保存修復|歯肉縁下にある隣接面の辺縁を、直接法のコンポジットレジンのベースで歯肉縁上まで持ち上げてから間接修復に進む手技(ディープマージンエレベーション:DME)の考え方と手順をまとめた解説(Magne・Spreafico 2012・The American Journal of Esthetic Dentistry)。比較試験や症例の集計ではない
大きなⅡ級の修復をやり直すと、隣接面の辺縁が歯肉縁より下に来ることがあります。インレーやアンレーで直したいのに、防湿も印象も装着も難しい。MagneとSpreaficoは2012年、こうした辺縁をコンポジットレジン(CR)で歯肉縁上まで持ち上げる手技(ディープマージンエレベーション:DME)の考え方と手順をまとめました。ラバーダムの下で、形を変えた彎曲したマトリックスを入れ、象牙質を接着材で封鎖し(IDS)、CRのベースで辺縁を約2mm持ち上げます。著者らは、マトリックスで辺縁をきちんと隔離できるときだけ行い、できなければ禁忌、としています。出血が続くときや、X線で適合が悪いときは、歯冠長延長術に切り替える、とも書いています。結論の1文目は「この手技を検証するには、さらに研究が必要」。示されているのは手順と症例の写真(9年と12年の2例など)で、成績を数字で示したデータはなく、歯冠長延長術と比べた研究でもありません。
①歯肉縁下の辺縁、間接修復の前にCRで持ち上げていい?
大きなⅡ級の修復をやり直すと、隣接面の辺縁が歯肉縁より下に来ることがあります。インレーやアンレーで直したいのに、ラバーダムが辺縁を越えてすべる。唾液と血液がにじむ。印象も、接着性セメントでの装着も難しい。歯冠長延長術で辺縁を出すのが定石ですが、根の凹みや分岐部が近いと、ためらう場面です。
この場面に、「辺縁をコンポジットレジン(CR)で歯肉縁上まで持ち上げてから、間接修復に進む」という考え方と手順を示したのが、MagneとSpreaficoが2012年に The American Journal of Esthetic Dentistry に書いた論文です。比較試験でも症例の集計でもなく、手技と、その土台になる考え方をまとめた解説です。
・提案されているのは、ディープマージンエレベーション(DME)。ラバーダムの下で、形を変えた彎曲したマトリックスを入れ、象牙質を接着材で封鎖し(イミディエイトデンティンシーリング:IDS)、CRのベースで深い辺縁を歯肉縁上まで持ち上げる
・著者らは、マトリックスで辺縁をきちんと隔離できるときだけ行う。できなければ禁忌、としている
・うまくいかなかったとき(処置中・処置後に出血が続く、X線で辺縁の適合が悪い)は、歯冠長延長術を行う、とも書いている
・著者らの結論の1文目は「この手技を検証するには、さらに研究が必要」。そのうえで、より侵襲の大きい処置を受けられない患者さんには役立つ選択肢になる、と述べている
・示されているのは、手順と、経過写真のある症例(9年と12年の2例など)。成績を数字で示したデータはなく、歯冠長延長術と比べた研究でもない
②なぜこの手技が提案されたか
著者らは冒頭で、こう整理しています。大きなⅡ級の欠損を直接CRで直すのは、収縮応力を減らす工夫をしても理想的ではない。そのため、こうした欠損はふつうインレーやアンレーで修復される。ところが辺縁が歯肉縁下にあると、ラバーダムでの防湿、接着の操作、印象(従来法でも光学印象でも)、接着性セメントでの装着の全てが難しくなる。うまく行えなければ、修復物の寿命にも、辺縁の歯周組織との関係にも響きうる、と。
対処法の1つは、外科で支持組織を根尖側に下げて辺縁を出すことです。ただし著者らは、付着の喪失や、根の凹み・分岐部が近くなるといった解剖学的な問題につながりうること、口の中に露出した辺縁は清掃が難しくなりうることを挙げています。
