに通い続けた慢性中等度〜重度成人歯周炎の患者100人、2,509本の歯です。メインテナンスは大半が3か月間隔。予後判定は初期治療の直後、5年後、8年後に、同じ基準で、しかも過去の判定を見ない状態(ブラインド)で付け直されました。当初5〜8年だった観察期間は、喪失歯の数を確保するために最長16年まで延長されています。これによって喪失歯は51本から131本に増えました。
矯正目的の抜歯や第三大臼歯は解析から除外。一方で、う蝕・歯内療法・補綴的理由で失った歯も、すべて「喪失」として数えています。歯周病以外の理由で抜けた歯を除外しなかったのは、それらの歯もたいてい歯周組織が関与しており、切り分けが恣意的になるからです。平均追跡期間は9.97年(0.33〜15.17年)。失われた131本の平均生存期間は5.79年(0.33〜12.33年、中央値6.25年)でした。
結果①:予後判定は「良い側」は当たる。「悪い側」は当たらない
まず、うれしい報告から。予後判定と歯の喪失には、はっきりした関係がありました。判定が悪い歯ほど生存率は低く、5群を比べたログランク検定はP=0.0034で有意。つまり「予後判定はまったくの無意味」ではありません。方向は合っているのです。
問題は精度です。グラフの右2本を見てください。「疑問(questionable)」と判定した36本のうち16本(44.4%)が、「絶望(hopeless)」と判定した21本のうち8本(38.1%)が、最後まで生き残りました。絶望と告げた歯の、およそ4割です。裏側からも見てみましょう。失われた131本のうち37本(28.2%)は、初診時の判定が「良好」でした。「良好」と「一応良好(fair)」を合わせると77本=失った歯の58.8%を占めます。抜けた歯の6割近くは、われわれが「大丈夫」と思っていた歯だったということになります。
もうひとつ、生存期間のばらつきも見逃せません。失われた歯の生存期間は4か月から12年まで散らばっていました。「この歯はもって数年です」という説明が、どれほど心もとない土台の上に立っているかがわかります。
結果②:では、何が本当に効いているのか
個別に検定(ロバストlog rank)したところ、ポケット深さ・根分岐部病変・動揺度・歯冠歯根比・歯根形態が歯の喪失と有意に関連しました。とくに根分岐部病変は検定統計量19.77(P<0.0001)と頭ひとつ抜けています。喫煙・骨吸収率・固定性補綴の支台歯であることは「境界域」でした。年齢・家族歴・コンプライアンス・コントロールされた糖尿病は、この集団では有意になっていません。
そのうえで、すべてを同時に投入したCox比例ハザードモデルで最後まで残ったのが、図の6因子です。数字の読み方はこうです。動揺度が1段階上がるとリスクは2.05倍、ナイトガードを使わないパラフンクションがあると2.17倍、喫煙者だと2.06倍。ポケットは1mm深くなるごとに1.387倍、根分岐部は1段階ごとに1.291倍、骨吸収は1%ごとに1.035倍(10%増えれば約1.4倍の計算になります)。
なぜ外れるのか──予後は「重みづけ」に失敗している
著者たちがたどり着いた解釈は、こうです。臨床パラメータは歯の喪失と確かに関連している。問題は、それを予後判定に落とし込むときの「重みづけ」のほうだ——。
その証拠が、もうひとつのCoxモデル(Table 6)にあります。予後判定そのものを変数として投入すると、「疑問または絶望」の判定はリスク比5.920(P<0.0001)と、たしかに強い予測力を持ちます。ところがその予後判定を入れてもなお、動揺度(1.700)・骨吸収率(1.035)・喫煙(2.113)は独立して有意なまま残りました。もし予後判定がこれらの情報を十分に吸収できていたなら、これらの因子は「予後判定の中にもう含まれている」はずで、有意には残らないのです。残ったということは、予後判定がこれらを取りこぼしているということ。ちなみに根分岐部病変だけは、予後判定を入れると有意でなくなり除外されました。根分岐部は、われわれがちゃんと予後に織り込めている数少ない項目だと読めます。
そして、この研究にはもう一つの読み方があります。「悪い予後」の歯が4割も生き残ったのは、判定が下手だったからだけではないかもしれない。この患者たちは全員、平均10年にわたって3か月ごとのメインテナンスに通い続けた人たちです。著者自身が「歯周治療は非常に効果的で、失われた歯はごく一部だった」と書いています。「絶望」と告げた歯を10年もたせたのは、ほかならぬメインテナンスだった——そう読むこともできるわけです。
明日の臨床へ:予後をどう語り直すか
①「宣告」をやめて「確率」で語る。「この歯はもって数年です」ではなく、「この条件だと失うリスクが高い側に入ります。ただ、同じ判定の歯の4割は10年以上残っています」。この言い方のほうが、この論文のデータには誠実です。そして患者の希望も、われわれの説明責任も、どちらも守れます。
②喫煙とパラフンクションを、歯ごとの予後に格上げする。この2つはそれぞれリスクを約2倍にしていました。それでいて、従来のチェックリストでは「全体的予後」の項目に埋もれています。喫煙者の歯、ナイトガードなしでブラキシズムのある歯は、同じポケット・同じ骨吸収でも、予後判定を一段辛く見る——それがこのデータの素直な帰結です。逆に言えば、禁煙とナイトガードは、われわれが動かせる数少ないレバーでもあります(骨吸収率や根分岐部は、もう変えられません)。
③悪い予後の歯こそ、メインテナンスの土俵に乗せる。「どうせ抜けるから」と諦めた歯は、リコールの対象から静かに外れていきます。しかしこの研究は、3か月メインテナンスの下では、絶望判定の歯の4割が生き残ったと教えてくれます。予後が悪いことは、手を引く理由ではなく、通ってもらう理由になり得ます。
今日のひとこと
予後判定は「歯を失うリスクの目安」としては機能するが、「その歯がいつ抜けるか」を言い当てる道具ではない。とくに悪い側の判定ほど外れる(絶望と判定した21本のうち8本が生存)。一方で、動揺度・ナイトガードなしのパラフンクション・喫煙は、いずれも喪失リスクをおよそ2倍にした。予後は「宣告」ではなく「重みづけされたリスク評価」であり、そして何より、悪い予後の歯にこそメインテナンスが効いている可能性を、この数字は静かに示している。


