保存修復|CEJを越える深い隣接面の窩洞を、2段階の直接コンポジットレジン修復(R2テクニック)で直す手技の解説と、1症例の12か月の経過、そして「生物学的幅径」という考え方についての著者らの解説をまとめた論文(Frese・Wolff・Staehle 2014・Operative Dentistry)。対照群のある研究ではない
修復物が外れた小臼歯。隣接面のう蝕はCEJを越え、X線では窩洞の辺縁から歯槽骨頂まで1mmほどしかない。標準的には、外科か矯正で距離を確保してから間接修復です。Freseらは2014年、こうした窩洞を2段階の直接コンポジットレジン(CR)修復で直す手技(R2テクニック)を解説し、1症例の経過を報告しました。第1段階で隣接面の箱の底をCRで持ち上げ(proximal box elevation:PBE)、第2段階でラバーダムと隔壁を使って残りを修復します。75歳の女性の小臼歯1本で、術後のX線で、修復物の辺縁から歯槽骨頂までの距離は0.5〜1.0mm。12か月後、周囲に炎症の所見はなく、プロービング深さは2mm、プロービング時の出血はありませんでした。X線では歯槽骨のごくわずかな減少が見られています。著者らは、口腔清掃の指導と合った歯間ブラシの使用が欠かせないとし、長期の接着強さや辺縁の質についての根拠は文献にないと書いています。1症例・12か月・比較対照なしの報告です。
①骨頂に近い深い隣接面、直接CRで直せる?
修復物が外れた小臼歯。隣接面のう蝕はセメントエナメル境(CEJ)を越え、X線では窩洞の辺縁から歯槽骨頂まで1mmほどしかない。教科書どおりなら、歯冠長延長術か矯正的挺出で「生物学的幅径」を確保してから、間接修復です。でも、患者さんが外科も矯正も望まなかったら。
この場面に、直接コンポジットレジン(CR)修復を2段階に分けて行う手技を提案し、1症例の12か月の経過を示したのが、Freseらが2014年に Operative Dentistry に報告した論文です。研究というより、手技の解説と症例報告、そして生物学的幅径という考え方への問題提起をまとめたものです。
・著者らが示したのは、深い隣接面の窩洞を2段階で直接CR修復する手技(R2テクニック)。第1段階で隣接面の箱の底をCRで持ち上げ(proximal box elevation:PBE)、第2段階でラバーダムと隔壁を使って残りを修復する
・症例は1例。75歳の女性の下顎右側の小臼歯(#45)で、術後のX線で、修復物の辺縁から歯槽骨頂までの距離は0.5〜1.0mmだった
・12か月後、歯髄は生活反応があり、周囲に炎症の所見はなく、プロービング深さは2mm、プロービング時の出血はなかった。X線では、歯槽骨のごくわずかな減少が見られた
・著者らは、口腔清掃の指導と、合った歯間ブラシの使用が欠かせないとしている。接着の長期の強さや辺縁の質についての根拠は文献にない、とも書いている
・1症例・12か月・比較対照なしの報告。この手技が外科や矯正の前処置を伴う修復と同じ結果になるかは、この論文からは分からない
②なぜこの手技が提案されたか
著者らは序論で、こう整理しています。防湿さえできれば、今のCRは、辺縁がCEJより下にある深い窩洞にも使えるようになった。そうなると、修復物の辺縁が接合上皮や歯槽骨頂のすぐ近くに来る場面が増える。
一方で、修復物の辺縁と歯槽骨頂のあいだには3mm以上の距離を取ることが勧められてきました。歯と歯肉の付着部の寸法を調べた報告(著者らが引いた値では、Gargiuloら 1961年が2.73mm、Vacekら 1994年が3.25mm)にもとづく考え方で、修復の分野ではこの距離が「生物学的幅径」と呼ばれています。これを侵すと、強い歯肉の炎症、付着の喪失、骨の吸収が起こりうる、とされてきました。ここまでは、著者らが引いた文献にもとづく整理です。