もう1つが、CRのベースを置いて、間接修復の下で隣接面の辺縁を歯冠側に移す方法です。著者らによれば、DietschiとSpreaficoが1998年に示したもので、ディープマージンエレベーション(DME)、または辺縁の歯冠側への移動(coronal margin relocation)と呼ばれます。この論文は、それを IDS と組み合わせて使うことを提案しています。ここまでは、著者らの整理と、著者らが引いた文献にもとづく説明です。
③DMEの考え方と手順
DMEの狙いは、辺縁を「ラバーダムで封鎖できる高さ」まで上げることです。接着性のレジンセメントは、硬化の前に余剰を取り除かなければなりません。辺縁が歯肉縁下にあると、その操作で出血したり、防湿が破れたりする危険が大きい。辺縁を上げておけば、装着のときにラバーダムで封鎖でき、余剰のセメントをきちんと取り除ける。著者らはそう説明しています。
使うマトリックスにも、はっきりした指定があります。彎曲したマトリックス(いわゆるバナナマトリックス)を選び、高さを2〜3mm(持ち上げたい量より少し高い程度)に切り詰める。幅が狭いので歯肉縁下にすべり込み、辺縁を封鎖しやすい。ふつうのマトリックスは、辺縁がセメントエナメル境(CEJ)より上なら使えるが、CEJの付近にある辺縁では、歯肉側の立ち上がりの形が不十分になりやすい、と著者らは書いています。くさびは、たいてい使えません。
条件もあります。マトリックスを支えられるだけの頬側・舌側の壁が残っていること。局所的な持ち上げは可能だが、頬舌方向に広い範囲の持ち上げは、ふつう、マトリックスが不安定になってつぶれることで制約されること。マトリックスを入れたあと、辺縁とマトリックスのあいだに歯肉もラバーダムもはさまっていないこと。根管治療歯では、根管治療がうまくいっていることを確かめ、根管口をグラスアイオノマーで覆うこと。
接着の前には、細かいダイヤモンドバーか振動するチップで、注水しながら辺縁をもう一度軽く形成します。マトリックスを入れるときに象牙質に付いた汚れを落とすためです。そのうえで、3ステップのエッチ&リンス型の接着材で IDS を行い、CRのベースで辺縁を約2mm持ち上げます(1〜2回に分けて)。終わったら、余剰とバリを12番のメスや鎌型スケーラーで取り除き、フロスではみ出しがないことを確かめ、咬翼法のX線で隙間やはみ出しがないことを確認してから、最終の形成と印象に進みます。
④示されている根拠:症例の写真と、著者らが引いた文献
この論文には、成績を数字で示した結果の節がありません。示されているのは、次のものです。
・手順を追った臨床写真とX線(下顎の大臼歯の遠心の辺縁を持ち上げた例など)
・DMEのあとに根管の再治療を行い、間接修復のアンレーを装着した症例
・長期の経過を示す2症例。上顎第二小臼歯の遠心の辺縁を持ち上げた症例の9年後の口腔内写真とX線、そして DME と Belleglass(Kerr)のアンレーで治療した症例の12年後の口腔内写真とX線
2症例の写真には、歯周組織の検査値や、ほかの症例の成績は添えられていません。何例に行って何例がうまくいったか、という情報もありません。
歯周組織への影響について、著者らは「深い歯肉縁下の接着性の辺縁があっても、修復した歯の歯周組織の状態には影響しないかもしれない」と書き、文献を1つ引いています(歯冠・歯根破折の破片を接着で再付着させた歯の、2年後の歯周組織の状態を調べた報告)。DMEそのものを調べた研究ではありません。持ち上げたCRの上に間接修復を装着することについても、既存の(経年したものを含む)CR修復のある歯にセラミックのラミネートベニアを接着して荷重をかけた研究を引いて、寿命に影響しない、と述べています。「寿命に影響しない」は著者らの表現で、引かれた研究(文献の題によれば静的な荷重と繰り返しの荷重をかけた試験)は、患者さんの口の中で修復物の寿命を追跡したものではありません。これらの引用文献は、今回は直接確認していません。
⑤結果の読み方
