エンド|シーラー(Roth・Sealapex)を塗ったGPと塗っていないGPを、唾液か血清に2週間・1か月・3か月浸したあと、E. faecalis と2週間培養し、GPに付着した生きた菌の数を、栄養の多い培地と乏しい液(PBS)で比べた実験室研究(Georgeら 2010・Journal of Endodontics)
根管に詰めたガッタパーチャ(GP)は、唾液や組織液にさらされると細菌の足場になるのか。Georgeらは2010年、GPを唾液か血清に浸しておき、そのあと Enterococcus faecalis と培養して、付着した生きた菌を数えました。栄養の多い培地では、どの条件のGPにも菌が付着していました。栄養の乏しい液(リン酸緩衝液)で培養すると、唾液か血清に2週間浸しただけのGPから生きた菌は検出されませんでしたが、1か月・3か月浸したGPでは多くの条件で検出されました(1か月と3か月の計12条件のうち10条件。表2を筆者が数えた)。唾液か血清かで有意差は検出されなかった、と著者らは書いています。根管の模型はプラスチックのストローで、菌は E. faecalis の1株、生きた菌は各群10本のGPで数えた実験室研究(in vitro)です。
①根管に詰めたGPに、細菌はすみつくのか?
根管充填が終われば、ガッタパーチャ(GP)は根管の中で何年も過ごします。歯冠側から唾液が漏れてきたり、根尖側から組織液が入り込んだりしたとき、そのGPの表面に細菌がすみつくことはあるのか。再治療で取り出したGPを見ると、気になってくる問いです。
この問いを実験室で調べたのが、Georgeらが2010年に Journal of Endodontics に報告した研究です。プラスチックの管を根管に見立て、シーラーを塗ったGPと塗っていないGPを、唾液か血清に2週間〜3か月浸しておき、そのあとで Enterococcus faecalis(E. faecalis)を2週間培養して、GPに付着して生きている菌の数を数えました。
・栄養の多い培地で培養すると、シーラーの有無・唾液か血清か・浸した期間にかかわらず、どの条件のGPにも E. faecalis の生きた菌が付着していた(GP1本あたり10の2.61乗〜5.15乗個。表1の値の範囲を筆者が求めた)
・栄養の乏しい液(リン酸緩衝液)で培養すると、唾液か血清に2週間浸しただけのGPでは、どの条件でも生きた菌は検出されなかった。1か月・3か月浸したGPでは、多くの条件で検出された(1か月と3か月の計12条件のうち10条件。表2を筆者が数えた)
・唾液に浸したか血清に浸したかで、菌の数に有意差は検出されなかった、と著者らは書いている
・著者らは、唾液や血清がGPの表面を覆うことが、厳しい環境でのバイオフィルムづくりに大きな役割を果たすと結論し、GPを根尖孔から押し出さないこと、歯冠側の封鎖、GPの消毒の大切さを挙げている
・プラスチックの管でつくった根管の模型と、E. faecalis 1株を使った実験室研究(in vitro)。生きた菌の数は各群10本のGPで数えた。象牙質も、患者さんの歯も使っていない
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で、こう整理しています。体に入れた材料や組織の表面に付着し、バイオフィルムとして増える細菌が、材料を中心にした感染(biomaterial-centered infection)の主な原因とされる。バイオフィルムの中の細菌は抗菌薬が効きにくく、体の防御でも治りにくい。
根管治療が失敗した歯の根管からは、E. faecalis が最もよく、ときには1種類だけで見つかる。根管治療後の感染がある歯の30〜89%で見つかったという報告もある。E. faecalis は、GPとシーラーで充填された根管の厳しい環境でも生き延びる力があると考えられている。根管の象牙質の上では、栄養の多い条件でも乏しい条件でもバイオフィルムを作ることが示されているが、GPのような材料の上でどうなるかは、分かっていないことが多い。ここまでは、著者らが引いた文献にもとづく整理です。
そこで著者らは、(1) 栄養の多い条件と乏しい条件で、E. faecalis がGPの上にバイオフィルムを作れるか、(2) GPを覆う液(唾液か血清か)と、覆われていた期間がどう関わるか、を調べました。
