
みなさん、こんにちは。
今回は、歯科常識を覆すかもしれない、ある興味深い論文を紹介します。
「毎日フロスをすれば、歯の間の虫歯は防げる」と信じて疑わない人は多いのではないでしょうか?
しかし、医学の世界では「常識」も検証の対象となります。
今回取り上げるのは、2006年に発表されたHujoelらによるシステマティックレビューです!
論文タイトル:Dental Flossing and Interproximal Caries: a Systematic Review
研究の目的

この研究の目的は非常にシンプルです。
「デンタルフロスは本当に隣接面う蝕(歯と歯の間の虫歯)を減らすのか?」という疑問に答えること。
研究手法について(システマティックレビューとは)
この論文は「システマティックレビュー」という形式をとっています。
これは、過去に行われた質の高い臨床試験を網羅的に集め、それらのデータを統合して解析する手法です。
1本の研究結果よりも信頼性が高く、医学的エビデンスのヒエラルキーにおいて上位に位置します!

著者はMEDLINEやCochraneなどの主要データベースを検索し、最終的に6つの対照臨床試験(対象:4歳から13歳の小児、計808名)を選定し、解析を行いました。
衝撃の結果:セルフフロスの限界

解析の結果は、我々の直感とは少し異なるものでした。
フロスの効果は「誰が、どのように行ったか」によって劇的に異なっていたのです。
1. プロによる徹底的なフロス
平日に毎日、専門家が子供に対してフロスを行った研究(期間1.7年)では、虫歯のリスクが約40%減少しました。これは統計的にも有意な差であり、フロス自体にプラーク除去能力と虫歯予防のポテンシャルがあることを示しています。
2. セルフケアによるフロス
一方で、若年者が自分でフロスを行った研究(期間2年)では、なんと虫歯のリスク減少は認められませんでした。また、専門家が介入しても頻度が「3ヶ月に1回」と低い場合も、効果は見られませんでした。
なぜ「自分」でやると効果が出ないのか?
この結果は、「フロスに意味がない」ということではありません。「フロスで虫歯を防ぐには、極めて高い技術と頻度が必要である」ということを示唆しています。
論文の考察では、以下の要因が指摘されています。
テクニックの問題:不適切な操作ではプラークを十分に除去できない、あるいは逆にプラークを押し込んでしまう可能性がある。
フッ素の影響:フッ素配合歯磨剤の使用状況によっては、フロスの追加効果がマスクされてしまう(フッ素の効果が強力であるため)。
我々は何を学ぶべきか
この論文は、EBM(根拠に基づく医療)の重要性を教えてくれます。「常識的に考えて良いはずだ」という思い込みと、実際の臨床データには乖離があることがあります。

皆さんに持ち帰ってほしいポイントは3つ
1. 技術の重要性:漫然とフロスを通すだけでは、虫歯予防効果は期待薄かもしれません。正しい手技を歯科医院で習う価値があります。
2. フッ素の活用:フロスの虫歯予防効果が不確実である以上、フッ素入り歯磨き粉や洗口液など、エビデンスの確立した予防法をベースにするべきです。
3. フロスを辞めるべきではない:今回の研究はあくまで「虫歯」への効果です。歯肉炎や歯周病の予防におけるフロスの有効性は別途議論されるべきであり、口腔衛生全体にとっては依然として有用なツールです。
科学論文を読むことで、普段の習慣をよりロジカルに見直すことができます。次にフロスを手に取るときは、「プロ並みに丁寧にやらないと意味がないかも」と思い出し、鏡を見ながら慎重に行ってみてください。

著者:大原 裕太
栗林歯科医院 丸の内 院長
「歯科医師が参考にする、歯科医師。」
歯科の論文・予防情報・治療方法に関する発信で歯科関係のフォロワー数は15000人超え
■ 歯科医師/歯科衛生士向け論文知識・治療技術解説の有料オンラインサロン 250人
■ 歯科医院、ウェブセミナーで虫歯治療・予防に関する講演多数
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