エンド|カルシウムシリケートを含む2つの根管シーラー(BC Sealer・MTA Fillapex)と、エポキシレジン系の AH Plus の抽出液を、練和直後と硬化後4週までヒトの歯肉線維芽細胞にかけて生存率を比べ、硬化した表面での細胞の付き方を電子顕微鏡で見た実験室研究(Zhouら 2015・Journal of Endodontics)
MTAと同じカルシウムシリケートを含むシーラーなら、どれも細胞にやさしいのか。Zhouらは2015年、BC Sealer と MTA Fillapex を AH Plus と比べ、ヒトの歯肉線維芽細胞への毒性を調べました。BC Sealer の抽出液では、練和直後でも硬化後4週まででも、生存率(培養液だけの細胞の平均を100%とした相対値)は約100%で、濃度や時期のあいだで有意差は検出されませんでした。MTA Fillapex は、いちばん濃い抽出液(1:2)で生存率がほぼ0%になり、硬化させてから2週以降の抽出液では 1:8 に薄めても強い毒性が続きました。AH Plus は練和直後と硬化後1週までの濃い抽出液で強い毒性を示し、硬化後2週以降の抽出液では毒性が見られませんでした。細胞培養の実験で、患者さんの歯での成績を調べたものではありません。
①カルシウムシリケート系シーラーなら、どれも細胞にやさしい?
MTAと同じカルシウムシリケートを含む根管シーラーが増えてきました。「MTA系なら生体親和性は高いはず」と、ひとまとめに考えていないでしょうか。
この問いに、細胞培養の実験で答えようとしたのが、Zhouらが2015年に Journal of Endodontics に報告した研究です。カルシウムシリケートを含む2つのシーラー、BC Sealer(EndoSequence BC Sealer)と MTA Fillapex を、エポキシレジン系の AH Plus を対照にして、ヒトの歯肉線維芽細胞への毒性を比べました。
・BC Sealer:練和直後でも硬化後(4週まで)でも、抽出液をかけた細胞の生存率(培養液だけの細胞の平均を100%とした相対値)はほぼ100%で、濃度や時期のあいだで有意差は検出されなかった(値は図から筆者が読んだ)。著者らは「細胞毒性なし」とまとめている
・MTA Fillapex:濃い抽出液(1:2)では練和直後から生存率がほぼ0%で、硬化させてから2週以降の抽出液は 1:8 でも強い毒性を示した。1:32 と 1:128 では毒性は見られなかった
・AH Plus:練和直後と、硬化させてから1週までの濃い抽出液(1:2)では強い毒性。2週以降の抽出液では毒性は見られなかった
・つまり、同じカルシウムシリケートを含むシーラーでも、細胞への毒性は製品によって違った
・ヒトの歯肉線維芽細胞を使った実験室の研究で、患者さんの歯での成績を調べたものではない
②なぜこの比較が必要だったか
シーラーは根尖の外の組織に触れるので、生体親和性が治療の結果に影響しうる、と著者らは序論で書いています。カルシウムシリケート(MTAの主成分)は生体親和性がよいとされ、それを含むシーラーが作られてきました。
ただし、中身は同じではありません。原著が引く製造者の説明では、MTA Fillapex はMTAに似た成分にサリチル酸レジンや天然樹脂などのレジン成分を組み合わせたもの。BC Sealer は(原著の説明では)カルシウムシリケートにリン酸カルシウムや水酸化カルシウムなど無機の成分を組み合わせたもので、硬化に水を必要とします。著者らによれば、この2つを直接比べた細胞毒性の研究は、それまで見当たらなかったとのことです。
③何をどう調べたか
・細胞:ヒトの歯肉線維芽細胞(口腔外科の手術を受けた健康な患者さんから以前に取って保存していた細胞。7〜8代目)
・シーラー:BC Sealer、MTA Fillapex、AH Plus(対照)。それぞれ製造者の指示どおりに練和し、直径10mm・厚さ3mmの円板にした
・練和直後:練ったばかりの円板を培養液に24時間浸し、その液(抽出液)を取った
・硬化後:製造者の示す硬化時間の3倍の時間おいて硬化させた円板を培養液に浸し、最初の24時間(0週)、その後は同じ円板から1週ごとに4週まで抽出液を取り直した
・濃度:抽出液を培養液で 1:2、1:8、1:32、1:128 に薄めた(1:2 がいちばん濃い)
細胞を抽出液の中で3日間育て、生きている細胞と死んだ細胞を蛍光の染色(カルセインAMとエチジウムホモダイマー1)で染め分けて、フローサイトメトリーで数えました。生存率は、培養液だけで育てた細胞の平均を100%とした相対値です(全ての細胞のうち生きている割合ではありません)。反復は、方法の節では triplicate、図2の説明では「3回の並行実験を triplicate で」と書かれていて、測定の総数ははっきりしません。群の差は一元配置分散分析(有意水準5%)で調べています。
あわせて、硬化させた円板(直径5mm・厚さ1.6mm。水に5日、培養液に7日浸して、あらかじめ溶け出す物を減らしたもの)の表面に細胞をまき、1・3・7日後の様子を走査電子顕微鏡で見ています(各時点5枚)。
④結果:同じカルシウムシリケート系でも、毒性は違った
練和直後では、BC Sealer の抽出液は、どの濃度でも生存率がほぼ100%でした。著者らは、濃い抽出液でわずかな毒性(mild toxicity)が見られたものの、濃度のあいだで生存率に有意差は検出されなかった、と書いています。
MTA Fillapex の抽出液は、いちばん濃い 1:2 で生存率がほぼ0%でしたが、1:8 に薄めると培養液だけの場合と同じくらいまで戻りました。AH Plus は 1:2 と 1:8 でほぼ0%、1:32 で約65%で、3つの中でいちばん薄めないと毒性が下がりませんでした(値は原著の図2D から筆者が読んだ)。
硬化後は、3つの経過がはっきり分かれました。