③何をどう比べたか
シーラーを塗るGPとして、GPポイント420本(サイズ40。シーラー2群×210本)を使っています。5.25%の次亜塩素酸ナトリウムに1分浸して消毒しています。根管の代わりに、長さ30mm・直径3.5mmのプラスチックのストローを使いました。
シーラーは2種類です。酸化亜鉛ユージノール系の Roth シーラー(801 Elite)と、水酸化カルシウム系の Sealapex。ストローの内壁とGPの表面にシーラーを塗り、37℃で8日間おいてから、GPをストローから抜き出しました。シーラーを塗っていないGPも調べています(シーラーなしのGPの準備と本数は、原著の方法に書かれていません)。
次に、GPを液に浸しました(原著は「コンディショニング」と呼んでいます)。
・唾液:むし歯のない1人から集め、ろ過して滅菌したもの。歯冠側から漏れてくる液の代わり
・血清:ウシ胎児血清。根尖側から入ってくる液の代わり
・期間:37℃で2週間・1か月・3か月
浸したあとのGPを、E. faecalis(ATCC 29212、1mLあたり10の8乗個)と一緒に、嫌気の条件・37℃で2週間培養しました。培養の液は2種類です。
・栄養の多い条件:培養用の培地(All Culture 培地)
・栄養の乏しい条件:リン酸緩衝液(PBS)
液は2日ごとに入れ替えています。培養後、GPをPBSで3回すすいで付着していない菌を落とし、GPに付着していた菌を振り落として培養し、生きた菌の数(コロニーの数)を数えました。各群10本のGPで数え、GP1本あたりの菌の数を10を底とする対数で示しています。走査型電子顕微鏡(SEM)でも、各群5本を観察しました。
④結果:栄養が乏しいと、浸した期間で分かれた
栄養の多い培地で培養すると、6つの条件(シーラーなし・Roth・Sealapex × 唾液・血清)のすべてで、どの期間でも生きた菌が付着していました。値は、GP1本あたり10の2.61乗〜5.15乗個です(表1の全18個の値から筆者が求めた範囲)。SEMでも、すべてのGPにバイオフィルムが見られ、多くは規則的な1層の形だった、と著者らは書いています。
3か月浸したGPの菌の数が2週間浸したGPより有意に多かったのは、6条件のうち4条件でした(表1の*を筆者が数えた。原著の結果の本文は、3か月で有意に増えたとまとめて書いているが、ここでは表1の*に従った。*の無い条件を「差がない」とは言えない)。一方で、1か月の値は2週間より低い条件が6条件のうち5条件あり(表1を筆者が比べた)、浸した期間とともに一様に増えたわけではありません。
栄養の乏しい液で培養すると、結果ははっきり分かれました。唾液か血清に2週間浸しただけのGPでは、6条件のどれからも生きた菌は検出されませんでした。SEMでも、バイオフィルムの形跡は見られなかったとされています。
1か月浸したGPでは、シーラーなしのGP(唾液 10の3.55乗、血清 3.59乗)と Sealapex のGP(唾液 0.76乗、血清 4.32乗)から菌が検出され、Roth のGPからは検出されませんでした。3か月浸したGPでは、6条件すべてで値が0を上回り(Roth のGPを唾液に浸した条件は、表の値で1。10の1乗にあたる)、6条件のうち5条件は2週間より有意に多い値でした(表2の*を筆者が数えた)。Roth のGPを唾液に浸した条件は、ほかのGPより有意に少なかった、と表の注に書かれています。
唾液に浸したか血清に浸したかで、菌の数に有意差はどの群でも検出されなかった、と著者らは書いています。
⑤結果の読み方
著者らの結論はこうです。唾液か血清で覆われたGPには、酸化亜鉛系・水酸化カルシウム系のシーラーの有無にかかわらず、栄養の多い条件でも乏しい条件でも E. faecalis が付着した。栄養の乏しい条件では、バイオフィルムができるまでに、唾液か血清でより長く覆われている必要があった。根管治療をした歯のGPにバイオフィルムができるうえで、唾液や血清のような組織液が役割を果たしている。
