エンド|直線の根管を持つ単根のヒトの抜去歯54本を35/.06まで拡大し、2%次亜塩素酸ナトリウムの最終洗浄をKファイル(#15)・イリセーフ(#20)で超音波活性化した群と、活性化しない対照群(各18本)に分け、意図せず削れた象牙質をマイクロCTで比べた実験室研究(Boutsioukis・Tzimpoulas 2016・Journal of Endodontics)
超音波で洗浄液を動かす「パッシブ超音波洗浄」。ファイルは本当に根管壁を削っていないのか。Boutsioukis らは2016年、直線の根管を持つ単根のヒトの抜去歯54本(各群18本)で、最終洗浄の2%次亜塩素酸ナトリウムを10秒×3回、メーカー推奨の出力(35%)で活性化し、削れた象牙質をマイクロCTで測りました。Kファイル(#15)もイリセーフ(#20)も、活性化しない対照より有意に多く象牙質を削り、根尖側1/3ではKファイルがイリセーフより有意に多く削りました。最も深かった欠損はKファイル群0.09mm、イリセーフ群0.07mmでした。穿孔や目立つ偏位は起きておらず、著者ら自身、臨床上の意味ははっきりしないと書いています。患者の歯で調べた研究ではありません。
①超音波で洗浄液を動かすとき、ファイルは根管壁を削っていない?
根管洗浄の仕上げに、超音波でファイルを振動させて洗浄液を動かす方法(超音波による洗浄液の活性化)。「パッシブ超音波洗浄(PUI)」の名前で広まり、「壁に当てずに液だけを動かすもの」と習った方も多いと思います。
では実際に、そのファイルは根管壁の象牙質を削っていないのか。ヒトの抜去歯の根管で、削れた象牙質をマイクロCTで測ったのが、Boutsioukis・Tzimpoulas が2016年に Journal of Endodontics に出した研究です。
・直線の根管を持つ単根のヒトの抜去歯54本(各群18本)の実験室研究。根管を35/.06まで拡大したあと、2%次亜塩素酸ナトリウム(以下、次亜)2mLの注入を3回くり返し、毎回10秒、超音波で活性化した(出力はメーカー推奨の35%、ファイルは作業長の2mm手前)
・Kファイル(#15)群もイリセーフ(Irrisafe、#20)群も、活性化しない対照群より有意に多く象牙質を削り、深い欠損を作った(根管の歯冠側・中央・根尖側の3部位すべて)
・根尖側1/3では、Kファイルがイリセーフより有意に多く削った(削れた体積 P=.001、欠損の深さ P<.001)。歯冠側と中央では、2つのファイルの間に有意差を検出しなかった
・最も深かった欠損は、Kファイル群0.09mm、イリセーフ群0.07mm。穿孔や目立つ根管の偏位は起きなかった
②なぜこの研究が必要だったか
「パッシブ」という呼び名は、振動するファイルを根管壁に当てないように、という意味で使われてきました。壁に当たると振動が弱まるからです。ところが、同じ著者らの以前の実験室研究(模型の根管)では、直線の根管でもファイルは壁に頻繁に当たり、軽く当たるだけでも振動に大きく影響しうるとして、「パッシブ」と呼ぶべきではないと結論していました。
壁に当たるなら、意図せず象牙質を削っているかもしれません。電子顕微鏡写真で削れた跡が疑われたり、プラスチックの模型で根管の偏位が起きたりした報告はありましたが、実際の歯の根管で、どれだけ削れるのかは測られていませんでした。そこで著者らは、拡大を終えた直線の根管で、2種類の超音波ファイルが意図せず削る象牙質を測りました。
③何をどう比べたか
・試料:直線の根管を持つ単根のヒトの抜去歯54本。歯の長さを20mmにそろえ、作業長は19.5mm。根尖はシアノアクリレートで塞ぎ、根尖が閉じた状態にした
・拡大:1人の術者が、ニッケルチタンのロータリーファイル(Mtwo)で35/.06まで拡大。途中の洗浄は2%次亜、拡大後に2%次亜・17%EDTA・蒸留水
・群:コンピューターで3群に無作為に割り付けた(各18本)
A群:Kファイル(#15、テーパー.02、超音波用)で活性化
B群:イリセーフ(#20、テーパーなし。超音波による活性化専用に作られたとされるファイル)で活性化
C群:対照(活性化しない。注入後10秒そのまま置く)
・最終洗浄:2%次亜2mLを、30Gの先端開放型の針(作業長の2mm手前)で注入。これを3回くり返し、A群とB群では注入ごとに10秒活性化した。超音波装置はP5 Newtron XS、出力は7/20(35%、メーカー推奨)。ファイルは作業長の2mm手前で、根管の長軸になるべく沿わせて動かさずに保持した
・測り方:拡大前・拡大後・最終洗浄後の3回、マイクロCT(10μmのボクセル)で撮影して重ね合わせた。拡大前と拡大後には象牙質だったのに最終洗浄後に空気になった部分を、最終洗浄の間に意図せず削れた象牙質として数えた。根管の根尖側(0〜4mm)・中央(4〜8mm)・歯冠側(8〜12mm)ごとに、削れた体積と欠損の最大の深さを出した
・統計:分布が偏っていたため、順位を使う検定(クラスカル・ウォリス検定とマン・ホイットニーのU検定、部位の間はフリードマン検定とウィルコクソンの符号順位検定)。有意水準5%で、多重比較にはボンフェローニ補正
④結果1:どちらのファイルも、活性化しない対照より有意に多く削った
3群の間には有意差がありました(P<.001)。2群ずつの比較では、Kファイル群もイリセーフ群も、対照群より削れた体積が多く、欠損も深く、歯冠側・中央・根尖側のどの部位でも有意でした(P≦.005)。原著の表1(2群ずつの比較のP値と効果量 r)を、全てのセルそのまま表にしました。
