1問1答 論文 歯周病

根分岐部まで進んだ多根歯、抜くしかない?──5年後を追った古典

歯周病 根分岐部病変 論文解説

多根歯の根分岐部治療・5年成績 | J Clin Periodontol

根の股(根分岐部)まで歯周病が進んだ大臼歯。「もう抜くしかない」と感じる場面は多いはずです。——1975年、Hamp・Nyman・Lindheは100人・310本の多根歯を病変の重さで分類し、残せる歯には根分岐部の処置を施して5年間追跡。適切な処置と患者本人の徹底したプラークコントロールがあれば、根分岐部の破壊は止まり、5年間維持できることを示しました。

論文
Periodontal treatment of multirooted teeth. Results after 5 years
著者
Hamp SE, Nyman S, Lindhe J
掲載
J Clin Periodontol. 1975;2(3):126-135
種類
前向き臨床研究(100人・310本・5年経過観察)
PMID
1058213

根分岐部まで進んだ多根歯、抜くしかない?

根の股(根分岐部)にまで歯周病が入り込んだ大臼歯。プローブが根と根のあいだをすっと通ってしまう。こうなると「もう保存は難しい、抜きましょう」と傾きがちです。でも——本当に、残す道はないのか。残したとして、5年後にどうなっているのか。1975年、歯周病学のHamp・Nyman・Lindheが、100人・310本の多根歯を正面から追いかけて、この問いに答えを出しました。

従来の悩み:分岐部の破壊は「タテにもヨコにも」進む

歯周病の破壊は根の表面に沿って根尖方向(タテ)へ進むだけでなく、多根歯では根と根のあいだ(ヨコ)にも広がります。だから分岐部にできた病変は、通常のスケーリングでは器具が届きにくく、患者さん自身のブラシも入らない。プラークが溜まり続ける”死角”になってしまうのです。ここをどう処置し、どこまで残せるのか——長期の成績はよく分かっていませんでした。

今回の一手:病変の重さで処置を振り分け、5年追う

まず分岐部病変を3段階に分類しました。Degree I=水平的な組織の喪失が3mm未満、Degree II=3mm超だが貫通はしない、Degree III=根の股を貫通(through-and-through)。そのうえで、Degree Iにはスケーリング/ルートプレーニング分岐部形成術(歯や骨の形を整えて清掃しやすくする)、Degree II・IIIには根切除(一部の根を抜いて残りを活かす)・トンネリング(分岐部を大きく開けて歯間ブラシを通す)・抜歯を割り当てる。全員が口腔清掃を最適化してから治療を開始し、3〜6か月ごとにメンテナンスして5年間、プラーク指数・歯肉指数・ポケット・う蝕を追いました。

では、5年後——残せた歯はどうなっていたのか。

結果:破壊は止まり、炎症は5年間低いまま

根分岐部の炎症は5年で激減し、低いまま維持 根切除群(n=87)の平均。指数は0=無〜3=重度。数値が低いほど良い。Hamp 1975 初診時 5年後 0.00.51.01.52.01.70.2プラーク指数 (PI)1.40.2歯肉指数 (GI) 残した175歯のうち ポケット3mm超はわずか16歯/破壊は5年間停止
根分岐部の炎症指標は5年で劇的に低下し、低いまま維持された。図は根切除群(n=87)の平均。全処置群で最終プラーク指数0.2〜0.3・歯肉指数0.2〜0.4まで下がり、初診時より有意に改善。Hamp 1975

310本のうち135本(44%)は初期治療の段階で抜歯されました。多くは支持組織の破壊が根尖にまで及んでいたり、残しても患者さんが清掃できる形にできないと判断された歯です。残った175本の内訳は、スケーリング/ルートプレーニングのみ32本(18%)、分岐部形成術49本(28%)、根切除87本(50%)、トンネリング7本(4%)。この175本を5年追った結果、プラーク指数・歯肉指数はどの処置でも初診時より有意に低下し、最終値はPI 0.2〜0.3・GI 0.2〜0.4という低い水準で安定しました。3mmを超えるポケットが残ったのは175本中わずか16本。分岐部の破壊は、確かに5年間止まっていたのです。

なぜ?──”清掃できる形”に整え、本人が磨き切ったから

著者らは成功の理由を2つに絞っています。①分岐部からプラークが溜まる場所を可能な限り無くしたこと(処置による形態改善)②患者本人による徹底した口腔清掃と、定期的なスケーリング・研磨。処置はあくまで”磨ける形”をつくる下ごしらえで、破壊を止め続けた主役は毎日のプラークコントロールでした。だからこそ、残しても清掃できない形にしかならない歯は、はじめから抜歯という判断になっています。

つまり: 分岐部病変は「程度で処置を選び」「清掃できる形に整え」「本人が磨き切る」の3点が揃えば、5年は破壊を止められる。整えられない歯は無理に残さない。

明日の臨床へ:抜くか残すかは”清掃できる形になるか”で決める

この論文の実務的な骨子は、分岐部病変の程度で治療の道を分けることにあります。浅いDegree IはSRPや分岐部形成で対応でき、深いII・IIIでは根切除で”一部を捨てて残りを活かす”。残した根はしばしばクラウンやブリッジの支台として使えます。判断の軸は一貫して「処置後に患者さんが清掃できる形になるか」。そして残すと決めたら、3〜6か月ごとのメンテナンスをセットで設計する。抜歯を最初から選ぶのは”諦め”ではなく、全体の治療計画を良くするための積極的な選択です。

ここだけ、冷静に補助線これは対照群のない5年の症例集積で、専門科で高度に動機づけられた患者を、3〜6か月ごとに手厚くメンテナンスした条件下の成績です。日常臨床にそのまま当てはまるとは限りません。実際、トンネリングを行った7本のうち4本の分岐部にう蝕が生じ、3本は抜歯に至りました——「開けて磨けるようにする」処置は、そこがう蝕のリスク面にもなる。処置法ごとに予後は異なり、術式の選択と長期管理はセットで考える必要があります。それでも「重度の分岐部病変でも、程度に応じた処置と徹底した清掃で5年守れる」という核は、半世紀を経た今も歯周治療の土台として生きています。

今日のひとこと

根分岐部病変を持つ多根歯は、病変の重さで処置を選び(Degree I=スケーリング/ルートプレーニング・分岐部形成、Degree II/III=根切除・トンネリング・抜歯)、患者本人の徹底した清掃と定期メンテナンスを組み合わせれば、5年間にわたり破壊を停止させ維持できる。残した175本のうちポケット3mm超はわずか16本。処置後のプラーク指数・歯肉指数は劇的に下がり低いまま保たれた。ただしトンネリングはう蝕で3本を失っており、予後は慎重に。「抜くか残すか」は分岐部病変の程度と、患者が清掃できる形に整えられるかで決める。

出典(PubMed):Hamp SE, Nyman S, Lindhe J. Periodontal treatment of multirooted teeth. Results after 5 years. J Clin Periodontol. 1975;2(3):126-135. PMID:1058213 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1058213/
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