仕組みについて、著者らはこう考察しています。唾液や血清にさらされたGPの表面には、多糖や糖たんぱく質の層が吸着し、それが浮遊している菌の足場になる。シーラーが菌の付着を抑える働きも、長く浸すと打ち消されたのだろう。これは著者らの考察で、この実験で表面の層を測ったわけではありません。
著者らはさらに、GPを根尖孔の外に押し出して血清に触れさせないこと、歯冠側をしっかり封鎖すること、GPを消毒することの大切さを挙げています。ユージノール系の Roth シーラーは、水酸化カルシウム系の Sealapex より菌の付着を抑えた、とも書いています。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この実験が教えてくれるのは、「GPそのものは、細菌が付着できない材料ではない」という見方です。唾液か血清に1か月・3か月浸したあと、栄養の乏しい液で菌と培養したGPでは、多くの条件で E. faecalis の生きた菌が検出されました(1か月と3か月の計12条件のうち10条件。表2を筆者が数えた)。1か月の Roth のGPでは、唾液・血清とも検出されていません。歯冠側からの漏れや、根尖から押し出したGPを、細菌の足場という目で見直すきっかけになります。
一方で、この結果から「押し出したGPから感染が起きる」「Roth シーラーを選べば防げる」とまでは言えません。根管の模型はプラスチックのストローで、象牙質はありません。菌は E. faecalis の1株だけで、唾液は1人から集めたもの、血清はウシの胎児の血清です。患者さんの歯で、治療の成績を調べた研究でもありません。
歯冠側の封鎖と、根尖の外に出さない充填。いつもの基本に、もう1つ理由を足してくれる実験として読みたい1本です。
(1)実験室研究(in vitro)です。根管の代わりにプラスチックのストロー(長さ30mm・直径3.5mm)を使い、象牙質や根管の形は再現していません。
(2)菌は E. faecalis の1株(ATCC 29212)だけで、いくつもの菌が混ざったバイオフィルムや、患者さんから取った菌は調べていません。著者らも、今後の課題として挙げています。
(3)唾液はむし歯のない1人から集めたもの、血清はウシ胎児血清です。
(4)生きた菌の数は各群10本、SEMは各群5本です。表の括弧の中の値が何を表すかは、原著に書かれていません。
(5)栄養の多い条件では、1か月の値が2週間より低い条件が多く(表1を筆者が比べると、6条件のうち5条件)、浸した期間とともに一様に増えたわけではありません。原著は、この点を説明していません。
(6)時点のあいだの比較に、表の注は「対応のある検定(paired sample test)」を使ったと書いています。別々のGPを比べた比較に対応のある検定を当てた理由は、原著からは分かりません。
(7)シーラーを塗っていないGPの群の準備と本数は、方法の節に書かれていません。方法には「シーラー2種類×210本=420本」とあります。
(8)「押し出しを避ける」「ユージノール系のシーラーのほうが付着を抑えた」は、この実験の条件での著者らの考察と結論で、患者さんの歯の治療成績で確かめたものではありません。
(9)資金と利益相反についての記載は、論文中に見当たりません。謝辞には、シンガポール国立大学歯学部と学部生の研究プログラムへの謝意が書かれています。
GPを「詰めたら終わりの材料」ではなく、長く根管に残る材料として見る。その視点をくれる実験、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この実験が示したのは、唾液や血清に長く浸したGPでは、そのあと栄養の乏しい液で培養しても E. faecalis の生きた菌が検出されたということです(2週間浸しただけのGPからは生きた菌が検出されず、1か月・3か月浸したGPでは計12条件のうち10条件で検出。表2を筆者が数えた。1か月の Roth のGPからは検出されず)。栄養の多い培地では、シーラーの有無にかかわらず、どのGPにも菌が付着していました。ただし、根管の模型はプラスチックのストローで象牙質は無く、菌は1株だけ、患者さんの歯の成績も調べていません。GPを長く根管に残る材料として見直し、歯冠側の封鎖と根尖の外に出さない充填に、もう1つ理由を足してくれる実験として読みたい1本です。