著者らの結論は、短く5つの文です。DMEを検証するには、さらに研究が必要である。それでも、より侵襲の大きい処置を受けられない患者さんには、役立つ選択肢になる。DMEは、歯質の保存という修復の主な目標に合っている。歯肉縁下の辺縁の光学印象を楽にするので、デジタルの歯科医療に大きな影響を与えうる。大きな直接CR修復の助けにもなるかもしれない。
「かもしれない(may)」「なりうる(could)」が並ぶ書き方です。題名には「パラダイムシフト」とありますが、成績が外科より優れると示した論文ではありません。
直接CR修復への応用についても触れています。もともとは半直接法や間接修復のための手技だが、大きな直接CR修復の前処置としても、セパレーションリングの位置づけを楽にし、形と隣接面の接触を良くするかもしれない、という提案です。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この論文のいちばんの読みどころは、「やってよい条件」と「やめる条件」がはっきり書かれていることです。ラバーダムの下で行う。彎曲したマトリックスで辺縁を隔離できなければ行わない。出血が続いたり、X線で適合が悪かったりしたら、歯冠長延長術に切り替える。処置のあとも、軟組織の状態を注意深く追い、外科が必要にならないかを見る。手順をまねる前に、まずこの線引きを持ち帰りたいところです。
一方で、「歯冠長延長術の代わりになる」と言い切れる論文ではありません。著者ら自身が、さらに研究が必要だと最初に書いています。骨頂までの距離がどのくらいなら行ってよいか、といった基準も、この論文には示されていません。
歯肉縁下の辺縁に出会ったとき、外科の前にもう1つ検討できる手がある。その手の条件と限界を、提案者自身の言葉で確かめておく。そういう位置づけで読みたい1本です。
(1)手技の解説です。対照群のある研究でも、症例を集計した研究でもありません。成功率や失敗率などの数字は示されていません。
(2)長期の経過として示されているのは、9年と12年の2症例の写真とX線です。どのように選ばれた症例かは書かれておらず、歯周組織の検査値も添えられていません。
(3)著者らの結論の1文目は、「この手技を検証するには、さらに研究が必要」です。
(4)歯周組織に影響しないかもしれない、という記述の根拠として引かれているのは、破折片の再付着を調べた別の場面の研究です。DMEを行った歯の歯周組織を調べたものではありません。
(5)骨頂や付着との距離について、どこまでなら行ってよいかという基準は、この論文には書かれていません。
(6)器具と材料は、製品名つきで例として挙げられています。資金や利益相反についての記載は、論文中に見当たりません。
(7)この雑誌は PubMed に収載されておらず、論文に DOI は付いていません。書誌は、PDFの誌面(Am J Esthet Dent 2012;2:86–96)で確認しました。
(8)著者らが引いた文献(1998年の原法、IDS、歯周組織の報告など)は、今回は直接確認していません。
歯肉縁下の辺縁を前にしたとき、選択肢と、その線引きを整理してくれる解説、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この論文が示したのは、歯肉縁下の辺縁を、ラバーダムと彎曲したマトリックスで隔離できる場合に限って、CRのベースで歯肉縁上まで持ち上げてから間接修復に進む、という手技と、その線引きです。隔離できなければ禁忌。出血が続くときや、X線で適合が悪いときは歯冠長延長術。処置のあとも軟組織を注意深く追う。著者らは「この手技を検証するには、さらに研究が必要」と結んだうえで、より侵襲の大きい処置を受けられない患者さんには役立つ選択肢になる、と述べています。ただし、手技の解説であって、成績を数字で示したデータはありません。長期の経過は2症例の写真だけで、歯冠長延長術と比べた研究でもありません。歯肉縁下の辺縁に出会ったときの選択肢と、その条件を整理する手がかりの1つ、という位置づけで読みたい1本です。