・BC Sealer:4週まで生存率はほぼ100%のままで、時期や濃度のあいだで有意差は検出されなかった
・AH Plus:1:2 では0週と1週の抽出液で生存率が約5%でしたが、2週以降の抽出液では毒性は見られなかった(有意差なし)
・MTA Fillapex:1:2 では0週が約5%、1週以降はほぼ0%。1:8 では、0週は約100%、1週は約60%、2週以降はほぼ0%に下がった。著者らは、硬化させて1週を過ぎた抽出液(1:2 と 1:8)は、練和直後や1週の抽出液より有意に毒性が強かった、と書いています。1:32 と 1:128 では、毒性は見られませんでした
走査電子顕微鏡では、AH Plus と BC Sealer の表面では、細胞が一晩の培養で材料の表面に広がって線維芽細胞らしい紡錘形になり、日がたつにつれて数が増えてつながっていきました。7日目には、AH Plus の表面全体を細胞が覆い、細胞の密度は BC Sealer より高く見えた、と著者らは書いています。MTA Fillapex の表面の細胞は、どの時点でも丸く、弱く付いているように見えました。
⑤結果の読み方
著者らの結論はこうです。練和直後でも硬化後でも、BC Sealer は MTA Fillapex より歯肉線維芽細胞に対する親和性がよかった。AH Plus は練和直後だけ毒性があり、硬化した表面では細胞が育った。ただし結果の節と図2A では、硬化させた円板の0週・1週の濃い抽出液(1:2)でも AH Plus に毒性が出ています(補助線の(5))。
なぜ MTA Fillapex だけ毒性が続いたのかについて、著者らは、どちらもカルシウムシリケートを含む以上、カルシウムシリケート以外の成分の違いだろうと考えています。初期の毒性はレジン成分、長く続く毒性はシーラーから溶け出す別の物質(たとえば鉛)によるのではないか、と推測しています。どちらもこの研究で確かめたことではなく、著者らの推測です。鉛の話は、著者らが引いた別の研究にもとづいています。また、2つのシーラーはどちらもアルカリ性を示すという以前の報告から、pH では毒性の違いは説明できない、とも書いています。
AH Plus の練和直後の毒性は、これまでの報告と一致する、と著者らは書いています。その原因としては、重合を速めるために加えたアミンから出るわずかなホルムアルデヒドと、エポキシレジンの成分が、先行研究で挙げられています。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
「カルシウムシリケート系」「バイオセラミック系」という分類の名前だけでは、細胞への毒性は決まらない。この研究から持ち帰りたいのは、その一点です。シーラーを選ぶときは、どの成分と組み合わせてあるかまで見ておきたいところです。
一方で、ここで分かったのは、細胞にシーラーから溶け出した物をかけたときの反応です。根尖の外にシーラーが出た歯で、治りがどう違うかを調べたものではありません。実際の根管では、シーラーは根管の中にあり、溶け出した物も組織の液で薄まっていくと著者らは書いています。この実験で、硬化させた円板から0〜4週に取った抽出液を 1:32 と 1:128 に薄めると3つとも毒性が見られなかったこと(練和直後の AH Plus は 1:32 でも生存率約65%)も、あわせて頭に置いておきたい結果です。
シーラーを根尖の外へ押し出さない配慮は、どのシーラーを使うにしても大切です。そのうえで、製品ごとの違いを考える材料の1つとして読みたい1本です。
(1)ヒトの歯肉線維芽細胞1種類を使った実験室の研究です。根尖の外の組織の細胞(骨や歯根膜の細胞)や、生体の中での反応は調べていません。
(2)結果は図の折れ線だけで示され、数値の表はありません。この記事の図1・図2の値は、筆者が図から目で読んだおおよその値です。群ごとの比較の p 値も、本文に個別には示されていません。
(3)各シーラーは1つのロットだけです。反復は triplicate と書かれていますが、測定の総数は示されていません。
(4)BC Sealer について、原著は「濃い抽出液でわずかな毒性」と「4週を通じて毒性なし」の両方の言い方をしています。濃度や時期のあいだで有意差は検出されなかった、というのが共通する結果です。
(5)抄録は「硬化後の AH Plus は毒性なし」と書いていますが、本文と図2A では、硬化させた円板の 0週と1週の抽出液(1:2)で生存率が約5%に下がっています。毒性が見られなくなったのは2週以降の抽出液です。また抄録は、硬化した AH Plus の表面でも BC Sealer と同じように細胞が育ったと書く一方、結果の節では7日目の細胞の密度は AH Plus のほうが高かったとしています。
(6)MTA Fillapex の長く続く毒性を鉛によるものとするのは、著者らの推測です。この研究で鉛は測っていません。
(7)謝辞によると、研究に使った材料は、MTA Fillapex の製造元である Angelus 社から提供されています。著者らは利益相反は無いとしています。資金は中国とカナダの公的な研究費などです。
同じ系統のシーラーでも細胞への毒性が製品によって違うことを、時間を追って見せてくれた1本、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
同じカルシウムシリケートを含むシーラーでも、細胞への毒性は製品によって違いました。この実験では、BC Sealer の抽出液では練和直後から硬化後4週まで生存率(対照を100%とした相対値)が約100%のままで、MTA Fillapex は濃い抽出液で強い毒性が硬化後も続きました。ただし、ヒトの歯肉線維芽細胞1種類を使った実験室の研究で、値も図から読んだおおよその値です。患者さんの歯での治りを調べたものではありません。「カルシウムシリケート系」という名前だけでなく、何と組み合わせた製品かまで見る。その手がかりとして読みたい1本です。