削れた量そのものは小さなものです。超音波で活性化したあと、部位ごとに削れた体積は0.000〜0.011mm³でした。最も深かった欠損は、Kファイル群で0.09mm、イリセーフ群で0.07mmでした。
対照群でも、3本で少数のボクセルが「削れた」と誤って判定されました。著者らはこれを撮影と画像解析の誤差とみなし、量がわずかなので測り方は信頼できると判断しています。
⑤結果2:根尖側1/3では、Kファイルがイリセーフより有意に多く削った
2つのファイルを比べると、根尖側1/3では、Kファイルがイリセーフより削れた体積が多く(P=.001、r=0.56)、欠損も深かった(P<.001、r=0.59)。一方、歯冠側(体積 P=.435、深さ P=.432)と中央(体積 P=.083、深さ P=.052)では、有意差を検出しませんでした。
部位による違いも、ファイルで分かれました。Kファイル群では、根尖側1/3が中央・歯冠側より多く削れ、欠損も深かった(いずれも P<.001)。イリセーフ群と対照群では、部位の間に有意差を検出しませんでした。原著の図1の代表例では、Kファイルの欠損はファイルを入れた深さ(作業長の2mm手前)の近くに集中し、イリセーフでは根管に沿って小さな欠損が散らばり、最も目立つ欠損はやはり挿入した深さの近くにありました。
著者らは、この違いをファイルの振動のしかたで説明しています。テーパーのあるKファイルは先端で最も大きく振れ、ほかの振動の腹(大きく振れる部分)の振れ幅はかなり小さい。テーパーの無いイリセーフは、ファイルに沿った各腹の振れ幅が同じくらいで、その幅はおおむねKファイルより小さい、という別の研究の結果を引いたものです。この研究で振動を測ったわけではなく、著者らの解釈です。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、①どちらの超音波ファイルも、活性化しない対照より有意に多く象牙質を削った、②根尖側1/3ではKファイルがイリセーフより有意に多く削った、③超音波による活性化の手順は見直しが要るかもしれない、と結論しています。考察では、Kファイルはもともと象牙質を削るために作られた器具で、洗浄液の活性化に使うのは正当化しにくいこと、イリセーフは「削らない刃」をうたっているのに、少量とはいえ象牙質を削りうることを述べています。
一方で著者ら自身、臨床上の意味ははっきりしないと書いています。最も深い欠損でも0.10mmより浅く、穿孔や目立つ偏位は無く、歯根の強さを下げるほどではなさそうだ、という見方です。主に気にすべきなのは、根尖側1/3(特にKファイル)に広い段(レッジ)ができて、マスターポイントの試適などを妨げうること、としています。
また、この実験は直線の根管で、見やすく器具も入れやすい、いわば「最もよい条件」で行われました。それでも削れたことから、著者らは、超音波による活性化を「パッシブ」な手技とみなすべきではないと述べています。湾曲した根管ではもっと目立つかもしれない、という点は著者らの仮説で、この研究では湾曲根管を調べていません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・削れる量は小さい:最も深い欠損でKファイル0.09mm、イリセーフ0.07mm。穿孔や目立つ偏位は起きていない
・根尖側1/3でKファイルを使う時は、段(レッジ)に気を配る:根尖側1/3ではKファイルがイリセーフより有意に多く削った。原著の図1の代表例では、Kファイルの欠損は挿入した深さの近くに集まっていた
・この研究が測ったのは「削れた象牙質」だけ:洗浄の効果(汚れや菌の除去)や治療の成績は比べていない。活性化をやめるかどうかは、洗浄効果の研究と合わせて考える
なお、根管をより大きく拡大した場合や湾曲した根管で、どれだけ削れるかは、この研究からは分かりません。
(2)2つのファイルは太さが違います(Kファイル#15、イリセーフ#20)。イリセーフは#20と#25しか無く、同じメーカーには#20のKファイルが無かったためです。著者らは、両方を#25にそろえる代わりに、削る量を多めに見積もらないようKファイル#15とイリセーフ#20を選んだと説明しています。
(3)表面がなめらかなワイヤー状のチップは試していません。次亜とEDTAが象牙質を軟らかくして削れやすくした可能性、35/.06という控えめな拡大で壁に当たりやすかった可能性を、著者らは挙げています。
(4)削れた象牙質だけを測り、洗浄の効果や臨床の成績は調べていません。部位の差を見るには試料数が足りなかった可能性も、著者らは認めています。
(5)利益相反は無いと明記されています。超音波装置は研究者(van der Sluis 先生)から提供されました。
今日のひとこと
この抜去歯の実験室研究では、直線の根管・メーカー推奨の出力でも、Kファイルとイリセーフはどちらも活性化しない対照より有意に多く象牙質を削り、根尖側1/3ではKファイルがイリセーフより有意に多く削りました(最も深い欠損は0.09mmと0.07mm)。削れた量は小さく、穿孔や目立つ偏位は無く、洗浄の効果や治療の成績は調べていません。「超音波による活性化は、壁に当たって削ることもある手技。特に根尖側でKファイルを使う時は段に気を配る」と読み、手順は洗浄効果の研究と合わせて決める、というのがこの論文に合った読み方です。