そのうえで著者らは、自分たちの診療科での観察を挙げます。生物学的幅径に入り込む深い隣接面のCR修復でも、辺縁が平らで滑らかで刺激がなく、口腔清掃の指導と合った歯間ブラシの使用があれば、歯肉や歯周組織に炎症がない例がある。そこから、2段階の手技で作った歯肉縁下のCR修復は、慢性の炎症を起こさずに生物学的幅径の領域に入り込めるかもしれない、という仮説を立てています。
③症例と、2段階の手技
症例は、修復物が外れて来院した75歳の女性です。全身の病気はなく、非喫煙で、服薬もありません。下顎右側の小臼歯(#45)に痛みはなく、歯髄の生活反応は陽性、動揺なし、プロービング深さは2mmでした。窩洞の歯頸側の辺縁のう蝕はCEJを越え、隣接面の辺縁の一部を、増殖した歯肉が覆っていました。X線では根尖部に透過像はなく、窩洞の辺縁から歯槽骨頂までの距離は0.5〜1.0mmです。
著者らは患者さんに、標準的な治療(ゴールドスタンダード)は、外科または矯正の前処置を組み合わせた間接修復(部分被覆冠または全部被覆冠)であること、辺縁隆線が残っている場合には直接CR修復も選択肢になるが、その結果は間接修復より予測しにくいことを説明しています。患者さんは、外科や矯正を避けるために直接CR修復を選びました。
第1段階(PBE)の要点は、いちばん難しい場所だけを先に片づけることです。窩洞の辺縁が骨頂に近すぎて、隔壁(マトリックス)を入れられない。そこで、隔壁なしで、箱の底の辺縁にフロアブルレジンを薄く置き、硬化させないまま、その上からペースト状のCRを押し込んで形を整え、まとめて光照射します(スノープラウテクニック)。隔壁がないのではみ出しは避けられず、ダイヤモンドのポイントとメスで取り除いて、滑らかな面に仕上げています。
第2段階では、辺縁がCEJより上に上がったので、ラバーダムと部分的な隔壁(セクショナルマトリックス)が使えます。第1段階のCRの表面を酸化アルミニウムの粉(50µm)で粗くし、同じ接着の手順とスノープラウテクニックで、残りを修復しました。治療のあと、口腔清掃の指導を行い、合った太さの歯間ブラシを選んでいます。
④経過:12か月後、炎症の所見はなかった
術後のX線では、修復物の辺縁は歯槽骨頂のすぐ近くにあり、距離は0.5〜1.0mmでした。
12か月後、#45は生活歯のままで、周囲の軟組織と硬組織に炎症の所見はありませんでした。著者らは「生物学的幅径は明らかに侵されているにもかかわらず」と前置きして、プロービング深さは2mm、プロービング時の出血はなかった、と書いています。X線では、12か月のあいだに歯槽骨のごくわずかな減少が見られました。修復物の辺縁から歯槽骨頂までの距離は、結果の節と図の説明では1mm、考察では0.5〜1.0mmと書かれています。
⑤結果の読み方
なぜ炎症がなかったのか。著者らは、第1段階で作った、研磨されて平らで刺激のない歯肉縁下の辺縁が、理由の1つかもしれない、と述べています。それに、口腔清掃の手順、合わせて選んだ歯間ブラシ、その適切で規則的な使用が加わって、12か月の時点の結果につながったのだろう、という読みです。
創傷治癒のあいだに、セメント質とCRの表面の根尖側の部分に、上皮の再付着が起きたのかもしれない、とも著者らは推測しています。ただし直後に、「私たちの臨床観察からは、平らなCRの表面への上皮の再付着について、何の結論も引き出せない」と自分で書いています。組織を調べた症例ではありません。
「生物学的幅径」への問題提起は、こうです。歯と歯肉の付着部は解剖学的に定義された領域だが、生物学的幅径の寸法は、いくつかの臨床研究と専門家の意見にもとづいて決められたもの。歯肉の形態、角化歯肉の幅、歯周組織の状態には個人差があるので、守るべき決まった値は存在しない。そして、入り込む範囲が限られていて(隣接面の一部だけ。全周ではない)、口腔清掃が優れていれば、うまくいくことがあると考えられる、と。著者らはこれを「考えられる(assumed)」と書き、入り込みをどこまで許せるか、歯肉縁下に向く材料、長期の接着、患者側の条件について、さらに研究が必要だとしています。
