1問1答 論文 保存修復

ジルコニアは対合の歯を削る?─研磨すれば天然歯より削らず、釉薬は逆効果(Janyavula 2013)

保存修復・補綴

奥歯のフルジルコニア、対合歯は削れるのか

硬いジルコニアは対合歯を削ると思われがち。でも実際に測ると、研磨ジルコニアは天然の歯どうしより削らなかった。カギは硬さより表面のなめらかさ。

論文
研磨・グレーズ・再グレーズのジルコニアが対合エナメル質を削る量を比較(in vitro摩耗試験)
著者
Janyavula S, Lawson N, Cakir D, Beck P, Ramp LC, Burgess JO
掲載
J Prosthet Dent. 2013;109(1):22–29
種類
試験管内(in vitro)摩耗試験(各群8個・40万サイクル)
PMID
23328193

「硬いから削る」は、思い込みかもしれない

奥歯にフルジルコニアのクラウン。硬くて割れにくいのはありがたい。でも、ふと不安がよぎります。「こんなに硬い材料、相手の歯(対合歯)をガリガリ削ってしまわないか」。ジルコニアは天然エナメル質の2倍以上の硬さがあり、患者さんにも「奥歯がすり減りませんか」と聞かれます。

かつては強度のためにジルコニアを芯(コア)にして表面に白い陶材を盛っていましたが、陶材の層が欠ける(チッピング)トラブルが多い。そこで陶材を盛らず、ジルコニアそのものを歯の形に削り出す「モノリシック(フルジルコニア)」が主流になりました。

すると新しい疑問が生まれます。陶材という“クッション”がなくなり、硬いジルコニアが直接、対合の歯に当たる。これは相手の歯を削らないのか? では、実際に測ったらどうなのか。

今回の一手:仕上げ方を変えて、エナメル質をどれだけ削るか測る

この研究(米・アラバマ大学)が賢いのは、ジルコニアの「表面の仕上げ方」を3通りに分けて比べた点です。

対象:ジルコニア3種=①研磨仕上げ ②グレーズ仕上げ ③研磨してから再グレーズ
比較:築盛陶材(Ceramco3)と、天然エナメル質そのもの
評価:抜去歯の咬頭を相手に専用試験機で40万回こすり、対合エナメル質が何mm³すり減ったかを3D計測

噛む動きを再現するため、10Nの荷重をかけながら2mm横滑りさせ、唾液代わりのグリセリン液を流し続ける——という、手の込んだ設計です。さて——硬いジルコニアは、本当に相手の歯を削ったのか。

結果:いちばん歯にやさしかったのは「研磨ジルコニア」

結論から言うと、硬さの予想は、見事に外れました。対合エナメル質の摩耗量(40万回後・mm³、少ないほど歯にやさしい)を少ない順に並べると、こうなります。

0 0.8 1.7 2.5 対合エナメル質の摩耗量 (mm³) 0.21 0.49 0.88 1.18 2.15 研磨ジルコニア 天然の歯どうし 研磨後再グレーズ グレーズのみ 築盛陶材 対合エナメル質の摩耗量(40万サイクル後・mm³/少ないほど歯にやさしい)。研磨ジルコニアが最も削らない
対合エナメル質の摩耗量。いちばん硬いはずの研磨ジルコニアが最少、いちばん柔らかいはずの築盛陶材が最多(約10倍)

驚くのはここです。いちばん硬いはずの研磨ジルコニア(0.21)が、相手の歯をいちばん削らなかった。しかも、天然の歯どうしでこすり合わせたとき(0.49)より少ない。逆に、いちばん削ったのはいちばん柔らかいはずの築盛陶材(2.15)で、研磨ジルコニアの約10倍も削っていました。硬さの順番と削る量の順番が、まるで逆さまです。

そして同じジルコニアでも、仕上げ方で4倍以上の差が出ました。研磨(0.21)→グレーズ(1.18)。釉薬を焼き付けただけのジルコニアは、研磨したものよりずっと相手を削る。「研磨してから釉薬」にすると中間(0.88)に収まりました。

なぜ「硬いのにやさしい」が起きるのか

カギは、硬さではなく「表面のなめらかさ(粗さ)」でした。表面粗さRa(μm)は、研磨ジルコニア0.17<グレーズ0.69〜0.76<築盛陶材1.60<天然エナメル質2.60で、摩耗の順番ときれいに対応していました。

・セラミックは脆く、すり減るとき細かく欠けて、そのカケラが「研磨剤」になって相手を削る
・築盛陶材は破壊靱性が低く欠けやすい→鋭いカケラを量産し、最も削る(柔らかいのに最多の正体)
・ジルコニアは破壊靱性が桁違いに高く欠けにくい→ツルツルに磨けばカケラが出ない
釉薬の層(20〜50μm)は数か月で擦り減り、下の磨いていないザラついた面が露出して削り始める

「グレーズした奥歯は、見た目のツヤが思ったより早く消える」という臨床実感と、ちゃんと一致しています。

明日の臨床へ──奥歯のジルコニアは「磨いて仕上げる」

引き出せる指針はシンプルです。噛む力が強くかかる臼歯のフルジルコニアは、グレーズで終わらせず、しっかり研磨して仕上げる。

装着時に咬合調整で削った面は、必ずツルツルに研磨し直す(ザラついたまま入れない)。審美的に釉薬のツヤが欲しいときは、まず研磨してから釉薬を焼く——釉薬が剥げても、下から出てくるのが“磨かれた面”になるので削りが進みにくい。「硬い材料だから相手が削れる」という思い込みで研磨ジルコニアを避ける理由はありません。

患者さんに「奥歯がすり減りませんか」と聞かれたら、「きちんと磨いて仕上げたジルコニアは、天然の歯どうしより削りません」と、根拠を持って答えられます。

ここだけ、冷静に補助線
この研究は試験管内(in vitro)の摩耗試験です。荷重は10Nと低め(実際の咀嚼は20〜120N、食いしばりはもっと強い)で、温度・pHの変化、唾液成分、食片の影響は再現されておらず、各群8個と少数。だから「臨床でも必ずこの数字どおり」と読むのは行きすぎで、著者自身「最終的な結論には対合歯の摩耗を測る臨床試験が必要」と明記しています。それでも、「研磨したジルコニアは釉薬や築盛陶材より対合エナメル質にやさしい」「硬さより表面のなめらかさが効く」という方向性は複数の研究と矛盾しません。「硬いジルコニア=対合歯を削る」という単純な不安は、いったん横に置いてよさそうです。

今日のひとこと

「硬いから、相手の歯を削る」——その直感は、データの前で覆りました。奥歯のジルコニアは、釉薬で飾るより、ツルツルに磨いて仕上げる。材料の“硬さ”ではなく、仕上げの“なめらかさ”を見ることが、対合歯を守る近道です。

出典:Janyavula S, Lawson N, Cakir D, Beck P, Ramp LC, Burgess JO. The wear of polished and glazed zirconia against enamel. J Prosthet Dent. 2013;109(1):22–29. PMID: 23328193.
※本記事は論文の要点を歯科医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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