著者らが最後に挙げた不利な点は3つです。修復の種類・材料・辺縁の質が成績を左右すること。生物学的幅径に入り込む修復への反応に個人差がある理由が分かっていないこと。2段階のCR修復の長期の接着強さと辺縁の質について、文献に根拠がないこと。
⑥明日の臨床へ
ここからは筆者の読みです。原著の主張ではありません。
この論文から持ち帰れるのは、「深い隣接面を2回に分ける」という段取りの考え方です。防湿がいちばん難しい箱の底だけを、小さな範囲として先に仕上げる。はみ出しを取り、滑らかにする。そのあとで、ラバーダムと隔壁が使える条件に変えてから、残りを詰める。
ただし、「骨頂まで1mmでも直接CRで問題ない」と読める論文ではありません。示されたのは1人の患者さんの1本の歯の、12か月の経過です。その患者さんは、口腔清掃の指導を受け、合った歯間ブラシを使っています。著者ら自身が、標準的な治療は外科または矯正の前処置を伴う間接修復だと患者さんに説明し、直接修復は結果を予測しにくいと伝えています。
外科も矯正も選べない場面で、何を説明し、どこまでを引き受けるか。そのときの選択肢の1つとして、手順と条件を知っておく。そういう位置づけで読みたい1本です。
(1)手技の解説と、1症例の報告です。対照群はなく、この手技と、外科や矯正の前処置を伴う修復とを比べた研究ではありません。
(2)経過は12か月です。X線では、12か月のあいだに歯槽骨のごくわずかな減少が見られています。その先の経過は示されていません。
(3)評価は、歯髄の生活反応、プロービング深さ、プロービング時の出血、X線です。上皮の再付着は著者らの推測で、組織を調べたものではありません。著者ら自身が、再付着については結論を引き出せないと書いています。
(4)12か月後の、修復物の辺縁から歯槽骨頂までの距離は、結果の節と図の説明では1mm、考察では0.5〜1.0mmと書かれ、原著の中で揺れがあります。X線は平行法で撮影されていますが、1mm前後の距離をX線で読んだ値です。
(5)骨の所見にも、原著の中で揺れがあります。12か月後の経過の節と図15の説明は「歯槽骨のごくわずかな減少」と書き、考察は、付着の喪失や骨の吸収といった好ましくない反応は見られなかった、と書いています。この記事は、経過の節と図15の説明に従いました。
(6)患者さんは、全身の病気がなく、非喫煙で、口腔清掃の指導を受け、合った歯間ブラシを使っています。条件の違う患者さんに当てはまるかは分かりません。
(7)「生物学的幅径」についての部分は、著者らが選んだ文献にもとづく解説です。文献を網羅的に集めて評価したレビュー(システマティックレビュー)ではありません。
(8)背景で引かれた寸法(2.73mm、3.25mm)や先行研究は、今回は直接確認していません。
(9)材料は製品名つきで示されています。著者らは、この論文に出てくる製品・企業について利益相反はないと明記しています。資金についての記載は見当たりません。
外科や矯正を選べない患者さんに、何を提案できるか。その引き出しを1つ増やしてくれる報告、という位置づけで読むのがよさそうです。
今日のひとこと
この論文が示したのは、CEJを越える深い隣接面の窩洞を、箱の底を先にCRで持ち上げてから残りを修復する、という2段階の段取りです。術後のX線で修復物の辺縁から歯槽骨頂まで0.5〜1.0mmだった1症例で、12か月後に炎症の所見はなく、プロービング深さは2mm、プロービング時の出血はありませんでした。著者らは、口腔清掃の指導と合った歯間ブラシの使用が欠かせないとしています。ただし、1人の患者さんの1本の歯・12か月・比較対照なしの報告で、X線では歯槽骨のごくわずかな減少が見られています。著者ら自身、標準的な治療は外科または矯正の前処置を伴う間接修復だと患者さんに説明しています。外科も矯正も選べない場面での選択肢の1つとして、手順と条件を知っておく。そういう位置づけで読みたい1本です。


